安井行生のロードバイク徹底評論第10回 BMC SLR01 vol.7

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安井BMC・SLR01-7

2018シーズンはアツい年となりそうである。ドグマF10とK10。ターマックとルーベ。エモンダ、プロペル、リアクト、シナプス、R5に785……。

各社の主力機のモデルチェンジに日本中のロード好きが話題騒然としているなか、BMCは旗艦SLR01を世代交代させた。

開発プログラム主導による前作をどのように変化させたのか。イタリアでのプレスローンチに参加した安井が報告する。vol.7

 

インテグレーションの弊害

推し進められたというインテグレーションについても聞いておこう。筆者は、チューブの自然なしなりを阻害しかねないワイヤ内蔵用の穴や、体にフィットしない専用エアロハンドルや、動力伝達性を低下させかねないトランスミッター装着用のチェーンステーの穴など、走りを侵食する可能性のあるインテグレーションはするべきではない、という立場である。ロードバイクは飾るものでも観賞するものでもなく、速く気持ちよく走るためのものだからだ。

しかし今どき「チューブに穴を開けるなんぞけしからん」などと言っていては乗れるものが一台もなくなってしまう。新型SLR01で気になったのは、ディスクブレーキ車のフォークコラムである。

安井BMC・SLR01-7

SLR01ディスクのフォークコラムの断面形状は、なんと縦に細長いのだ。コラムの両サイドにワイヤ類を通すためである。ロードマシンでの採用例があるので問題はないのだろうが、フォークのコラムといえばフレームの中でも強度と剛性が求められる所。だからかつての1インチカーボンコラムは豆腐のようにフニャフニャだったのだし、だからフォークコラムはオーバーサイズへと一気に大径化したのだ。新型SLR01の下ワン径は1.5インチと太いが、ステムからの入力点をこんなに細くしてしまっていいのだろうか。

 
Q:フォークコラムが縦長になっているが、剛性や強度に問題はないのか。

A:通常、真円のコラムには高弾性繊維は使いません。高弾性繊維は曲げると折れてしまいますし、高弾性繊維では強度と快適性が確保できないためです(炭素繊維は高弾性になればなるほど強度と振動吸収性が低下する)。新型SLRディスク版のフォークコラムは、両側がフラットになったので、そこに高弾性繊維を使うことができ、横方向の剛性が確保できました。コラムの前後部分には高強度糸を使い、強度や快適性を犠牲にすることなく通常のフォークと同じ剛性を実現しました。

 
ワイヤ内蔵のために左右面が平面になったおかげで、コラムに高弾性繊維を使えるようになり、強度と剛性を両立させたというわけだ。一応は納得である。
 
 

上から、トップチューブ、ダウンチューブ、シートチューブの内部の様子。どこにも荒れたところがなく、内壁は完璧にスムーズだ。シワやブラダーの残りカスどころかわずかなうねりすらなく、先代SLR01よりも綺麗になっている気がする。これが成形方法変更の結果(vol.6参照)なのだろうか。シートチューブ写真の左下に写っているのはフロントディレーラー台座を取り付けているリベットとボトルケージ用のボルトである。
 
 
 

ロードバイクのこれから

安井BMC・SLR01-7

では最後の質問。

Q:これからロードバイクはどのような方向に進化すると考えているのか。モアエアロか、ディスク化か。

A:消費者はインテグレーションでよりクリーンになっているバイクを求めています。インテグレーションが進んだバイクを見ると、もう古いバイクに戻りたくないという心理が働くのでしょう。だからどんどんインテグレーションが進むでしょう。
 
エアロロードでもないのに中途半端なワイヤ内蔵など百害あって一利なし。やっぱワイヤ類は外装だろう、など叫んでいるのは筆者を含めたごく一部のマニアだけということである。ショップにすべてを任せている人たちにとって、メンテナンス性の良しあしなど関係ないのだ。
 
A:ディスクブレーキに関してですが、ディスクロードはリムブレーキモデルに対して200~250gほどの重量差があるため、プロ選手は今でもリムブレーキモデルを希望します。だからディスクロードがリムブレーキモデルと同じくらいの軽さにならないと完全には受け入れられないでしょう。ディスク用のフレームもコンポーネントもホイールも、今より軽くなれば普及すると思います。エアロ化も同じ。現状、重量面でも剛性面でもノーマルロードに対してビハインドがあるので、それらが改善されれば軽くて快適なエアロバイクの方向に進化するでしょう。

 
インタビューを読んでいただければ分かると思うが、とにかく真面目で正直なメーカーである。新しいブレーキシステムを採用し、強度も剛性も快適性も上がっている(少なくとも計算上は)のだから、もっと消費者心理に訴えかければいいのだ。これが某ビッグメーカーであれば、「我々の絶え間なき努力と技術の進化によって全ての性能を大幅に進化させ、史上最高で最速で究極の完璧な一台が完成した」くらいは言いながら大々的にプロモーションしガンガンにアピールしまくるところだろう。おかげで筆者は広報資料とプレゼンの文言をハナから疑ってかかるという癖がついてしまったくらいだが、しかしBMCはあくまで控えめだ。弱点だった制動性能と強度を向上させた結果、BB剛性が上がって幸運なことに加速性能も良くなった、と淡々とした説明に留まる。目的は強度&制動性能向上のみだったが、たまたま動力性能も向上したからそのまま行ったのだ、と。

そこまで正直に言わなくていいのに、と思う。ライター泣かせといえばそうだろう。もっと声高にアピールしてくれれば、それを書き連ねることで指定された文字数を簡単に埋めることができる。しかしそういう単語の羅列に辟易している読者も多いことだろう。個人的には、BMCのように正直に話してくれた方がよっぽど凄みがある。

 

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