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【1カ月で磨くヒルクライム力】part1・呼吸法&水分補給 編

ヒルクライムイベントにエントリーはしたけど練習できてない。気づけば本番まであと1カ月…..そんなあなたに向けて、驚くほど簡単にヒルクライム力が向上するポイントを紹介しよう。 

今回は「呼吸法&水分補給」編、「ペダリング術&ペース配分」編に分け、〝1カ月で効果が出るヒルクライム上達術〞をレクチャーする。

 
text:安井行生 photo:吉田悠太、茂田羽生

ポイント1:ヒルクライムに効く呼吸法

1年ぶりのヒルクライムイベント。ここ数カ月は忙しくて練習できていないが、数日前に練習コースの坂を本気で上っておいたから何とかなるだろう。

イベント前日、クルマに乗って高速道路で山奥の開催地へと向かう。渋滞したときのことを考えて水分は控えめにしておかねば。現地に着き受付を済ませたら、出展しているブースを回って新製品をチェックする。夕方、自転車仲間とビールジョッキを数杯空け、夜は温泉にゆっくり浸かって明日の本番に備えよう。 

いよいよ当日。できればいい位置からスタートしたいので、急いでアップを済ませてスタート地点に早めに並んでおく。スタート直前、エネルギージェルを2本飲み干す。これでエネルギー補給も万全だろう。トップ選手を見習ってボトルは持たずに行く。スタートの号砲が鳴ると、ライバルが飛び出していった。必死に食らいつく。心拍はいきなり最大近くまで上昇し息も上がってしまうが、ペダルを思いっきり踏む。ここで引いちゃ男がすたる!  

さて。実はこれ、全てヒルクライムNG集である。列挙した行為の全てが、あなたのヒルクライム力を下げているのだ。これは、正しい知識を身に付ければタイムがグンと縮まる可能性がある、ということでもある。教えてくれたのはシクロパビリオンのインストラクター2人。今年こそ、自分の実力を存分に発揮させよう。

 
相川 将さん:シクロパビリオンのチーフインストラクター。ブリヂストンアンカーなどに所属していた元選手。フランスでのレース経験も豊富。
相川 将さん:シクロパビリオンのチーフインストラクター。ブリヂストンアンカーなどに所属していた元選手。フランスでのレース経験も豊富。
香立武士さん:シクロパビリオンのインストラクター。元選手で経験豊富なベテラン。各種プログラムのコーチングも務める理論派。
香立武士さん:シクロパビリオンのインストラクター。元選手で経験豊富なベテラン。各種プログラムのコーチングも務める理論派。
シクロパビリオン
〒355・0071 埼玉県東松山市新郷442-4
営業時間:10時~18時
定休日:火曜日・水曜日(祝日の場合は営業)
TEL 0493・59・8400
シクリズムジャポン

ツールを目指すエキップアサダを母体とする総合サイクルステーション。初級者、中級者、上級者向けに各種イベントやレクチャーメニューを用意するほか、施設には広々としたシャワールームなども完備する。
 

上りでは息が切れて浅い呼吸になりやすい

苦しい上りでは、誰もが息が上がって浅く速い呼吸になってしまいがちだ。しかし、それではせっかく吸った空気が肺まで届いていないかもしれない。

浅く速い呼吸だと吸った空気の一部しか体内に取り入れられず、パフォーマンスが落ちてしまいます。しっかり吐ききり、大きく吸うことが大切。そうすれば吸った空気を効率良く体内に取り入れられ、パフォーマンスの向上が見込めます」と相川さん。

香立さんも「浅い呼吸だと、感覚的にも肺に届く空気の量が少なく感じます。横隔膜をうまく使う意識で深く大きい呼吸にすると、酸素を取り込む量が増え、ヒルクライムのような有酸素運動に有利になります」と言う。 

実はこれには医学的な裏付けがある。 「苦しいときに深い呼吸をしようとすると、腹部の筋力や柔軟性が必要です。自転車に乗っていないときにも深い呼吸を意識して、呼吸に必要な筋肉を養っておきましょう」(香立さん)。

普段の練習 から『大きく吸って吐ききる』ということを意識しておくといいでしょう。僕がお客さんに教えるときは『ため息をつきながら走ってください』とか『ヒルクライムしながら深呼吸を続けてください』 と言っています」(相川さん)。  

酸素は〝走る力〞の源だ。その酸素を取り入れる呼吸法を見直せば、ヒルクライム力が根本から改善される可能性がある。しかも呼吸法は難しい技術も苦しいトレーニングも必要なく、明日から実践できる。試さない手はないだろう。

 
「浅く速い呼吸」ではなく「大きく深い呼吸」。これがパフォーマンスアップのカギ
「浅く速い呼吸」ではなく「大きく深い呼吸」。これがパフォーマンスアップのカギ

吸った空気のうち半分がムダになっている!?

