初参戦のイランチームが総合優勝! ツアー・オブ・ジャパン2014 総集編
アジアのトップチームが圧勝!
日本最大のステージレースである第17回ツアー・オブ・ジャパン(UCIアジアツアー2.1)は、イランから初参戦したタブリスペトロケミカルチームのミルサマド・プルセイェディゴラフールが初優勝して幕を閉じた。それは、けっして驚くべき結末ではなかった。UCIコンチネンタルチームのタブリスペトロケミカルは、昨年アジアツアーランキングで1位になった強豪チームだ。
彼らはこれまでにもツアー・オブ・ジャパンに参加できる機会があったのだが、自国で開催されるツアー・オブ・イランと日程が重なっていたため、辞退していた。しかし、今年はそのレースが1ヶ月後に日程変更したので、初参戦が実現したのだ。
そしてツアー・オブ・ジャパンでグリーンジャージを獲得したプルセイェディゴラフールは、UCIプロチームも参加していたツール・ド・ランカウイ(アジアツアー2.HC)で、今年アジア人として初めて総合優勝した選手だった。彼はジェンティン・ハイランドにゴールしたクイーンステージを制して総合首位に立ち、その後の6ステージでトップの座を守り切った。
しかし初めての日本では、ランカウイのようにはいかなかった。「どんなコースなのか、どんなコンディションなのか、という情報がなかったから、最初は難しかった」と、タブリスペトロケミカルでキャプテンをつとめる38歳のガデル・ミズバニは伊豆で語っていた。
クライマーをそろえて来日したタブリスペトロケミカルの戦略は、第2ステージの美濃と第3ステージの南信州で、とにかくタイムを失わないようにすることだった。ところが南信州のステージは、雨のステージになってしまった。
雨がほとんど降らないイランから来た選手たちには、他の選手たちよりも厳しい1日になった。プルセイェディゴラフールは、区間優勝したイタリアのピエールパオロ・デネグリ(ビーニファンティーニ・NIPPO)よりも3分半以上遅れてゴール。イランチャンピオンのミズバニはさらに遅れ、5分25秒失ってしまった。
南信州ステージでタブリス勢は総合争いから大きく後退したかに見えたのだが、彼らのレースはまだ終わっていなかった。そしてクイーンステージの富士山で息を吹き返したのだ。
タブリスの選手たちは序盤から次々とアタック。満を持してプルセイェディゴラフールも仕掛けて先頭に立つと、独走で富士山を駆け上がり、コースレコードを更新して区間優勝した。
しかし、南信州ステージで失ったタイムのせいで、総合首位には手が届かなかった。富士山ではグレガ・ボレ(ビーニファンティーニ・NIPPO)が健闘し、プルセイェディゴラフールに17秒の差を付けて総合トップに立った。
トマ・ルバ(ブリヂストンアンカー)も22秒遅れの総合3位につけ、最終決戦は伊豆ステージへと持ち越された。
完走41人の激戦
修善寺の日本サイクルスポーツセンターで行なわれた伊豆ステージは1周12.2kmのサーキットを12周するレースで、平坦区間がほとんどなく、上りと下りだけのハードなコースだった。そして、初夏の陽気はイラン勢に味方した。
スタートしてたった3km地点で、プルセイェディゴラフールはミズバニとともに集団からアタックした。それで形成された逃げは最初10人だったのだが、すぐにタブリスの2人とヒュー・カーシー(ラファ・コンドール・JTL)、清水都貴(ブリヂストンアンカー)、ジャイ・クロフォード(ドラパック)の5人になった。
清水は前日に「伊豆ステージでは攻撃を仕掛け、何がなんでもルバが個人総合トップを取れるように助けたい」と、公言した通り、タブリス勢の攻撃に食らいついたのたが、残り5周で力尽きてしまった。
この日の大半、先頭を引き続けていたベテランのミズバニと、プルセイェディゴラフールの2人に最後までついて行けたのは、富士山で区間2位になった弱冠19歳のカーシーだけだった。
