キンタナがコロンビアに初優勝をもたらした! ジロ・デ・イタリア 2014
コロンビアの英雄ルイス・エレラがスペインのブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝し、南米のコロンビアに初のグランツール優勝をもたらしたのは1987年のことだった。その栄光から27年経った今年、コロンビアはついにジロ・デ・イタリアでも頂点に立った。
24歳のナイロ・キンタナは、母国コロンビアのローカルチームからスペインのモビスターチームに移籍してまだ3シーズン目だが、昨年のツール・ド・フランスで総合2位になり、グランツール制覇は夢ではないことを証明していた。
ジロは初出場だったが、キンタナはスタート前から優勝候補として注目されていた。彼はその期待に応え、マリア・ローザで最終目的地のトリエステへと凱旋したのだ。コロンビアからは家族が祝福に駆けつけ、キンタナは2月に生まれたばかりの娘を抱いて表彰台に上がった。
しかし、コロンビア人クライマーのキンタナがバラ色の玉座に到達するための3週間の闘いは、けっして楽な道のりではなかった。
序盤の不運
第97回大会は、英国の北アイルランドで開幕した。初日のチームタイムトライアルは雨となり、キンタナのモビスターチームは55秒遅れでのスタートとなった。
アイルランド島から南イタリアへと移動したあとも、序盤戦は雨がつづいた。そんななか、第6ステージではゴール手前11kmで大落車が起こり、大勢の選手が巻き込まれてしまった。キンタナも転倒したが、幸いひどいケガは負わずにすんだ。
この落車で最大の犠牲者は、優勝候補の1人だったスペインのホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)だった。彼はこの日、8分近く遅れてゴールし、翌日のステージは出走しなかった。
序盤戦でキンタナは落車しただけでなく、天候不良のせいで風邪も引いてしまっていた。第12ステージの個人タイムトライアルで、同郷のリゴベルト・ウラン(オメガファルマ・クイックステップ)が優勝してマリア・ローザを獲得したとき、キンタナは彼よりも2分41秒遅いタイムでゴールしていた。
そして運命の最終週に突入したとき、総合でマリア・ローザのウランとキンタナの差は、まだ2分40秒も開いていた。
ステルビオでの攻撃
最終週の初日のステージは、ガビア峠とステルビオ峠を越える山岳区間で、昨年のジロで降雪のため中止になったルートだった。主催者は、今年も中止するなどという不名誉はこうむりたくなかった。雪が降るだろうとはわかっていても、この日のステージは予定通りに行なわれた。
今年の最高峰で、チマコッピになっていたステルビオ峠で事件は起きた。標高2758メートルからの下り坂はカーブがいくつも連なり、雪の中を下るのは危険だと判断した主催者は、コースラジオでそれをチームに伝えた。そして下りでは、集団の前を赤い旗を付けたバイクが先導すると告げた。
多くのチームはこの主催者の指示を聞いて、ステルビオ峠の下りがニュートラル(競争しないで走ること)になったと判断し、危険を冒すことなくステルビオを下った。なかには山頂で自転車を降り、防寒対策をする選手もいた。
しかし、主催者のコースラジオでの発表にはニュートラルという言葉は使われていなかった。そのため一部のチームは主催者の指示を聞かず、ステルビオ峠の下りでアタックを試みた。ふもとまで降りたときには、6人が集団から先行していた。そのなかにキンタナも含まれていたのだ。
この日、カテゴリー1のバル・マルテッロ峠で区間優勝したキンタナは、マリア・ローザのウランよりも4分以上早くゴールした。そこでマリア・ローザを獲得したキンタナは、2位のウランに1分41秒差、3位のカデル・エヴァンス(BMC)には、3分以上の差を付けていた。
主催者はステルビオ峠の下りをニュートラルにはしていないと主張した。ニュートラルだと判断して致命的な遅れを取ったチームは、AIGCP(国際プロ自転車選手チーム協会)を通じてUCI(国際自転車競技連合)に訴えたが、UCIはそれを聞き入れなかった。
ステルビオ峠でのニュートラル事件はこれで一件落着し、キンタナは正式にレースリーダーになったのだが、誰もがすっきりしない気持ちを抱えてレースを続けることになった。キンタナは真の王者としてみんなから祝福されるために、それを払拭しなければならなかった。
山岳TTで圧勝!
