冬ライドは''スポーツアイランド沖縄''で!
オフシーズンの沖縄で、気楽にサイクリング
東京から空路2時間半、飛行機が高度を下げて沖縄の玄関口、那覇空港に降りてゆくと眼下に青い海が広がる。
島の周囲には珊瑚礁によるラグーンがあり、内側の海はエメラルドグリーンだ。
機内アナウンスが、「みなさま、暖かい沖縄での休日をお楽しみください」と決まり文句を告げた。
僕は今回、イベント取材とは関係なしに沖縄に来た。
オフシーズンの沖縄を、気楽に走ってみたかったからだ。
沖縄県サイクリング協会のベテランインストラクター、30年前にヤマト(沖縄言葉で、本州)から移住した長谷川彰さんが道案内をしてくれた。
御年70歳、フルマラソンも完走する健脚自慢のオジィさ。
1日目は知念岬、世界遺産に登録された斎場御嶽、ニライカナイ橋、八風畑のカフェといった立寄りスポットを巡った。
走った日はあいにく小雨混じりの雲天だが、レーパンからさらした脚はちっとも寒くない。
海は乳白色の水平線で視界はよくないが、自転車乗りとしては岬があれば突端を目指すのが性(さが)。
知念岬の展望台まで遊歩道でアクセスすると「神の島」と呼ばれる久高島が6km先に浮かんでいた。
「久高島ではここ数年は巫女になる女性がいなくて、御ウタキ嶽の神事ができないんだよー」と、残念そうにオジィ。
御嶽は琉球の信仰における「聖地」を意味し、そこで巫女が人々の家内安全、安産、豊作などを祈祷するのだ。
琉球文化の伝統を知る自転車旅
オジィが心を痛めていた神事「イザイホー」は、巫女が祭祀集団の神女として就任する前に4日間の儀式が必須という。
ヤマトではアルバイト巫女がいる現代に、なんと久高島では今でも初日の夕刻から洗い髪、白衣の主婦が他界とみなされるイザイヤマに3日3晩こもらなければ祖霊の依り代の資格者になれない。
しかし現実は、それをする女性がいない。だがイザイホーは琉球紀元で連綿と伝承されてきた神事の厳格さを尊び、神事が途切れても巫女の資格をしっかり問う。
ちなみに、沖縄を走ると家型の墓をよく見かける。沖縄の人たちは春に一族が墓に集まって会食したり踊ったりの墓前ピクニック「シーミー」で先祖を供養するそうだ。
オジィとのサイクリングで琉球文化の伝統と深さを知る。
そして斎場御嶽へ。2000年に世界遺産に登録された後、年間43万人が訪れることになり、見学の規制が多くなった。
以前はできた岩から滴り落ちる聖水を飲むことや、祈りの場であるウガンシュへの立ち入りも禁止。
「今日も数組の祈祷のグループが巫女さんと来ましたよ」と案内ボランティアの女性が教えてくれた。
おお、ウタキ信仰健在なり!
さて、ニライカナイ橋を上がって、サイクリングロード経由で「八風畑」に。ここは黒糖工房を併設しているのでエントランスには甘く香ばしいが空気が漂っていた。
美ら島エリアで深呼吸
写真上:高台から太平洋を一望できるオジィのオススメスポット。「年越しランではここで海からの日の出を拝むんだよ。そりゃみごとさー」
2日目は東シナ海に面した沖縄中北部を案内してもらった。
美ら島オキナワセンチュリーランの裏方としてオジィが活躍したエリアで、スイーツコース(60km)のエイドステーションになったリ、ゾートホテルに立ち寄ってお茶をしたり、万座毛の断崖にある「象の鼻」を見物。
オジィと走れば裏道、路地を縫っての近道だ。ローカルな光景に出会えるのも、イベントでは味わえない楽しさ!
