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今シーズンの熱い闘いをふり返る プレイバック2012/3大ツアー

ツール、ジロ、ブエルタ。今年の3大ツアーのキーワードは『史上初』と『逆転勝利』そして『王者復活』。熱い闘いの数々を名シーンでふり返ろう
Photo: Graham Watson

ウィギンスが英国人として初制覇 ~ツール・ド・フランス


第99回ツール・ド・フランス(6月30日~7月22日)は、32歳のブラッドリー・ウィギンス(チームスカイ)が、英国人として初の総合優勝に輝き、歴史にその名を刻んだ。トラック出身でTTスペシャリストのウィギンスは、プロローグで区間優勝したファビアン・カンチェッラーラ(レディオシャック・ニッサン)に7秒差の区間2位で今年のツールをスタート。中級山岳区間の第7ステージでカンチェッラーラが脱落するとともに総合首位へと浮上し、そのまま2週間、誰にもマイヨ・ジョーヌを渡すことなくパリへと帰還した。第9ステージと第19ステージに設定されていた個人タイムトライアルは2区間とも優勝。そしてチームスカイには、彼をサポートする鉄壁のアシストが揃っていた。しかし、そのなかにウィギンスの総合優勝をおびやかす存在がいたことが、今年のツールで最大の見せ場をもたらしたのだ。 それはケニア生まれの英国人、クリストファー・フルーム(チームスカイ)だった。彼は今年のツールの山岳でまちがいなく最強だった。チームスカイのほころびが見え始めたのは、第11ステージのアルプス山岳2日目。ラ・トゥスイール峠で、マイヨ・ジョーヌ集団からライバルのビンチェンツォ・ニーバリ(リクィガス・キャノンデール)がアタックしたとき、ウィギンスはフルームに先導されてその逃げを吸収した。しかし、先頭に立ったフルームは、ウィギンスが彼の加速に付いて行けず、遅れてしまったにもかかわらず、それに気づかないかのように走り続けていた。チームは無線でフルームに指示を出して事なきを得たのだが、総合でたった2分差しか離れていないフルームが、ウィギンスを裏切るのではないかという憶測が飛び交い始めたのだ。そして迎えた第17ステージの山岳最終決戦で、今年のツールを象徴する出来事が起った。ゴールへとつづくペイラギュド峠で、ウィギンスはフルームとともに、先行していたアレハンドロ・バルベルデ(モビスターチーム)を追走していた。しかしゴールまで残り2.5kmで、マイヨ・ジョーヌはフルームのテンポに付いて行けなくなってしまったのだ。フルームは身を起こし、腰に手を当てて何度もふり返り、後方で苦しむウィギンスを静観していた。フルームは今年のツールでけっしてチームリーダーを裏切らなかったが、2人の決別は決定的だとわかる光景だった。今年のツールで総合2位になったフルームは、来季もチームスカイにとどまるが、もうウィギンスの忠実なアシストとして走ることはないだろう。 [ツール・ド・フランス2012 個人総合最終成績] 1 ブラッドリー・ウィギンス(チームスカイ/英国)87時間34分47秒 2 クリストファー・フルーム(チームスカイ/英国)+3分21秒 3 ビンチェンツォ・ニーバリ(リクィガス・キャノンデール/イタリア)+6分19秒 4 ユルフン・バンデンブルック(ロット・ベリソル/ベルギー)+10分15秒 5 ティージェイ・バンガルデレン(BMCレーシング/米国)+11分04秒 6 アイマル・スベルディア(レディオシャック・ニッサン/スペイン)+15分41秒 7 カデル・エヴァンス(BMCレーシング/オーストラリア)+15分49秒 8 ピエール・ロラン(ヨーロッパカー/フランス)+16分26秒 9 ヤネシュ・ブライコビッチ(アスタナ/スロベニア)+16分33秒 10 ティボー・ピノ(FDJ・ビッグマット/フランス)+17分17秒 ■ポイント賞:ペーテル・サガン(リクィガス・キャノンデール/スロバキア) ■山岳賞:トーマ・ボークレール(ヨーロッパカー/フランス) ■新人賞:ティージェイ・バンガルデレン(BMCレーシング/米国) ■チーム成績:レディオシャック・ニッサン(ルクセンブルク)

気になる来シーズンのウィギンスとフルームは??


