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ピナレロ・ドグマがモデルチェンジ 「F10」に進化!

2016年12月「ピナレロがニューモデルを発表する」との情報を受け、片付けようとしていたスーツケースを急いで引っ張り出し、イタリア半島の先端に浮かぶシチリア島へと飛んだ。そこで待っていたのは究極のドグマ「F10 」だ。
 
text&photo:Takehiro Nakajima

TTバイクのエッセンスが各所に光る。最新シマノ・デュラエースDi2規格にも対応

現地で登場したのはモデルナンバー「F10」が与えられた新しいドグマ。2014年に登場し、ピナレロのベストセラーモデルになったF8を改良するのは容易なことではなかったはず。90レースで勝利を挙げた名車にメスを入れるために、同社は3つの目標を作った。

1.TTバイクで培った空力性能をF8の性能と融合させること
2.ピナレロらしさである下りの速さ、高いハンドリング性能を維持する。もちろん全フレームサイズで
3.美しいこと


まず1を実現するためCFD解析が行われた。もちろんTTバイクのデザイン全てをロードバイクに投入することはできない。最小限の機能で最大限の効果を上げられるパートが吟味された。その結果フォークブレード、トップチューブ、ダウンチューブの形状を変更されることになった。空気抵抗低減のために、他社にはワイヤ類を徹底的にフレームに内蔵しているモデルもあるが、F10はそうではない。その理由を先の開発者に尋ねると「ワイヤの内蔵は効果があるが、最小限にとどめている。使いやすさにはこだわりたかった」と。

2のピナレロらしいハンドリング、運動性能を実現するために東レT11001Kカーボンをフレーム素材に採用。剛性は7%アップ。重量は6.3%軽くなった。ちなみに530サイズで820gとのこと。ヘッドパーツは上が1-1/8インチ、下が1-1/2インチの上下異径。重量を軽くすることを考えれば、下ワンを1-1/4インチに小さくするという選択肢もあるが、「それではピナレロらしいハンドリングは実現できない」と、あくまでも総合力を考えた選択になっている。

3の美しさについては、先に触れたトップチューブの形状などを決定するときに、CADだけに頼らず手仕事で造形を作りこんでいった。この他にも細かいアップデートが成されている。フレーム単体ではなく、全てのパーツが取り付けられ、ライダーが乗車した状態で最も抵抗が少なくバランスが良くなるようブラッシュアップが行われた。
 

“フォークフラップ”で空気抵抗低減

走行中に一番最初に空気を切り裂くことになるフロントフォーク。その形状は空気抵抗低減に大きな意味を持つ。そこで、ボリデで採用された、フォークブレード先端の小さなフィン「フォークフラップ」がF10にも追加された。これはクイックレリーズのレバーが横方向に張り出していることによって発生する空気抵抗を、低減する効果がある。フォークブレードは前から見ると外側にゆるくカーブを描き、ホイールとのクリアランスを大きくとっている。ホイールとフォークブレードの間の空気の流れをスムーズにするためのデザインで、これはF8を踏襲したものだ。横方向のスタビリティも高い
 

新型デュラエースDi2のジャンクションにも対応

新型R9150系デュラエースDi2では、あらたなジャンクションが登場する。円筒形のそれは、フレームやハンドルバーなどに内蔵しやすいサイズ、形状を与えられており、シマノがフレームメーカーの設計自由度を向上させ、よりスマートなルックスを実現できるようにと用意した。ドグマF10は、いち早く最新規格に対応してきた。初期ロットを供給されたのはハイエンドモデルを多く販売できるとシマノからも信頼されているからこそ実現したんだとか

 

重量と空力性能のバランスを重視したシートチューブ

エアロロードの中には、シートチューブとリヤホイールの間をフレームによって埋めているモデルもあるが、F10はそれを見送った。空気抵抗低減を優先すれば確かに有効なシェイプだが、重量とのバランスを考えて不採用にしたという。ブレーキは、前後ともノーマルキャリパー。ダイレクトマウントではない。リヤはシートステーに取り付けられるオーソドックスな作り。走行性能と使いやすさのバランスが常に考えられている

