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パイオニア・ペダリングモニターシステム 徹底解剖&使いこなしのヒント 第3回



ペダリングモニターシステムは、ペダリングモニターセンサーとサイクルコンピュータ、解析サービスのシクロスフィアが三位一体となって初めて最高のシステムとして機能する。これまでにシステムを構成するこれらの3つの柱をそれぞれ紹介してきたが、今回はペダリングモニターシステムを活用したトレーニングメニューの一例を紹介する。

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text:浅野真則 photo:吉田悠太

パワートレーニングの二つのアプローチ

ペダリングモニターシステムでは、走行中のパワーはもちろん、ペダリング時の踏力のベクトルやトルク量の分布といったペダリングに関するありとあらゆるデータが表示できる。つまり、ペダリングモニターシステムは走行中の出力が分かるだけの一般的なパワーメーターと異なり、どのようなペダリングによってパワーが生み出されていて、どれぐらいのロスがあるのかという“パワーの質”が分かるワンランク上の計測システムであることを意味する。

例えば、同じ300Wであっても、非常に効率よいペダリングで楽に出せているのか、それとも無駄な踏み込みによって多くの力をロスしながら生み出されたものなのかでは全く中身が異なる。従来のパワーメーターならどちらも同じ300Wとしか表示されないが、ペダリングモニターは両者の違いを明らかにしてくれるのだ。

 

パワーアップと効率アップ

パワーの質が分かるということは、ライダーの出力を高めるパワートレーニングには大きく分けて二つの方向性が考えられるとも言える。ひとつはパワーの絶対値を高める方法、もうひとつはいかに無駄を減らして効率よく高いパワーを出すかという方法だ。

これまでのパワートレーニングでは、パワーの絶対値を高めることが中心だった。そもそも従来型のパワーメーターでは、パワーの質が分からなかったからである。だからこそ、僕が不調に陥ったときのように、パワーを高めることばかり追い求めてフォームを崩し、まともに走れなくなってしまう——なんて失敗も起こりえるわけだ。

しかし、ペダリングモニターシステムの登場によって、ペダリング効率を高めることでも、発揮できるパワーが向上するということに多くのサイクリストが気付かされた。これまで言われてきたペダリングスキルの重要性がペダリングモニターシステムのデータによっても裏付けられたかたちだ。

もちろん、パワーの絶対値を高める作業と、ペダリング効率を高めて発揮できるパワーを高める作業は、どちらか一方だけ行えばよいというものではない。前者は主にフィジカル面のトレーニング、後者は主にスキル面のトレーニングになるからだ。よって、両者をバランスよく取り入れ、地道に絶対的パワーを上積みし、ペダリングスキル向上で効率よく脚力を推進力に変換できるようにすることが、最短距離で強くなる方法と言えるだろう。

 

ペダリング解析で弱点も浮き彫りに

僕がペダリングモニターシステムを活用するようになって、これまでの一般的なパワーメーターを使ったパワートレーニングと大きく変わったことがある。ペダリングの左右差や効率といったスキル面に注目するようになったことだ。

他社製のパワーメーターでもペダリングの左右バランスやトルク効率を出せる製品はいくつかある。しかし、クランクを1周させる間のどのポイントでどのぐらいの踏力が発生し、それがクランクに対してどのぐらい理想的にかかっていて、どのぐらい無駄な力となっているかを左右別々にリアルタイムで見ることができるのはペダリングモニターだけだ。しかも、それが直感的に分かるから、自分のペダリングの弱みも直感的に把握しやすい。トレーニングでの課題が見つかったのだ。

ペダリングモニターを使う前は、僕は比較的左右均等にペダルを回せていると思い込んでいた。僕は自分が思うよりペダリングの左右バランスがよくないことが分かった。

いわゆる左右バランスの項目だけを見ると、ダンシング・シッティングを合わせた全体の平均では絶不調時L:R=50:50、好調への回復局面でも51:49と、そんなにバランスは悪くないように見える、しかし、片脚ずつの平均ペダリング効率に注目すると、左脚の方がペダリング効率が高いのだ。しかも、絶不調時でも約4ポイント、好調への回復局面に至っては8ポイント近くの開きがある。

