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サーヴェロ・P5Xの秘密 T5GB開発秘話

サーヴェロのトライアスロンバイクフラッグシップモデル「P5X」。UCI競技での使用を切り捨てトライアスロンに特化することで、トライアスリートが必要とする機能を搭載、便利なバイクを実現した。その詳細を見ていこう。

記事の後半には、先のリオ五輪の自転車トラック競技においてイギリスチームにメダルラッシュをもたらしたフレーム「T5GB」の開発秘話も。
text&photo:中島丈博

見た目は奇抜だけれど



ロードはもちろん、トライアスロンシーンでも確固たる地位を築いたサーヴェロ。そのフラッグシップバイクである「P5X」は、何よりもまずそのルックスが強烈なインパクトを持っている。バイク好きなら一目見て記憶に焼き付くだろう。シートチューブ、シートステーがないV型フレームは、スポーツバイクの歴史を紐解けば、過去ソフトライドやジップ、レモンが製品として実現してきた。どれも空力性能や快適性を実現するのが目的だった。

P5Xももちろん空力性能を追求した結果たどり着いた形状ではあるが、それだけではない。今回日本でのプレゼンテーションには、開発を担当したリチャード・マシューズ氏が来日。航空宇宙産業の企業からサーヴェロに転職。P5Xの開発では重要な役割を担った。

そもそもトライアスロンバイクは、UCIのロードレース基準に適合させられるTTバイクと共用させるブランドが多かったし、それが普通だった。それはTT用とトライアスロン用を作り分けるのはメーカーにとってそれなりのコストが発生するからだ。だが、サーヴェロはよりよいトライアスロンバイクを作りたいと考えた。それがP5X開発のきっかけだ。

ロードの選手はチームに所属し、メカニックやマッサージャーのサポートがあって競技に参加する。だが、トライアスリートはそこまでに手厚いサポート受けられる選手は一部。自分で作業しなければいけない部分が多い。ロードとはちがう環境で闘わなければいけないトライアスロンバイクには、それによりマッチした機構を備えている必要があると考えたのだ。

 


P5Xの開発には3年弱の時間がかけられ、最初の1年間はリサーチに費やされた。開発スタッフは世界6つのアイアンマン大会の会場に行き、バイクパートのコースサイドで来るライダーをひたすらカメラに収めた。その数1万1000枚。

それによってどのような形状のボトルを何本、どこにどのようにして取り付けているのか、補給食は何個どこに、パンク修理キットはどこに何を取り付けているのかを分析した。

その結果、ボトルは3本取り付けられれば99%のライダーのニーズを満たすことができることが判明。そのほかに携行しているのがエナジーバー1、エナジーグミ2、エナジージェル8、塩タブレット6、チューブ2、CO2ボンベ2、タイヤレバー。

そして導き出された最も一般的なセッティングは、DHバーの間にエアロボトル、ステムの後ろに補給食などを入れるストレージ。サドルの後ろにバッグ、ダウンチューブにラウンドボトルというものだった。だがこのセッティングを採用しているのはたったの3.8%にとどまった。それ以外に688通りのユニークなセッティングがあったのだ。

ライダーに行ったアンケートによって明らかになったニーズのランキングは

1位収納
2位ラウンド形状のボトルが使える
3位自分の体にフィットする
4位フィッティングの調整しやすさ
5位空力性能
6位剛性
7位安全に会場まで持って行けること


だった。この市場調査結果を反映したトライアスロンバイクがP5Xなのだ。


 






マーケティングリサーチが終わり、開発の次のステップはフレーム形状の決定だ。

コンピュータ解析により、空力的に有利なフレーム形状が導き出された。もちろん上記の市場調査で判明したニーズであるラウンド形状のボトルを使えたり、多くの収納スペースを持つという条件を満たすことも含まれる。そのシミュレーションにはクルマの空力解析などにも使われる、ハイパーワークス社のプログラムを使用。導き出された大まかな形状を整えていくことで最終的なフレーム形状が決定された。この技術は今後の開発にも生かされていくという。ハンドル、フォークはエンヴィが、フレームはヘッドが製造に協力している。北米のカーボンスペシャリストが技術の粋を集めて作り上げたのだ。

