トピックス
今シーズンの熱い闘いをふり返る プレイバック2012/クラシック
2012.12.14
オーストラリア勢が2年連続制覇/ミラノ~サンレモ
クラシックレース初戦は『ラ・プリマベーラ(イタリア語で春)』の愛称で親しまれるイタリアのミラノ~サンレモ(3月17日)。昨年はマテューハーレイ・ゴスがオーストラリア人として初優勝したが、今年は新生グリーンエッジ(現オリカ・グリーンエッジ)でゴスのチームメートになったサイモン・ゲランズが優勝し、オーストラリア人が2年連続でサンレモの栄冠を勝ち取った。 レースが動き出したのは残り94km地点のレ・マニエ峠だった。地元イタリアのビンチェンツォ・ニーバリを擁したリクイガス・キャノンデールが集団を激しく引き、世界チャンピオンのマーク・カベンディッシュ(チームスカイ)を含めた大勢の選手が脱落。集団は2つに分裂し、70人程度に絞られた精鋭集団が勝利を争う結果になった。ゴールまで残り7.5kmのポッジオで、最初にアタックしたのはニーバリだった。ゲランズがすぐに反応して食らいつき、後からファビアン・カンチェッラーラ(レディオシャック・ニッサン)が合流。3人でポッジオを越え、サンレモのゴールを目指した。残り1kmで3人と後続集団とのタイム差はたった6秒だったが、TTスペシャリストのカンチェッラーラが終始機関車のように先頭を引きつづけたため、最後まで追いつかれることはなかった。そしてゴールのスプリント勝負を難なく制したのはゲランズだった。「ゴールまで逃げられる自信はあったし、ゴールで仕上げに何をしなければならないかもわかっていた。最後にファビアンは勝つためにレースをした。彼はおそらくゴールで十分にできると思っていて、ボクをあなどっていたんだろうね」と、ゲランズは勝因を語っている。 2006年にフィリッポ・ポッザートが勝って以来、開催国イタリアは6年間サンレモのタイトルを外国勢に取られてしまっている。今年のレース終了後、イタリア勢がもっと有利になるように、来年は主催者がゴール地点を変更するだろうという話が持ち上がっていたが、結局変更はしないようだ。 ■第103回ミラノ~サンレモ結果[298km] 1 サイモン・ゲランズ(グリーンエッジ/オーストラリア)6時間59分24秒 2 ファビアン・カンチェッラーラ(レディオシャック・ニッサン/スイス) 3 ビンチェンツォ・ニーバリ(リクイガス・キャノンデール/イタリア) 4 ペーテル・サガン(リクイガス・キャノンデール/スロバキア)+2秒 5 ジョン・デゲンコルプ(プロジェクト1t4i/ドイツ)+2秒 6 フィリッポ・ポッザート(ファルネーゼビーニ・セッレイタリア/イタリア)+2秒 7 オスカル・フレイレ(カチューシャ/スペイン)+2秒 8 アレッサンドロ・バッラン(BMCレーシング/イタリア)+2秒 9 ダニエル・オス(リクイガス・キャノンデール/イタリア)+2秒 10 ダニエーレ・ベンナーティ(レディオシャック・ニッサン/イタリア)+2秒
ボーネンが復活して連覇!/フランドル&パリ~ルーベ
クラシックレースの舞台はイタリアから北ヨーロッパへと移動。そこで主役の座へと返り咲いたのは、ベルギーのトム・ボーネン(オメガファルマ・クイックステップ)だった。ベルギーのフランドル地方で開催されたツール・デ・フランドル(4月1日)は、今年コースの大改革が行われ、例年勝負どころになっていたミュールとボスベルフが姿を消した。そして新しいコースは、オウド・クワルモントとパーテルベルフを3度通過してオウデナールドにゴールするレイアウトになった。 フランドルの直前に、ボーネンはE3プレイス・ハールビーク、ヘント~ウェヴェルヘムというUCIワールドツアーの2レースで優勝して絶好調だった。しかも、ボーネンにとって北のクラシックで最大のライバルであり、昨年の優勝者だったカンチェッラーラがフランドルの終盤に落車し、鎖骨骨折でリタイアするというアクシデントが発生。