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バンアーベルマートが初優勝! ティレーノ〜アドリアーティコ 2016

ミラノ~サンレモ直前のイタリアで開催された
2つの海を結ぶステージレースは
頂上ゴールのステージが中止になり
誰も予想もしなかった男に
夢のような優勝のチャンスが巡ってきた
Photo: Graham Watson / ANSA / PERI - ZENNARO

クラシックハンターに訪れた一生に一度のチャンス

 
イタリア中部で開催されたティレーノ~アドリアーティコ(UCIワールドツアー)は、グレッグ・バンアーベルマート(BMC)がベルギーに39年ぶりの総合優勝をもたらして幕を閉じた。この『2つの海を結ぶステージレース』に彼は、ミラノ~サンレモの調整を兼ね、区間優勝を狙うためにやって来ていた。

しかし、気まぐれな自転車競技の女神は、30歳のバンアーベルマートに思わぬチャンスをもたらした。1週間のステージレースにたった1日しかなかった頂上ゴールの第5ステージが、降雪予報で中止になり、総合優勝はクライマーのものではなくなってしまったのだ。

ちょうど同じ時期に、フランスで開催されていたパリ~ニース(UCIワールドツアー)では、第3ステージの途中で冷たい雨が雪へと変わり、100km近く走ったところでレースが続けられなくなってしまう騒ぎが起きていた。

ティレーノ~アドリアーティコを主催するRCSスポルトは、山岳ステージの日の気象予報が雨で気温が非常に低く、標高800メートル以上では降雪のおそれもあるとわかると、パリ~ニースの二の舞いにならないよう先手を打ち、今シーズンからUCIが導入した『悪天候時実施要項(EXTREME WEATHER PROTOCOL)』を適用し、前日に中止の決定を下してしまった。

山岳ステージがなくなったあと、残されたのは2ステージ。集団ゴールスプリントになるだろうと予想されていた第6ステージと、最終日の10.1kmの個人タイムトライアルだった。
 
 
 
今年のティレーノ~アドリアーティコは、初日にチームタイムトライアルが行われ、世界チャンピオンのBMCレーシングチーム(米国)が優勝し、ベルギーのエティックス・クイックステップが2秒差、ロシアのティンコフが11秒差という状況で開幕していた。

翌日のステージで、早くもレースは動いた。ゴール手前3kmの坂で、エティックス・クイックステップのズデネク・シュティバルがアタックし、集団に1秒差を付けて逃げ切り、10秒のボーナスタイムを獲得して総合首位の座をBMCから奪い取ってしまったのだ。

元シクロクロス世界チャンピオンのシュティバルは、第5ステージは自分にキツすぎるので、総合リーダーのマリア・アッズーラを手放すことになるだろうと言っていた。しかし、その第5ステージが中止になってしまったので、彼は第6ステージでもまだ総合首位の座に留まっていた。
 

世界チャンピオンのアタック

 
運命の第6ステージは、軽いアップヒルのゴールだった。終盤の残り22.8kmにかけられていた中間スプリントを通過した後、世界チャンピオンのペーテル・サガンを擁するティンコフ勢が、集団の先頭で加速し、まんまと7人の逃げグループを作ってしまった。

そこにバンアーベルマートが加わっていたのは、サガンにとっては誤算だったろう。彼は昨年のこのレースの区間とツール・ド・フランスの区間でも、そして今年のオムロープ・ヘットニュースブラッドでも、バンアーベルマートにはゴールスプリントで辛酸をなめさせられていた。

一方のバンアーベルマートは、そこが得意のゴール・レイアウトだった上、地元のヘットニュースブラッドでアルカンシエルを打ち負かした後で自信に満ちていた。そして何よりも彼は、ティレーノ~アドリアーティコが大好きだった。

バンアーベルマートはその日、一騎打ちのゴール勝負でマリア・ロッサを着たサガンをあっさり下し、区間優勝とマリア・アッズーラの両方を獲得してしまった。残っていたのは、10kmという短い個人タイムトライアルだけだった。

「去年は11位だったし、たった10kmのタイムトライアルだ。僕はスペシャリストではないけれど、調子はいい。これまでにこういう状況になったことがないし、これからもないだろう。僕が好きなこのレースで勝つ、またとないチャンスだ。素晴らしいトロフィーをうちへ持って帰れるといいね」と、決戦前日にバンアーベルマートは胸中を語っていた。
 
 
アドリア海を臨むサンベネデッテ・デル・トロントで行われた個人タイムトライアルは、現役最後のシーズンに別れを告げるように、勝ち星でその足跡を残し続けるスイスのファビアン・カンチェッラーラ(トレック・セガフレード)がトップタイムを出した後は、総合争いだけが焦点になった。

バンアーベルマートよりも4分早くスタートしたサガンは、スペシャリストのカンチェッラーラよりもたった24秒遅いだけの好タイムでゴールし、逆転劇を期待してマリア・アッズーラの到着を待った。総合での2人のタイム差は、たった8秒しかなかったのだ。

しかし、サガンの期待とは裏腹に、バンアーベルマートも夢の実現に向けてアドリア海の町を快走した。そしてサガンに7秒遅れでフィニッシュラインを通過し、たった1秒差で総合首位の座を守り、ティレーノ~アドリアーティコというビッグタイトルを手中に収めてしまったのだ。ベルギー人がこのステージレースで総合優勝したのは、1977年のロジェ・ドブラミンク以来だった。

表彰台でアルカンシエルのサガンと、3位に入ったルクセンブルクチャンピオンのボブ・ユンゲルス(エティックス・クイックステップ)の間に立ったバンアーベルマートは、紺碧のリーダージャージに身を包み、海王神のシンボルであるトライデント(三叉)をかたどったトロフィーを受け取った。その海王神の守護を受け、彼がサンレモでも表彰台の中央に立つのは、夢ではないかもしれない。


■ティレーノ~アドリアーティコで総合初優勝したバンアーベルマートのコメント「このレースで勝てるなんて考えたことはなかった。一生に一度のチャンスで、ティレーノで勝てた。ドブラミンクや、他の偉大なチャンピオンたちと同じ優勝者リストに自分の名前が載ることは、僕にとって大きな意味がある。

1秒でも僕には十分だった! キツいコースだとはわかっていた。途中計測で5秒だと知らされた。だから可能な限り加速して、全力を出し切った。いいTTができたと思う。ベストではなかったけれど、ワーストでもなかった。もっとコーナーが多いコースが好きなんだ。真っ直ぐな道を1人で走るのは得意じゃないんだ。

今年は幸運が僕の隣にいてくれる。土曜日のミラノ~サンレモには自信を持って臨めるよ。メインターゲットはクラシックのままだけど、もう素晴らしい勝利が僕のポケットには入っている。最初のビッグ・クラシックにリラックスして臨めるのはうれしいね」
 

第51回ティレーノ~アドリアーティコ結果