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日本初開催!FOX Cannondale 乗鞍エンデューロ

ダウンヒル野郎は「これはクロカンだ!」と叫んだ。クロカニストたちは「これはまさしくダウンヒル」とボヤく。いやいや、これこそが、MTB本来の楽しさを存分に体感できる『エンデューロ レース』なのである。


text●中村パンソニ、photo●岩崎竜太

上りあり、下りあり、ジャンプあり!新世代MTBレース、エンデューロレース日本初開催

 

3年ほど前からヨーロッパを中心に始まり、いまや世界MTBファンを熱狂の渦に巻き込んでいる『エンデューロ』。

現在の日本では、エンデューロという言葉は、ロードバイクなども含まれる『耐久レース』という意味合いで使われているが、グローバルスタンダードでは、「上りも含む下りメインのMTBステージレース」を指す言葉となっている。

 

その言葉やエンデューロ用機材なるものが先行して日本に紹介され続けてきたが、じつは誰もその実態を知らなかったのが現状だ。そんななか日本で初めてのエンデューロレースが、2014年8月30~31日、長野県の乗鞍高原にて開催された。その名も『FOX Cannondale 乗鞍エンデューロ』。

 

つい頭デッカチになりがちな我々が、つい言葉として使ってきた「エンデューロ」。その実際はどんなものなのか。何事も体感しないとわからない、体デッカチな日本マウンテンバイカーが乗鞍に集結、誰も知らない『エンデューロ』レースを2日間、走りきった。

 

【写真右】「Cannondaleステージ」を走る、チャンピオンクラス優勝の永田隼也(Aki factory)。今年より、世界エンデューロシリーズ(EWS)を中心に活躍する、日本唯一の世界エンデューロライダーだ。


上りでは脚を使い、下りでは技術を使う

 

エンデューロのレースフォーマットは、クルマでのラリーのような形態だと考えるとわかりやすい。

 

ローカルルールで詳細は変わるが、長さ3分ほどの計測ダウンヒル・ステージ=『SS』がいくつか用意され、そのスタートまでの『リエゾン』と呼ばれる区間は、自走でペダルを漕いで上っていく。基本リフトやゴンドラなどは使わない。タイムを測るのは、SSのみで、その合計タイムで順位が決まる。

 

ダウンヒル・ステージに地脚が問われるセクションがある

 

そのダウンヒル・ステージの中にも、上り返しといった、地脚が問われるセクションが設けられていることが多い。そのため、上り嫌いなダウンヒル野郎はリエゾンや上り返しでヘタレ、下り技術の乏しいクロカニストは、バームやジャンプなどのセクションでスピードに乗り切れず失速する。

 

また、それぞれのステージを走るための装備はすべてライダーが運ぶことになる。

例えばこのレースの第1ステージ「FOXステージ」スタートまでのリエゾンは、例の乗鞍ヒルクライムコースを25分ほど上るのだが、そのための水や、パンクなどトラブルに備えた装備はすべて自分持ちだ。フィードやエイドステーションなどという優しい設備はここにはない。あなたは今、山の中をマウンテンバイクで走っているからである。

 
【写真右】「Cannondaleステージ」の途中にある上り返しが、一番のタイムを稼げるポイント。「神様、今日だけボクにめげない心をください!」と祈り続けていた。
 

2種類のヘルメットを抱えて走る

 

例えばヘルメット。下りでは安全のためにフルフェイスをかぶりたいが、上りではフルフェイスでは暑すぎる、というライダーは、両方のヘルメットを抱えて走る。絶対に転ばないという気概(希望)と共に半フェイスのメットで走るか、アプローチの上りでは絶対に汗をかかないという自制心と共に、すべてにフルフェイスで臨むか。At your own risk。自分の判断が、すべて自分の結果として現れる。

 
【写真下】他のレースでは見られない光景。フルフェイスのメットを担いで、半フェイスのメットを被って上るという。
 

 

このエンデューロで強いのは、スキルとフィジカルとノウハウを併せ持つ、総合的なライディング能力を備えたマウンテンバイカーである。

もっと言えば、いわゆる里山をガシガシ走りまくる、真の山岳自転車遊び人である。レースでのみ強いスペシャリストは、エンデューロでは、遊び人の引き立て役になる可能性がある。

 
【写真下】左:総合順位5位の三上和志(cycleclub3UP)と、右:6位の松本駿(TEAM SCOTT)の走り。上りも下りも、山を遊びつくすマウンテンバイカーたちである。

みんなで走って友達を作ろう

 

このようなレースフォーマットなのだが、実際に走ると、タイム計測のステージ以外はかなりユルユルだ。リエゾンを含めたスタートタイムは一人ひとり異なるが、今回のレースはステージスタートまでの平均時速は6kmに設定され、後ろのライダーにガンガン追い越されたりもする。

リエゾンはまったく順位には関係ないので、仲間内で一緒に上りを走ったり、スタート前にプロテクターをつけたりなどの準備をするためにリエゾンを速く走り切ったり、スタート前に心拍を落とさないために、SSスタート直前に到着するよう、わざとゆっくりとリエゾンを走ったり。こんなファットバイクでも参加していた人もいた。

 

「とにかく楽しかった」

キャノンデールのマシンに乗っていた人を対象にした「キャノンデール クラス」の特別表彰も行われた。優勝の竹田佳行(kei's power!)さんは、山を走るのが大好きなショップ店長。マスターズ40クラスでも見事3位を獲得。

 

全体的には、レースというより、アミューズメントパークで遊んでいる、という感覚だった。

 

世界エンデューロシリーズの覇者、ジェローム・クレメンツはこう語っている。「ボクはエンデューロでのチャンピオンを狙っているけれど、本当は、全体で何位、というより、仲間たちとのタイム比べ、という遊びなんだね。あいつとオレとは、どれぐらいタイムが違うのか。高速セクションでは負けたけど、テクニカルセクションでは勝ったよ、みたいな」

 
ジェロームの言うとおり、参加者の口からは「とにかく楽しかった」というコメントばかりが聞こえてきた。
土曜日の試走では大雨が降って、濡れネズミにもなったのだが、それも含めてマウンテンバイキング。結果ではなく楽しさを追求する、仲間と走るMTBライドの楽しさを、イベントというすべてを委ねられる空間で味わえた2日間であった。
 表彰式が終わるまで、参加者のほとんどが帰ることがなかった、というのも、それを証明する一つの事実ではないだろうか。
 
生涯マウンテンバイカーを自認する中村パンソニもしっかり参加。結果、一番の激戦区であったオーバー40歳おっさんクラスで12位。
 
レース出場なんて何年ぶりか、というぐらいで雨対策も装備もデタラメではあったのだが、まあ総合順位の数値はともかく、仲間たちや密やかなライバルと、どれぐらい差があったのかを確かめられたのが良かったし、楽しかったよ。
 
今回のリザルトは、こちら http://ned.dynoco.jp

最後に、今回のFOX Cannondale 乗鞍エンデューロを実現させた立役者、MTBガイドツアーでお馴染みNorth Star Adventureのボス、ヤマケンこと山口謙さんの言葉を、読んでおいて欲しい。

続編・日本初のエンデューロレースにどんな装備で臨んだか?   http://www.cyclesports.jp/articles/detail.php?id=577




 

問い合わせ先

FOX Cannondale 乗鞍エンデューロ
http://ned.dynoco.jp