よく見ると変更されているトップチューブ形状

トップチューブはドグマF10開発のなかでもこだわった部分。その形状はなにも美しさだけではない。断面形状が逆三角形のようになったボリデ譲りの形状は、水平方向に流れる空気がよりスムーズに抜けるものだ。クルマのボディデザインのように何枚ものスケッチを重ね、手仕事で形状を決めていくことで独特のラインが生み出され、それを3Dプリンタでプロトタイプに起こして最終的な形状が決定した
 

ボトルケージの取り付け位置を選ぶことができる

シートチューブ側のボトルケージ取り付け穴は3カ所ある。ボトルの取りやすさを優先するなら上2つを使う。空気抵抗低減を優先するなら下2つ側を使用するというように、ライダーが重視するポイントに合わせる懐の深さがある。ダウンチューブの形状はボトルを2本装備した状態でテストされ、12.6%空気抵抗を低減している

リヤトライアングル、シートクランプはF8を踏襲

フレーム前三角やフォークは、細かい形状変更が成されているが、後ろ三角はF8を踏襲している。その理由は「トラクション性能を考えると現状がベストだから」
フレーム前三角やフォークは、細かい形状変更が成されているが、後ろ三角はF8を踏襲している。その理由は「トラクション性能を考えると現状がベストだから」
エアロ形状の専用シートポストを採用するモデルの中には、シートクランプの固定力が不足しているものもある。ドグマF8でも採用されていたこの機構は悪路でもシートがずれることがなかった
エアロ形状の専用シートポストを採用するモデルの中には、シートクランプの固定力が不足しているものもある。ドグマF8でも採用されていたこの機構は悪路でもシートがずれることがなかった

ボトルを2本取り付けた実戦状態で高い空力性能を発揮

ダウンチューブは、フレーム単体ではなくボトルを装着した状態で空気抵抗を減らすことを目指した形状になっている。左右に小さなフィンが設けられ、ダウンチューブ側面からボトルへとスムーズに空気を流してくれる。解析図はわずかにF10のほうが滑らかに空気を流していることを示している。ちなみにテストで使用したのは、チームスカイも使用するボトルの直径が66mmとやや細いエリート製のもの。「スカイに勝利をもたらすためのバイクなので、チームが使用するパーツ類でテストをしている」と開発者は語っていた。
 

スタンダードな規格を採用する意味

BBはあえてスタンダードなイタリアン規格のスレッドタイプを採用。かつてのドグマはプレスフィットだったこともあるが、音鳴りの問題がついてまわったためスレッドに戻した。BBシェルからシートチューブのボリュームを2mm右へ増やすことでトラクションサイドが補強され、よりバランスがよくなっている
 

ピナレロ・ドグマF10

フレームセット価格/62万5000円(税抜) ※シートポスト付属
シマノ・デュラエースDi2完成車価格/118万円(税抜)

●コンポーネント/シマノ・R9150系デュラエースDi2 ●ホィール/フルクラム・レーシングクワトロカーボン ●サドル/フィジーク・アンタレスR3カーボンレール ●タイヤ/ヴィットリア ●ステム/モスト・タイガーウルトラ3K ●ハンドルバー/モスト・ジャガーXC 3K ●カラー/167 / BLACK LAVA
※1月中旬より順次入荷予定
いち早くF10の実車が確認できる店舗はピナレロ・ジャパンのウェブサイトhttp://www.pinarello.jpに掲載される。


ドグマF10の試乗記事は1月20日発売のサイクルスポーツ3月号をチェック!
 


Takehiro Nakajima_Cycle Sport Magazine about DOGMA F10 from Cicli Pinarello SpA on Vimeo.



安定した走行性能を手に入れるためにとことん突き詰められたフレーム

ニューモデルの試乗を担当するようになってから、もう何年もたつ。通常1つのモデルを試乗するのは、そのモデルが登場した最初のタイミング1回だけ、ということがほとんど。だが、F8はその1回以外にも何度か乗る機会があった。ミシュランの新製品パワーシリーズが登場したときと、フィジークの新製品発表会のときがそう。

タイヤメーカーのミシュラン、アクセサリーブランドのフィジークは、もちろん自社ブランドのバイクを持っていないので、どこかのバイクで試乗車を仕立てないといけないわけだが、そこにF8が選ばれているというのは、製品の性能を感じてもらうために信頼のおけるバイクであるということだろう。そうして何度もF8に乗るなかで、「やっぱりいいな」と思わされるのだった。性能として十分。これをF10が、どれほど超えてくるのか。

