100回記念大会でフルームが圧勝! ツール2013ハイライト
英国のフルームが大差を守って総合初優勝
100回記念大会を盛大に祝ったツール・ド・フランスは、3週間の激闘を終えて7月21日にパリのシャンゼリゼ大通りに到着し、ケニア生まれの英国人、クリストファー・フルームがライバルたちに大差を付けて総合初優勝を飾り、チームスカイに2年連続の勝利をもたらした。フルームはチームメートのブラッドリー・ウィギンスが総合優勝した昨年のツールで、アシストをつとめながら総合2位になった。しかし今年は、ディフェンディンクチャンピオンに代わってチームスカイの絶対的なエースとして総合を狙うチャンスを得たのだ。28歳のフルームはツールの開幕前に、今年だけでなくこれから6~7年は勝ちたいと発言していたが、それがけっして大口を叩いたわけではないことは、序盤戦のピレネーで明らかになった。
序盤戦のピレネー初日にマイヨ・ジョーヌを獲得!
第8ステージのゴールだったアクス・トロワ・ドメーヌの上り坂で、フルームはアシストのリッチー・ポートとともに先行していたコロンビア人クライマーのナイロ・キンタナ(モビスターチーム)を残り5.3kmで捕らえた直後にアタックした。平均勾配が8%以上ある坂を上っているとは思えない彼のスピードには、誰ひとり付いて行くことができなかった。しかもフルームがアタックする前に、メイン集団はチームスカイ山岳列車の激しい牽引でバラバラになっていたのだ。今年のツールでフルームの最大のライバルになるだろうと思われていたスペインのアルベルト・コンタドール(チームサクソ・ティンコフ)は、この重要な局面で生彩を欠き、アシストのロマン・クロイツィーゲルのスピードにも付いていけなくなっていた。彼は今年のツールで初日から落車に巻き込まれ、左肩と右膝を負傷していた。
独走でアクス・トロワ・ドメーヌのゴールに飛び込んだフルームは、この日総合のライバルたちに1分以上のタイム差を付けることに成功し、念願だったマイヨ・ジョーヌにソデを通した。そして総合2位には、アシストのポートが51秒遅れで入っていた。しかし翌日のピレネー2日目に、フルームは早速マイヨ・ジョーヌを守ることの厳しさを思い知らされた。前日の働きでチームメートたちは疲弊して遅れ、2つ目のマンテ峠ではスーパーアシストのポートですらメイン集団から脱落。フルームは早くからアシストのいない状態になってしまったのだ。それでも彼は、バルベルデやキンタナのアタックを制圧し、マイヨ・ジョーヌ初日を何とか乗り切ることができた。そして幸いにも、その翌日は今年最初の休養日だった。
横風の不運でバルベルデが総合争いから脱落!
マイヨ・ジョーヌのフルームは、モン・サンミシェルで行われた最初の個人タイムトライアルでTT世界チャンピオンのトニー・マルティン(オメガファルマ・クイックステップ)にたった12秒差で区間2位になり、ライバルたちとのタイム差をさらに広げた。すでにこの時点で総合2位のバルベルデは3分25秒、総合4位のコンタドールは3分54秒遅れていた。普通であれば、総合は後半戦の山岳まで動かないはずだったが、平坦な第13ステージで思わぬ落とし穴が待ち構えていた。強い横風が吹きあれるなか、集団ゴールスプリントに持ち込むために逃げていた選手を捕らえようとオメガファルマ・クイックステップが激しく引いたため、メイン集団が分断。そのタイミングでメカニカル・トラブルに見舞われてしまったバルベルデは、チームメートたちの必死の追い上げにもかかわらず、マイヨ・ジョーヌ集団に復帰することができなかったのだ。その日、バルベルデは10分近く遅れてゴールし、総合2位からいっきに16位まで落ちてしまった。もしここでバルベルデが遅れていなければ、シャンゼリゼの表彰台に上がった選手は変わっていたかもしれない。
モン・バントゥの勝利とラルプ・デュエズの危機
