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マヴィック渾身のディープリムホイール。コスミックCXR80インプレッション!
2012.08.11
ライバルまとめてごぼう抜き
改めて考えてみれば、マヴィックとは少々不思議な会社である。ナンバーワン完組ホイールブランドでありながら、世の潮流とは少々ズレたラインナップで勝負してきたのだ。
アンダー1000gが当たり前になっている現在でも、ローハイト超軽量リムには興味を示さない。周りはほとんどフルカーボンという状況の中、アルミリムをエグザリット化して金属ホイールの新境地を開拓するなど、独自の進化論で発展してきた。
エアロホイールに関しても、ライバル製品が幅広リムやカムテール理論を取り入れて生まれ変わっていく中、マヴィックは(少なくともロードホイールに関しては)古典的な細身Vシェイプリムしかもっていなかった。
そんなマヴィックが、ライバルをまとめてごぼう抜きする勢いで開発してきた新世代エアロホイールが、CXR80である。
2種類の翼断面を含むリム形状
ハイト80mmのフルカーボンリムをステンレススポークで組むという構造自体はオーソドックスなものだが、前作となるコスミックカーボン80とはコンセプトが大きく異なる。
第1の特徴は、リム断面が2つの翼断面形状を融合させた形状になっていること(図上)。タイヤが前側になるときはリム断面をNACA0024、リムが前側になるときはNACA0011(ただし、NACA0011にはカムテール理論による仮想翼部分を含む)という2種類の翼断面を含んだ複雑な形状とし、ホイールの前側(風が当たる側)と後側(風が吹き抜ける側)の両方で空気抵抗を削減している。NACA○○とは、NASAの前身機関であるNACA(国家航空宇宙諮問委員会)が定義した翼形。NACA 0024は、「上下対象の翼形で、長さに対する厚みの比率が24%」であることを意味する。
第2の特徴が、ホイールとタイヤをひとつの構造物として設計したWTS(ホイール・タイヤ・システム)である。CXR80にセットされるタイヤは、専用のイクシオンCXR(写真左下)。センターがやや尖った形状になっており、サイドにはドットとスリットが刻まれている。リム+タイヤのトータルで空気抵抗を減らしにかかっているわけだ。
ダメ押しは、CX01ブレードと呼ばれるリムフラップである(写真右下)。チューブラー、クリンチャーを問わず、リムとタイヤにはどうしても段差ができ、走行時にはその段差が空気をかき乱していた。マヴィックは、CX01ブレードという黄色の細いパイプに薄いエアロフィンがくっついたものを、リムとタイヤの間にはめ込むようにして装着することで溝を埋め、表面を完全にフラットにしている。タイヤに接着されているわけではなく、リムに設けられた段差にパチンとはめ込んでいるだけ。手で簡単に着脱できる作りとなっている。
専用シューにみる「マヴィックの本気」
マヴィックの本気度をひしひしと感じたのは、専用ブレーキシューである。どのメーカーもブレーキキャリパー&シューの規格にとらわれてリム幅に制限を設ける中、マヴィックは通常のシューより厚さが2mm、接触面の幅が1mm小さい専用形状のシューを作ることで、CXR80のリム幅を一気に28mmにまで広げてみせた。製造元はスイスストップ。さらにリム接触面を上下に薄くつくることで、CX01ブレードを装着することにも成功したのである。
元々マヴィックは、リムのためなら専用シューをつくることを厭わないブランドだが、形状をガラリと変えてきたのはこれが初めて。入手性、耐久性、整備性などネガはいくらでも思いつくが、この専用シューがなければ、CXR80はここまで優れたエアロホイールにはなれなかっただろう。他のブランドには真似できない、素晴らしい開発姿勢である。
●このグラフは、風が当たる角度による空気抵抗値の変化を示したもの。黄色い実線がCXR80、赤と緑の点線が他社のスーパーディープホイール。実験では、進行方向に対して14~19度からの向かい風(図の赤いエリア)であれば、CXR80の空気抵抗値はマイ ナスになる(=勝手に進む)というデータが出たとのこと。トータルの空気抵抗では、同社のトラック用ホイール、イオよりもいい値が出ているという。
安井&ナカジ インプレッション!
中島:さすがに80mmになると迫力ありますね。
安井:オレみたいな小さいフレームだと凝縮感がすごいけど…ナカジのホリゾンタルにつけるとカッコイイね。
中島:走りはどうですか?
