ドリアーノ・デローザ × クネゴ対談『理想のロードバイク』

目次

ドリアーノ・デローザ × クネゴ対談『理想のロードバイク』

presented by BIXXIS

https://www.cyclesports.jp昨年末、パーソナルトレーナーとして屋内トレーニングイベントを開催するために来日した元プロ選手のダミアーノ・クネゴは、東京都台東区にあるイタリアのハンドメイドバイク BIXXIS(ビクシズ) のショールームを訪問し、イタリアにいるフレームビルダーのドリアーノ・デローザとTV電話で対談を行った。

東京のBIXXISショールームでクネゴがドリアーノと対談

ドリアーノ・デローザ × クネゴ対談『理想のロードバイク』

2018年シーズンで現役を引退したジロ・デ・イタリア優勝者のダミアーノ・クネゴ(イタリア)は、パーソナルトレーナーとしての第2の人生をスタートさせるため2018年12月に来日し、東京都荒川区南千住のロードバイク専門ジム&カフェ「CITTEC / Café Galibier (シテック / カフェ・ガリビエ…※2019/1/5から Cyclegym & café bar Minowa にリニューアル)」で、サイクリングイベントと屋内トレーニングイベントを開催した。

クネゴはイベントの合間に、イタリアのハンドメイドバイク BIXXIS JAPAN (ビクシズ・ジャパン)のショールーム「ラ・メッカ・プント・エスポジティーボ・ビクシズ」(東京都台東区)を訪問し、イタリアにいるフレームビルダーのドリアーノ・デローザと、TV電話を使って貴重な対談を行った。BIXXIS(ビクシズ)は今回のイベントのスポンサーで、クネゴはその日、同ブランドのチタンバイク「PATHOS」に乗ってサイクリングイベントを行ったところだった。

クロモリやチタン製バイクフレーム製作において長年の経験と実績を誇るフレームビルダーのドリアーノと、若くしてジロ・デ・イタリアを制した元トッププロ選手のクネゴが熱く語り合った貴重な対談を紹介しよう。

ドリアーノ・デローザ × クネゴ対談『理想のロードバイク』ドリアーノ「やあ、ダミアーノ、調子はどうだい」

クネゴ「今日は屋外ライドであなたたちのバイクに乗ったよ。チタン製のバイクに乗るのは初めてだった」

ドリアーノ「今まで乗った事はなかったのかい?」

クネゴ「ボクがロードバイクに乗り始めた頃は、もうアルミフレームだった。数年間アルミのバイクで走ったけれど、チタンやクロモリのバイクで走る機会はなかった」

ドリアーノ「PATHOS(BIXXISのチタンバイク)はどうだった?」

クネゴ「チタンって、ちょっと特殊だね。悪くないよ。ボクたちはカーボンバイクを使う機会しかないから、いい経験をさせてもらった。イタリアでもチタンのフレームビルダーは、そう多くないのでは?」

ドリアーノ「チタンフレーム作りは難しい部分があるから、多くのビルダーが製作を避ける傾向にある。でも、チタンは様々な点で、とりわけ快適性では大きなアドバンテージがある素材なんだ。今日乗ってみて、チタンフレームの特殊性に気づいてもらえたんじゃないかな? チタンバイクはその特殊性からニッチな市場だが、私が得意とする素材だ。お陰で BIXXIS は日本でも高く評価されている」

クネゴ「そうだろうね。特に BIXXIS のように純粋なメイド・イン・イタリア製品は評価される」

ドリアーノ「それに日本の自転車文化は、我々イタリアのかつてのトレンドにも通じるものがあると思う。BIXXIS もそういったイタリアの伝統的な一面を持っている。日本のユーザーが BIXXIS をオーダーする時、我々は今キミがいる BIXXIS JAPAN のショールームと、TV電話を通じて注文者とコミュニケーションしている。彼らの文化や好みを知ることができ、とても面白い経験をしている。ユーザーと直接話せるのは、私にとっても大きな満足だ」