運も彼に味方していた。残り18km、オウド・クワルモントの最後の通過で、先頭集団から最初にアタックしたのは2007年の覇者、アレッサンドロ・バッラン(BMCレーシング)だった。後続はペーテル・サガン(リクイガス・キャノンデール)を先頭にしばらくは様子見をしていたが、フィリッポ・ポッザート(ファルネーゼビーニ・セッレイタリア)が追撃に出ると、ボーネンもそれに付き従い、バッランに追いついて3人で先頭グループを作った。後方ではルーカ・パオリーニ(カチューシャ)が追撃したが、結局3人には追いつけなかった。ボーネンとポッザートが相手では、ゴールスプリントになっては部が悪いバッランは、残り4kmから何度もアタックを仕掛けたが成功しなかった。トラック競技のスプリントのような牽制が続いたあと、残り100メートルでスパートしたボーネンが、最後はポッザートとの一騎打ちのスプリントを競って3度目の勝利を勝ち取った。しかし、ツアー・オブ・カタールの落車で鎖骨を骨折したポッザートが、52日後にフランドルでゴール勝負を演じたのはまったく脱帽だった。 ■第96回ツール・デ・フランドル結果[257km] 1 トム・ボーネン(オメガファルマ・クイックステップ/ベルギー)6時間04分20秒 2 フィリッポ・ポッザート(ファルネーゼビーニ・セッレイタリア/イタリア) 3 アレッサンドロ・バッラン(BMCレーシング/イタリア)+1秒 4 グレッグ・バンアーベルマート(BMCレーシング/ベルギー)+38秒 5 ペーテル・サガン(リクイガス・キャノンデール/スロバキア)+38秒 6 ニキ・テルプストラ(オメガファルマ・クイックステップ/オランダ)+38秒 7 ルーカ・パオリーニ(カチューシャ/イタリア)+38秒 8 トーマ・ボークレール(ヨーロッパカー/フランス)+38秒 9 マッティ・ブレシェル(ラボバンク/デンマーク)+38秒 10 シルバン・シャバネル(オメガファルマ・クイックステップ/フランス)+38秒
ボーネンは翌週、北フランスで開催された『クラシックの女王』パリ~ルーベ(4月8日)でも圧勝し、UCIワールドツアーを4戦連続で制覇した。しかも彼は、ゴールまで残り50kmでライバルたちを置き去りにし、独走で4度目のパリ~ルーベ優勝を果たしたのだ。 ゴールまで残り77kmで、バッランとフアンアントニオ・フレチャ(チームスカイ)はボーネンを出し抜こうとアタックし、集団に20秒差を付けたが、オメガファルマ・クイックステップの守りは固く、すぐに捕まってしまった。残り58kmのオルシーの石畳で今度はボーネンがアタック。ポッザートがぴったりとマークし、アスファルト区間でバッランも追いつき、フランドルでの主役が顔をそろえた。しかしここからボーネンは、チームメートのニキ・テルプストラとともに再びアタックして先行した。次の石畳区間でテルプストラが脱落するとボーネンの一人旅がスタート。ゴールまではまだ50km以上あったが、彼はジリジリとタイム差を広げて行った。終盤ボーネンは、会場に来られなかったガールフレンドのためにTVカメラに向かって合図を送るゆとりまで見せた。そしてルーベのベロドロームに飛び込んだ後は、2周の“ウイニング・ラン”をじっくり楽しんでゴールした。 後続はベロドロームでゴールスプリントを競い、セバスティアン・テュルゴー(チームヨーロッパカー)が2位になり、フランス人として15年ぶりでルーベの表彰台に上がった。15年前に表彰台の真ん中に立ったフランスのフレデリク・ゲドン(FDJ・ビッグマット)は、今年のルーベが引退レースになった。 ■第110回パリ~ルーベ結果[257.5km] 1 トム・ボーネン(オメガファルマ・クイックステップ/ベルギー)5時間55分22秒 2 セバスティアン・テュルゴー(チームヨーロッパカー/フランス)+1分39秒 3 アレッサンドロ・バッラン(BMCレーシング/イタリア)+1分39秒 4 フアンアントニオ・フレチャ(チームスカイ/スペイン)+1分39秒 5 ニキ・テルプストラ(オメガファルマ・クイックステップ/オランダ)+1分39秒 6 ラルス・ボーム(ラボバンク/オランダ)+1分43秒 7 マッテーオ・トザット(チームサクソバンク/デンマーク)+3分31秒 8 マテュー・ハイマン(チームスカイ/オーストラリア)+3分31秒 9 ヨハン・バンスンメレン(ガーミン・バラクーダ/ベルギー)+3分31秒 10 マールテン・ワイナンツ(ラボバンク/ベルギー)+3分31秒 今年32歳のボーネンはフランドルとパリ~ルーベの両方で最多優勝記録に並んだ。来年は2つの前人未到の記録に挑戦することになる。
伏兵イグリンスキーが初制覇/リエージュ~バストーニュ~リエージュ
現存する世界最古のクラシックレースであり、『ラ・ドワイヨンヌ(長老)』と呼ばれるベルギーのリエージュ~バストーニュ~リエージュ(4月22日)は、カザフスタンのマクシム・イグリンスキー(アスタナ)が初優勝を飾った。 雨と雹が断続的に降る悪天候に見舞われた今年のリエージュは、波乱のスタートになった。ニュートラルゾーンでスペインのイゴル・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)が落車し、鎖骨骨折で病院へ搬送されてしまったのだ。ゴールまで残り18.5km、精鋭集団に絞り込まれた先頭から最初に仕掛けたのはイタリアのニーバリだった。彼はサン・ニコラの丘のふもとで、追走するホアキン・ロドリゲス(カチューシャチーム)とイグリンスキーに25秒差を付けていた。4日前にフレッシュ~ワロンヌで優勝していたロドリゲスは途中で脱落し、ニーバリはこのまま逃げ切るだろうと誰もが思ったが、伏兵のイグリンスキーが驚異的な追い上げを見せた。彼はフラムルージュが間近に見えるゴール手前1.2kmでニーバリを追い越し、そのまま単独でゴールへの上り坂を駆け上がって初のビッグタイトルを手中に収めてしまったのだ。「ニーバリを追いかけて行ったとき、勝つチャンスはないと思っていた。2位になるために闘っていた。けれどニーバリを捕まえることができて、彼はいい調子ではないと気がついた。それでそのまままっすぐゴールを目指したんだ」と、イグリンスキーは勝因を語っている。アスタナは1週間前にアムステル・ゴールド・レースで優勝したエンリーコ・ガスパロットも3位に入って表彰台へ上がった。 ■第98回リエージュ~バストーニュ~リエージュ[257.5km] 1 マクシム・イグリンスキー(アスタナ/カザフスタン)6時間43分52秒 2 ビンチェンツォ・ニーバリ(リクイガス・キャノンデール/イタリア)+21秒 3 エンリーコ・ガスパロット(アスタナ/イタリア)+36秒 4 トーマ・ボークレール(ヨーロッパカー/フランス)+36秒 5 ダニエル・マーティン(ガーミン・バラクーダ/アイルランド)+36秒 6 バウケ・モレマ(ラボバンク/オランダ)+36秒 7 サムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ/スペイン)+36秒 8 ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD/イタリア)+36秒 9 ライダー・ヘシェダール(ガーミン・バラクーダ/カナダ)+36秒 10 イェル・バネンデルト(ロット・ベリソル/ベルギー)+36秒
ロドリゲスがスペイン人として初制覇!/イル・ロンバルディア
