TOJに参戦したNIPPO・ヴィーニファンティーニに密着!【南信州】
南信州で総合争いのバトル開戦!
第18回ツアー・オブ・ジャパン(アジアツアー2.1)の第4ステージとなる南信州ステージは、長野県飯田市で開催された。クイーンステージの富士山登坂を翌日に控え、総合を争う選手たちには重要なステージだ。
南信州ステージは序盤から10%を超える上り坂が続き、標高561メートルの山岳ポイントが4.9km地点にある1周12.2kmの周回コースで競われるが、今年は周回数が2周減って10周になった。
NIPPO・ヴィーニファンティーニはこの日、キャプテンのマッティア・ポッツォが山岳賞首位でレッドジャージを着ていたが、前日区間優勝したニコラス・マリーニもポイント賞総合2位でブルージャージを着用することになり、2人揃ってスタートラインの最前列に並んだ。
大勢の観客に見送られ、飯田駅前をスタートした集団は天竜川沿いをパレード走行して周回コースへ突入。すぐに内間康平(ブリヂストン・アンカー)がアタックして先行した。
集団からはさらに8人が飛び出し、残り9kmの上り坂で内間に追いついた。このアタックに、NIPPO・ヴィーニファンティーニは山本元喜が加わっていた。集団は総合首位のグリーンジャージを擁するスカイダイブがコントロールしていた。
9人は集団に30秒差を付けて残り8周に入り、最初の山岳ポイントはチュンカイ・フェン(ランプレ・メリダ)が先頭で通過。山本は4位に入った。しかし、この逃げは次の周回の上りで吸収されてしまった。
次に集団からアタックしたのはバレリオ・コンティ(ランプレ・メリダ)とディラン・ガードルストーン(ドラパック)で、2人は残り5周回でスカイダイブがコントロールする集団に4分近いタイム差を付けて逃げ続けた。
残り4周回に突入すると、集団の先頭をイランのピシュガマン・ジャイアントチームが引き始めてスピードが上がり、逃げとのタイム差は縮まっていった。
ここで集団からアタックがかかり、NIPPO・ヴィーニファンティーニの山本とアントニオ・ニバリも飛び出したが、残り3周の上りで吸収されてしまった。
先頭の2人には残り2周でイランのラヒーム・エマミ(ピシュガマン・ジャイアントチーム)が追いついたが、後続集団に捕まった。先頭は20人程度に絞られたが、NIPPO・ヴィーニファンティーニはそこにエースのディディエール・チャパッロがしっかり残っていた。
最後は集団ゴールスプリントになったが、残り150メートルで先頭を走っていたのはスプリントが不得意なはずのチャパッロだった。NIPPO・ヴィーニファンティーニの大門宏監督が前日に「残っても最後は勝てないと思うが、総合で次につなげるためにはゴール勝負に参加しなければならない。そこにいなければ総合の可能性はなくなる」と、話していた通り、チャパッロは最後のスプリントに加わっていた。
最後はスプリント力のある選手たちに抜かれ、チャパッロは区間9位でゴールしたが、チームとしては想定どおりの結果だった。42秒遅れでゴールした第2集団には山本の姿があったが、ニーバリは終盤で遅れ、2分31秒後にゴールした。
山岳賞ジャージを着てスタートしたポッツォは、南信州ステージでは1ポイントも稼ぐことはできなかったのだが、この日は彼のポイント数を上まわるような選手がなく、山岳賞総合首位の座を守ってもう一度表彰台へと上がった。
黒枝士揮とマリーニは20分15秒遅れでゴールし、厳しいステージで生き残ることができた。スプリンターのマリーニは東京ステージで勝つために、山岳区間を日々消化していかなければならない。「今日の感じだと修善寺(伊豆)は周回数も少ないから完走できるだろう。マリーニは上出来だ」と、大門監督は喜んでいた。
南信州ステージの区間優勝はスペインのベンハミン・プラデス(マトリックスパワータグ)、総合首位には区間2位に入ったオーストラリアのアダム・フェラン(ドラパック)が立ったが、富士山ステージを前に、総合を争う選手はほぼこの日の先頭グループでゴールした。
昨年総合優勝したミルサマド・プルセイェディゴラフール(タブリスペトロケミカルチーム)は総合成績で19秒遅れ、チャパッロは23秒遅れで長野県の飯田市を後にし、決戦の場となる富士山ステージへの長い移動の路についた。
南信州を乗り切って
富士山麓のホテルで、長距離移動を終えたNIPPO・ヴィーニファンティーニの大門宏監督に話を聞いた。この日はチームにとってほぼ想定通りの結果ではあったのだが、総合でライバルになる選手たちにも番狂わせの事態はなく、総合争いの行方は富士山の結果にゆだねられていた。
「(ライバルは)全員圏内。1分くらいは全然問題がない。イラン人は強い選手が全員残っている」と、大門監督はこの日はリザルトを慎重にチェックしていた。
「チャパッロは予定どおりで、遅れなくてよかった。ニーバリはまだ若いから、あんなものだろう。山本も上出来だった。ニバリよりも前にゴールに入ってくるとは思っていなかった。山本は前半から動いていたから良かったと思う」
この日はキャプテンのポッツォが山岳賞ジャージを守って表彰台へ上がったのだが、「今日の山岳ジャージは維持なので、自慢できることではない。表彰台に上がれたのはラッキーだった」と、大門監督は冷静だった。
しかし「(山岳賞が最終的に)取れるかどうかは明日の富士山次第。明日ポイントを全然取ってない選手が優勝すれば可能性はあるだろう。修善寺では1回目のポイントくらいは取れるかも…」と、皮算用をする一面もあった。
「でも富士山で優勝した選手は、山岳賞を取りたくて修善寺でがんばってくるだろう。山岳賞に関しては他力本願。それはしょうがない」と、語っていた大門監督は、その後山岳賞の総合成績をじっくりと見て「明日はエマミが山岳賞を取るだろう。もう彼は10ポイント取っているし、明日は20ポイントにはなる」と、予言していた。
魔の山『富士山』での闘い
総合争いを決定づける第5ステージの富士山ステージは、総距離11.4kmのヒルクライムレース。ゴールは須走5合目で、平均勾配10%、最大勾配22%というモンスターステージだ。
「明日は力勝負だ。チャパッロもがんばってくれればいいが…。今日はよかったが、彼はレースを走っていないから、インターバルがかかって結構キツイ思いをしていると思う」と、大門監督は富士山ステージを見据えて語った。
