トピックス
空力をまとったオールラウンダー キャニオン・アルティメットCF SLX
2015.09.25
アルティメットCF SLXとは?
キャニオンは2007年にトップカテゴリーのプロチームにバイクを供給して以来、世界選をはじめとするビッグタイトルを手にして名声を高めてきた。その躍進を支えてきた軽量オールラウンダーのアルティメットCF SLXシリーズが、この度、刷新されることとなった。
同シリーズの歩みを振り返ると2代目は重量剛性比の追求、3代目ではそこに快適性を付加してきた。そして4代目となる今作では、最新ロードバイクの大きな潮流である空力性能を新たに加えながら快適性を向上させた、最新のオールラウンドロードとして再定義することとなった。具体的な数値目標は、空力、快適性とも時従来型の10%アップをねらったという。
空力を向上させつつも重量剛性比を維持するために、新型アルティメットCF SLXでは「Dシェイプ」と呼ばれる、D字断面に成形された新しいチューブ形状を採用。前作よりも断面形状を縦長にしたカムテール理論で設計することで空力を高めている。
これを、ダウンチューブをはじめとする空力の要所に配し、ヘッドチューブを流線形の船首形状とアワーグラス型とすることで、空気抵抗は旧型よりも8%(7.4W)向上している。
さらにステム一体型のカーボンハンドル「エアロコックピット」、エアロ形状のヘッドスペーサーも搭載して、フレームモジュールとしては14%(出力12.9W相当)の空気抵抗削減に至った。
前作よりも大幅に空力を向上させつつも、カーボン素材やフレームのアッパーラインの形状を見直すことで剛性面では従来と同レベルを維持。重量は10g軽量化された、780g(塗装済みフレーム単体Mサイズ)を実現しているのも見逃せない点といえる。
空力とともに改良点の一つのハイライトが快適性だ。これについてはシート周りの構造を見直している。シートポストを固定する機構をフレーム内に収めた新設計の「シートチューブインサート」構造は、フレーム横剛性を維持しながらポストに対する垂直方向への柔軟性を15%向上して、優れた乗り心地を可能にしたという。
新型アルティメットCF SLXは、先代と比べると見た目にドラステックな変化を受けた印象こそないものの、開発者の説明を受け実車をつぶさに見ると似て非なる物であることが分かる。
前衛的なフォルムを持つエアロードの存在があるからこそ新型アルティメットCF SLXは、軽量オールラウンダーとして求められる性能を一途に追求することができたと言える。決して奇をてらうことなく作り込まれたその様は、ドイツブランドらしい質実剛健さでありユーザーに対して実直なキャニオンらしい。派手さはないもののマニアックで魅力的な1台に仕上げられている。
空力と剛性を両立する新設計の断面形状
ポストのしなりを増大させる合理的な設計
シートチューブ上端にシートポストを固定するクランプが存在しないことで、これまで以上にポスト部にしなりを与えることが可能になった。これにより垂直方向の変形量は15%、水平方向の変形量は37%増大し、変形時のサドルの傾きは13%抑えられ快適性が向上している。しかもこのシステムの重量はわずか15gと軽く、美しいフォルムを実現してフレーム内に泥などが入る可能性も低減する。
シートチューブ内にはイラストのように樹脂製の「インテグレーテッドシートクランプ」(写真中央)が挿入される。その一部には金属が埋め込まれ、この部分をシートステーの間に設けられた芋ネジが押すことで専用のカーボンポストが固定される。
シートチューブ内にはイラストのように樹脂製の「インテグレーテッドシートクランプ」(写真中央)が挿入される。その一部には金属が埋め込まれ、この部分をシートステーの間に設けられた芋ネジが押すことで専用のカーボンポストが固定される。
空力と剛性をバランスする巧みな設計
ハンガーシェルは現在の定番規格ともいえるPF86。横幅が抑えられたDシェイプダウンチューブの採用により、ハンガー部自体の剛性レベルは前作に比べて落ちているという。見た目にも前作と比べてスリムな印象だ。しかしながら幅広化されたトップチューブ、それに伴い接合部の幅が広くなったシートステーの効果によってフレーム全体の剛性レベルは従来と同様に調整されている。単なる剛性値を追求するだけでなく、そのバランスを吟味してペダリング効率を高めた。
(写真左)BBシェル裏の変速ワイヤリードは、シェル内側をワイヤが通る構造となり泥やほこりなどの汚れの付着を防ぐ。機械式変速も依然多数を占めるのでうれしい改良だ。
(写真右)ワイヤの動きを滑らかにする「フリクションフリー・ケーブルルーティング」を新たに採用。一新されたワイヤストッパーは、変速のヘッド側、ブレーキ側ともにワイヤの挿入口を浅くし、理想的な角度に設計(変速17°、ブレーキ22°)。挿入口付近のワイヤラインをまっすぐに近づけることで摺動抵抗を軽減する。その配置もワイヤに無理なテンションをかけにくいポジションだ。
(写真右)ワイヤの動きを滑らかにする「フリクションフリー・ケーブルルーティング」を新たに採用。一新されたワイヤストッパーは、変速のヘッド側、ブレーキ側ともにワイヤの挿入口を浅くし、理想的な角度に設計(変速17°、ブレーキ22°)。挿入口付近のワイヤラインをまっすぐに近づけることで摺動抵抗を軽減する。その配置もワイヤに無理なテンションをかけにくいポジションだ。
味わい深いペダリングフィールで扱いやすさを極めた
開発者の言葉通り、新型ハンガー部剛性は前作よりも抑えられているのは乗れば明白だ。しかし今作は低下したハンガー剛性に対して、アッパー部を強化したことでフレーム全体の剛性感は好バランスとなった。
一枚岩のような硬質な踏み味がやや強めの前作に比べて、今作では剛性に不足はないが踏みしろのある脚当たりの良さがある。それがバネ感を生み、下死点まで脚をスムーズに運べる余韻のあるペダリングなり、ゆえに高負荷域での加速の持続性に優れる。
またチューブ肉厚が薄くなった印象も強く、より乾いた軽量車的な身のこなしも強まった。得てしてこうした感覚の強いモデルはペダリングがただ軽いだけで、スカスカした深みのない走りとなるが、新型は違う。ヒルクライムでは軽い身のこなしを武器に小気味よく進み、前出のように平地の高出力・高速域では粘りのあるペダリングでバイクが流れるように走る。じつに懐の深い走行感に進化したと言えるだろう。
ハンドリングはレースバイクらしいシャープなものだが直進安定性は保たれている。超絶な安定感とまではいかないが、腰高な印象もなく下り性能にも不安はない。そしてシートポストは設計通り柔軟性が高く、乗り心地はかなり良好だ。N・キンタナは「とてもバランスがよくて平地も上り問わず使える。乗り心地もいいので気に入っている」と、新型の乗り味をこう評価するが、彼の言葉には納得させられる。
初対面では拍子抜けもしたが、懐の深いペダリングフィールから生まれる万能な走行性能、細部にまで気を配ったマニアックな作り込みは、ロードバイクに求められる性能に真っ直ぐに向き合った1台といえる。旧型とは似て非なる物であり、新型はその進化をしっかりと感じとれる好印象のモデルチェンジといえるだろう。