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【試乗レポート】ジャイアント・プロペル 完璧なディスクブレーキエアロロードを目指して

今年はジロ・デ・イタリアのトム・デュムラン総合優勝に沸いたジャイアント。続くツール・ド・フランスで、実はニューモデルを走らせていた。それが、同社のラインナップでエアロロードを担うプロペルの新型だ。フルモデルチェンジを果たし、ディスクブレーキ搭載、さらなる空力性能向上を果たした。フランスで行われたプレスローンチから、速報をお届け。

試乗レポートを追記しました。

 
text&photo:中島丈博

ディスクブレーキ搭載は必然


ジャイアントのエアロロード「プロペル」がフルモデルチェンジする。その発表会がフランスで行われると聞きつけ、バカンス真っ最中、8月のフランスへ飛んだ。
直近のジャイアントの新型発表会は台湾で行われた。ご存じの通り、ジャイアントは台湾に本社を持つ世界最大のスポーツバイクメーカーだ。そのジャイアントがなぜ新作の発表会を台湾ではなく、フランスで行ったのか。

それは新型プロペルの開発過程に深く関係している。エアロロードといえば気になるのは、その空力性能をどこでどうやって鍛えたのかということだ。スペシャライズドのように自社で風洞実験施設を持っているメーカーもあるが、ほとんどのメーカーは外部機関を利用する。

世界最大の自転車メーカーといえど、その部分は外部機関と協力して進めた。それが行われたのがフランス、マニクールサーキットにある「ACE」だ。ゆえに、今回の発表会もフランスで行われたというわけ。このサーキットではF1も開催される。

ACEは、自動車レースはもちろん、モーターサイクル、競技スキーなど、さまざまなジャンルの空気抵抗を解決するスペシャリストだ。スポーツバイク産業もそれに含まれ、ジャイアント以外にもバイクメーカー、コンポーネントメーカーが、開発のために利用している。
 

速いエアロロードを作るには

ACEの風洞実験施設。新型プロペルの開発にはバイク単体での風洞実験ではなく、ジャイアントが用意した”ペダリングできるマネキン”を用いて、ライディング時の状況をより忠実に再現して行われた
ACEの風洞実験施設。新型プロペルの開発にはバイク単体での風洞実験ではなく、ジャイアントが用意した”ペダリングできるマネキン”を用いて、ライディング時の状況をより忠実に再現して行われた
新型プロペルの開発コンセプトは、「プロペルをいかに速いバイクにできるか」だ。そのために空力性能はもちろん、高いハンドリング性能と、ペダリングパワーを高効率に推進力に変換できるかを追求した。

その目的達成の手段が、プロペルのディスクブレーキ化だと開発担当者は語る。ロードバイクにディスクブレーキを搭載する理由を説明するときに、多くのメーカーは、「UCIレースで認可が下り、プロレースのシーンで必要になる」、「時代に対応した」という説明がなされる。

だが、ジャイアントは「速いバイクを目指すためにディスクブレーキ化が最適だった」と言う。それはロードバイクの空気抵抗において、大きな影響を与える、ヘッドチューブまわり、そしてフォーククラウン周辺の空気抵抗を低減することができるからだ。

ヘッドチューブ周辺を通るワイヤ類を、操作系やハンドリングへの悪影響を少なくし、かつフレームに内蔵するのか、という問いに、ルック・795エアロライト、スペシャライズド・ヴェンジヴァイアス、トレック・マドン、スコット・フォイルなど多くのリムブレーキエアロロードバイクが挑んできた。そのことからもわかるように、空気抵抗低減において非常に重要なエリアなのだ。

プロペルは、油圧ディスクブレーキを採用することでハンドル、ステム、フレーム、フォークにワイヤ類を完全内蔵し、かつ操作が重くならない設計を実現した。

また、リムブレーキの場合、フロントブレーキキャリパーの存在が、空気抵抗発生に影響していた。そのため、ダイレクトマウントブレーキを採用したり、前作プロペルのようにフォークの後ろ側にブレーキを取り付けたりと、さまざまアプローチがなされてきた。それをディスクブレーキ化により解決したのだ。

フレーム各部の断面形状は、すべてカムテールデザインを採用。正面から風を受けているときはもちろん、サイドからの風でも空気抵抗が少なくなるよう設計されている。0度(正面)から、側方30度までの風を試したという。

フレームのみならず、ステムとハンドル、そしてホイールセットも同時に開発された。ハンドルとステムはワイヤ類を内蔵するためには不可欠。特筆すべきは、トップレンジで採用されたワイヤルート、形状が下のグレードでも共通で採用されていることだ。他社ではトップレンジで実現されているそれらの設計が、形を変えてしまうことが多々ある。なお、シートポストはISPではなくなる。