クネゴ「チタンバイクを製作して何年になるの?」

ドリアーノ「私がチタンバイクの製作を始めたのは1994年からだ。ずいぶん時間が経った」

クネゴ「そのチーム(1994年のゲビス・バッラン)の事、ボクはまだ小さかったけれど今でも覚えている。偉大な選手が多かった」

ドリアーノ「私にとっては忘れることができない一年だ。シーズン中、大忙しで働いた。多くのレースに出て、数多くの勝利を上げた。そのどれもが大切な思い出だ。それにあの時のバイク(デローザ・チタニオ)は、ジロ・デ・イタリア史上初めて勝ったチタンバイクだった」

クネゴ「ポッジョの登坂でも記録を持っているよね?」(*注1)

ドリアーノ「ああ、ジョルジョ・フルランに感謝しないとね(笑)」

クネゴ「そうだね。もちろんバイクも良かっただろうが、フルランという選手の脚も不可欠だった」

ドリアーノ「もちろんさ。たとえ世界一のバイクに乗っていても、エンジンが役不足じゃ勝てない。バイクは選手を助けてはくれるが、勝敗はバイクの性能だけで決まるわけじゃない」

(*注1)
1994年にデローザ社はイタリアのゲビス・バッランにチタンバイクを供給。チームはその年40勝以上し、ジョルジョ・フルランがミラノ〜サンレモで優勝し、エフゲニー・ベルツィンがジロ・デ・イタリアで総合優勝した。ミラノ〜サンレモで終盤に通過するポッジョの丘でフルランは登坂レコードを持っている。

自分に合わせて作られたハンドメイドバイク

ドリアーノ・デローザ × クネゴ対談『理想のロードバイク』

ドリアーノ・デローザ × クネゴ対談『理想のロードバイク』

ドリアーノ・デローザ × クネゴ対談『理想のロードバイク』

ドリアーノ「サイクルロードレースを現代と20年前で比較すると、一つ大きく変化したことがある。かつてプロ選手たちは全員、自分に合わせて作られたバイクでレースを走ることができた。今は既成のバイクサイズに選手の方が合わせて乗らなければならない。

BIXXIS のようなハンドメイドバイクだと、初心者やファンライドを楽しむようなアマチュアでも、自分に合わせて作られたバイクに乗ることができる。本来はプロ選手たちがそうしなければいけないのに、彼らが既成サイズに合わせることを余儀なくされているのは、少し矛盾があるね」

クネゴ「ボクも同じような経験をした。カスタマイズされたジオメトリではない既成サイズのバイクに乗るようになってから、ボクは小さいフレームで走ることになった。ボクの体型は胴長で足が短めだから、本来ならトップ長54cmがフィットするが、既成サイズのフレームではシート高が合わず、結局52cmに乗る事になったんだ。

当然トップチューブ長が不足するので、ステムを13cmにして調整した。それはハンドリングのパフォーマンスに悪影響があった。ボクみたいな経験をしている選手は他にもいる。MやLのフレームサイズが丁度良い大柄な選手たちはまだフレームに合わせやすいと思うが、ボクみたいに小柄な選手は苦労するんだ」

ドリアーノ「特にキミのように小柄で上半身が長い体型なら、既成サイズのバイクで走るには無理があるだろう」

クネゴ「何とかフレームに合わせるけれど、ベストの選択ではない」

ドリアーノ「よくわかるよ。これは近年のサイクルロードレースが抱える問題だ。現代のプロ選手たちは、良いパフォーマンスを発揮するために必要な物が与えられ、昔より恵まれているかもしれない。しかし体型に合っていないバイクで走ることを強いられている」

クネゴ「今日、あなたたちの PATHOS に乗って、とてもいい印象だった。最新のバイクと比べると PATHOS は数年前のバイクを思い起こさせるフィーリングだが、今回のようにカンパニョーロのBORA(ホイール)や11速のコンポのようなモダンなパーツで組んであれば、バランスの取れた良いバイクだ。それにとても軽くて驚いた。測ってないから重さはわからないけど、とても軽い」