ステルビオ事件の3日後、キンタナに名誉挽回のチャンスが訪れた。チーマ・グラッパにゴールする山岳個人タイムトライアルは、マリア・ローザの力を示す舞台になった。
チーム力とは関係なく、選手個人の力が試されるため“真実のレース”とも言われるタイムトライアルで、キンタナよりも9分前にスタートした地元イタリアのファビオ・アルー(アスタナ)は、誰よりも速くチーマ・グラッパを駆け上がり、暫定トップだったドメニコ・ポッゾビーボ(AG2R)よりも2分以上速いベストタイムを叩き出した。
チームリーダーのビンチェンツォ・ニーバリが参加せず、ミケーレ・スカルポーニがエースナンバーを付けたジロで、23歳のアルーは自由に走るチャンスを得ていた。
アルーは後半に入ってから調子を上げ、モンテカンピオーネ峠にゴールした第15ステージで初区間優勝を果たし、その後もマリア・ローザ集団で攻撃的な走りを見せていた。そしてこの日の山岳タイムトライアルで、彼はついに総合3位の座を獲得したのだ。
後発のキンタナは、このイタリアの新星が出した好タイムと比較されることになった。前半でそのタイム差は拮抗していたが、残り1kmではキンタナが4秒優っていた。そしてマリア・ローザは最後のスパートをかけ、アルーよりも17秒速くゴールし、今大会2度目の区間優勝を上げた。
キンタナのタイムはウランよりも1分26秒速く、総合でのタイム差は3分7秒にまで開いた。最終日前日のゾンコラン峠区間を前に、キンタナの総合優勝は確実になった。
たった24歳でジロを制したキンタナは、新人賞のマリア・ビアンカも獲得した。そして過去50年間の記録として、初出場で総合優勝した5人目の選手にもなった。次はツールでの優勝が期待されるが、チームの方針で今年は参加しないことが決まっているようだ。
■優勝したキンタナのコメント「表彰式は感動的だった。この勝利はチームに捧げる。彼らがいなければ、ボクはけっして勝者としてトリエステには到着できなかった。チームというのは、全員だ。マッサージャーもメカニックも、プレス担当も、ボクの近くにいてくれたみんなだ。コロンビアからボクをサポートするためにやって来た家族と、コロンビアの同胞にも捧げたい。彼らがこの勝利を満喫してくれていることを願うよ」
第97回ジロ・デ・イタリア 個人総合最終成績
1 ナイロ・キンタナ(モビスター/コロンビア)88時間14分32秒
2 リゴベルト・ウラン(オメガファルマ・クイックステップ/コロンビア)+2分58秒
3 ファビオ・アルー(アスタナ/イタリア)+4分04秒
4 ピエール・ロラン(ヨーロッパカー/フランス)+5分46秒
5 ドメニコ・ポッゾビーボ(AG2R/イタリア)+6分32秒
6 ラファウ・マイカ(ティンコフ・サクソ/ポーランド)+7分04秒
7 ウィルコ・ケルデルマン(ベルキン/オランダ)+11分00秒
8 カデル・エヴァンス(BMC/オーストラリア)+11分51秒
9 ライダー・ヘシェダール(ガーミン・シャープ/カナダ)+13分35秒
10 ロベルト・キーゼルロブスキー(トレック/クロアチア)+15分49秒
[各賞]
■マリア・ロッサ(ポイント賞):ナセル・ブアニ(FDJ/フランス)
■マリア・アッズーラ(山岳賞):ジュリアン・アレドンド(トレック/コロンビア)
■マリア・ビアンカ(新人賞):ナイロ・キンタナ(モビスター/コロンビア)
■チーム成績(時間):AG2R・ラモンディアル(フランス)
■チーム成績(ポイント):オメガファルマ・クイックステップサイクリングチーム(ベルギー)