ホイールはフルカーボンチューブレスレディーホイールを採用。リムハイトは前後で違い、フロント42mm、リヤ65mmとなっている。空力性能と、ハンドリングを両立するため、フロントは42mmに抑えられている。CFD解析で35mmから65mmまで解析し、さまざまな風向きでの空力性能とハンドリング性能のバランスを考えた結果だ。
 
新型プロペル専用ステム&ハンドル。ワイヤ類が一切フレームの外側に出ない。一体型にしなかったのは、サイズの選択肢を増やすため。ただし、ハンドルクランプ部は翼断面形状なのでハンドル角度の調整はできない
新型プロペル専用ステム&ハンドル。ワイヤ類が一切フレームの外側に出ない。一体型にしなかったのは、サイズの選択肢を増やすため。ただし、ハンドルクランプ部は翼断面形状なのでハンドル角度の調整はできない
専用スペーサは後ろ半分がシリコンの柔らかい素材でできている。ステム内からフォークコラム後方へワイヤが通るので、ハンドルを大きく切ったときにワイヤを逃がすためだ。ヘッドパーツはオーバードライブ2を採用
専用スペーサは後ろ半分がシリコンの柔らかい素材でできている。ステム内からフォークコラム後方へワイヤが通るので、ハンドルを大きく切ったときにワイヤを逃がすためだ。ヘッドパーツはオーバードライブ2を採用
ステムの上側はワイヤ類が外に飛び出さないように押さえる役割を持つカバーで覆われる。指で持っているあたりは、外側へ開く扉がついていてワイヤを逃がすことができる。外してみると、ワイヤルートがよくわかる
ステムの上側はワイヤ類が外に飛び出さないように押さえる役割を持つカバーで覆われる。指で持っているあたりは、外側へ開く扉がついていてワイヤを逃がすことができる。外してみると、ワイヤルートがよくわかる
ダウンチューブの形状は、剛性と空力性能のバランスはもちろん、ボトルへいかに空気をキレイに流すかを考えられた形状。風洞実験もボトルを付けた状態で行われた
ダウンチューブの形状は、剛性と空力性能のバランスはもちろん、ボトルへいかに空気をキレイに流すかを考えられた形状。風洞実験もボトルを付けた状態で行われた
シートポストはインテグレーテッドタイプ。シートクランプは同社のTCRより1cm長くなっている。そのほうが空気抵抗が少なくなるという
シートポストはインテグレーテッドタイプ。シートクランプは同社のTCRより1cm長くなっている。そのほうが空気抵抗が少なくなるという
シートステーとリヤホイールのクリアランス。ここがタイヤ、ホイールと近すぎても遠すぎても空気抵抗を発生させてしまうという。絶妙な間隔に設計されている
シートステーとリヤホイールのクリアランス。ここがタイヤ、ホイールと近すぎても遠すぎても空気抵抗を発生させてしまうという。絶妙な間隔に設計されている
フォークの肩を前から見たところ。ディスクブレーキなので、一切突起がなく非常にスムーズな形状
フォークの肩を前から見たところ。ディスクブレーキなので、一切突起がなく非常にスムーズな形状
エアロロードのなかには、シートチューブでリヤホイールとの間をふさいでいるモデルもあるが、ジャイアントは横方向から風が吹いてくるときにバイクが不安定になるということで、採用していない
エアロロードのなかには、シートチューブでリヤホイールとの間をふさいでいるモデルもあるが、ジャイアントは横方向から風が吹いてくるときにバイクが不安定になるということで、採用していない
ホイールは前後とも12mmスルーアクスルにて固定。アクスルを操作するにはアーレンキーが必要。レバーがないのは、少しでも軽く、空気抵抗を少なくするため
ホイールは前後とも12mmスルーアクスルにて固定。アクスルを操作するにはアーレンキーが必要。レバーがないのは、少しでも軽く、空気抵抗を少なくするため
フロントブレーキキャリパー取り付け台座は、フォークブレードと一体化されたデザインになっている。他社ではまだない、非常に丁寧なつくりだ
フロントブレーキキャリパー取り付け台座は、フォークブレードと一体化されたデザインになっている。他社ではまだない、非常に丁寧なつくりだ

台湾生まれマニクール育ち

今回の試乗は2日間にわたって行われた。1日目はフランス・マニクールサーキットをフルコース使ったもの。2時間好きに走っていいというものだった。天候は晴れ、気温は28度Cほど。170cmの筆者は710(S)サイズを使用した。タイヤの空気圧は6.5barにセットした。サーキットのスムーズな路面での走行は、まさに新型プロペルの

