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オールラウンドなエアロバイク VENGE PRO

5年というスペシャライズド社内でも前例がないほど長い開発期間を経てデビューしたヴェンジ。軽さと剛性を犠牲にせず空力性能を飛躍的に向上させたというニューモデルを、アメリカ西海岸のスペシャライズド・メディアキャンプで試乗した。
text●安井行生 photo●山内潤也/安井行生

VENGE PRO

近年、トップブランドが投入し始めた最新エアロロードと目的は一緒だ。「軽さ」と「剛性」を経て今、世は明らかに「空力」へのプライオリティを強めている。湾曲したトップチューブは他のスペシャライズドバイクに共通するものだが、ダウンチューブをはじめとする各チューブはエアロロードらしく薄い。しかしこれらは単なる翼断面ではなく、正面だけでなく斜めからの風に対しても高いエアロ効果を発揮するという、自転車走行に特化した最新の空力理論に基づいて設計されている。 発売前はマクラーレン社と協同開発したスペシャルモデル「マクラーレン・ヴェンジ」が話題を呼んだが、製造方法の関係で生産台数が限られるため、日本に輸入されるのは数台になるとみられる。よって、実質的なトップモデルとなるのが高弾性のFACT IS 11Rカーボンを素材とする「Sワークス ヴェンジ」である。ベーシックグレードとなるのはカーボンのグレードを落とした「ヴェンジプロ」だ。このヴェンジは2011年のミラノ~サンレモで実験投入され、マシュー・ゴスが見事にデビューウィンを飾っている。 アメリカで乗れたのはSワークスではなくプロだったが、驚いた。セカンドグレードであるプロの走りがここまでいいとは。デモライドでエンジニアに思わず「コレすごくいいね」と言ったら「そうだろう!長い間テストしていたからね」と誇らしげに棟を張った。彼の言うとおり、エアロらしからぬ扱いやすさが印象深く、高級感すらある走りで滑るようにライダーを運んでいく。セカンドグレードだが、筆者の体重にはこの剛性バランスがピタリとフィットする。振動はトントンと伝えてくるが減衰が早く、まったく不快ではない。ダッシュも得意科目。絶妙なしなりを伴いながら、あっという間にスピードが乗る。登坂性能も望外に高く、見た目のボリュームとは裏腹に斜面を軽々と上っていく。テストコースに本格的なヒルクライムがないことが悔やまれたほどだ。高速コーナーでのハンドリングに多少クセを感じたが、ディープリムホイールと使い慣れないタイヤのせいもあるだろう。 プレゼンテーションではターマックSL3比で時速45km走行時に約20Wのパワーをセーブできる(エンジニアが室内バンクで実測したらしい)というにわかには信じがたいデータを示されたが、それも本当かもと思わせる高性能バイクだった。欠点がほとんどない。このヴェンジには、エアロだからとあきらめなければならないものがない。「いきなり二度おいしいエアロ」なのである。
完成車価格 65万円(シマノ・アルテグラDi2仕様) フレーム●FACT IS 10Rカーボン フォーク●ヴェンジプロFACTカーボン コンポーネント●シマノ・アルテグラDi2 ホイール●ロヴァール・ラピーデ EL45 タイヤ●スペシャライズド・ターボプロ 700×23C サドル●スペシャライズド・ローミンエヴォエキスパート ハンドルバー●スペシャライズド・ターマックエキスパート ステム●スペシャライズド・プロセット7075 シートポスト●専用品 サイズ●49、52、54 カラー●ホワイト×シルバー

S-WORKS VENGE

A. ストレート形状のフォークは下ワン1-3/8インチの上下異径。空力を重視し、前から見ると刃のように薄い。横剛性はさほど高くはないが、ブレーキング時の剛性は非常に良好。 B. ブレード状のシートチューブからそのまま伸びるエアロシートポスト。前後対称となっているため、向きを変えることでオフセットを0mmと20mmに可変できる。ISPを採用しなかったのは達見。調整やメンテナンス性は非ISPフレームが圧倒的に優れている。 C. シートステーも単純な楕円や翼断面ではなく、斜めから当たる風に対してのエアロ効果を追求。フレーム全体でターマックSL3比で空気抵抗を24%低減しているという。
D. ヘッドキャップはフレームに沿うようなフィン状のものが採用されている。当然ハンドルと一緒に動くが、空力的にはこのほうがいい結果が出たのだという。ヴェンジのヘッドチューブなどはかなり複雑な形状になっているため、フレーム製造時にはバルーンではなく固形のEPSフォームによって内圧をかけているという。 E. エアロロードらしくワイヤ類はすべて内蔵される。シフトワイヤはBB下でいったん露出し、ある程度のメンテナンス性を確保している。
【安井行生のインプレッション】帰国後、Sワークスにも試乗することができた。プロよりは明確に硬いが、ターマックSL4のような「脚を跳ね返す硬さ」はなく、横剛性が絶妙に抑制された結果の扱いやすさを感じる。プロと同じく、フレーム形状からは想像できないほど快適性は高い。ハンドリングは基本的にニュートラルだが、高速コーナーでバイクを倒し込むと(フォークに負荷をかけると)途中からグラリとアンダーに転じる印象を受ける。ホイールを外してエンドを握ると簡単にたわむため、フォークの剛性はそれほど高くないことがわかる。ここは空力性能とトレードオフしている部分かもしれない。とはいえ、すべてがハイレベルにまとめられた万能性はすばらしい。スペシャライズドは<ターマックSL4=オールラウンド、ヴェンジ=高速巡航&スプリント>と説明しているが、Sワークスに限って言えば、<ターマックSL4=短距離レース限定、ヴェンジ=オールラウンド>としたほうが正確だ。
完成車価格 98万円(シマノ・デュラエース仕様) フレーム●FACT IS 11Rカーボン フォーク●SワークスFACTカーボン コンポーネント●シマノ・デュラエース ホイール●ロヴァール・ラピーデ SL45 タイヤ●スペシャライズド・Sワークス ターボ 700×23C サドル●スペシャライズド・ローミンエヴォエキスパート ハンドルバー●スペシャライズド・Sワークス シャローベンド ステム●スペシャライズド・Sワークス プロセット7050 シートポスト●専用品 試乗車実測重量●6.7kg(49サイズ、ペダルなし) サイズ●49、52、54、56 カラー●カーボン×レッド

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