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キャニオンの開発者、選手にインタビュー。エアロードCF SLXとは vol.2

近年、急成長を遂げて世界中のサイクリストから注目されるドイツのキャニオン。同社は12月1日よりキャニオンジャパンを開設することとなり、その発表に合わせてドイツ本国よりスタッフが来日。これを機にキャニオンの2015年モデルで注目の1台となるエアロードCF SLXの特徴を、同社のバイクを4台乗り継いだフリーライターの吉本司が、開発者とJ・ロドリゲス(カチューシャ)の話しを交えて紹介する。
 
text:吉本司 photo:吉田悠太

キャニオン開発者マイケル・アドマイト氏に聞く

 
吉本(以下Y):新作はどの部分に重点を置いて進化をさせたのですか?

アドマイト(以下A):一番重要にして難しかったのは、スピードマックスとアルティメットCF SLXが持つ性能(エアロダイナミクスと軽量性)をいかに高い次元で融合させるかでした。しかも旧型はホアキン・ロドリゲスも(以下プリート)その性能に満足していたし、レースでの実績も高かったので改良すること自体が難しかったのです。プリートのような小柄なライダーには問題とされていませんでしたが、スプリンターのように大きなパワーを出すライダー、体格の大きなライダーでは、とくにヘッドチューブの剛性が足りないという指摘もありました。エアロダイナミクスを高めるとともに、より剛性を高くして、同時にリクエストのあった軽量化についても開発のテーマとしました。
 
Y:私は前作のエアロードCFに乗っていたのですが、Lサイズということで剛性が少し足りないように感じました。

A:新型のダウンチューブはさらに太く、トップチューブは横幅を広げています。そしてステアリングコラムは「ワン・ワン・フォー」タイプ(上下のヘッドベアリングを1-1/4インチ規格に設計。ロードではキャニオンが先べんをつけた規格でアルティメットCF SLXにも採用)、専用設計のハンドルセット、コックピットCFを新たに採用して前作からサイズアップを図っています。これによりバイクのコックピット周りの(ハンドル、ヘッド、フォーク部)の剛性を高めています。スプリントなど加速をする場合は、フレームの横剛性よりもコックピット周りの剛性を高めることが大切なんです。特にスプリンターには必要なことです。
 
Y:前作よりもどれくらい剛性レベルは上がっているのですか?

A:前作と比べて10~11%剛性を上げることに成功しています。ハンガー部の剛性はアルティメットCF SLXと同様のレベルを確保しました。ヘッド部はそれよりも少し落ちますが(エアロ形状を採用するため。100N/mm)十分なレベルです。加速にはBB周りの剛性もまた大きな要素となりますが、エアロードCF SLXの70 N/mmというレベルは、ツアー誌(製品テストでもっとも評価の高いドイツのロードバイク専門誌)のテストで良好とされる60 N/mm以上をクリアしているので、十分な値と言えるでしょう。
 
Y:コックピットCFはエアロ性能だけでなく、剛性面でも効果があるんですね。

A:加速のためにねじれ剛性は高いレベルを確保したいので、ステム部分の剛性は高めています。その一方で乗り心地を左右する振動吸収性も確保しなければならないので、ドロップ部は必要以上に剛性を高めることはしていません。
 
Y:エアロ効果はどれくらいあるのでしょう? 

A:時速45kmで走った場合、5ワットほど出力を抑えることができます。ノーマルのハンドルとエアロコックピットを装備した両方のバイクを前側から見れば違いが明らかです。扁平形状に成形されたハンドルバーやステムもそうですが、バー部分に設けられたバーテープとの段差をなくすための形状、一般的なモデルよりもハンドルバーよりも10mm幅を狭めたハンドルバー、エアロ形状の25mm分のヘッドスペーサーも含めて、空気抵抗の削減に貢献しています。
 
 
Y:なぜコックピットCFのドロップ部はトラディショナルな形状で、ドロップも深いのですか?

