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空気抵抗を可視化する「エアロポッド」とは

ハンドルにマウントし空気抵抗を測定するデバイスが新登場! 2018ユーロバイクアワードに輝いたヴェロコンプ社の「エアロポッド」は、ガーミンのサイクルコンピューターに専用のアプリをインストールし、ペアリングすることで空気抵抗を可視化できる画期的なデバイスだ。

このアイテムをクラウドファウンディングでいち早く手に入れたTT好きのライター・浅野真則が実際に使い、ファーストインプレッションを行う。

 
text:浅野真則 photo:岩崎竜太、浅野真則

航空機の速度計に使われるピトー管の技術を応用


空気抵抗を可視化できるデバイス「エアロポッド」との出合いは2018年春にさかのぼる。ヴェロコンプ社が海外のクラウドファウンディングで自転車の空気抵抗を計れるデバイス「エアロポッド」の製作資金を募っていることを知ったことがきっかけだった。

当時TTバイクのポジション出しに悩んでいた僕はこのプロジェクトを支援。無事に目標金額に到達したことから製品化が決まり、当初の予定より2カ月ほど遅れてこの秋ようやく現物を手に入れたのだった。このときにはすでにユーロバイクアワードを獲得しており、「僕の目は間違っていなかった」と思ったのだった。

エアロポッドは、航空機の速度計に応用されているピトー管(流体の流れの速さを測る計測器)の仕組みを応用した空気抵抗の計測器。ガーミン・エッジ500シリーズほどの大きさの本体と、全長約90ミリ、直径約5ミリの細長い管からなる。

管を本体前方の穴にねじ込み、本体をゴープロタイプのマウントでドロップハンドルに管が前に来るように装着する。この管から走行中の風を取り込んで風速を計測し、さらにパワーメーターで計測されたパワー、勾配、あらかじめエアロポッドに登録したライダーの身長・体重やバイク・装備品も含めた重量、路面抵抗などのデータによって空気抵抗を計算する。データは専用アプリをインストールしたガーミンのサイクルコンピューターに表示する。

使用にあたっては、別途ANT+サイクルコンピューターかBluetooth対応のスマートフォン(iOS、アンドロイド)、直接計測式のパワーメーター、ANT+スピードセンサーが必要だ。また、空気抵抗(CdA)データの解析には専用のISAAC(アイザック)ソフトウェアをインストールしたパソコンも必要だ(ソフトウェアはヴェロコンプ社のサポートページからダウンロード可能)。

これまでは、空気抵抗を測るには建設に莫大な費用がかかる風洞実験施設が必要だったが、エアロポッドがあれば、簡易的ではあるが空気抵抗が計測できる。価格は、記事執筆時点でヴェロコンプ社の直販サイトで499ドル。6万円弱で、個人がガーミンサイズの大きさのデバイスで空気抵抗が測定できるとは画期的ではないか。

個人的にはこのエアロポッドは速く走りたいと考える人だけが使うのはもったいないと思っている。速さだけでなく、長くラクに走れるようになりたい人など、向上心を持つあらゆるサイクリストに有効であろう。
 

取り付けは簡単だが、初期設定はやや煩雑

ガーミン画面に測定したデータを表示した状態。CdA値、風速が見て取れる
ガーミン画面に測定したデータを表示した状態。CdA値、風速が見て取れる

空気抵抗を減らすことは、速く走るのに有効なのはもちろんだが、ラクに長く走りたい人にとっても有効なアプローチだ。空気抵抗が少なくなれば、同じパワー出力においてより速く走れ、すなわち同じスピードを出すならより低いパワーで走れるようになるからだ。

エアロポッドのバイクへの取り付けはポン付けなので簡単。しかし、初期設定やキャリブレーションはやや煩雑だ。ここでは概略だけ記す。

まずはガーミンにコネクトIQでヴェロコンプCdAアプリをインストールし、ガーミンのディスプレイにエアロポッド用の項目(空気抵抗、風速、勾配、タイムギャップの4項目1セット)を表示できるようにする。
続いてパソコンに専用解析ソフト・アイザックをインストールし、エアロポッドを接続してライダーやバイクのデータをエアロポッドに登録。さらにエアロポッドをバイクに装着し、あらかじめANT+方式のスピードセンサー、ケイデンスセンサー、直接計測式のパワーメーターとペアリングし、さらにガーミンとペアリング。
最後にほぼ無風の日になるべく平坦なところで10分ほど実走するキャリブレーションライドを行ってようやく使うことができる。

