ピナレロ・プリンス 試乗レポート
純度95%のドグマ65.1が30万円台で登場
1998年に登場した宝石のように美しいアルミカーボンバックフレーム、初代プリンスはピナレロを一気にトップブランドへと押し上げた名機。2008年にデビューしたプリンスカーボンは、それまで金属フレームにこだわっていたピナレロがカーボン時代に転じたことを示したモデル。
「プリンス」とは、ピナレロ社の節目に登場する重要な車名だったのだ。 しかし3代目のプリンスはちょっと違う。2014シーズンにおける旗艦モデル、ドグマ ・1のフレーム形状をそのまま受け継ぎ、カーボンのグレードをやや落として再出発するのだ。
といっても、使われるのは超高弾性の tカーボン。旗艦モデルではなくなったが、プリンスはあくまでもレベルの高い走りを前提としたレーシングフレームなのである。
もちろんフレームすべてがtカーボンで出来ているわけではないが、数字だけ見れば2010年のトップモデル、ドグマ ・ 1と同等だ。
フレームの金型を共有(または 流用)し、カーボンのグレードを変えて次々とニューモデルを送り出すーー近年のピナレロの常とう手段だが、この「使い慣れた形状に使い慣れたカーボン素材を組み合わせる」という設計手法は、コストを抑えつつ今まで蓄積してきたノウハウを最大限に生かせるという利点がある。
tカーボンを使ったピナレロが30万円台で買えるようになるとは驚きだが、重要なのは価格でも素材でもない。この3代目が、伝統あるプリンスの名を冠するにふさわしい走りを見せてくれるかどうかだ。
PINARELLO PRINCE
ピナレロ・プリンス
フレームセット価格/36万5000円(税抜)
シマノ・アルテグラ6800完成車価格/46万5000円(税抜)
カンパニョーロ・コーラス完成車価格/57万5000円(税抜)
フレーム●カーボン
フォーク●カーボン
コンポーネント●カンパニョーロ・スーパーレコード11
ホイール●カンパニョーロ・シャマルウルトラWO
タイヤ●コンチネンタル・ピナレロスペシャルエディション700×23C
ハンドルバー●モスト・ XYLONアルミニウム6061
ステム●モスト・タイガーウルトラ
サドル●セライタリア(モスト)・ボブキャット
シートポスト●オリジナル
試乗車実測量●6.42kg(46.5SLサイズ、ペダルなし)
サイズ●44SL、46.5SL、50、51.5、53、54、 55、56、57.5、59.5、62
※57.5以上は、受注生産になります
カラー●ブラックオレンジフルオ(919)、ブラックイエ ローフルオ(920)、ホワイトブラック(920)
フレーム形状は左右非対称設計のドグマ65.1とまったく同じ。何度も湾曲する前後フォーク、エアロフィンを持つフロントフォーク、フレーム各部に刻まれる強化リブが特徴
他社に先駆けて高弾性カーボンを取り入れてきたピナレロは、60tカーボンを早くもセカンドモデルに使う。素材で性能を測ることはできないが、新型プリンスは期待どおり
シートステー、フロントフォーク、トップチューブ、チェーンステーなどは左右非対称。ドライブトレーンが右側にある自転車の左右バランスを是正するのが目的
BBはオーソドックスなスレッド式を採用する。インテグラルBBがハヤッている現在だが、ピナレロはメンテナンス性などを理由に「スレッドBB回帰」の流れを強めている
ピナレロはケーブルストッパーを交換することで電動コンポと機械式コンポの両方に対 応するシステム「シンク2」を採用。すべてのワイヤ類はフレームに内蔵される
安井行生の試乗レポート
素材も形状もガラリと変え、 新たな境地を開拓したドグマF8。これまでのリソースをフル活用し、従来の世界観を色濃く受け継ぐ3代目プリンス。対照的な成り立ちを持つ2台は、走りの方向性も異なっていた。
新型プリンスは、 プリンスカーボン~歴代ドグマカーボンの乗り味、いわゆる「ピナレロらしい走り」をそのまま継承している。 しなやかさを生かして坂でヒラヒラと舞うタイプではないが、剛性志向のレース用フレームとしてはかなりの高みに到達していると言っていい。
ただ硬いだけのフレームではなく、踏んだ瞬間にスルッと反応する俊敏性も持ち合わせている。性能的なネガは見つからない。プリンスの名に恥じない出来である。
同条件での比較ができていないので確かなことは言えないが、ドグマ65.1の超絶高バランス感はやや薄まっているだろうか。
とはいえ「これドグマです」と渡されたら気づかないかもしれない。広報資料に「パフォーマンスはドグマ65.1とほぼ同等です」と書かれているのを見て、んなワケあるかいと鼻で笑っていたが、結構マジだった。
純度95 %のドグマ65.1が30万円台で買えるという感じ。 既存の形状と素材を使って手がたくレベル高くまとめられるピナレロのセカンドグレードは、じつは狙い目なのだ。
そういえば同じような成り立ちを持つFP6やパリ50-1.5も よく走るバイクだった。3代目のプリンスはブランドを率いる旗手ではなくなったが、 うま味をたっぷりと含んだ魅力的な存在なのである。