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コンタドールが劇的な総合優勝! ブエルタ2012総集編
2012.09.11
王者復活! 処分明けのコンタドールが2度目の総合優勝
第67回ブエルタ・ア・エスパーニャは、優勝候補の筆頭だった地元スペインのアルベルト・コンタドール(サクソバンク・ティンコフバンク)が総合優勝して3週間の日程を終えた。しかし、深紅のリーダージャージ、マイヨ・ロホ獲得の道程はけっしてたやすくはなかった。彼は開幕前のインタビューで「セオリーで言えば、40kmの個人タイムトライアルとアストゥリアス地方での3日間の山岳ステージ(第14、15、16ステージ)がレースを決するだろう」と、語っていた。しかし、コンタドールはそこでマイヨ・ロホを獲得することはできなかったのだ。彼の前に立ちはだかった強敵は、今年のジロ・デ・イタリアで総合2位になったホアキン・ロドリゲス(カチューシャチーム)だった。 第4ステージでマイヨ・ロホを着ていたアレハンドロ・バルベルデ(モビスターチーム)が、不運にも落車で遅れてしまった影響で総合首位に浮上したロドリゲスは、アンドラ公国のコリャダ・デ・ラ・ガリーナ峠にゴールした第8ステージの山岳区間でも総合首位の座を守った。しかし、折り返し地点の第11ステージに行われる個人タイムトライアルではその座を失うだろうというのが大方の予想だった。タイムトライアルが苦手なロドリゲスは、今年のジロ・デ・イタリアも最終日の個人タイムトライアルで敗北し、総合優勝のチャンスを失っていたからだ。しかし、ミラノで行われた平坦なタイムトライアルとは異なり、ブエルタで唯一のタイムトライアルは途中にカテゴリー3の峠を越えるレイアウトだった。これがロドリゲスには有利になった。彼は区間2位になったコンタドールより59秒遅れでゴール。総合成績では、たった1秒差で首位の座を守ったのだ。 しかし、得意のタイムトライアルで逆転できなかったコンタドールは落ち着いていた。「このステージの終わりにもっとも重要なのはマイヨ・ロホではなく、結果と感覚だ。ボクはいい感覚だと感じていて、我々にとってかなりいい日だったからとても満足だ。ブエルタは今始まる。最初からボクはアストゥリアス地方がレースを決するだろうと言っていた。厳しい山岳ステージはまだ来ていない」と、コンタドールはアストゥリアスでの闘いを誓っていた。しかしそのとき、彼には不安があった。それは2010年のツール・ド・フランスでのドーピング違反で受けた資格停止処分で、今年2月から6ヶ月間レースをしていなかったブランクだった。そしてその不安は的中した。アストゥリアス地方の厳しい山岳地帯で行われた3連戦で、コンタドールは連日激しいアタックを繰り返したが、ロドリゲスからマイヨ・ロホを奪い取ることはできなかったのだ。
チャンピオンがまさかの大逃げで大逆転!