メディアキャンプ1日目。バイクフィッティングを行ったときに、ちょっとホテルの敷地内を低速で走ってみたときは、「これまたカチンカチンのフレームに仕上げてきたな」というのが第一印象で、翌日に控えた70kmのテストライドが少し不安になった。というのも、初日の空き時間にピナレロ・ガンでホテルの周辺を20kmほど走ったのだが、路面状況が良くないことを認識していたからだ。

イタリアで行われる試乗会には何度も参加していて、ちょっと舗装が悪いくらいは気にならない。それでも「南イタリアの道路はひどいよ」とウワサには聞いていたが、なるほどと思える状態で、アスファルトがひび割れている、うえに荒い。マンホールなど埋設物がことごとく路面から浮き上がっていたり、陥没しているという状況で、他のエリア以上に気を遣う必要があるのだ。ここをカリカリに研ぎ澄まされたレーシングフレームであるF10で走るなんて、想像たら口元に力が入った。

試乗当日、快晴。F10は一見するとF8と大きな違いは見当たらないが、前夜のプレゼンテーションで詰め込まれた知識をもとに見ていくと、各部形状のブラッシュアップがしっかりとなされていることに気づく。頭で感じたあとは、体で感じる番だ。実際に乗ってみた感覚に勝るものはない。各国から集まったジャーナリスト数十名と走り出す。

市街地をゆっくりと走り出す。すぐに緩やかなアップダウンが始まり、シッティングで回してみたり、ダンシングを織り交ぜながら進む。超低速で感じていた硬さは、走り出してしまうと気にならない。安定したカッチリ感で、ロードバイクの常用スピードでは路面にスッとなじんでいる。硬くて軽いが、重心が高くて路面から浮いているような不安定な感じはないし、ダンシング時にバイクを振ったときもクセがない。

F10以外のバイクにはバッタンバッタンと、バイクを振っている間の挙動が一定ではないものもあるのだ。うっかりすると走ることに集中してしまう。インプレッションするには困りものだ。バイクのことを最大限気にして走らないといけないのに。

軽くなっているし、剛性も上がっているのだろう。それでいてバランスを維持しているところに意義がある。石畳をクリアしなければいけないセクションもあった。ギヤをかけて踏み込んでいけばバイクが暴れてしまいそうなものだが、しっかりトラクションがかかり、バイクが不用意に跳ねてしまったり、路面を捉えないということもなかった。

ダウンヒルではコーナーの頂点に砂が浮いているところがいくつもあったが、限られたラインにバイクを乗せることは難しいことではなかった。下りでコーナリングが速い他のライダーに離されてしまって、立ち上がったストレートでグッと踏み込まなければならないとき、時速40km以上からさらに加速したいときなどでも、挙動は乱れない。

F8で好きだった感覚に、上りでインナーギヤを使ったときに感じるスイートスポットがある。高回転でもなくトルク重視でもない、ハマる回転数で踏めたときにスルスルとクランクが回っていくのだが、それはF10にも引き継がれているように感じた。ブレーキをはじめとした各パーツに、特殊な規格を使っていないところも長い目で見るとポイントが高い。最新のデュラエースDi2の目玉であるジャンクションに、いち早く対応しているところもポイントだ。ハイエンドバイクが所有欲を満たすためにはこういうことが欠かせない。

悪路を走ったときにシートポストがずり落ちないというのもいい。当たり前のような性能だが、いまだにオリジナルエアロシートポストを採用するバイクのなかには、まだ固定力が不足しているモデルもある。

もう一つの比較対象として挙げておきたいのは、“究極のF8”であるF8Xライトだ。重量はXライトが軽いが、価格はF10のほうが安い。ライディングフィールはF10が上。よほど重量に対するこだわりがあるなら別だが、70㎞走って感じたとてもポジティブな印象と、軽量化を天秤にかけるならF10が勝るように思う。ただ、高い完成度を誇るF8と比較して猛烈に走りが良くなったかというと、手放しに「はい」とはならない。ちょっと走ったくらいでは分からない、じわじわとその実力を思い知ることになるだろう。TTバイクとの融合によって生まれた形状は、単純にカッコいい。空力パーツごてごてのエアロロードにはない、すごみがある。イタリアンテイストを持ちながら、堅実でしっかり速いバイクだ。

 

問い合わせ先

ピナレロ・ジャパン
http://www.riogrande.co.jp/pinarello_opera/