カンチェッラーラがスプリントを制して3勝目! ツール・デ・フランドル 2014
若きフランドリアンたちの夢を打ち砕いたスパルタクス
ベルギー北部フランダース地方最大のクラシックレース、ツール・デ・フランドル(ロンド・バン・ブラーンデレン)で優勝することは、フランダースで生まれた選手にとって最大の夢だ。
今年、オウデナールドのゴールに到着した4人の先頭グループには、3人のフランドリアンがいた。2012年にオムロープ・ヘットニュースブラッドで優勝し、昨年のパリ~ルーベで2位になった25歳のセプ・バンマルク(ベルキン)。
昨年のオムロープ・ヘットニュースブラッドで2位になったオウデナールド出身のステイン・バンデンベルフ(オメガファルマ・クイックステップ)、そして、今年のフランドルで初めてチームのエースを任された28歳のグレッグ・バンアーベルマート(BMC)。
3人のうちの誰が優勝しても、フランドル初優勝の快挙になるはずだった。しかし、最後のゴールスプリントで、その夢をあっけなく打ち砕いたのは、ディフェンディングチャンピオンで33歳のファビアン・カンチェッラーラ(トレック)だった。
歓喜のガッツポーズでフィニッシュラインを通過した“スパルタクス”カンチェッラーラは、ゴールで待っていた妻と抱き合った。彼はその瞬間に、フランドル最多優勝記録の3勝を上げた2人目の外国人選手になったのだ。「ベルギーの人たちにはすまないと思ってるよ。最後は3人のベルギー選手と闘うことになったからね」と、彼がTVインタビューで謝ったコメントは、翌日の地元紙のタイトルにも使われていた。
落車が続出!
第98回大会は、雨天のブルージュを200人の選手がスタートした。しかし、雨に見舞われたのは序盤だけで、その後は暖かい曇り空の天候だった。40km地点で11人の逃げが成功し、最大で集団に6分差を付けて逃げ続けた。そこには米国のタイラー・フィニー(BMC)も含まれていた。
今年のフランドルは落車が相次いだ。このレースで2度優勝しているベルギーチャンピオンのステイン・デボルデル(トレック)は、2度落車に巻き込まれ、見せ場を作ることもできなかった。今季は落車のケガで選手の戦線離脱が相次いでいる地元のロット・ベリソルは、昨年3位になったユルフン・ルーランツ(ロット・ベリソル)が中盤の落車で負傷し、途中リタイアになってしまった。
序盤には、中央分離帯のなかでレースを観戦していた年配の女性にヨハン・バンスーメレン(ガーミン・シャープ)が衝突する事故が発生。2人はそのまま病院へ搬送された。バンスーメレンは軽傷だったが、観客の女性は重症を負ってしまった。
ゴールまで残り110kmのパッドストラートの石畳区間で発生した落車の影響で、集団は分裂した。先頭の11人は厳しい丘越えで次第に人数が減り、オウド・クワルモントを2度目に通過したときには、フィニー、ダリル・インペイ(オリカ・グリーンエッジ)、スティグ・ブルークス(ロット・ベリソル)の3人になっていた。しかし、残り44kmのコッペンベルフのふもとで、40人に満たない精鋭グループとのタイム差は30秒を切っていた。
ターイエンベルフでバンデンベルフ、ドリス・デベナインス(ジャイアント・シマノ)、エドワルド・ボアソンハーゲン(スカイ)がアタックし、精鋭グループはさらに絞りこまれた。ゴールまで残り34kmで、先頭は13人になっていた。
メンバーはオメガファルマ・クイックステップがトム・ボーネン、ズデネク・シュティバル、ニキ・テルプストラ、バンデンベルフの4人。ジャイアント・シマノがデベナインスとジョン・デゲンコルプの2人。それにペーテル・サガン(キャノンデール)、セバスティアン・ミナール(AG2R・ラモンディアル)、ビヨルン・ルークマンス(ワンティ・グループゴベール)、ボアソンハーゲン、カンチェッラーラ、バンマルク、バンアーベルマートだった。
ここから残り31kmで最初に仕掛けたのは、バンアーベルマートだった。すぐにバンデンベルフが追走し、先頭は2人になった。しかし、カンチェッラーラは慌てなかった。彼はこのレースが消耗戦であり、いかにエネルギーを最後までキープできるかが、鍵になるとわかっていた。優勝インタビューで彼ははっきりと、バンアーベルマートはそこでミスを犯したと指摘していた。