『落ち葉のクラシック』と呼ばれるイタリアのイル・ロンバルディア(旧ジロ・デ・ロンバルディア)は、毎年10月中旬にシーズンを締めくくるクラシックレースとして開催されていたが、今年から日程が変更し、世界選手権の翌週に行われることになった。 1週間前に世界チャンピオンとなったベルギーのフィリップ・ジルベール(BMCレーシング)が、アルカンシエルを初披露した今年のイル・ロンバルディア(9月29日)は、土砂降りの悪天候になってしまった。ジルベールはゴールまで残り70kmり下り坂で落車。幸い大したケガはなかったが、レースを棄権してしまった。この日はバッラン、パオリーニ、ニーバリも落車したが、深刻なケガ人は出なかった。終盤、雨は激しさを増し、TV中継も途絶えるほどになってしまった。そんな中、ゴールまで残り9.5kmにあった最後の丘、ビッラ・ベルガーノで先頭グループからアタックしたのはスペインのホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)だった。ブエルタ・ア・エスパーニャでロドリゲスからマイヨ・ロホを奪い取ったアルベルト・コンタドール(サクソバンク・ティンコフバンク)やディフェンディングチャンピオンのオリバー・ツァウグ(レディオシャック・ニッサン)らが必死に追い上げたが、ロドリゲスはそのまま逃げ切り、単独でレッコのゴールへと飛び込んだ。彼はゴールラインを通過する時、ボトルケージからボトルをつかみ取ると、高々と放り投げた。「ボクはものすごく幸せだった。これはレースキャリアで勝つことを夢見るたぐいのレースだからだ。ボトルをつかんでゴールラインを通過したのは、いつもそうしているからだ。ボクが本当に好きな縁起担ぎなのさ」と、ロドリゲスは説明している。彼はロンバルディアの長い歴史のなかで、初めて優勝したスペイン人になった。 ■第106回イル・ロンバルディア結果[251km] 1 ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ/スペイン)6時間36分27秒 2 サムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ/スペイン)+9秒 3 リゴベルト・ウラン(スカイ/コロンビア)+9秒 4 マウロ・サンタンブロージョ(BMCレーシング/イタリア)+9秒 5 セルヒオルイス・エナオ(スカイ/コロンビア)+9秒 6 ライダー・ヘシェダール(ガーミン・シャープ/カナダ)+9秒 7 バウケ・モレマ(ラボバンク/オランダ)+9秒 8 オリバー・ツァウグ(レディオシャック・ニッサン/スイス)+9秒 9 アルベルト・コンタドール(サクソバンク・ティンコフバンク/スペイン)+9秒 10 フレドリク・ケシャコフ(アスタナ/スウェーデン)+9秒 RCSが主催するイタリアの2大クラシックレース、ミラノ~サンレモとイル・ロンバルディアは、これまで土曜日に開催されてきたが、来年からは主催者の改革で日曜日開催へと変わることが決まっている。
クラシックレースで来年注目すべきはペーテル・サガン?!
今年のツール・ド・フランスで区間3勝してマイヨ・ベールを獲得したスロバキアのペーテル・サガン(リクイガス・キャノンデール)は、春のクラシックレースでも好成績を残している。ミラノ~サンレモで4位、ツール・デ・フランドルで5位。ヘント~ウェヴェルヘムではボーネンとスプリントを競って2位になり、アムステル・ゴールド・レースではカウベルフのゴール目前でガスパロットとイェル・バネンデルト(オメガファルマ・クイックステップ)に追い抜かれて3位になった。来シーズンは新生キャノンデールプロサイクリングでエース格となるサガンは、今年と同じプログラムで春のクラシックを狙う予定だ。今年好成績を上げたこれらのクラシックのどれかで、来年は彼が表彰台の真ん中に立つかもしれない。ジャパンカップで来日したときに行ったインタビューでは、いちばん勝ちたいレースはフランドルだと言っていた。来年、ボーネンの最大のライバルはサガンかも?!