 
シクロスフィア絶不調時
シクロスフィア絶不調時
シクロスフィア絶不調時
シクロスフィア絶不調時
シクロスフィア絶不調時
シクロスフィア絶不調時
シクロスフィア調子上向き
シクロスフィア調子上向き
シクロスフィア調子上向き
シクロスフィア調子上向き
シクロスフィア調子上向き
シクロスフィア調子上向き


その理由はペダリング時の全周のトルクを表すトルク曲線を見ると明らかで、シッティング時に右脚側が引き脚局面(180°以降)にあるところでクランクを回すのに有効に作用しない法線方向の力や左脚に負荷となるロス(クランク回転の道方向の力)が大きくかかっている。つまり、右脚は無駄な力を発揮しているというわけだ。

したがって、僕の場合、不得手な右脚のペダリングスキルを向上させれば、ペダリング効率が改善し、左右のバランスももう少しよくなると思われる。

 

ペダリングスキルを改善する片脚ペダリング

ただ、一口にペダリングスキルを高めると言っても、大きく2つの方法が考えられる。ひとつは脚をスムーズに回す練習、もうひとつはペダルにトルクをしっかりと乗せられるようにする練習だ。これらはどちらか一方ができてもよいわけではなく、両者を同時にスキルアップしていくことが重要だ。

このうち、僕が脚のスムーズな回転を習得するために今取り組んでいるのが「片脚ペダリング」だ。

これは文字通り片脚だけをビンディングペダルにはめ、片脚だけでペダリングするというスキルトレーニング。上死点や下死点付近で下に踏み抜くような無駄な力が入っているとペダリングがカクカクしたり、お尻がはねたりしてしまうので、そうならないようなスムーズなペダリングを心がける。

僕の場合は主に回復走の日に交通量の少ない平坦コースか固定ローラーを使って、片脚1分を左右1回ずつを1セットとして3セットを目安に行っている。ギアは平地を巡航するときぐらいのケイデンスから始め、慣れたら回転数を上げていくといいだろう。

特に冬場はじっくりスキルトレーニングに取り組むのに向いているので、この時期にペダリングモニターを活用しながら、集中してペダリングを改善しよう。

●片脚ペダリング
【場所】交通量の少ない平坦コース、または固定ローラーを使って屋内で
【方法】片脚をビンディングペダルにはめ、片脚だけでペダリングする。
【時間・本数】片脚1分を左右1回ずつを1セットとし、3セットを目安に
【実施上の注意】
・平坦を巡航するときぐらいのケイデンスが維持できるギヤ比で実施
・上死点と下死点付近で脚がカクカクしたり、お尻がはねたりしないよう、スムーズに脚を回すことを心がける
・慣れてきたらケイデンスを高めて実施してもよい


 

ペダルに正しくトルクをかける意識を養うSFR

ペダリングスキル向上のもうひとつのアプローチである「ペダルにしっかりトルクをかけられるようにする」練習では、SFRというメニューを行っている。

SFRとは、イタリア語の「Salita Forza Resistanza」の頭文字をとったもので、5%程度の上り勾配を重いギヤで40回以下の低いケイデンスで上るメニュー。低ケイデンスで重いギヤという負荷をかけて行うため、ペダリング時の筋肉の動きを意識して正しいポイントでトルクをかける感覚を身につけることができるだけでなく、筋持久力を高める効果も期待できる。

SFRは、2分間を5本程度、週1回ぐらいのペースで行う。フォームを崩さず、上半身に無駄な力がかからないようにしつつ、踏み込み局面では正しくペダルにトルクがかかっていることを意識し、引き脚側では脚が反対側の踏み脚の重りにならないように抜重することも意識する。

●SFR
【場所】なるべく勾配が一定(5%程度)の上り
【方法】アウター×トップなどのなるべく重いギアで、40回転以下の低いケイデンスを維持しながら上り坂を走る
【時間・本数】2分×5本
【実施上の注意】
・走行中にフォームが崩れないように注意
・踏み脚側はしっかりペダルにトルクをかけ、引き脚側は抜重を意識する
・ひざに負荷がかかるので、ひざを痛めている場合は無理をしない