最後のオウド・クワルモントで、カンチェッラーラがアタックしたとき、彼に付いて行くことができたのはバンマルクだけだった。2人はパーテルベルフで先頭から遅れたバンデンベルフをとらえたあと、バンアーベルマートにも追いついた。ゴールまで残り4kmで4人は後続に35秒差を付けていた。バンデンベルフは残り3kmでアタックを試みたが、百戦錬磨のカンチェッラーラを出し抜くことはできなかった。
そしてゴール勝負でも、残り300メートルからスパートしたカンチェッラーラをベルギー勢は捉えることができなかった。「チームのために、そして妻のためにやり遂げた。ボクは花束をうちに持って帰ると約束したのさ」と、彼は語っていた。
終始レースをコントロールしながら、表彰台にすら上がれなかった地元ベルギーのオメガファルマ・クイックステップは、バンデンベルフが4位、テルプストラが6位、ボーネンが7位という結果に終わった。しかし、オメガファルマ・クイックステップで落車に巻き込まれたのはニコラス・マースだけで、大したケガもしなかった。
「大勢の選手が不運にも家に帰らなければならなかったのだから、ボクたちはまだ幸せだ。レースには勝てなかったけれど、最後は正しいことをしたと思う。無線が動いていたら、もっといい仕事ができたはずだが、クワルモントの上では無線の情報がなかったんだ…」と、ボーネンはレースを振り返っている。
初優勝が期待されていたサガンは、意外にも今年は活躍の場が見せられず、カンチェッラーラよりも1分25秒遅れの16位という平凡な成績で終わっている
「がっかりな成績なのにコメントするのは難しいよ。レースの鍵となる場面で、ボクは望んていたようなパフォーマンスができなかった。カンチェッラーラとバンマルクがアタックしたときに、付いていけるほど激しく走ることができなかった。ボクは好機を逸した。他に理由はないよ」と、サガンは語っている。
第98回ツール・デ・フランドル結果
1 ファビアン・カンチェッラーラ(トレック/スイス)6時間15分18秒
2 グレッグ・バンアーベルマート(BMC/ベルギー)
3 セプ・バンマルク(ベルキン/ベルギー)
4 ステイン・バンデンベルフ(オメガファルマ・クイックステップ/ベルギー)
5 アレクサンダー・クリストフ(カチューシャ/ノルウエー)+8秒
6 ニキ・テルプストラ(オメガファルマ・クイックステップ/オランダ)+18秒
7 トム・ボーネン(オメガファルマ・クイックステップ/ベルギー)+35秒
8 ゲラント・トーマス(スカイ/英国)+37秒
9 ビヨルン・ルークマンス(ワンティ・グループゴベール/ベルギー)+41秒
10 セバスティアン・ラングベルト(ガーミン・シャープ/オランダ)+43秒
[ツール・デ・フランドル 最多優勝記録]
●アヒエル・ビュイス(ベルギー/1940、1941、1943)
●フィオレンゾ・マーニ(イタリア/1949、1950、1951)
●エリック・レーマン(ベルギー/1970、1972、1973)
●ヨハン・ミュセーウ(ベルギー/1993、1995、1998)
●トム・ボーネン(ベルギー/2005、2006、2012)
●ファビアン・カンチェッラーラ(スイス/2010、2013、2014)
フランドルこぼれ話
■イタリアのマルコ・バンディエラ(アンドロニジョカットリ・ベネズエラ)は、クリストフの名前が入ったベルギー国旗カラーのリストバンドを両手にはめてフランドルを完走した。「ホダールトは去年チームメートだったからね…」と、彼は言っていた
■2度の落車に見舞われながら完走を果たしたベルギーチャンピオンのステイン・デボルデル(トレック)。負傷した左ヒジはひどく腫れ上がっていた…
■オウデナールドでレースを観戦していたおじいちゃん。誰のファンなのは一目瞭然!
■ブルージュのスタートでは、イタリアのアンドレア・タフィが紹介されていた。彼は前日に開催されたツーリストレースに参加したのだそうだ。ちなみに今年のツーリストレースには、1万6千人が参加していた!
■フランドルに初出場したMTN・クベカの南アフリカ人、ソンゲゾ・ジム。実は彼の名前、出走リストではジム・ソンゲゾになっていたのだが、司会のミッシェル・ウイツ氏が「どっちが名字なの?」と、彼に質問したところ、ジムが名字なのだと答えていた。「よく間違えられるけど、気にしないよ」と、笑っていた