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「U23版ツール・ド・フランス」、ツール・ド・ラヴニールに日本代表が挑戦

8月20日から26日にかけて、フランスのアルプスを舞台に、ツール・ド・ラヴニールが開催された。今年で53回目を迎える伝統ある大会は、「若者版ツール・ド・フランス」との別名を持ち、数多くのグランツール王者を輩出してきた。そんないわばプロへの登竜門に、2016年夏、日本U23代表チームが挑戦した。

 
text:Asaka MIYAMOTO、photo: jeep.vidon

手厳しい洗礼を受けるも、将来へとつながる経験に

スタート地のサイン台で、観客に紹介されるU23日本代表チームの6選手。左から小林海、小橋勇利、秋田拓磨、雨澤毅明、石上優大、小野寺玲。photo: jeep.vidon
スタート地のサイン台で、観客に紹介されるU23日本代表チームの6選手。左から小林海、小橋勇利、秋田拓磨、雨澤毅明、石上優大、小野寺玲。photo: jeep.vidon


U23ネイションズカップの最終戦でもある同大会への出場権は、通常、同シリーズランキングの上位15チームに与えられる。日本代表はそこまでの6戦でポイント獲得を果たせず、そもそもランキング外だった。つまり開催委員会のワイルドカード枠で、極めてハイレベルな争いの中に飛び込んだ。

開催委員長のフィリップ・コリウー氏は、日本チーム招待の理由をこう語る。

「これは若者を育てるための大会であり、自転車文化の未熟な国を育てる大会でもある。コロンビアが初めてラヴニールにやってきたときは、まだ今ほどの強豪国ではなかった。でもこの大会をステップに、次々と有望な選手が成長している。日本チームは今年初めての出場だから……、大いに苦戦して、そこから学んでいけばいい」


 
第4ステージの個人タイムトライアルでは、 欧州遠征初挑戦の小野寺が好走を見せた。「将来はこの自分の得意分野で、勝負に絡めるようにならなくては」と語る。photo: jeep.vidon
第4ステージの個人タイムトライアルでは、 欧州遠征初挑戦の小野寺が好走を見せた。「将来はこの自分の得意分野で、勝負に絡めるようにならなくては」と語る。photo: jeep.vidon


苦戦は、大いにさせられた。スタートラインに並んだ6選手のうち、最終日のフィニッシュラインを越えられたのは小野寺玲ただ1人だけだった。集団内に流行した胃腸炎に感染し、雨澤毅明と小橋勇利は3日目に自転車を降りた。総合リーダーの小林海は、2日目の落車に加え、夏の間の連戦の疲労がたたり、アルプスでは苦しめられた。

「だれもがここに照準を合わせ、完璧に仕上げてきていた。正直、力負けではなかった。自分の調子がほんのちょっと足りないだけで……、特別なレースでは、大きな差につながってしまうことを知った」(小林)

山頂フィニッシュ4連戦の初日に小林をアシストしつつ、最終峠では自分の走りができたという石上優大も、翌日第6ステージの最終峠手前で足切りを宣言された。

「今日も自分の力を試したかったけれど、それどころか千切れてしまった。ただただ力不足。『いい経験』とさえ言えない」(石上)

 
後半4日間は雄大なアルプスを舞台に繰り広げられた。ツールでおなじみのクロワ・ド・フェールやトゥシュイールなどに加えて、最終日には標高2764mのイズラン峠も通過した。photo: jeep.vidon
後半4日間は雄大なアルプスを舞台に繰り広げられた。ツールでおなじみのクロワ・ド・フェールやトゥシュイールなどに加えて、最終日には標高2764mのイズラン峠も通過した。photo: jeep.vidon


最終日前日に小林と秋田拓磨は、「ほうき車」に乗せられて帰ってきた。ツール・ド・フランスの伝統峠クロワ・ド・フェールでの最終フィニシュには、小野寺だけがたどり着いた。参加143名、完走106名の過酷なレースを、総合80位で走り終えた。