昨年、今大会を2連覇したビーニファンティーニ・NIPPO勢が、グリーンジャージを着たボレのために集団を引き続けたのだが、先行するタブリス勢とのタイム差は開くばかりだった。
ビーニファンティーニ・NIPPOのアシストたちは次々と力尽き、グルッペットへと下がって行った。
後半に入って、メイン集団のビーニファンティーニ・NIPPOがグリーンジャージのボレだけになってしまったあとは、ブリヂストンアンカーが先頭を引いたが、先行する3人との差は縮まりはしなかった。最終周回が始まったとき、その差は3分以上開いていた。最後はミズバニが区間を取り、プルセイェディゴラフールが総合首位の座を獲得した。
タブリスの2人と一緒にゴールしたカーシーは、目標だった区間優勝は取れなかったが、この日の走りで山岳賞のレッドジャージを獲得。総合も15位から6位へとジャンプし、新人賞のホワイトジャージも手中に収めた。
「プルセイェディゴラフールはとても驚くようなレースをした。4年間UCIプロチームで走ったが、あんな厳しいレースは走ったことがなかったし、あんな風にスタートしてすぐにアタックするのは見たことがなかった…」と、グリーンジャージを守れなかったボレは、翌日この日のレースについて語っていた。
その厳しさは完走たった41人という、この日の結果が大いに物語っていた。今年のツアー・オブ・ジャパンで一番人気だったフィリッポ・ポッツァート(ランプレ・メリダ)や西谷泰治(愛三工業レーシング)がいたグルッペットは、最終周回に入る前に先頭の3人に追い越され、失格になってしまったのだ。
そこには前半逃げ続けた清水や、ビーニファンティーニ・NIPPOのアシストたちもいた。この日は救済もなく、彼らは東京ステージを走ることはできなかった。
終わってみれば、タブリス勢は総合トップ10に3人が入り、チーム総合成績でも1位に輝いた。日本勢は、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)が総合10位で、なんとかトップ10に食い込むことができた。
増田はレース後に「あらためて海外勢の強さを思い知った大会になった」と語っていた。今年のツアー・オブ・ジャパンは、まさにその一言に尽きる大会だった。
第17回ツアー・オブ・ジャパン結果
1 ミルサマド・プルセイェディゴラフール(タブリスペトロケミカル/イラン)15時間05分01秒
2 グレガ・ボレ(ビーニファンティーニ・NIPPO/スロベニア)+1分57秒
3 ガデル・ミズバニ(タブリスペトロケミカル/イラン)+3分48秒
4 ホセ・トリビオ(チームUKYO/スペイン)+4分15秒
5 トマ・ルバ(ブリヂストンアンカー/フランス)+5分13秒
6 ヒュー・カーシー(ラファ・コンドール・JTL/英国)+5分48秒
7 アミール・コラドーズハグ(タブリスペトロケミカル/イラン)+5分54秒
8 キャメロン・ベイリー(OCBCシンガポール/オーストラリア)+6分59秒
9 ベンハミン・プラデス(マトリックスパワータグ/スペイン)+7分28秒
10 増田成幸(宇都宮ブリッツェン/日本)+8分32秒
[各賞]
■ポイント賞:グレガ・ボレ(ビーニファンティーニ・NIPPO/スロベニア)
■山岳賞:ヒュー・カーシー(ラファ・コンドール・JTL)
■新人賞:ヒュー・カーシー(ラファ・コンドール・JTL)
■チーム成績:タブリスペトロケミカルチーム(イラン)
[各ステージの優勝者]
■第1ステージ(堺):ウイリアム・クラーク(ドラパック/オーストラリア)
■第2ステージ(美濃):ウォウテル・ウィッペルト(ドラパック/オランダ)
■第3ステージ(南信州):ピエールパオロ・デネグリ(ビーニファンティーニ・NIPPO/イタリア)
■第4ステージ(富士山):ミルサマド・プルセイェディゴラフール(タブリスペトロケミカル/イラン)
■第5ステージ(伊豆):ガデル・ミズバニ(タブリスペトロケミカル/イラン)
■第6ステージ(東京):ニッコロ・ボニファツィオ(ランプレ・メリダ/イタリア)