 

エンジンの出力を高める通常のパワートレーニングも重要

パワートレーニングで強くなるためのアプローチには、パワーそのものを高める方法とスキルを高めて発揮できるパワーのムダを減らすという2つのアプローチがあるのは前述の通りだ。クルマのチューンナップにたとえるなら、パワーそのものを高めるのはエンジンのチューンナップ、ムダを減らすのは吸排気系や回転系のチューンナップのようなものだ。

ここまでは主に、ペダリングモニターシステムを活用してできるスキルアップトレーニングを紹介してきた。ムダを減らすことで、ライダーのアウトプットの出力が同じでも、バイクを進めるための推進力が上がり、速く走れるようになったり、同じ時間をラクに走れるようになることは間違いない。

ただ、それはパワートレーニングの一側面にしか過ぎず、やはりライダーの筋力や心肺機能そのものを高める作業が重要であることには変わりない。つまり、ここまでに紹介してきたスキルアップトレーニングは、一般的なパワートレーニングと並行して行う必要がある、ということだ。

 

データと感覚をすりあわせることの重要性

ペダリング効率を高めるには、クランクを円周運動させる際に接線方向(クランクアームに対して垂直方向)にトルクをかけることが重要だ。しかし、それはあくまで足という体の末端の動きであって、キレイにペダルを回すことを意識しているだけでは、必ずしも速く走れるようにならない——というのが個人的な考えだ。

速く走るためのひとつの指標として、パワーがある。自転車におけるパワーはケイデンス×トルクで求められるが、これをペダリングに置き換えるとケイデンスはクランクをスムーズに早く回す能力、トルクはペダルに大きなトルクをかける能力といえる。どちらか一方ではなく、どちらのスキルも高めていくことが重要なのだ。

この考え方をふまえ、ペダリングモニターのベクトル表示は、次のようなイメージで活用するのがよいと思う。

●下死点付近で下に踏み抜くような無駄な力を少しでも減らす
●6時以降(180°以降)の引き脚局面で、脚が反対側の踏み脚の重荷にならないよう抜重できているかを確かめる


つまり、大きな無駄をなくすためにベクトル表示を活用しつつも、体の大きな筋肉群、特に腰回りやお尻の筋肉を使ったダイナミックなペダリングの習得に集中する方が、出力もペダリング効率も高めやすいと思うのだ。


ペダリングモニターシステムは優れたトレーニングツールだが、最終的にはライダー自身がうまく運用しなければ宝の持ち腐れとなってしまう。そうしないためにも、データと自分自身の感覚をいかにすりあわせ、パフォーマンスを向上させていくかが重要だ。



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浅野真則●あさの・まさのり プロフィール
「サイクルスポーツ」をはじめとする自転車専門誌やWEBサイトなどで活動する自転車ライター。実業団登録選手としてJエリートツアーに参戦中で、2014年は実業団レースで優勝1回、入賞1回を記録。5年ほど前から日々パワーメーターを活用しながら精力的にトレーニングライドを行っている。ペダリングモニターシステム使用歴は1年ほどで、もっと使いこなすために日々勉強中だ。

 

パイオニア・ペダリングセミナーのお知らせ

パイオニアは2016年1月30日(土)に同社で第2回ペダリングセミナー「スピードアップのためのペダリング技術と筋肉の使い方」を開く。
セミナーの詳細は下記の通り。

■日時
第1回 11:00〜13:00
第2回 14:00〜16:00

■募集人数:各20人
■場所:パイオニア株式会社 1Fプレゼンルーム(川崎市幸区新小倉1-1)
■講師:自転車プロコーチ 須田晋太郎氏(株式会社ウォークライド)
■参加料:5,400円(税込)
■応募方法:下記サイトから申し込む(セミナー詳細も下記サイト参照)
http://walkride.jp/archives/17383/

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