得意とするところだと、すぐに感じた。高速コーナーはノーブレーキでクリアしても安定したコーナーリング、接地感を得ることができる。鋭い加速を実現したい場合は、自分の体格とパワーではリヤホイールがやはり重く感じる。スピードが乗り出せば、そこから先はグーッとスピードが上がっていく。ハイトの低いリムを使うことで、この部分は自分の好みにアレンジしたいところ。開発者いわく、その場合はリヤもフロントと同じハイトのホイールをオススメするとのことだった。

デフォルトの方が巡航性能は高いし、慣性を利用した速度の上げ方、維持のキモがわかれば強力な武器になる。人の後ろに付いている時はかなり休めるし。体重やパワーがもっとある人なら自分が感じたギャップも少なくなるだろう。

2日目はサーキットを離れて、ストリートへ。フランス内陸部、ぬヴェール周辺の農耕地帯をひた走り、小さい丘をいくつもクリアしていくコース。斜度は3%程度だろうが、だらだらと長い上りに加え、時折10%オーバーの短いが厳しい上りが登場する80㎞のコースだった。

ハンドリングは直進安定性の非常に強いものだ。なだらかなアップダウンが続き、コーナーは緩やかなものが多かった今回のコースにはマッチしていたように思う。ライド後半に、疲れてきてもバイクがまっすぐ走ってくれた。

気になったのは、つづら折りが続くようなコースではどう感じるかというところだ。ジオメトリーが変というよりは、ワイヤ内蔵のための専用ステムが、ハンドルを大きく切るときに少なからず抵抗になっていると考えるからだ。

ジャイアントとしては、プロペルは高速短時間ステージ向けと、そのポテンシャルを追求するために研ぎ澄ました設計を採用しているので、レースシーンでの懸念は見当外れだ。だが、どんなコースも1台で走りたいホビーライダーにとっては、理解しておきたいバイクの特性といえる。研ぎ澄まされたエアロロードが欲しい、スタイリングに惚れた。もうすでにオールラウンダーなロードバイクは持っているので、次はもっとキャラが立ったバイクがほしい。などのように考えているなら、プロペルは満足のいく買い物になるだろう。

最後に、少しだけ〝ディスクブレーキロード〞について、今自分が感じていることを少し。今回の新型プロペルをふくめ、主要ロードバイクブランド、コンポーネントメーカーのトップレンジに、ディスクブレーキがそろってきた。それらに乗ってみて、改めて感じるのは、今ここが基準になって「良いものとは何か」という、〝ディスクブレーキロードの価値観〞が形成されていくスタートラインであるということ。現状でのベストではあるが、正解とは何かをみんなが探っている。リムブレーキロードバイクにおいても、それは常に行われてきたことだが、かなり精度が上がっている。ディスクブレーキロードはこれからが面白い。

各社のリサーチ&ディベロップメント能力によって、大きくロードバイクの勢力図が変化していくことになるだろう。一人のバイク乗りとして、このタイミングに巡り会えたことは、とても幸せである。






spec&ラインナップ

■プロペルアドバンスドSL0ディスク
SIZE : 680(XS), 710(S), 740(M), 770(ML)mm
参考重量:Mサイズ完成車で7.3㎏
FRAME Advanced SL-Grade Composite ISP OLD142mm
FORK Advanced SL-Grade Composite, Full Composite OverDrive 2 Column 12mm Axle
コンポーネント/シマノ・デュラエースDi2
クランクセット/シマノ・デュラエースパワーメーター
ブレーキローター径/前後とも140㎜
サドル/ジャイアント・コンタクトSLRフォワードカーボンレール
ホイール/ジャイアント・SLR0エアロディスクカーボン
タイヤ/ジャイアント・ガヴィアレース0 700×25C チューブレスレディー
シマノ・デュラエース完成車価格/125万円(税抜)


■プロペルアドバンスドプロディスク
SIZE : 465(XS), 500(S), 520(M), 545(ML)mm
FRAME Advanced-Grade Composite OLD142mm, VECTOR Composite Seat Pillar
FORK Pro-Spec, Advanced-Grade Composite, Full Composite OverDrive 2 Column 12mm Axle

コンポーネント/シマノ・アルテグラDi2
クランク/シマノ・アルテグラ
サドル/ジャイアント・コンタクトSLフォワード
ホイール/ジャイアント・SLR1エアロディスクカーボン
タイヤ/ジャイアント・ガヴィアレース1 700×25Cチューブレスレディー
シマノ・アルテグラ完成車価格/60万円(税抜)

 

問い合わせ先

ジャイアント
http://www.giant.co.jp/giant17/