僕は初期設定にかなり手間取り、同梱されていた説明書の手順ではうまくいかなかったので、ヴェロコンプ社が製作したインストールの解説動画(文末にリンクあり)を見ながらようやく初期設定ができた。
記事の執筆時点で日本に代理店がなく、当然日本語のマニュアルがないので、英文のマニュアルと英語の動画を活用するしかない。購入時もサポートが必要なときももちろん英語のみの対応だ。もしこれから購入される方はそのあたりの覚悟も必要かもしれない。

パワーメーターに詳しい方ならご存じかもしれないが、実走してキャリブレーションを行うという方法は、10年ほど前にヴェロコンプ社が販売していた走行中の風速などからパワーを計算して表示するサイクルコンピューター一体型の間接計測式パワーメーター・iバイクにも採用されていたものだ。

エアロポッドはiバイクと違い、パワーデータは他のひずみゲージを使った直接計測式パワーメーターに依存するため、より高精度で安定したデータが取れるようになった。実は僕はかつてiバイクのユーザーだったので、そのことを懐かしく思い出した。

 

ガーミン上に表示されるデータのレスポンスはやや遅め?

スフィンクスポジションで、ある一定区間における空気抵抗(CdA値)のピックアップデータ
スフィンクスポジションで、ある一定区間における空気抵抗(CdA値)のピックアップデータ
ブラケットポジションで、ある一定区間における空気抵抗(CdA値)のピックアップデータ
ブラケットポジションで、ある一定区間における空気抵抗(CdA値)のピックアップデータ

初期設定が完了したところで、まずはドロップハンドルのいろいろなところを持ってフォームを固定しながら同じコースを走り、空気抵抗(CdA)の変化を見てみた。

ガーミンに表示される空気抵抗のデータは、フォームの変化よりやや遅れて変動しているように感じた。例えばブラケット先端を上から握るスフィンクスのようなポーズと、普通にブラケットを握って走った時の差は確かにあるのだが、フォームを切り替えた瞬間にリニアに数値が変わるわけではなく、少しずつ変化していってある数値付近で落ち着く感じだった。
シッティングからダンシングのようにフォームを大きく変えたときも瞬時に空気抵抗の数値が変化するわけではなかった。ポジションの違いによるリアルタイムの空気抵抗の変化を見るというよりは、同じフォームで走り続けてどちらが空気抵抗が少ないか、というようなマクロ的な分析に向いているようだ。
これは表示されるCdAデータが60秒ごとのデータが反映されるということによる。

しかしながら走行中の空気抵抗がある程度リアルタイムに分かるのは面白い。これまでは一般サイクリストが空気抵抗を調べるには体感でのつらさとスピードという要素から総合的に判断するぐらいしか方法がなかったが、エアロポッドを使えばガーミンに表示されるCdAの数値がどのようなフォームやポジションで走れば空気抵抗が減らせるを客観的に示してくれる。
さらにパワーデータと組み合わせることで、パワーを出しやすく、空力にも優れたポジションやフォームを詰めていくことができる。これは当初のもくろみ通り、TTバイクのポジションを煮詰めていくのに使えそうだ。

また、アプリを入れることでガーミンに表示できるエアロポッド専用項目にはタイムアドバンテージという項目があるが、こちらはあらかじめ登録しておいた基本的な乗車フォーム(ブラケット、ブラケットを持ってヒジを深く曲げるスフィンクススタイル、ドロップ、DHバーのどこを握るか)で走り続けた場合と比べて現在どれぐらいのタイム差があるかをリアルタイムで示すものだ。空気抵抗の変化とともに、この項目をうまく活用することで、ポジションやフォームを煮詰めるのに役立つはずだ。