「まずは、今の状態では、勝負は出来ない。それがはっきりと分かった。悔しいけれど、トップレベルとの差を見せつけられた」(小野寺)

だれの言葉からも悔しさがにじむ。それでも敗北が大きかったからこそ、学んだものも、間違いなく大きかったはずだ。

「ステージレースを戦っていく上で重要な動きを、たった3日ではあるけれど、しっかりこなせた。この先は『あたりまえ』のようにそんな仕事を続けていけるはず」(小橋)

「8日間のレースは初めてで、毎日の調子の波を小さく抑える方法をまだ知らなかった。だから絶好調で走った次の日に、リタイアしてしまって……。次のステージレースでは、この失敗を教訓にしていく」(石上)


 
山頂フィニッシュ直後に浅田顕監督とレース状況を話し合う。開幕時に立てた「総合30位以内」という目標を、棄権者続出の苦しい戦いの中で、日々修正していく必要があった。photo: jeep.vidon
山頂フィニッシュ直後に浅田顕監督とレース状況を話し合う。開幕時に立てた「総合30位以内」という目標を、棄権者続出の苦しい戦いの中で、日々修正していく必要があった。photo: jeep.vidon


19歳のフランス人ゴデュが、マイヨ・ジョーヌをつかみとった。ゴデュは来季、FDJでのプロ入りが決まっている。同じく来季のランプレ入りが決まっている22歳イタリア人ラヴァジが総合2位に、U23カテゴリー1年目のアメリカ人コスタが総合3位に入った。

「将来、彼らとまた同じ舞台で戦いたい。自分の得意分野で正々堂々と勝負できるくらいの力をつけて、この場に帰ってきたい。将来こんなレベルのレースで走れる自分を想像すると、ワクワクする」(小野寺)

ラヴニールとは、フランス語で「将来」という意味である。小野寺と雨澤、そして石上は、また来年もU23カテゴリー登録選手として、この「将来を占うレース」に戻ってくる可能性がある。

「このレースで総合20位に入ってくるような選手は、将来もそのまま同じように活躍をしていける選手になる。だからぼくも、そこまで上がっていかなければならない。これから1年1年力をつけていき、アンダー最後の4年目には、それができるような選手になっていたい」(石上)

 
近年だけでもキンタナ、チャベス、バルギルと、そうそうたるグランツールレーサーがラヴニールを制してきた。2016年覇者は中央ゴデュ。左は2位ラヴァジ、右が3位コスタ photo: jeep.vidon
近年だけでもキンタナ、チャベス、バルギルと、そうそうたるグランツールレーサーがラヴニールを制してきた。2016年覇者は中央ゴデュ。左は2位ラヴァジ、右が3位コスタ photo: jeep.vidon


開催委員長コリウー氏も、幸いなことに、太鼓判を押している。

「1年で切り落とすなんてことはしない。成長には年月がかかるもの。次の年にまた、日本チームには、もう一段レベルを上げて帰ってきてほしい」

 
■総合成績
1 ダヴィド・ゴデュ(フランス)23時間31分51秒
2 エドワルド・ラヴァジ(イタリア)+24秒
3 アドリアン・コスタ(アメリカ)+1分23秒
4 エガンアルレー・ベルナルゴメス(コロンビア)+2分46秒
5 ジェイ・ヒンドレー(オーストラリア)+3分09秒
6 タオ・ゲオゲガンハート(英国)+4分16秒
7 マイケル・ストラー(オーストラリア)+4分50秒
8 ミシャル・シェゲル(チェコ)+5分15秒
9 ハーム・ヴァンホウク(ベルギー)+6分39秒
10 クリスチャン・ロドリゲスマルティン(スペイン)+8分34秒
80 小野寺玲(日本)+1時間23分25秒
DNF 小林海(日本) 第7ステージリタイア
DNF 秋田拓磨(日本) 第7ステージリタイア
DNF 石上優大(日本) 第6ステージリタイア
DNF 小橋勇利(日本) 第3ステージリタイア
DNF 雨澤毅明(日本) 第3ステージリタイア