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ロードレース2011プレイバック

サプライズな優勝者、胸おどる激闘…今年もいろいろなドラマがあった海外ロードレース。2011年の締めくくりに、記憶に残る名場面をまとめて紹介!
Photo: Graham Watson

エヴァンスがオーストラリア人として初めてツールで総合優勝

今年はついにマイヨ・ジョーヌが赤道を越え、南半球オーストラリアへと渡った。ツール・ド・フランスで長年万年2位の座に甘んじていたカデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)が、やっとパリの表彰台の中央に立ったのだ。34歳のエヴァンスは最終日前日に行われた個人タイムトライアルで、マイヨ・ジョーヌを着たアンディ・シュレク(レオパード・トレック)を逆転して栄冠を手に入れた。「ボクたちは人生でたくさんのことを子供の頃に熱望するものだ。1991年のツールでインドゥラインがみんなをやっつけたのを見たことが、ボクの頭に小さな種を植え付け、それは成長を続けていた。苦しい時期もあった。2年間は本当にアンラッキーで、優勝まであと一息だった。けれどそのことが、多分今、すべてより特別にしているんだ」と、子供の頃からの夢を実現したエヴァンスは喜びを語った。8月に故郷オーストラリアへ凱旋帰国したときには、大勢のファンが英雄を祝福した。しかしこれが彼のゴールではない。すでにエヴァンスは「少なくともあと2回はいいツールを走りたい」と公言。来年は連覇をかけて出場するつもりだ。そんなチャンピオンには新しい家族も増えた。年末にエヴァンス夫妻は、エチオピア人の12ヶ月の男の子を養子に迎えている。

ジルベールがUCIワールドツアーランキングで首位獲得

ツールを制したエヴァンスを抑えて、今年のUCIワールドツアーランキングでトップの座を獲得したのは、ベルギー人のフィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)だった。彼は春のクラシックレースを席巻。アムステル・ゴールド・レース、フレッシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュを圧倒的な力を見せつけて3連覇した。そのいきおいは止まらず、6月末のナショナル選手権で優勝してベルギーチャンピオンになったジルベールは、ツールの第1ステージを制して、念願だったマイヨ・ジョーヌも着用している。その後もクラシカ・サンセバスティアンとグランプリ・ド・ケベックで優勝し、1年間でなんと18勝をマーク。ツール主催誌であるフランスのヴェロマガジンで年間最優秀選手の『ヴェロ・ドール』にも選ばれ、まさに今年もっとも活躍した選手になった。ジルベールは母国ベルギーでも自転車競技の年間最優秀選手賞を総なめにした後、スポーツマン・オブ・ザ・イヤーを受賞している。

コボがフルームとの激闘を制してブエルタ初優勝

スペインのブエルタ・ア・エスパーニャでは、近年まれに見る激戦がファンの心を捕らえた。本来はアシスト選手であるはずだった2人の選手が、ブエルタ勝者の証である深紅のラ・ロハをめぐって死闘を繰り広げたのだ。その闘いを制したのは、地元スペインのフアンホセ・コボ(ジェオックス・TMC)だった。今年最難関ステージのアングリル区間で優勝し、総合首位の座に立ったコボの行く手を阻んだのは、26歳の英国人、クリストファー・フルーム(チームスカイ)だった。第17ステージのペーニャ・カバルガ峠で繰り広げられた一騎打ちは、まさに歴史に残る闘いだった。この日の闘いをしのいだコボは、ラ・ロハを守り抜いてマドリードへと凱旋している。しかし、ブエルタでの激闘は、コボが所属していたジェオックス・TMCの未来を保証してはくれなかった。メインスポンサーであるジェオックス社は「1年間のプロ自転車競技での経験の後で、このスポーツはもはや戦略的だとは考えられない」という理由でスポンサーを撤退。ブエルタを制したジェオックス・TMCは、たった1年間で消滅してしまった。来年はツール優勝を目指したいと望んでいるコボは、結局モビスターチームへ移籍することになった。アレハンドロ・バルベルデが復帰するチームで、果たしてツールでのエースの座が保証されるかどうかはわからない。

英国人のカヴェンディッシュが新世界チャンピオンに

今年のアルカンシエルをめぐる闘いを制したのは、英国人のマーク・カヴェンディッシュ(HTC・ハイロード)だった。彼はデンマークのコペンハーゲンで開催されたロード世界選手権で、80人以上で競われた集団ゴールスプリントを難なく制して優勝。英国人がアルカンシエルを獲得したのは、1965年のトム・シンプソン以来の快挙だった。今年26歳になったカヴェンディッシュはツールでも区間5勝して念願のマイヨ・ベールも手中に収め、まさに世界最速スプリンターの名を欲しいままにしている。さらに今年はBBCが主催するスポーツマン・オブ・ザ・イヤーを受賞し、英国のトップアスリートの座も獲得した。来年は母国のチームスカイへ移籍するカヴェンディッシュ。もちろん最大の目標は、ロンドン五輪ロードで優勝することだ。