革命記念日の7月14日に行われたモン・バントゥ区間で、ふたたびマイヨ・ジョーヌのフルームは圧倒的な力の差をライバルたちに見せつけた。残り8kmでメイン集団からアタックしたフルームは、先行していたキンタナに追いつき、2人でゴールを目指した。そして彼は、ゴールまで残り1kmでキンタナを置き去りにすると、独走で伝説の峠を支配した。その日、フルームには突然疑惑の目が向けられるようになった。自転車レース界は、相次ぐドーピングスキャンダルで疑い深くなっているのだ。フルームはレースでライバルたちと闘うだけでなく、メディアからの攻撃とも闘わなければならなくなってしまった。モン・バントゥ区間の翌日は2度目の休養日で、チームスカイの記者会見には大勢のメディアが集まった。そしてフルームは、ドーピングはしていないと主張しつづけていた。
肉体的にも精神的にも疲弊していた終盤戦、第18ステージのラルプ・デュエズ区間で、フルームは今年最大の危機に見舞われた。有名なラルプ・デュエズを2回上る、100回記念大会で最大のステージで地元フランスのクリストフ・リブロン(AG2R・ラモンディアル)が、劇的な逃げ切り優勝を演じてフランス人を歓喜させていたころ、メイン集団では総合争いの闘いが始まっていた。この場面でマイヨ・ジョーヌのフルームは、エネルギーが底を付いてしまったのだ。ゴールまで残り5km以内の補給は禁止されていたが、スカイのチームカーはポートにエネルギージェルを託し、それをフルームのもとへと運ばせた。この補給で危機を脱出したフルームは、先行していたキンタナとホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)に大差を付けられることなくゴールすることができた。その代償は、たった20秒のペナルティタイムだった。
フルームの走りは終盤戦に入ると守りの体制になり、昨年の終盤戦で見せたようなゆとりの走りは影を潜めた。しかし、それがマイヨ・ジョーヌを守るという重圧だ。彼は今年それを経験し、来年はさらに強くなって戻ってくるだろう。フルームは結局、第8ステージで獲得した念願のマイヨ・ジョーヌを一度も手放すことなく、パリのシャンゼリゼへと凱旋した。アフリカ大陸で生まれた選手がツールで総合優勝したのは、史上初めてだった。
●総合優勝したフルームのコメント「このマイヨ・ジョーヌをボクが着続けるために、来る日も来る日も働きつづけたチームメートたちに感謝したい。そしてボクを信じてくれて、このチームを編成してくれたチームスカイの首脳陣にも感謝したい。長年にわたってボクに教える時間を割いてくれたすべての人々もありがとう。最後に、この道程のすべての段階にボクと一緒にいてくれた親しい友人や家族に感謝したい。ここは美しい国で、地球で最大のスポーツイベントを毎年主催している。その100回目の大会で勝つことは栄誉だ。これは時の試練に耐える1枚のマイヨ・ジョーヌだ。まったく信じられない旅だった。とても厳しい旅だった。けれどここに立つために、シャンゼリゼの表彰台の一番高いところに立つためには、その価値は100%あった」
第100回ツール・ド・フランス 個人総合最終成績
1 クリストファー・フルーム(スカイ/英国)83時間56分40秒
2 ナイロ・キンタナ(モビスターチーム/コロンビア)+4分20秒
3 ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ/スペイン)+5分04秒
4 アルベルト・コンタドール(チームサクソ・ティンコフ/スペイン)+6分27秒
5 ロマン・クロイツィーゲル(チームサクソ・ティンコフ/チェコ)+7分27秒
6 バウケ・モレマ(ベルキン/オランダ)+11分42秒
7 ヤコブ・フグルサング(アスタナ/デンマーク)+12分17秒
8 アレハンドロ・バルベルデ(モビスターチーム/スペイン)+15分26秒
9 ダニエル・ナバロ(コフィディス/スペイン)+15分52秒
10 アンドリュー・タランスキー(ガーミン・シャープ/米国)+17分39秒
[各賞]
■ポイント賞:ペーテル・サガン(キャノンデール/スロバキア)
■山岳賞:ナイロ・キンタナ(モビスターチーム/コロンビア)
■新人賞:ナイロ・キンタナ(モビスターチーム/コロンビア)
■チーム成績:チームサクソ・ティンコフ(デンマーク)
■スーパー敢闘賞:クリストフ・リブロン(AG2R・ラモンディアル/フランス)