TOJに参戦したNIPPO・ヴィーニファンティーニに密着!【美濃】
マリーニがUCI公認レースで初優勝!
第18回ツアー・オブ・ジャパン(アジアツアー2.1)の第3ステージは、岐阜県美濃市で開催された。スタートは美濃市中心部で江戸時代初期の建物が数多く残る『うだつの上がる町並み』。今大会で唯一日本らしい景観からのスタートは、快晴にも恵まれてさらに盛り上がった。
21.3kmの周回コースは16km地点に山岳ポイントが設定されているが、その後の下りが長いため、毎年ゴールは集団スプリントで決する。
レースはスタートしてすぐにティモシー・ロー(ドラパック)とアイラン・フェルナンデス(マトリックス)がアタックして抜け出し、周回コースに入って最初にコントロールラインを通過した時には集団とのタイム差は1分開いていた。
フェルナンデスはすぐに脱落したが、ローはそのまま逃げつづけ、最初の山岳ポイントをトップで通過。集団は山岳賞ジャージを着たマッティア・ポッツォ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ)が先頭で通過し、ポイントをきっちり稼いだ。
ゴールまで残り3周にかけられていた2度目の山岳ポイントでも、ローが逃げ続けて先頭で通過し、ポッツォが2位通過でふたたびポイントを稼いだ。しかし、残り1周回に入る前にローは吸収され、レースはふり出しに戻った。
最後は集団ゴールスプリントになり、残り100メートルからスパートしたニコラス・マリーニ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ)がみごと区間優勝を果たした。
マリーニは3日前に開催された堺国際クリテリウムでも優勝していたが、UCI公認レースでの勝利はこれが初となった。今季UCIプロコンチネンタルチーム(ディビジョン2)に昇格したNIPPO・ヴィーニファンティーニにとっても、待ちに待った1勝目だったのだ。
「チームがとてもよく働いて、最後は僕が勝利を得られた。チームは今日すばらしかった。ポッツォが上りでいい仕事をしてくれた。最後の下り坂で僕は彼の後ろを走っていた。最後の1kmはドラパックの選手の後ろにつけていた。残り100メートルから自分のスプリントをして勝つことができた」と、マリーニはレースをふり返った。
「僕にとってもチームにとってもうれしい勝利だ。スポンサーのNIPPOにとっては、TOJで活躍することは大切だからね。日曜日にクリテリウムで勝って、とても良いスタートを切ることができていた。これを維持していけたらいいね」と、語っていたマリーニ。この日は上り坂でも集団から遅れずに走り切ることができた。
「今日は異例なステージだった。ドラパックの選手が1人だけ逃げ続けていて、最後はそれをスカイダイブが終わらせた。おかげで後ろの集団は、最後の1周まで一日中穏やかだったのさ」と、21歳でプロ1年目のマリーニは分析していた。
UCIプロコンチネンタルチームとして初めての勝利
レース後、翌日のステージが行われる飯田への移動を終えた大門宏監督に話を聞いた。チームにとっても今季初優勝で、さぞや喜んでいるだろうと思っていたのだが、大門監督は意外にも冷静だった。
「この歳になると、ホッとしたというか、よかったなあという感じ。チームとして勝利が欲しかった。これは僕だけのチームではない。周囲の人間、とくにイタリア人はみんな喜んでいる。それを見て、ああよかったなあという感じ」と、大門監督は淡々と語った。
マリーニ優勝の吉報は、彼らが表彰式を終えて飯田へと向かっている間にはもう、本国イタリアでも公式サイトで報じられていた。「若い選手が勝ったことに価値があると、ニュースリリースにも書かれていた。勝つのは難しいことだ。とくにスプリンターは難しい。今日勝てたからと言って、次も勝てるとは限らない。勝てる時に勝っておかないとね」