交通事故で負傷したホーヘルラントがツールを完走

数々の名勝負と優勝者だけが自転車競技の魅力ではないことを、今年教えてくれたのはオランダ人のジョニー・ホーヘルラント(ヴァカンソレイユ・DCM)だった。彼は今年のツール・ド・フランス第9ステージで、先行する逃げグループで走っていたとき、フランステレビジョンの車両が引き起こした交通事故に巻き込まれ、コース脇の有刺鉄線柵に突っ込んでしまった。ホーヘルラントは33針も縫うような重傷を負っていたが、血だらけの脚でふたたび自転車にまたがり、ゴールを目指した。なんとか制限時間内にゴールし、その日獲得した山岳賞のマイヨ・アポワを受け取るために表彰台へと上がったホーヘルラントは、不屈の走りを称える熱狂的なファンの声援を受け取った。この日、不運な交通事故で最初にはねられたのはチームスカイのフアンアントニオ・フレチャだったが、ファンの心を捕らえたのは有刺鉄線で酷い傷を負ったにもかかわらず、その後もツールを走り続けたホーヘルラントだった。彼は総合優勝したエヴァンスから2時間11分51秒遅れの総合74位でパリへと凱旋した。ツール後に有刺鉄線と自転車はチャリティーオークションにかけられ、有刺鉄線は1620ユーロ、自転車は5600ユーロで競り落とされた。この売り上げは国境なき医師団に寄付されている。

ベルギー人のウェイラントがジロで事故死

5月9日、ロードレース界は悲しみに包まれた。ジロ・デ・イタリアの第3ステージに参加していたベルギー人のウォートル・ウェイラント(レオパード・トレック)が、ゴールまで残り25km地点のパッソ・デル・ボッコの下り坂で落車し、帰らぬ人となってしまった。享年26歳。今年9月には、初めて父親になるはずだった。事故の翌日はニュートラル区間となり、競技は行われず、ウェイラントの親友だったタイラー・ファーラー(ガーミン・サーヴェロ)とレオパード・トレックのチームメートたちが一列に並んでゴールし、故人を追悼した。ウェイラントのガールフレンドは、9月2日に無事女の子を出産。アリゼーと名付けられている。

2011年の主要レース優勝者

パリ~ニース(フランス):トニー・マルティン(HTC・ハイロード/ドイツ) ティレーノ~アドリアーティコ(イタリア):カデル・エヴァンス(BMCレーシング/オーストラリア) ミラノ~サンレモ(イタリア):マシューハーレイ・ゴス(HTC・ハイロード/オーストラリア) ゲント~ベベルゲム(ベルギー):トム・ボーネン(クイックステップ/ベルギー) ロンド・バン・ブラーンデレン(ベルギー):ニック・ナイエンス(サクソバンク・サンガード/ベルギー) パリ~ルーベ(フランス):ヨハン・ヴァンスーメレン(チームガーミン・セルヴェロ/ベルギー) アムステル・ゴールド・レース(オランダ):フィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット/ベルギー) フレッシュ・ワロンヌ(ベルギー):フィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット/ベルギー) リエージュ~バストーニュ~リエージュ(ベルギー):フィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット/ベルギー) ツール・ド・ロマンディ(スイス):カデル・エヴァンス(BMCレーシング/オーストラリア) ジロ・デ・イタリア(イタリア):アルベルト・コンタドール(サクソバンク・サンガード/スペイン) クリテリウム・デュ・ドーフィネ(フランス):ブラッドリー・ウィギンス(スカイ/英国) ツール・ド・スイス(スイス):リーバイ・ライプハイマー(チームレディオシャック/米国) ツール・ド・フランス(フランス):カデル・エヴァンス(BMCレーシング/オーストラリア) クラシカ・サンセバスティアン(スペイン):フィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット/ベルギー) ブエルタ・ア・エスパーニャ(スペイン):フアンホセ・コボ(ジェオックス・TMC/スペイン) UCIロード世界選手権(デンマーク):マーク・カヴェンディッシュ(英国) イル・ロンバルディア(イタリア):オリバー・ツァウグ(レオパード・トレック/スイス) 【UCIワールドツアーランキング】 ■個人ランキング:フィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット/ベルギー) ■国別ランキング:スペイン ■チームランキング:オメガファルマ・ロット(ベルギー) (http://www.uci.ch/)