来年100回記念大会のツールはよりクライマー向きのコースで、カテゴリー2以上の峠が28ヶ所あり、過去3年で最多となっている。その一方で個人TTの合計距離は65kmで、100kmあった今年よりもずっと短い。コース発表会でウィギンスは「フルームをサポートする役目で走る可能性は十分あるだろう。ボクの目標はジロだ」と、コメントしている。来年のジロは例年通り山岳も厳しいが、TT区間はチームTT、個人TT、山岳個人TTがあり、とくに個人TTは55.5kmと長距離だ。発表会に出席した選手たちは、声をそろえて来年のジロはウィギンス向きのレイアウトだと語っている。来年のチームスカイのプログラムは、5月のジロをウィギンスが狙い、7月のツールはフルームがエースで走ることになりそうだ。

ヘシェダールが最終日に逆転優勝 ~ジロ・デ・イタリア


第95回ジロ・デ・イタリア(5月5日~27日)は、アルベルト・コンタドールが圧倒的な強さで支配した昨年とは対照的に、最終日の個人TTまで勝者がわからないスリリングな展開だった。ミラノでマリア・ローザを着ていたのは、終盤戦につづいた過酷な山岳ステージで総合首位の座を守り抜いたスペインのホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)だった。しかし彼は、個人TTが得意なカナダのライダー・ヘシェダール(ガーミン・バラクーダ)にたった31秒差で運命の日を迎えていた。2人がスフォルツェスコ城前のスタートランプに上がる前からドラマの結末は明らかだったが、ロドリゲスはマリア・ローザの魔法を信じて最後の試練に飛び出した。しかし、最初の中間計測ポイントで、奇跡が起らないことはすぐ明らかになった。第2中間計測ポイントで、ロドリゲスはヘシェダールよりもすでに44秒遅れていた。マリア・ローザのロドリゲスがドゥオーモ広場へゴールする前に、ヘシェダールの逆転総合優勝は確定した。 31歳のヘシェダールはカナダ人として初めてジロで総合優勝しただけでなく、カナダ人として初めて3大ツアーを制した選手になった。ヘシェダールとロドリゲスのタイム差は最終的に16秒だったが、これはジロ史上4番目に僅差の記録だった。総合3位には、今年最難関区間と言われていた伝説のステルビオ峠にゴールする第20ステージで、大逃げを決めて区間優勝したベルギーのトーマス・ドヘント(バカンソレイユ・DCM)だった。ベルギー人が3大ツアーで表彰台に上がったのは、実に17年ぶりだった。その一方で主催国イタリアは表彰台に誰も上がれない暗黒の年になってしまった。 [ジロ・デ・イタリア2012 個人総合最終成績] 1 ライダー・ヘシェダール(ガーミン・バラクーダ/カナダ)91時間39分02秒 2 ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ/スペイン)+16秒 3 トーマス・ドヘント(バカンソレイユ・DCM/ベルギー)+1分39秒 4 ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD/イタリア)+2分05秒 5 イバン・バッソ(リクィガス・キャノンデール/イタリア)+3分44秒 6 ダミアーノ・クネゴ(ランプレ・ISD/イタリア)+4分40秒 7 リゴベルト・ウラン(スカイ/コロンビア)+5分57秒 8 ドメニコ・ポッゾビーボ(コルナゴ・CSF/イタリア)+6分28秒 9 セルジョルイス・エナオ(スカイ/コロンビア)+7分50秒 10 ミケル・ニエベ(エウスカルテル・エウスカディ/スペイン)+8分08秒 ■ポイント賞:ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ/スペイン) ■山岳賞:マッテーオ・ラボッティーニ(ファルネーゼビーニ/イタリア) ■新人賞:リゴベルト・ウラン(スカイ/コロンビア) ■ファスト・チーム賞(時間):ランプレ・ISD(イタリア) ■スーパー・チーム賞(ポイント):ガーミン・バラクーダ(米国)