ちなみに、エアロポッド使用時は、スピードセンサーやケイデンスセンサー、パワーメーターはエアロポッドとペアリングし、ガーミンにはエアロポッドを介してそれぞれのデータが表示されるようになっている。パワーデータは、ダイレクトにガーミンとパワーメーターをペアリングしたときとほぼ同等のレスポンスで変化していたし、スプリント練習ではしっかり短時間高強度のデータも取れていた。スピードやケイデンスの数値の変化も違和感がなかった。

 
空気抵抗とパワーとスピード
空気抵抗とパワーとスピード
空気抵抗とパワーと高度差
空気抵抗とパワーと高度差

いろいろな分析が可能なアイザックソフトウェア

専用ソフトウエア「アイザック」によって取得したデータを詳しく分析可能
専用ソフトウエア「アイザック」によって取得したデータを詳しく分析可能

データを解析する専用ソフト「アイザック」もなかなか多機能で面白い。

パワーやスピード、高低差などライドのプレビューができるのはもちろん、空気抵抗とパワーの出方、勾配変化、タイムアドバンテージなど11項目から任意に3つの項目を同じ時系列のグラフで比べるCdA解析も可能だ。

この機能を使えば、パワーが出ているが空気抵抗が跳ね上がっている区間があった場合、勾配を見て「ここはダンシングでクリアしたのだ」というように自分の走りを振り返ることができる。また、同じ区間をダンシングで走ったデータとシッティングで走ったデータを取ってその区間以降のタイムアドバンテージの増減を比べれば、どう走れば速いかを知るヒントになる。

僕もまだまだ使い方に関しては勉強中だが、このソフトをうまく活用できれば、自分の走りをアップデートすることにつながりそうだ。

 

荒削りだが、面白いデバイス


一方で気になる点もいくつかある。

ひとつは先にも触れたが、初期設定と初回のキャリブレーションが独特で煩雑であることだ。キャリブレーションライド中は強い風が吹いている間は避けた方が良く、場所においては山岳や交通量の少ないルートを選ぶ必要がある。また、キャリブレーション中は時速25km以上を維持する必要があるので、なるべく平坦で止められることのない道を探すのには苦労するかもしれない。
ポン付けでペアリングすればすぐに使えるANT+やBluetoothのセンサーに慣れていると、正直なところかなり面倒だと感じるのは僕だけではないはずだ。

さらに、ガーミンにインストールするヴェロコンプCdAアプリにも改善を求めたい。例えば、ガーミン上の表示は、空気抵抗だけでなく風速や勾配、タイムアドバンテージ(空気抵抗の変化によって、ベーシックなフォームからどれぐらいタイムを稼げているかを表す)の計4項目がもれなく表示される仕様になっているが、個人的にはそれぞれ個別に表示されるほうが使いやすいと思う。
また、現時点では風速の単位がキロメートル表示でなくマイル表示なので、このあたりも好みで選べるようにできるよう(あるいはガーミンの設定に応じて自動的に表示が切り替えられるように)になっていただきたい。これについては今後アップデートが行われる予定とのこと。

と、細かいところで気になるところはいろいろあるし、まだまだ荒削りな印象ではあるが、デバイスとしては面白いというのが総評だ。特にタイムトライアルで1秒でも速く走れるようになるべくポジションを追求するような熱心なサイクリストにはおすすめだし、ロードバイクしか乗らない人でもパワーと空力を両立するポジションを煮詰めていくのに非常に役に立つはずだ。

 


【エアロポッド購入について】
●原稿執筆時点で日本に代理店がないが、直接ヴェロコンプ社のショップから購入できる。
●日本にも発送してくれるが、送料が別途必要。さらに商品受け取り時に配達員に消費税や通関手数料を追加で支払う必要がある。
●製品には購入日から1年間の保証が付くが、初期不良や故障などのトラブル時は、購入者が直接ヴェロコンプ社に英語でコンタクトする必要がある。

価格:499ドル(標準仕様:エアロポッド、ハンドルバーマウント、USBケーブル、説明書ほか)、564ドル(標準仕様+TTマウント)
※送料、税別
問:ヴェロコンプ


●エアロポッド製品紹介ページ
https://velocomp.com/aeropod/
●アイザックソフトウェアダウンロード(ヴェロコンプ社サポートページ)
https://velocomp.com/support/
●エアロポッドの初期設定の説明動画
https://www.youtube.com/watch?v=198XSnl6gnA