A:ドロップ部は一見するとクラシックな形状にも見えますが、全くのクラシックタイプではありません。深いドロップを採用した理由は、このバイクはエアロダイナミクスを意識したモデルなので、ライディングポジションについてもその効果を高められる仕様としました。遠く、低いポジション、さらにバーの幅も狭く設計することで、実際の走行でライダーが総合的に速さを追求できるように、バイク全体の性能を追求して開発しました。実際にこの形状にはエアロードにとってはベストですが、アルティメットCF SLXには、現在のトレンドとなっているコンパクトシェイプを装備して、エアロードCF SLXよりもリラックスしたポジションを確保できるようになっています(フレームのリーチ&スタック値もエアロードCF SLXと異なる)。
 
Y:スピードマックスでは自社企画のブレーキを装備しましたが、なぜ今回はシマノのダイレクトマウント規格を前後に使用したのですか?

A:エアロダイナミクスを考えるとブレーキキャリパーは、フレームに一体化させるのが理想です。スピードマックスはフレームに一体化した自社企画のブレーキを採用しました。しかしエアロードCF SLXでは、より高い安全性と性能(ロードレースの複雑なコースやライディングを考慮して)を考えてシマノ製としました。シマノの製品は非常に優れているので、それを超えられるような製品が自社で開発できない以上、専用ブレーキは搭載できません。ダイレクトマウント式は、一般的なキャリパーブレーキと比べてフレームへの取り付け位置を近づけられるので、出力にして1.3W分に相当する空気抵抗の削減が可能です。

リヤブレーキをチェーンステー側に装備しなかった理由は、プロチームのメカニックからの要望によるメンテナンス性の向上もありますが、空気抵抗の面でもアドバンテージがあります。例えばチェーンステー下にリヤブレーキを装備したトレックのマドンシリーズは、一見すると空気抵抗が小さいように思えますが、実際に風洞施設で計測すると4.7W分のロスがあるのです。ちなみにノーマルタイプ(シートステーに装備)のキャリパーは2.7W分です。バイクを前から見ると、エアロードCF SLXのリヤブレーキは存在を確認することができません。しかしながらマドンはブレーキアーチが見えます。
 
 
Y:フレームセットを機械式変速、電動式変速、それぞれを用意しているのはなぜですか。兼用の方が合理的だし、ユーザーメリットもあるのでは?

A:選択と集中。余計なものを付けないことです。エアロードCF SLXハイエンドバイクなので、それぞれの用途に特化したものを作る必要があります。最初から電動コンポを使うユーザーにとっては、ダウンチューブに機械式のアウターストッパーがあることは邪魔でしかありません。メーカーにとってコストはかかりますが、その方がユーザーにとってもいいことだと思います。
 
Y:シート角が全て73.5度に統一されているが、手抜きではないのか?

A:フレームの設計にあたり、我々はプロツアーチームのライダーのサドル後退量を計測しました。プリートのような小柄なライダーから、大きなライダーまで全てです。そこから導かれた多くのライダーをカバーするに最も効率的な数値が73.5度でした。それは手抜きでなく効率性を重視した結果なのです。シートポストも後退幅の異なる2種類(0~15mm/15~30mm)用意することで、後退幅の異なるライダーにも十分に対応できる設計です。
 

“プリート” J・ロドリゲスに聞くエアロードCF SLXの魅力

 
今回のプレゼンテーションには、キャニオンがバイクを供給するプロツアーチーム、カチューシャのエース選手であり、アルティメットCF SLXの開発にも関わったホアキン・ロドリゲスも来日した。このバイクを紹介する今回のページは、彼のバイクに対する印象で締めくくることにしよう。
 
Y:前作からエアロードを好んで乗っている印象ですが、何か理由はあるのでしょうか。
 
ホアキン・ロドリゲス(以下J):トップチューブの長いエアロードのジオメトリーは、僕に合っているんだ。重量は軽いに超したことはないけど、もともと僕はあまりこだわらないのもあるし、結局UCIのルールで6.8kgにしないといけないから。同じ重さになるのだったらエアロ効果が高いバイクに乗った方がいいというのもあるね。
 
Y:新型のエアロードの気に入っている点、開発に際してどんな要求をしましたか? 