コンタドールが復活優勝! ~ブエルタ・ア・エスパーニャ


第67回ブエルタ・ア・エスパーニャ(8月18日~9月9日)は、最有力優勝候補だった地元スペインのアルベルト・コンタドール(サクソバンク・ティンコフバンク)が、ドーピングの処分で走れなかった半年のブランクを克服し、見事な復活優勝を果たした。今年のブエルタはジロの最終日に逆転負けを喫したホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)が、ふたたび主役になった。彼は第4ステージで総合首位に立ってマイヨ・ロホを獲得。アンドラの山岳区間も乗り切り、第11ステージの個人TTでは大方の予想を裏切って、たった1秒差で首位の座を守ったのだ。そして第14ステージから3日続いたアストゥリアス地方の山岳でも、コンタドールの執拗なアタックを見事につぶしてしまった。 しかし、王者コンタドールはあきらめなかった。彼は主催者のリストで平坦区間に分類されていた第17ステージで、驚くべき行動に出たのだ。彼はTV中継すら始まっていない、ゴールまで残り53km地点にあったカテゴリー2のコリャダ・ラ・オス峠でアタックした。ロドリゲスは峠の下りでコンタドールを捕まえられると考えていたが、その目算は外れてしまった。第4ステージから集団をコントロールしつづけていた彼のカチューシャチームは疲弊し、ライバルのモビスターも助けてはくれなかった。孤軍奮闘するマイヨ・ロホのロドリゲスを尻目に、コンタドールは大逃げを成功させて総合首位の座を獲得した。そのアグレッシブな走りはまるで、往年のエディ・メルクスやベルナール・イノーのようだった。 コンタドールはすでに来季の目標はツールだと発表している。しかし、気がかりなのは彼が所属するチームサクソバンク・ティンコフバンク(来季はチームサクソ・ティンコフに名称変更)が、UCIプロチームに残留できるか微妙な状態であることだ。もしもチームが来季、UCIプロフェッショナルコンチネンタルチームとして活動することになれば、コンタドールはツールの主催者招待を待たなければならない。UCIが来季のUCIプロチームを発表する運命の日は12月10日だ。 [ブエルタ・ア・エスパーニャ2012 個人総合最終成績] 1 アルベルト・コンタドール(サクソバンク・ティンコフバンク/スペイン)84時間59分49秒 2 アレハンドロ・バルベルデ(モビスターチーム/スペイン)+1分16秒 3 ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ/スペイン)+1分37秒 4 クリストファー・フルーム(スカイ/英国)+10分16秒 5 ダニエル・モレノ(カチューシャ/スペイン)+11分29秒 6 ロベルト・ヘーシンク(ラボバンク/オランダ)+12分23秒 7 アンドリュー・タランスキー(ガーミン・シャープ/米国)+13分28秒 8 ローレンス・テンダム(ラボバンク/オランダ)+13分41秒 9 イゴル・アントン(エウスカルテル・エウスカディ/スペイン)+14分01秒 10 ベニャト・インチャウスティ(モビスターチーム/スペイン)+16分13秒 ■ポイント賞:アレハンドロ・バルベルデ(モビスターチーム/スペイン) ■山岳賞:サイモン・クラーク(オリカ・グリーンエッジ/オーストラリア) ■コンビネーション賞:アレハンドロ・バルベルデ(モビスターチーム/スペイン) ■チーム成績:モビスターチーム(スペイン)

史上初! 3大ツアーすべてに日本人選手が参加して完走!


今年の3大ツアーが例年以上に盛り上がったのは、すべてのレースに日本人選手が参加したからでもあった。これは史上初めてのことだった。ジロには別府史之(オリカ・グリーンエッジ)、ツールには新城幸也(ヨーロッパカー)、そしてブエルタには土井雪広(アルゴス・シマノ)が参加。それぞれがただグランツールで完走を果たしただけでなく、チームの一員として働き、その勇姿は連日TV中継で見ることができた。もうグランツールに日本人選手が出場するのは当たり前の時代になったのだ。日本人初のグランツール区間優勝が報じられる日は、もう近くまで来ている。