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東日本大震災から2年、自転車乗りとしてできることは? SUNRISE RIDE 3

下北沢に自転車乗りが集まるカフェ、カフェ・サコッシュがある。そこに集うお客さんはもちろん、マスターも大の自転車好きだ。そんなお店と、東北でイベントを開催している東北シクロクロスの呼びかけで実現したのがこのイベントだ。

text&photo●ナカジ

自転車乗りとして、できることは?

震災から2年が経ち、一時よりもメディアで被災地のことを知る機会は減ったように思う。しかし、まだ復興とは程遠い現状を抱える地域はたくさんある。そこでカフェ・サコッシュのマスター中村氏と、東北シクロクロスの代表である菅田氏が「この現状を知ってもらうために、自転車乗りに何かできることはないだろうか?」という思いから企画されたのが、このサンライズライド3だ。実際に自転車で現地を走ることで、その雰囲気を肌で感じてもらい、個人個人がSNSでその状況を発信。少しでも多くの人に現状を知ってもらえればという企画だ。

今も津波の爪痕がのこる閖上へ

コースは宮城野原運動公園(クリネックススタジアム宮城前)に集合し、広瀬川、名取川に沿って太平洋へ下り、津波によって甚大な被害を受けた宮城県名取市閖上(ゆりあげ)を目指すというもの。スタート地点には総勢24人が集まった。地元からの参加者ほか、東京から自走で仙台入りした強者も10人弱。

スタートして国道4号線を南下、広瀬川と名取川にそって太平洋へ下っていき、仙台東部有料道路を超え、県道10号線を渡ると閖上だ。遠くから見ると農地の真ん中にぽつりぽつりと民家が建っている。だが、走って行くと、どれもがあの津波被害の中で建物の外壁だけが残った空き家だった。

さらに海の方へ走って行くと、もう何もない。荒野が広がるだけだ。かつては住宅街だったというそこは、道沿いに残る家の土台に痕跡を見ることが出来るだけ。遠くの海辺には瓦礫の処理工場からでる白い煙がたなびいていた。

荒野の中に小高い丘がある。日和山といい、このあたりにあった富主姫神社と閖上湊神社の2つが祀られている。閖上復興祈願の拠り所となっている場所で、当日も我々の他、何人もの人が訪れていた。献花し、長いこと手をあわせている人の姿が、強く印象に残っている。

 

 

かつて名取市サイクルスポーツセンターがあったところ。津波の被害に遭って、建物の外側はかろうじて残っていたが、復旧するには耐えないということで、取り壊された。再建のめどは立っていない。

 

昼食は閖上さいかい市場へ

日和山をあとにして、昼食を取るためにメンバーは名取市復興仮設店舗「閖上さいかい市場」へと走る。ここは閖上にあった商店街がまとまって仮設店舗での営業を再開している場所だ。寿司屋をはじめ、酒屋や総菜屋。ヘアーサロンに写真館もある。「おそうざい工房 匠や」でしらす丼とホタテサラダを調達。店員さんから「自転車で東京から!?すごいねー。よかったらまた来てね!」と声を掛けられる。たまらない気持ちだった。

 

 

 

 

駐車場のベンチに座りお昼を食べていると、「PHOTOスタジオ ONE(旧閖上さいとう写真館)」の齋藤正善さんが一冊の写真集を見せてくれた。「閖上地区の全記録」という題名の写真集は齋藤さんが震災前、当日、その後と撮影した閖上の写真がまとめられた1冊。震災当日に避難した小学校の屋上から撮影されたという写真を、撮影した本人の話を聞きながら見るという貴重な経験をすることができた。右の写真は津波の被害に合う前の閖上の姿。左上が太平洋だ。

 

 

 

 

仙台空港へと向かう途中にあった看板。かつてはサイクリングロードだったが、損傷が激しいのでいまは走ることができない。

地元のサイクリストも気持ちは複雑……

地元仙台から参加した国井英寿さん、厚嘉さん親子。震災前は名取市サイクルスポーツセンターを起点とするサイクリングロードを走ったこともあるそうだが、震災後はこのエリアに来ることができなかったそう。「閖上の被害の大きさは地元だからこそよく知っていた。だからこっちに走りに来るなんて、そんな気持ちはなくてもなんとなく物見遊山で来ているみたいな気がして、それでは申し訳ないと思って来られなかった。今回のイベントがあったからこそ来られたんです。」と教えてくれた。

東北に4つ葉の”福興”を

昼食後、仙台空港駅まで走ってイベントは終了。最後に地元から参加してくれた人たちに、四つ葉のクローバーの種をプレゼント。これはカフェ・サコッシュがお店でチャリティーアイテムとして販売していたジェリービーンズの売り上げで用意されたものだ。被災地に少しでも多くの幸せと、何よりも”復旧”ではなく1日も早い”復興”の日を願わずにはいられない。

 

フィニッシュの仙台空港駅前で固い握手を交わすイベント発起人のカフェ・サコッシュ中村さん(写真左)と東北シクロクロス代表の菅田さん(写真右)

東京から走った人たち

このイベント参加者のうち7人は東京下北沢のカフェ・サコッシュをスタートして、自走で仙台入りしていた。ナカジもその1人。当初は全行程を自走するつもりであったが、夜明けを迎えた宇都宮で気温が0度C……。あえなく郡山まで輪行することを選んだ。無念である。実走行距離は256kmほど(全部自走すると367km)。メンバーのうち3人は全行程を自走で乗り切るという強者ぶり。

 

 

(左写真)夜22時のスタートだったため、反射ベストを着用しての夜間走行

 

(右写真)ナカジの自転車。ロングタームレポート中の9070デュラエースDi2を装備したリドレー・ヘリウム。ライトは前後とも2灯装着。タイヤはチューブラー。この写真を撮る直前にサドル下に取り付けてあったスペアタイヤを落としたことに気づきヘコむ

そのうちの1人、竹田功さんの自転車を紹介。BMCのGF02という機械式ディスクブレーキを装備した自転車で、ホイールは手組のディスクブレーキホイールに変更してある。ロードバイクにもディスクブレーキが徐々に普及している昨今の情勢を考えると、これからロングライドバイクを作る上でお手本になるようなバイクだ。

問い合わせ先

カフェ・サコッシュ
http://www.cafe-sacoche.com/index.html