トピックス

孤高のブランドからサイクリングへの招待状 PASSONI TOP EVOLUTION

1970年代の北イタリア、ベルガモ近郊にあった自転車工房「トレッチア」。リバ一族が営むこの工房では、ソ連製のチタン板を手曲げして作ったチューブでフレームを作っていたほか、チタンで一体成型されたステムとハンドル、削りだしのクイックシャフトなどを手がけていた。作り上げたロードバイクは完成車で6kg台・・・
text::中島丈博、photo:山内潤也

イタリアからの返事を待ち焦がれるスペシャルオーダー

・・・そんな、採算度外視のフレーム作りに惚れ込んだ実業家ルチアーノ・パッソーニが、トレッチアのビジネスとしてサポートすることで誕生したのが「パッソーニ」だ。40年近く経った現在でも、パッソーニのロードバイク最高級ブランドとしての価値は衰えていない。 紹介するトップエボリューションは、さすがにチタン板を曲げてはいないが、レイノルズ製スペシャルオーダーメイドのチタンバイブを使っている。チューブの使い分けもおもしろい。3AL/2.5Vチタンと、それに比べて硬い6AL/4Vチタンを適材適所で使い分けるという芸の細かさなのだ。もちろん、フルオーダーのみの販売だ。取り扱い店で採寸と自分の乗り方、自転車歴などを書き込んだオーダーシートを本社に送ると、それを鑑みたジオメトリが返送されてくる。それをもとに希望の数値をオーダーし直すこともできるし、カラーリングの指定も自由自在だ。価格もそれなりになってしまうが、職人とユーザー双方のこだわりを実現するための手間は一切惜しまない。ある人が「自転車人生、上がりの一台にオーダーしたい」と言っていた。その一言が、このブランドの価値を如実に表している。

パッソーニ・トップエボリューション

フレームセット(フレーム、フロントフォーク、ヘッドセット)74万9700円 ※フレームキット 82万9500円 フレーム:チタン フォーク:カーボン コンポーネント:カンパニョーロ・レコード ホイール:エドコ・ネギアライト タイヤ:チャレンジ・フォルテ 700×22C ハンドルバー:チネリ・ダイナモハンドル ステム:チネリ・ダイナモステム サドル:セライタリア・SLRキットカーボン シートポスト:専用品 試乗車実測重量:約6.7kg(ペダルなし) サイズ:フルオーダー カラー:チタニウム
■写真下・左:完成車販売のときは、アウターケーブルにノコン製が採用される。スペシャルな加工として、フロントブレーキワイヤの部分にはイタリアントリコロールがあしらわれる。 ■写真下・中:チューブ同士の溶接部や、アウター受けなどの溶接の美しさに自然と目がいくはず。ヘッドチューブのベアリング径は上下とも1-1/8インチとオーソドックスな作りだ。 ■写真下・右:サドルはセライタリアのSLRをベースに、表皮をパッソーニスペシャルのバックスキンのような風合いのものが使われている。パッソーニのロゴがさりげなくプリントされているのも、心憎い演出だ。
■写真下・左:フォーク、ボトルケージと同色に塗られたハンドルとステム。ここのカラーオーダーも受け付けているので、好みの色に仕上げてもらうことが可能。データがあればロゴも入れてもらえる。 ■写真下・右:スレッドのBBは、JIS規格を採用。またBBとヘッドチューブのみCNC加工した6AL/4Vチタンを採用することで、必要な剛性を確保している。
■肉厚のリヤエンドはもちろんチタン製。精緻な刻印が施されている。各ステートとの溶接部分は、一見どこで溶接されているのかわからないほどなめらかだ。

CYCLE SPORTS.jp編集長・ナカジの試乗インプレッション

このバイクを前にして、いきなり走り出すなんてことはできない。ちょっと気の利いたレストランに行き、ワインを頼むとテイスティングを促される。なれない手つきで色を確かめ、香りを確認。口に含んで味を確認するわけだ。それと同じような感覚が、このバイクにはある。まず全体のたたずまいを楽しみ、チタンの鈍い輝きに酔い、溶接ビードのていねいな仕上げに触れながらその手間に思いをはせ、サドル高を合わせようとシートポストを調節、そのはめ合いの精度を楽しむ。それから、走り出すのだ。 乗り味は、しなりを生かした伸びのある感じを想像していたのだが、思いのほかカチッとした印象だった。ペダルに力をこめると、BBはさほどしならずにリヤホイールへと力が伝わっていく。その分、もっと踏んでいかなきゃいけないとバイクに言われているようだ。前三角に、太めのパイプを使っていることに起因しているのだろう。その半面、セットされたストレートフォークは、フレームに対しておとなしい性格だ。ハンドルへの衝撃を抑えることよりも、しっかりとしたフォークをセットすることで操る楽しみをもっと演出してもよかったのではないかと思う。 といろいろ書いてみたが、このバイクを購入するにあたり、走行性能なんていうのはそれほど大事じゃない。他の量産ブランドとまったく違う手間とこだわりを注がれて作られた、貴重なバイク。その怪しい魅力にやられてしまったら、もうほかのバイクは選択肢にならないだろう。 ******************************************

問い合わせ先

ブレイントレーディング
046-807-6672
http://www.passoni.jp/