「ここ(美濃)では3年前にマクシミリアノ・リケーゼで勝っている。だから僕にとっては相性がいい場所なのかもしれないが、去年はグレガ・ボレが抜け出せずに塞がれてしまい、ブレーキをかけて勝てなかった。そんな苦い経験はいくらでもしている。今日は勝ててよかった」と、大門監督は今季初優勝をふり返った。
「とくにスプリンターは、勝てると思っても勝てないものだ。上りのステージだったら、ある程度勝負すれば途中でもう勝てるかわかるものだが、スプリンターは最後までわからない。前を塞がれてしまうこともあるし、ブレーキをかけてしまうことだってある」
美濃ステージはNIPPO・ヴィーニファンティーニにとって狙っていた区間ではあったが、その勝利は単純に得られたものではなかった。「マリーニはまた若いから、できるだけ待てとは言ってあった。そういう意味ではポッツォが上手くリードして最後に勝つことができた」
「今日のスプリントはあまり高速ではなく、最後は横に広がって混戦になった。ランプレもコントロールできていなかった。スピードが遅かったから、マリーニにもチャンスがあったのかもしれない」と、大門監督は分析した。
「マリーニもこれから伸びてくれればいいなあ。次は東京。伊豆を乗り切ってくれればいいのだが。本人もツアー・オブ・ターキーで苦しんだからよかったと言っていた。アジアのレースとは言え、クラス1だし、こういうのでキャリアを積んでいってほしい」
この日はドラパックの選手が独走する展開になったことで、マリーニのようなスプリンターは集団の中で休めるレースだったことも功を奏した。
「スプリンターの脚が使わされるような展開にならなかったから、スプリンターにとっては休めるレースだった。日本選手は相変わらず動かなかった。韓国とかだったら、こういうレースになったらもっとガンガン動く。(日本人にとっては)大事なレースの1つなのだから、もっと攻撃してもいいと思った」と、大門監督は相変わらず日本人選手の動向を気にかけていた。
「みんな明日の飯田を待っているのか…待っていてもしょうがないのだが。今日エネルギーを使わなかったら、明日がんばれるということでもないと思う。自分たちのチームには勝てる可能性があるスプリンターがいたから、今日みたいなレースは当然だった」
今年のTOJでマリーニの最大のライバルとなっているのは、同じイタリア人スプリンターのニッコロ・ボニファツィオ(ランプレ・メリダ)だ。2人とも1993年生まれの21歳だが、ボニファツィオは昨年プロデビューして着実に成績を上げ、今季はミラノ~サンレモで5位にも入っている。
「(美濃のスプリントで)ボニファツィオを抜いたのはよかった。スプリンター同士では、苦手意識というものができた方がいい。同じイタリア人同士だし、こうやってクリテリウムと合わせて2回勝ったということは、本人にとっては良いと思う」と、語った大門監督。この2人のスプリンターを比較してくれた。
「マリーニには爆発力がある。それが彼の持ち味だ。ボニファツィオはどちらかと言うと瞬発力があってスピートがあるという感じ。ボニファツィオのスプリントはスパーンという感じだが、マリーニはドカーンという感じだ」
「ボニファツィオの場合は、多分自分のラインができたら、スパーンと行ってしまうタイプだ。彼はトレインが要らず、自分で自在にできる選手だ。マリーニはライン(列車)があったらもっと強いと思う。解き放たれるみたいな感じで。アンダー23の頃はそんな感じで勝っていた」
「ボニファツィオの方が、トップスピードは速い気がする。ミラノ~サンレモを見ていても、マリーニにはあそこまではいけない。ああいう高速になったら、やはりまだまだマリーニは脚が未熟だ」
キャプテンのポッツォが大活躍!