アストゥリアス山岳ステージを終え、2度目の休養日を取った後に行なわれた第17ステージは、主催者のリストでは『平坦区間』に分類されていたが、実際には後半にカテゴリー3と2の峠を越え、カテゴリー2のフエンテ・デ頂上にゴールする中級山岳ステージだった。その日、コンタドールはゴールまではまだ53kmもあるカテゴリー2のコリャダ・ラ・オス峠でアタックした。それはTV中継すら始まっていない地点だった。ロドリゲスは下りで捕まえられると考えていたが、第4ステージから集団をコントロールしつづけていたカチューシャチームは疲弊し、ライバルのモビスターチームはロドリゲスには手を貸してくれなかった。アシストがすべて脱落し、孤独な闘いを続けるロドリゲスとは対照的に、コンタドールは単独でフエンテ・デ峠を駆け上がり、大逃げを成功させて区間優勝と総合首位の座を獲得した。そのアグレッシブな走りはまるで、往年のエディ・メルクスやベルナール・イノーのようだった。今年のブエルタを通して強いチーム力に守られていたバルベルデは、この日も終盤に激しくコンタドールを追い上げたが、たった6秒及ばなかった。 最終日前日に設定されていたボラ・デル・ムンドの激坂でゴールする第20ステージを、コンタドールはチームメートたちの献身的な働きを得て、バルベルデとロドリゲスのアタックをなんとかしのいだ。ロドリゲスはゴールまで残り2kmの過酷なボラ・デル・ムンドの上り坂でアタックしたが、2分以上あるタイム差をひっくり返すのは不可能だった。それでもロドリゲスの最後まであきらめない熱い走りは、世界中のレースファンを魅了したにちがいない。そしてバルベルデも無敵の異名を持つ男として、最後まで戦いを続けた。最終日、マドリードのゴールスプリントに加わったバルベルデは、区間6位に入ってポイントを獲得し、ロドリゲスが持っていたポイント賞のマイヨ・ベルデとコンビネーション賞のマイヨ・ブランコを奪い取ったのだ。運命の女神は残酷だった。ロドリゲスには3週間の死闘の末に、特別なマイヨは1枚も残されていなかった。そして今年初めて行なわれたTV視聴者投票による最優秀敢闘賞も、コンタドールが獲得した。しかし、ロドリゲスの素晴らしい走りは、レースファンの記憶にいつまでも残るだろう。スペインではスポーツ紙の一面からサッカーが追い出されることは滅多にないが、今年のブエルタはそれが起きるほど国中の注目を集めていた。
格下チームのデゲンコルプが区間5勝をマーク!
ブエルタにはUCIプロチーム18チームの他に、格下のUCIプロコンチネンタルチームが4チーム、主催者招待枠で参加していた。その1つだったオランダのアルゴス・シマノは、今年のブエルタでトップチームを押しのけて平坦ステージをほとんど支配してしまった。山岳色の強いブエルタでは、主催者リストで『平坦区間』に分類されていても、実際には厳しいアップヒルのゴールである場合が多い。今年の大会でも、最後にスプリンターたちが集団ゴールスプリントを競ったのは、たった6ステージだった。そのうちの5ステージを、アルゴス・シマノのエーススプリンターであるジョン・デゲンコルプが圧倒的な強さで勝ち取ったのだ。この23歳のドイツ人選手のために、チームが3週間団結して献身的なアシストを続けたのが勝因だった。その一人が、今年のブエルタに日本からただ一人参加していた土井雪広だったのは、なんと誇らしいことだろうか。昨年のブエルタでグランツール・デビューを果たしていた土井は、2年目ということもあって経験も豊富で、チームから集団をコントロールする仕事を連日任されていた。グランツールで日本人選手がこれだけ集団の先頭を引く姿がTVに映り、全世界へと発信されたのは初めてのことだろう。そしてその労苦は、きっちりチームのエースであるデゲンコルプが区間5勝で報いてくれた。望んでいたポイント賞のマイヨ・ベルデは獲得できなかったが、過酷な山岳が続いた3週間のブエルタを走り切った最後の日に、マドリードで区間優勝したことは、次のステップにつながるはずだ。そして第19ステージのアップヒルゴールでチャレンジしたことも、成長へとつながるいい経験になった。次は来年のツール・ド・フランスで、このブエルタと同じ闘いぶりを見せて欲しい。
☆土井選手がブエルタでの走りを連日熱く語った公式ブログは要チェック!
http://blog.yukihirodoi.jp/
■ブエルタ・ア・エスパーニャ2012 個人総合最終成績
1 アルベルト・コンタドール(サクソバンク・ティンコフバンク/スペイン)84時間59分49秒
2 アレハンドロ・バルベルデ(モビスターチーム/スペイン)+1分16秒
3 ホアキン・ロドリゲス(カチューシャチーム/スペイン)+1分37秒
4 クリストファー・フルーム(スカイプロサイクリング/英国)+10分16秒
5 ダニエル・モレノ(カチューシャチーム/スペイン)+11分29秒
6 ロベルト・ヘーシンク(ラボバンク/オランダ)+12分23秒
7 アンドルー・タランスキー(ガーミン・シャープ/米国)+13分28秒
8 ローレンス・テンダム(ラボバンク/オランダ)+13分41秒
9 イゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ/スペイン)+14分01秒
10 ベニャト・インチャウスティ(モビスターチーム/スペイン)+16分13秒