J:前作から好きだったけど、新型になってさらに良くなったよね。エアロ、軽さ、剛性などプロ選手が求める性能が全体的に良くなった。それに応えてくれたキャニオンはすばらしいよ。開発に際してはエアロ効果を高めて、軽量にしてくれと頼んだ。
 
Y:さっき軽さは気にしないと言ったけど、軽さを要求したのはなぜ? 

J:普段あまり使わない特別な機材を装備しても重くならない(6.8kgをオーバーしない)ような、調節のしやすい重量にとどめて欲しいというリクエストだね。いつでもできるだけ同じ重さのバイクに乗りたいからね。
 
Y:前作もそうですが、エアロードはフレーム剛性がアルティメットCF SLXよりも抑えた傾向にあります。フレームは硬いよりも柔らかい方が好きですか?

J:アルティメットCF SLXよりもエアロードの方が好きだ。エアロードはフレームが柔らかいというわけではないけれど、しなやかな感じがあるのが好きだね。しなやかさはあるけど反応が悪いということはまったくなくて、むしろしっかりとした推進力を得られる。僕みたいなタイプの選手(パンチャーの脚質)には加速のいいバイクが必要だからね。初めて新型のエアロードに乗ったときは、最初「うそだろ!」って思うぐらい進むように感じた。まるでTTバイクみたいだったよ。
 
Y:しなやかさがあるほうが、脚にストレスが少ないというのもエアロードを選んでいる理由ですか?

J:それはすごく感じるね。フレームの全体的な剛性のバランスが重要だけど、フレームが硬すぎると逆に反応が悪くなる。アタック性能でも瞬時にバイクが前に出ないし、速度を持続できない印象もある。新しいエアロードは下りでの反応性もいいしね。
 
 
Y:ほとんどのレースでエアロードに乗っているのですか?

J:僕はエアロードの走りが気に入っているので、チームの中でもバイクを変えない数少ない選手なんだ。今年のツールのパヴェのステージではバイクを変える選手も多かったけど、僕はこれで走ったよ。来年パヴェのステージでは違うバイクを試すかもしれないけど、とにかく今はこれが気に入っているよ。
 
Y:ハンドルがステム一体型だけどポジションは問題ないのですか?

J:幸運なことに最初から、いいフィーリングが得られたよ。キャニオンの側も、おそらく僕のことを考えた上での設計だと思う。ドロップ部分の形状も下クラシックに近いシェイプなのもすごくいいね。
 
Y:バイクでもっとも重視している性能はなんですか?

J:反応の良さだね。それは下りを含めてもね。ダンシングでも踏んでも反応がいいこと。あとはエアロダイナミクスに優れているのは、脚を温存することができるね。重量の軽さはこだわらないけど、回転部の動きの軽さは気になるよ。結局、走行中にフレームは動いていないけど、回転部は常に動いているわけだからね。
 
Y:エアロダイナミクス常に感じるものですか?

J:常にとても感じるよ。もちろんスピードが上がるにつれて強くなる。勝負を左右する時速45~50km以上のレベルになると、特に重要だよね。新しいエアロロードをツールの調整の練習で使ったけれど、そのときに一緒に走ったホナタン・カストロビエホ(モビスター所属)が「明らかにキミの自転車の方が下りで速いから、後ろに付くのが辛い」って言うのだ。それで一度止まって、2人で同じ場所から自然に下ってみたら、明らかにエアロードが先を行ってしまうんだ。しかも自分の方が体重は軽いのにね。もちろん平地での速さも感じたよ。
 
Y:キャリアも晩年だけど、これから勝ちたいレース、目標はありますか?

J:リエージュ~バストニュー~リエージュを勝ちたいね。もちろんグランツールで勝つことができればいいけど、これまで表彰台にも登っているので、自分自身として満足もしている。グランツールで勝てたらいいけど、僕のキャリアを考えたらリエージュの勝利が目標だね。
 
Y:このエアロードに乗って、リエージュを勝つことを期待しています!
J:すごくスペクタクルなレースだけど、チャンスはあると思っているよ。
 
 
 
 
 

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