独自のビジネスモデルを持つドイツブランド「キャニオン」 アルティメットCF SLX試乗レポート!
独自規格により性能を追求
近年のヨーロッパの自転車メーカーにあって、最も急成長を遂げているのがドイツのキャニオンだ。
同社はインターネットを通じたユーザー直販のみという形態により、既存の販路で発生する中間コストを削減して、高品質のバイクを適正な価格で販売することを信条とする。
他社より手ごろな価格は急成長の要因のひとつだが、それは優れたドイツエンジニアリングを駆使した先端性と高品質な製品の上に成り立っている。
そんなキャニオンのロードバイクの中で現在、最高峰に位置するひとつが、「アルティメットCF SLX」である。2013年に登場したシリーズ4作目となるモデルで、エアロロードの「エアロード」とともにカチューシャなどのプロツアーチームで使用されている実績を持つ。
前作では丸断面のチューブを基調とするフレームワークだったが、今作は角断面の構成へと様変わりした。しかし基本となる設計概念は前作と変わりない。大きなボリュームのパワーラインでパワーロスを低減し、VCLSと呼ばれる細身のシートステー、BB側を大きく横扁平したMaximusシートチューブによって快適性を追求している。そしてヘッド剛性を高めるために、独自規格の1-1/4インチ径のコラムを採用したOne One Fourフォークも継承する。
昨今、多くのフレームメーカーが採用している上ワン1-1/8インチ、下ワン1-1/2インチの上下異径ではなく、上下とも1-1/4インチ径だ。そのフレーム重量は、前作よりも200g近く軽量化された790g、フロントフォークは320gという実戦的な軽量バイクに仕上げられている。
PF86のハンガーシェルをはじめ、最先端の仕様を網羅したパッケージング、リヤエンドをはじめとする細部の作り込みのよさも光る。そして、やはり驚かされるのはその価格だ。プロユースのトップモデルながら30万円を下回る値付けというのは、食指を動かされる大きな魅力といえるだろう。
アクロス製のヘッドパーツを使用することで、アンカーキットを省いて軽量化を追求。またフォークコラム径は1-1/4インチのため、リッチー製のステムはキャニオン専用品となる
横から見ると細身の印象を受けるフロントフォークだが、断面口径は十分な大きさで剛性感は高い。わずかにブレードを外側に湾曲させたデザインで衝撃吸収性を高めている
細身に仕上げられたVCLSシートステー。フレーム前三角への接合部は幅広に設計して、トップ&シートチューブと一体感を強めたデザインとすることでねじれ剛性を高める
角断面のダウンチューブとチェーンステーの接合部は、PF86のシェル幅目一杯に広げて剛性を高める。シートステーは横扁平の薄型設計でペダリングの快適性をバランスする
前作でもチェーンステーはボリュームのあるデザインだったが、今作では全体的に角断面が採用され断面口径も大きくなり、パワーラインはさらに強化されたといえるだろう
レース志向の強いバイク
前作までは、シンプルだけれど少々野暮ったさもあったアルティメットCF SLXだが、今作は角断面のチューブの多用により、そのスタイリングはシャープになってかなり洗練されている。先に投入されたエアロード以降、キャニオンのデザインはかなりスマートなった感がある。
走りの方はというと、剛性感と軽快さが洗練されている。よりパリッとした硬質さを得て、それに伴い軽快さが増した。パワーラインの断面口径の大きさに加え、チューブの肉厚も790gのフレームとしては厚めで、この効果によってペダリングはダイレクト感が強い。
フレームの軽量性と高い剛性を生かして出足は軽い。さらにトルクをかけてスピードに乗せるには、その剛性感ゆえに、ある程度踏みを意識したペダリングをすると力強く進む。たわみを生かすというより、高剛性でパワーロスを抑えて走らせるモデルだ。
したがって少々脚に負担を強いる面もあるが、とはいえ”脚当たり”の悪いレベルには至らない。ただ上りや平地の高速巡航など、ある程度パワーをかけ続ける走りをすると推進力は高いので、知らず知らずに踏まされてしまい、気が付くと脚にきていたこともあるのは、やはりフレームの硬さゆえだろう。乗り心地は安楽ではないが、不快なレベルは十分カットしてくれる。
直進性に不安はないがハンドリングは軽めだ。これらの性格からしても運動性能は高く、平地から上りまで高レベルに対応できるレース色の強いモデルといえる。
普段からエアロードを乗る私としては、このバイクはしなりを生かして走らせる性格なので、アルティメットCF SLXとの違いに驚かされた。同じレースモデルでもアルティメットCF SLXは、スプリントや加速の切れで勝負するなど一気に高いパワーをかけられるライダーに最適で、一方のエアロードは高速巡航など、ある程度のパワーを持続させて走らせるのが得意なライダーに向くだろう。