ドリアーノ「もちろん、チタンバイクを最先端のカーボンバイクと比べることはできない」

クネゴ「今朝ライドの前にこのバイクを持ち上げてみたが、ここ数年ボクが使っていたバイクとそれ程変わらない位の軽さだった。レースバイクでも、中には7kgを軽く超えるものもあったからね」

ドリアーノ「今日ダミアーノが乗った PATHOS の重量は7kgくらいだと思うから、重さでは大きな差は無い。あるのはフレームの素材による違いだね」

クネゴ「プロ選手じゃなければ、7.2kgくらいまでなら十分オーケーじゃないかな」

ドリアーノ「そうだね。特に軽いことは上りでは不可欠だ。プロが乗るバイクは7kgは下回っているべきだ」

チタンの魅力は “快適性”

ドリアーノ「チタンバイクの一番の魅力は ”快適性” だ。それは、長距離を走ってみるとわかるはずだよ。もちろんカーボンには、繊維の層や方向の組み合わせでフレームの走りの性質を決められるという、メタルフレームには無いメリットがある。私はこれまでに試験を幾度となくやってきた。だからチタンの素材がどのような働きをするのか、乗り手がどんなフィーリングを得るのか、完璧に理解しているつもりだ。カーボンのような乾いた素材やアルミと比べても、チタンは衝撃吸収性が高く、快適性に繋がっている。それが、私がチタン素材にこだわる理由だ。チタンバイクで200kmくらい走れば、その優れた快適性に気付くはずだ」

クネゴ「それはボクも乗ってみて、すぐ感じた。このバイクは何か快適だぞ、ってね。これは決して軽視できないメリットだ。レースや練習でも、250kmも走れば最後には脚が疲労するが、バイクの衝撃吸収性が良ければ腰への負担も少ない。脚を残していればレース終盤でのパフォーマンスに違いが出る。これは大きいよ」

ドリアーノ「私がこれまでにフレームを作ったユーザーも同じことを言っていた。アマチュアだけじゃなく、プロ選手もね。私が作ったチタンフレームに乗った最後のプロ選手は、フランク・バンデンブルックだ。我々がカーボンバイクを供給していたアックア&サポーネに、(2006年の)シーズン途中に移籍してきたんだが、彼はチタンバイクに興味を持っていて、乗りたいと言い出した。カーボンバイクに何台も乗って、最後にチタンフレームをオーダーしたのさ。彼とも色々意見交換をしたよ」(*注2)

(*注2)
フランク・バンデンブルック(1974-2009)はベルギーのワロン地方出身の元プロ選手で、1999年にリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで優勝し、ロンド・バン・ブラーンデレンで2位になった。

チタンへのこだわりが BIXXIS の哲学

ドリアーノ・デローザ × クネゴ対談『理想のロードバイク』

ドリアーノ「私のチタンへのこだわりが、BIXXIS の哲学になっている。小さなメーカーだが、この先もこの哲学を守っていきたいと思っている。ダミアーノに乗ってもらえてうれしく思っている。重要な証明を手に入れる事ができた」

クネゴ「PATHOS に乗って、自転車に乗り始めた当時の事を思い出した。アルミフレームにも似たような特性があった。でも、チタンはそれよりも良いね。アルミの後はカーボンのバイクに乗るようになったが、実は、最初のカーボンバイクとは相性が良くなかったんだ。座骨や腰の低い所に、いつも痛みが出た。チームがカーボン繊維の種類を変えたバイクを用意してくれるまでの数カ月間、苦労したよ。最初のカーボンフレームは固すぎたんだと思う。その後は何とか慣れるように努めた。

カーボンフレームは大口径チューブでフォルムも変化していったが、以前はよく “カーボンにしろ、メタルにしろ、フレームのチューブは丸いほうが良い” って言われていたよね?」

ドリアーノ「私は過去に、フレームのクラッシュテストを何度もやってきた。素材だけでなく、チューブの形状や断面形の異なった様々なフレームを何台も使って、何年もテストした。キミの言うように、丸チューブのフレームのテスト結果は良好で、多くの利点があるのは明らかだ。それはメタルチューブは勿論、カーボンにも言える。例えば、ヘッドチューブにつながるトップチューブとダウンチューブの肉薄だが、大口径のものはテスト結果があまり良くなかった。特にハンドリング面で悪影響がある。