ロード用のP5と比べるとヘッド周りの剛性は+25%。BBは特殊なフレーム形状にもかかわらず同レベル。シートステー、シートチューブがないとBBのねじれ剛性を確保するのはかなり難易度が上がる。これまで登場したビームバイクは、快適性は高かったものの、BBまわりの剛性不足という課題を抱えていた。これをチェーンステーからヘッドチューブまで1枚の大きなカーボンシートをレイアップに採用することで実現した。またフレーム全体がモノコック構造なのも剛性を確保できている大きな要因である。チェーンステー、ダウンチューブ、ヘッドチューブと別々のパーツで成型しそれを接着すると、どうしても接着部分で剛性が落ちてしまうため、フレーム全体という大きなモノコックで製造することにこだわった。ただ重量はストレージと剛性確保を優先したため+13%となっている。


 

P5Xのフレームサイズ展開は4サイズ。これでP5の7サイズ展開と同じ身長をカバーすることができる。しかもP5では一番小さい45cmサイズは650cホイールを採用していたが、P5Xではすべてのサイズで700cホイールを採用している。それを可能にしているのはハンドル周りのセッティングフレキシビリティの高さだ。ベースバー、DHバーの高さや突き出し量、バッドの高さや幅などを調整できる。

また、レース遠征につきもののバイクを梱包するときの利便性も考えられており、ベースバーが左右に分割でき、専用のストレージに入れてコンパクトにまとめることができる。作業は4mmと5mmのアーレンキーだけで行えるというのもアドバンテージだ

ブレーキシステムはディスクブレーキを採用した。それもまた市場からの要望に、制動力の必要性があったからだ。かつてはトライアスロンバイクはブレーキ性能はあまり重要視されてこなかった。だが、いまは大会でアップダウンのあるコースも増え、なにより一番多くの時間を費やすトレーニングのときに安心して走りたいというのがその理由だ。空力性能の面から見てもディスクブレーキの方が有利だそうだ。2011年から風洞実験施設において、リムブレーキとディスクブレーキを比較し、ディスクブレーキの方が優れていると判断した。特にヘッドチューブ周りにおいて顕著な差が出るという。2013年にはディスクブレーキの使用を決定していた。



P5X Disc Dura Ace Di2 R9180 完成車
価格228万円(税抜)



P5X Disc Ultegra Di2 R8070 完成車
価格/183万円(税抜)


サイズ/S,M,L,XL



 

リオ五輪イギリスチームの活躍を支えたスーパートラックバイク「T5GB」

ロンドン五輪で地元イギリスチームは自転車競技トラック種目において7個の金メダル、1個の銀メダルと銅メダルを獲得した。それを上回る結果をリオ五輪で出すという目標のため、バイク製作をサーヴェロが依頼された。モデル名「T5GB」がそれである。とにかく高剛性なフレームをというのが選手からの要望で、TTバイク「P5」の5倍の剛性を持つという。

トラックバイクの前作「T4」と比べて5%空気抵抗を削減した。わずかな差ではあるが、そのわずかな差がオリンピックでは勝敗を分けることになる。

このバイク、開発期間がわずか半年しかなかった。そのため、カーボンモノコックフレームのプロトタイプを作り、ブラッシュアップしていく作業のスピードアップが重要だった。モノコックフレームを製造する過程で必要になるモールドも、通常であれば金属の塊から削りだして製作されるが、そのモールドすらカーボンで作られた。モールドの製作はイギリスのカーボンメーカー「LENTUS」が行った。同社はモータースポーツや医療、航空宇宙産業のカーボン製品を製作している。カーボンのモールドは金属製のものと比べて、製作期間が短いというメリットがある反面、耐久性が低いので量産品の製造には向かない。今回のようなスペシャルマシンの製作には適している。

その結果、リオ五輪でイギリスチームは金メダル6個、銀メダル4個、銅メダル2個の成績を残すことができた。このバイクを手に入れたい!という人もいると思うが、残念ながら市販の予定はないそうだ。

問い合わせ先

東商会(サーヴェロ)
http://www.eastwood.co.jp/lineup/cervelo/