走りながら、沖縄のシーサイドを走るなら、特定の観光地を訪れる必要はないと感じた。
万座毛に向かうころには空が明るくなり、太陽と青空が現れた。すると、東シナ海の遠浅がダークな海から透明なエメラルドグレーンに衣装替え。
自転車を押し歩きでプライベートビーチを散歩しながら、暖かい潮風とさざ波の寄せる音に包まれてオジィと深呼吸。
時間が止まったみたいで、いつまでも佇たたずんでいたかった。
万座毛で象の鼻見物をした後のランチは、以前からクルマの移動で走って気になっていたマリブビーチにある「イチローに食べさせたかったカレー」だ。
気になっていた店を訪ねるなんて芸当も、こういう気まま旅だからできる。
「場所がわかっているなら、自分のペースで行っていいから」とオジィに言われ、単独タイムトライアルを決め込んだ。
80回転キープで脚を回す。集中して走っていると、細かいことはどうでもよくなる。
クルマの流れがやけに遅く感じるのは、追い風だからか。
視界の端に入る海や南洋系の樹木や原色の花。
信号も少なく、適度な起伏が連続する道で、僕の心肺と筋肉はトリップしていた。
■写真右・上:ニライカナイ橋は沖縄南部の観光名所。全長1.2km、高低差800mと眺望バツグン! ニライカナイは、海の向こうにある理想郷の意
■写真右・中:「イチロー選手にも食べてもらいたいカレー」600円。食感を工夫して肉を省き、玄米&ひじきの炊き込みご飯を合わせている。シチュー(600円)は里芋で肉の食感を演出、そのほかにも健康的なメニューがそろう。
マリブハウス(沖縄県国頭郡恩納村山田3086ー1 TEL098-965-5496)
営業時間:12:00 - 21:00
定休日:なし
■写真右・下:那覇市久米の中国式庭園「福州園」は入場無料。琉球は12世紀から東アジアや中国大陸と交流し、その時代に石垣で囲んだ城(グスク)が築かれた。やがて14世紀になると中国(明)や東南アジアとヤマトとの交易中継地として栄えた。園内は明・隠・華の三部空間で構成され、四季の草花や樹木と水で演出。琉球時代の息吹が漂う。
■写真下・左:八風畑(沖縄県南城市知念字知念1319 TEL098・948・3525)
営業/11:00~19:00(冬季18:00)
定休/なし
カフェのエントランスに鎮座する「シーサー」。つがいの獅子シーサーを道路に向けて飾るとそれが魔除けになる。沖縄では、事件、事故、病気、ケガなどの不幸は「マジムン(魔物)」の仕業だと信じられていて、厄除けとしてシーサーを飾る文化が根付いている
■写真下・右:恩納村の道の駅「なかゆくい市場」には地元産のグルメがいっぱい。でも注目は沖縄菓子PAOのネーネーが詰め合わせパックに入れていた「サングヮー」。葉っぱを束ねたこれを食べ物に添えると、マジムンが人間に憑依して体調を悪くしたり、食べ物に憑いて腐らせたりするのを防ぐとか。魔除けの一種?
仲間と沖縄合宿のススメ
沖縄(那覇)の年間平均気温は23度。いちばん寒い1月でも17度Cある。
高橋尚子さんの言葉どおりにオフシーズンの沖縄はその温暖な気候ゆえに、カラダが動かしやすい。
さらに、信号が少なく、適度な勾配の地形もある。
旅行会社や航空各社の事前早割プランを利用すれば、東京や大阪などの主要都市からの航空運賃&ホテル割安パック商品がたく
さんある。
時期や地域により差はあるが、僕が11月中旬に出かけたときは3泊4日で6~7万円。
本州内を移動しての旅行費用と比べて、じつに割安感がある。離島プランだとリゾート気分も高まるのでカップルで行くにはおススメだ。
クリスマスと正月の時期を外して3月まで。また、ゴールデンウイーク直前や、梅雨明け1週間は、いわゆる沖縄観光の閑散期。
この時期に仲間と示し合わせて休暇を取ればリーズナブルな沖縄のスポーツツーリズムを満喫できるはずだ。
例えば、2月23日(日)に開催される「おきなわECOスピリットライド&ウオークin南城市」は、本文に登場した久高島や首里城を訪ねるイベント。
3月16日(日)開催の「シュガーライド久米島」は最高のリゾート気分を満喫できる。
どちらも前泊や延泊で申し込めば、もっと深く沖縄を楽しめる。
スポーツコミッション沖縄(仮称)設立準備事務局
今、日本の各地にスポーツコミッション(SC)が誕生しつつある。先日のさいたまクリテリウムもその一環のイベントだ。<スポーツで人を動かし、人々を元気にする>というのがSCの趣旨で、スポーツをする人、施設、行政、地元などを結びつける。
都市が資源であるさいたま市は、フランスからツール・ド・フランスを招いて20万人の観客を熱狂させた。
沖縄では、温暖な気候と豊かな自然が資源となる。
新たな意気込みで沖縄は、県内の競技力向上、生涯スポーツの推進、そしてスポーツツーリズムの更なる
発展と、スポーツコンベンションで県外からもスポーツを愛好する人たちをさまざまなイベントで招き、喜ばせようとしている。
11月13日に開催された「スポーツコミッション沖縄(仮称)設立準備事務局」の記者会見に続くトークセッションに参加した高橋尚子さん(シドニー五輪マラソン金メダリスト)は、「冬も暖かい沖縄は合宿地として最高。
暖かいから柔らかい筋肉の状態でトレーニングできる。各地を走りましたが、晴れているとエメラルドグレーンの海がきれいだし、風も暖かい。
道路をランしているとクルマがちゃんと避けてくれる。
これは、ランをしている人に理解があるからで、だからこそ合宿するときは地元の人とのコミュニケーションも図ることが大事」と語っていた。