現在でも最良のチューブ形状を求めて様々な研究が繰り返されているが、実際は本来の丸チューブが優れているなんて、少しおかしな話だね。昨今のフレームデザインは、構造力学的に矛盾があるものもある。デザインやスタイルなど、クリエイティブ面を優先するのも理解できるが、そのバイクに乗って走る選手にとって大切な物を失ってはいけない」

クネゴ「一番に失われるのは “下りでのハンドリング性” だろうね。下りでのパフォーマンスは重要だし、丸チューブの伝統的なバイクではその点で強みがあるかもしれない」

ドリアーノ「キミたちのようなプロ選手にとって、バイクの重量が軽いことは重要だろう。しかし、軽量なバイクが下りで武器になるとは思えない。下りを速く走るのに必要なのは、適切なジオメトリで作られた乗り手に合ったバイクだ」

クネゴ「その通り。決め手になるのはジオメトリだ」

ドリアーノ「さっきの話題に戻ることになるが、”それぞれの選手が自分に合ったバイクに乗る” ということ。これが現在は失われている」

クネゴ「今日乗った PATHOS は、ボクが自転車を始めた頃のようなクラシカルなジオメトリだね。シートポジションが少し後ろ寄りで、体の重さがバランスよくフレームに乗っている。最近のバイクのポジションはどれも前寄りすぎて、簡単に滑ってしまう」

ドリアーノ「私もTVでレースを観戦するが、今の選手はちょっと考え難いライドポジションで走っている。まるでレースの前日に生まれて初めて自転車にまたがって乗り始めたかのようなスタイルだ。キミのように小柄な選手のバイクのステムが140mmもあったり、逆に190cmある大柄な選手が5cmのハンドルスペーサーでハンドル高を上げていたり。

そんなバイクで走るなんて、かつてはありえなかった。それに、体に合っていないバイクに無理やり合わせるという事が、移籍やチームのスポンサーの変更で、バイクが変わる度に毎回余儀なくされるのでは、ベテラン選手は苦労するんじゃないかな。現在のプロ選手は恵まれた環境で、以前より良いお金を受け取っているかもしれないが、大変な思いもしているんだろう」

クネゴ「(お金について)いや、そんなことはないけど…(全員笑)。乗り手の安全性は、軽視してはいけないね」

ドリアーノ「ダミアーノが BIXXIS に乗ってくれた事、おまけに良い印象を持ってくれた事は私たちにとって、とても嬉しく、光栄な経験になる。今回こうして対談ができた事をとても感謝している。グラツィエ(ありがとう)!」

ドリアーノ・デローザ × クネゴ対談『理想のロードバイク』ドリアーノ・デローザ
イタリアの名門自転車メーカー「デローザ」の創業者、ウーゴ・デローザの次男。クロモリやチタン製バイクフレーム製作において長年の経験と実績を誇るフレームビルダーで、2015年に娘のマルティナと一緒にハンドメイドブランド BIXXIS(ビクシズ) をスタートさせた。

BIXXIS は「Biciclette Italiana per il XXI Secolo(21世紀のためのイタリアンバイク)」の頭文字から名付けられている。工房はミラノ近郊のセレーニョにある。

ダミアーノ・クネゴ
イタリアの元プロ自転車選手。37歳。イタリア北部ヴェネト州ヴェローナ在住。2004年に弱冠22歳で3大ツアーの1つであるジロ・デ・イタリアで総合優勝した。2006年にはツール・ド・フランスに初出場し、総合11位で新人賞を獲得。2004年、2007年、2008年にジロ・デ・ロンバルディアで優勝し、2008年にはアムステル・ゴールド・レースも制した。

ジャパンカップには、ネオプロだった2002年から11回参加し、2005年と2008年に優勝している。2018年6月のイタリア選手権を最後に現役を引退。昨秋パーソナルトレーナーの資格を取り、第二の人生をスタートさせた。

協力:BIXXIS (ビクシズ)