万能モデル、CINELLI・VERY BEST OF
ステム一体型のカーボンハンドル「ラム3」付属
新作では旧作に比べてシャープなフレームワークを展開する。最大の特徴は、薄く仕上げられたトップチューブからシートステーの形状だ。横幅を広げつつ薄く成型することで必要なねじれ剛性を得ながら、垂直方向の柔軟性を最大化している。さらにシートポストに27.2mmのタイプをセットして優れた振動吸収性を追求する。
ボトムラインはプレスフィット規格のハンガーシェルを中心にボリュームアップしている。しかしながら上下異径ベアリングで構成するヘッド部を含め、パワーラインに強烈なまでのボリューム感はない。必要な箇所に効果的な断面積を与えて快適性と必要な剛性をバランスした設計と察することができる。これはベリーベストオブがレースのみならず、グランフォンドも視野に入れるためだろう。
また、980gのフレーム重量は上りでのハンディも少なく、またデリケートな扱いも必要としない実用的な軽さといえる。そして、さらなる魅力といえば、ステム一体型のカーボンハンドル「ラム3」とシートポストの「ネオス」などの同社パーツを付属し、バイクのトータルコーディネートを楽しむことができること。これはパーツメーカーでありスタイリングに定評のあるチネリらしい演出だ。ラム3を単体で購入すると7万円以上なので、シートポストなどの金額を差し引くとベリーベストオブのフレームはおおよそ30万円にすぎず、価格面でも魅力的な一台といえる。
チネリ・ベリーベストオブ
フレームセット価格:39万9000円
シマノ・デュラエースDi2完成車価格:136万5000円
フレーム:コロンバス・モノコック
フォーク:コロンバス・モノコック 1-1/8' 1-1/4
コンポーネント:カンパニョーロ・スーパーレコード
ホイール:カンパニョーロ・ボーラウルトラツー
タイヤ:ハッチンソン・カーボンコンプ
ハンドルバー:チネリ・ラム3(ステム一体型)
サドル:サンマルコ・コンコールレーシング
シートポスト:チネリ・ネオス
試乗車実測重量:6.54kg(Mサイズ、ペダルなし)
サイズ:XS、S、M、L、XL
カラー:ベリーベストレッド、イタロ'79ブラック
トータルバランスに優れ、ストレスのない走りを楽しめる
■写真下・左:グループブランドのコロンバス製フロントフォークは、ブレードの中間部分を内側に絞り、この部分の断面積を増すことにより、ねじれ剛性を確保しつつ路面からの突き上げをいなす
■写真下・中:上側1-1/8、下側1-1/4インチのベアリングを装備した上下異径ヘッド。見た目のボリューム感はさして大きくないが、横幅は十分に与えられ、ヘッド部のねじれ剛性を確保する。
■写真下・右:薄く仕上げたシートステーがスプリング効果を発揮して乗り心地を高める。一方で前三角に対する接合位置を下げ、その横幅を広くした形状により後三角に十分なねじれ剛性を得ている。
■写真下・左:リヤ側に向かって徐々に薄くなるトップチューブは、シートステーとともにパワーラインとの剛性バランスを整えて快適性を演出。ブレーキワイヤは内部抵抗を軽減するため右側挿入。左側排出となる。
■写真下・右:プレスフィット86規格のハンガーシェルによって、BBまわりはボリュームアップされる。最近のモデルとしてはスリムな部類だが、ハンガー部の剛性に不足を感じることはなく、駆動効率に優れる。
■ダウンチューブは三角形にきわめて近い台形の断面形状。底辺の長さをしっかりと確保することで、ヘッド部とハンガー部のねじれ剛性を最適化することに貢献している。
吉本 司の試乗インプレッション
これまでチネリのフラッグシップをいくつか試乗してきたが、共通するのはくせのない素直なライディングフィール、そして軽快感に優れるペダリングだ。このベリーベストオブも、そんなチネリの感覚を受け継いでいる。
比較的スリムなフレームワークどおり、ガツンと踏み応えのある剛性の高いモデルではない。どちらかといえば軽量車的なパリッとした軽いペダリングフィールを持つ。しかし薄く乾いたフィーリングだけではなく、トルクをかけたときに若干のタメがある。したがってペダリングでトルクをかけられる領域は十分で、しかも脚への負担も少ないので走らせやすい。よほどのパワーライダーでないかぎり、ネガティブなライディングフィーリングを持つことはないだろう。
踏みだしの軽さに加えて、ダンシングでバイクを振っても軽やかさがあり、上りも緩斜面から急勾配までトルクをかけても軽めのギヤでスッと前に進む。速度変化にも柔軟に対応できる。ハンドリングは若干軽めだが、直進性とのバランスは良好で、イタリアンバイクらしい反応のよさといっていい。そしてアッパーラインの垂直方向の柔軟性は十分に発揮され、レーシングモデルとしては乗り心地は良好だ。
走りに強烈な個性を持つ存在ではないものの、レーシングモデルに必要な性能がきわめてバランスよく詰め込まれ、それがくせのない軽快な走りを実現している。ストレスの少ない走行性能はライドに集中することができ、それが気持ちいい。控えめだが、1台あると何かと頼りになるいいパートナーだ。