美濃ステージでは区間優勝したニコラス・マリーニだけでなく、マッティア・ポッツォも山岳賞ジャージを守って表彰台に上がった。彼はチームのキャプテンであり、TOJのように無線の使えないレースでは彼が現場でチームメートたちを指揮する役を担っている。
「今日は途中で何回もチームカーが呼ばれて、ポッツォとはいろいろな話をしていた。今回は彼が結構冴えていて、調子がいいので采配もズバリと決まるし、チームをうまくまとめている。本人も調子がいいから声が出るし、他のメンバーも彼の言うことをよく聞いている」と、大門監督もポッツォの働きを絶賛していた。
「ポッツォは結構神経質なところがあって、イタリアにいるときには精神的に不安定なこともあったが、日本に来て空気が変わり、彼にとってはすごくいい方向に向いている。今日も途中で展開についてどうするかいろいろと話し合ったときに的確な判断をしていたと思う」
ポッツォは2年前にヴィーニファンティーニ・セッレイタリアの一員でTOJを一度走っているため、その経験もおおいに役立っているのだろう。
「今日はチャパッロもよく走れていた。ニーバリは今朝、お腹の調子が悪いと言っていたので心配だったが、走っていて問題はなかったようで、心配するほどではなかった」
「山本も今日は後半ずっと頑張っていた。彼は強かった。黒枝はちょっと残念だった。絶好の展開になったのだが、力が足りなかったか、調子が良くなかったのかあまり冴えてなかった。それが今日は唯一残念だった」と、大門監督は各選手の美濃ステージでの走りをふり返っている。
待望の1勝目を上げて祝杯を上げたNIPPO・ヴィーニファンティーニだが、翌日はいよいよ総合を争う上で重要な南信州(飯田)ステージが待ち構えている。ここはライバルたちに遅れを取ってはいけない過酷なステージだ。大門監督は、南信州ステージについてこう語っていた。
「明日はニーバリとチャパッロに頑張ってほしい。イラン勢のような優勝候補から絶対に遅れないことが大前提。山本もできるだけ耐えて、食らいついて行ってほしい」
「マリーニと黒枝に関しては、タイムアウトにならないように走ってほしい。ポッツォがどれくらい動けるかはわからないが、山本とポッツォには、できるだけ前で走って欲しい。ポッツォが最終的に遅れるのは仕方ないと思うが、またいいところで動いてほしい」
「ポッツォはニーバリとチャパッロのアシストとして動かすつもりだ。山本は日本人のメンバーとして、アシストに使うつもりはない。チャパーロとニーバリにどこまで付いていけるか、一緒にレースさせる感じだ」
今年、南信州ステージは周回数が2周減り、距離は123.6kmと昨年よりも短くなっている。「今まで展開によっては日本人選手が20人くらいタイムアウトになっていたレースだから、そのあたりを考慮して距離が短くなったんだと思う」と、大門監督は分析している。
「ただ、距離が短くなったからと言って、簡単になったわけではない。優勝候補たちから遅れないように、前の方で落ち着いてレースをやって欲しい。ボクたちは別に優勝候補には上げられていないと思う。ニーバリは若いし、チャパッロは走っていなかったから実績がない。明日は優勝候補と言われる選手たちと、どれだけ前で勝負できるかか大事だ」
「このレースは最終的には富士山で決まるものだから、明日はとにかく遅れないことが大切。優勝候補を引きちぎれとと言うつもりはない。彼らが動いた時に、ちゃんとそこにいなければならない。ニーバリはまだ若いから、最後は遅れてしまうかもしれないので心配しているが、チャパッロは残れると思う」
「チャパッロもニーバリもスプリントがないので、残っても最後は勝てないと思うが、総合で次につなげるためには、ゴール勝負に参加しなければならない。そこにいなければ総合の可能性はなくなる。明日もし、そこに残れなければ、ステージ優勝狙いに切り替えると思う」
勝利の美酒に酔ったのもつかの間、NIPPO・ヴィーニファンティーニは正念場のステージを迎える。
■ツアー・オブ・ジャパン 第3ステージ(美濃)結果
1 ニコラス・マリーニ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/イタリア)3時間32分18秒
2 ボリス・シュピレフスキー(RTS/ロシア)
3 アンドレア・パリーニ(スカイダイブドバイ/イタリア)
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23 山本元喜(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/日本)
46 ディディエール・チャパッロ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/コロンビア)
61 アントニオ・ニーバリ(イタリア)+15秒
78 マッティア・ポッツォ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/イタリア)+1分39秒
82 黒枝士揮(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/日本)+28秒
■第3ステージまでの総合成績
1 ラファー・シティウイ(スカイダイブドバイ/チュニジア)6時間45分36秒
2 フランシスコ・マンセボ(スカイダイブドバイ/スペイン)+19秒
3 アダム・フェラン(ドラパック/オーストラリア)+23秒
-
12 ディディエール・チャパッロ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/コロンビア)+40秒
13 アントニオ・ニーバリ(イタリア)+43秒
43 山本元喜(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/日本)+1分17秒
62 マッティア・ポッツォ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/イタリア)+1分54秒
64 黒枝士揮(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/日本)+2分35秒
69 ニコラス・マリーニ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ/イタリア)+4分40秒