「チャパッロはもともとインターバル的なレースは不得意だと思う。不得意プラス、レースを走っていないので、今日もやはりキツかったと話していた。コーナーでの立ち上がりのようなスピードの上げ下げがキツかったようだ」
チームのエースであるチャパッロは今季途中加入した選手で、2013年にはコロンビアのトップチーム、コロンビア・コルデポルテスに所属していた。しかし、その年は感染症で活動できず、昨年は地元のアマチュアチームに戻って活動していた。
彼は3月下旬にはチームの一員になったのだが、ビザの問題があってヨーロッパでなかなか走ることができず、4月下旬にイタリアで開催されたジロ・デル・アッペンニーノ(ヨーロッパツアー1.1)しか走れていなかったのだ。
「コロンビアのレースは上りでみんなちぎれてしまうから、コーナーで一列棒状になるようなことはない。上りで力のある選手たちは、みんなそういうことはヨーロッパのレースで学んでいくのだろう。それはわかっていることで、僕も上りのスペシャリストとして彼を取っている」と、チャパッロをチームに雇い入れた大門監督は語った。
「明日も11kmでマスドスタートのレースなんて、チャパッロは経験したことがないと思う。そこそこは走るとは思うがどうか。41分くらいで走れれば上出来だと思う。42分はかからないと思うので、41分が目標タイムだ」
昨年の富士山ステージでは、イランのミルサマド・プルセイェディゴラフール(タブリスペトロケミカルチーム)が38分台という、これまでに誰も出したことがないような驚異的なタイムで区間優勝し、総合優勝への足がかりを作った。
プルセイェディゴラフールは前日の南信州ステージで、総合首位のピエールパオロ・デネグリ(ヴィーニファンティーニ・NIPPO)よりも3分半以上遅れていたにもかかわらず、富士山でそのタイム差を挽回したのだ。
「40分から41分の勝負になるのではないかと言われていて、それが目標ではあるが、それで勝てるかどうかはわからない。イラン人に38分台で走られたら勝てないと思う」と、語る大門監督は、昨年の苦い経験を思い起こしていた。
昨年ヴィーニファンティーニ・NIPPOは、富士山ステージでスロベニアのグレガ・ボレが、区間優勝したプルセイェディゴラフールよりも2分13秒遅れてゴールしたが、デネグリから総合首位のグリーンジャージを引き継ぐことができた。
しかしその時点でのタイム差はたった17秒で、ボレは翌日の伊豆ステージでプルセイェディゴラフールに総合首位の座を奪われてしまったのだ。
「みんなが言っているが、富士山ステージはジロにもツールにもないような本当にキツいコースだ。だから主催者にも言っているのだが、レースにならない。レースで使うようなコースではない」
「ジロやツールの主催者もキツいコースを設定しているが、彼らだって作らないようなコースだ。こういうコースはイタリアにもフランスにもあるが、そこをレースには使わないものだ。だから何故、こんなレースでこういうコースを使うのかわからない」と、大門監督は苦言を呈していた。
「ここで勝ったからといって、他でも勝てるわけではないコースにはするべきではない。以前オーストラリアの選手がここで勝ったが、他では全然成績がない」
「バリアーニも勝っているが、そんなスーパーなタイムではなかった(2012年に富士山ステージで区間優勝したチームNIPPOのフォルトゥナート・バリアーニは40分23秒のタイムだった)。38分台で走ったら、普通だったらツール・ド・フランスとかで勝ってもおかしくないクオリティの選手だ。でも実際は違う…」
クイーンステージの富士山を控えたツアー・オブ・ジャパンは、今年もまた迫り来るイラン勢の脅威を感じないわけにはいかない状況下にあった…。
■ツアー・オブ・ジャパン 第4ステージ(南信州)結果
1 ベンハミン・プラデス(マトリックスパワータグ/スペイン)3時間08分31秒
2 アダム・フェラン(ドラパック/オーストラリア)
3 トマ・ルバ(ブリヂストン・アンカー/フランス)
-
9 ディディエール・チャパッロ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/コロンビア)
23 山本元喜(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/日本)+42秒
46 アントニオ・ニバリ(イタリア)+2分31秒
71 マッティア・ポッツォ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/イタリア)+15分16秒
83 ニコラス・マリーニ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/イタリア)+20分15秒
84 黒枝士揮(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/日本)+20分15秒
■第4ステージまでの総合成績
1 アダム・フェラン(ドラパック/オーストラリア)9時間54分24秒
2 フランシスコ・マンセボ(スカイダイブドバイ/スペイン)+2秒
3 ルカ・ピーベルニック(ランプレ・メリダ/スロベニア)+9秒
-
10 ディディエール・チャパッロ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/コロンビア)23秒
31 山本元喜(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/日本)+1分42秒
40 アントニオ・ニバリ(イタリア)+2分57秒
68 マッティア・ポッツォ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/イタリア)+16分53秒
74 黒枝士揮(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/日本)+22分33秒
76 ニコラス・マリーニ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/イタリア)+24分38秒