安井:前作のコスミックカーボン80と比べると、動的性能は明らかに上がってる。幅広リムはホイール剛性にも効いているんだと思う。ゼロスタートも、80mmにしてはかなりいい。登りに軽快感はないけどハイトを考えれば上出来。
中島:横風に対しての操縦性もいいですよね。ノーマルのコスミック(リムハイト52mm)と同等かなと。
安井:耐横風性能はかなりよくなってるね。コスミックカーボン80とは比べ物にならないくらいに扱いやすい。
中島:肝心の高速域はどうでしょう?やっぱりストレートとか下りは速い気がしませんか?
安井:うん。勝手に進みはしないけど(笑)、巡航性能は確かに高い。チェーンをアウターにかけてからのペダリングが軽くて、スピードが伸びていく。
中島:安定感もすごくいいですよね。これは下りで武器になりますよ。
安井:確かに。時速50kmでギャップを超えてもビシッと安定してる。でも高速域までもっていかないとCXR80の良さは出ないよね。あたりまえだけど。ビギナーがオイシイところを味わえるホイールじゃない。速度が上がれば上がるほどよさが出てくる。
中島:本領発揮するのは時速40km台からでしょうか。つくばとかもてぎのようなサーキットではいいでしょうねぇ。トライアスロンにも。
安井:それに、ホイールとしての完成度が高い。今までのエアロホイールって、段差越えると壊れそうな音がしたり、横風で死ぬ思いしたり、タイトコーナーが苦手だったり、「ディープだからしょうがない」ってものがあったけど、CXR80にはそれが少ない。普通のホイールみたい……は言い過ぎだけど、デイリーユースにも気兼ねなく連れ出せるほど。80mmのチューブラーを通勤に使う人はいないだろうけど。
中島:ブレーキはもうちょっと効いてくれたほうがいいと思いました。シューの接触面積が小さくなってるからでしょうか。
安井:試乗会の後にもう一度借りなおしたんだけど、その個体はブレーキ性能が完璧だった。制動力もリム面精度も文句なし。
中島:なるほど。馴染みがでたのか、シューの皮むきが済んだのか?
安井:スーパーディープの中では最も進んでいるホイールのひとつでしょう。なにより感心したのは専用ブレーキシュー。他メーカーのエアロリムは幅27mm弱で、それでもブレーキキャリパーとのクリアランスはギリギリ。マヴィックは専用形状のシューを作ることでリム幅を28mmにまで広げた。ブレーキのセッティングにも余裕がある。専用シューってめんどくさいですよ正直。いちいち交換しないといけないし、セッティングも変えないといけないし。でも、そこにあえて手を加えてきたってのはさすがだなと。リムとタイヤの段差にしても、今まで誰もそこを最適化してこなかった。もしくは中途半端なアプローチで終わっていた。
中島:こういうプロダクツはいい意味でフランスっぽいですよね。このCX01ブレードって、たぶん同じことを考えたメーカーはあると思うんですよ。でも誰もやらなかった。そこに真正面からぶつかって、完成度を高めてちゃんと売り物として出してくるところはさすがですね。
安井:このリムとタイヤのツライチ感は、実走で効果を感じられるかは別にして「そりゃこっちのほうがいいに決まってるじゃん」と思わせる説得力がある。「最近の流行だから幅広リムにしました」だけじゃないところはさすがマヴィック。UCIルールが……ってみんな言うけど(CX01ブレードはUCIレースでの使用が認められていない)、ホビーレーサーにはほとんど関係ない。アマだけが使える武器って考えればいい。同じコンセプトで、リムがもうちょっと低いヤツを出してほしいね。CXR50とか。ものすごくよく走る万能ホイールになる気がする。
●マヴィック・コスミックCXR80
重量:1570g(前後ペア、カタログ値)、2130g(前後ペア、イクシオンCXR込み、カタログ値)
リムハイト:80mm
リム幅:28mm(最大幅)
対応タイヤ:イクシオンCXR グリップリンク、パワーリンク(いずれもチューブラー)
スポーク:ダブルバテッドステンレス F16、R20
対応カセット:カンパニョーロ、シマノ(シマノ11s対応)、スラム
価格:33万6000円
●ライダー紹介
安井行生(写真上)
サイクルスポーツ本誌でもおなじみのロード系自転車ライター。モノへのこだわりは人一倍強く、また大学で機械工学を学んだ経験を生かした鋭い観察眼で製品の性能を解き明かす。ヒルクライム好き。
164cm、52kg
ナカジ(写真下)
このウェブサイト編集長にして、サイクルスポーツの編集としても仕事をこなす。両媒体でインプレッションも担当。自慢するほど速くはないが、レースに参戦するのは好き(笑)。ホビーサイクリストの視点にたったインプレッションを心がけている。
170cm、61kg