死腔となる部分(約150mℓ)
死腔となる部分(約150mℓ)
「深い呼吸」にすると、なぜパフォーマンスがアップするのか 
人間は体内に酸素を取り入れるために空気を吸うが、1回の呼吸につき、約150mℓが口腔、鼻腔、気管、気管支に残り、肺まで届かない。どれだけ空気を吸っても、1回の呼吸につき150mℓはムダになってしまうのだ。これを「死腔」という。

よって、 回数が増えれば増えるほど(速い呼吸になればなるほど)吸入量に対するムダな空気量の割合が増えてしまう。浅い呼吸を多く繰り返すよりも、回数は少なくても深い呼吸をしたほうが、酸素を効率よく取り入れることができる。要するに摂取する酸素量を増やすには、呼吸の回数より呼吸の量が大切なのである。
 

○ 深い呼吸

600mℓの呼吸を1分間に15回行った場合
吸気量:1回600mℓ×15回=9000mℓ
死腔:150mℓ×15回=2250mℓ 
肺に届いた空気量:9000mℓ —2250mℓ=6750mℓ 

●吸気量が1回600mℓの深い呼吸を1分間に15回繰り返した場合、吸い込む空気量は浅い呼吸と同じ(600mℓ×15回=9000mℓ)だが、ムダになる空気は150 mℓ×15回の2250mℓで、肺の中まで届いた空気は9000mℓ-2250mℓ=6750mℓとなる。「浅い呼吸を30回」より「深い呼吸を15回」のほうが効率がいいのだ。
 

× 浅い呼吸

300mℓの呼吸を1分間に30回行った場合 
呼気量:1回300mℓ×30回=9000mℓ
死腔:150mℓ×30回=4500mℓ 
肺に届いた空気量:9000mℓ—4500mℓ=4500mℓ

●吸気量が1回300mℓの浅い呼吸を1分間に30回繰り返したとすると、吸う空気は300mℓ×30回の計9000mℓだが、死腔によって呼吸1回につき150mℓが気管を出入りするだけなので、150mℓ×30回の計4500mℓがムダになっている。この場合、肺に届いているのは吸気量の半分、4500mℓしかなかったことになる。
 

深い呼吸が良い連鎖をも生み出していく!

大きく深い呼吸〉はライディングフォームにもメリットがあるという。

「浅い呼吸だと肩が上がって首まわりが固まってしまい、力みが生じて浮き足立ったライディングフォームとなってしまいます。また、腕でハンドルを突っ張ってしまうのでハンドル荷重になってしまい、乗車バランスが崩れてしまうんです。大きく深い呼吸にすることで、肩まわりの力みが抜け、感覚的に重心が下がり、お腹まわりに力を入れやすくなります。また、焦って気持ちが浮わついて効率の悪い走りになるのを防ぐ、つまりリラックスした走りもしやすくなります」(相川さん) 
 

ふだんから深い呼吸の意識付けを

パワーブリーズ プラス
価格:各9000円(税抜)

●香立さんによると、呼吸に必要な筋肉が不足しているとキツくなったときに深い呼吸がしづらくなってしまうそうだ。そこで、呼吸筋の強化に彼が薦めるのがパワーブリーズだ。こうした筋肉のトレーニングになるうえ、胸の柔軟性も上がるのでかなり呼吸がラクになるという。また、即効性があり1カ月前からでも使っていると効果が出るそうだ。初めてならブルーの中負荷タイプを選ぶと良い。なお、レッドの重負荷タイプはトップアスリート向け。

問・エントリージャパン  03・5362・3383 

 
軽負荷(グリーン)
軽負荷(グリーン)
中負荷(ブルー)
中負荷(ブルー)
高負荷(レッド)
高負荷(レッド)

ポイント2:水分補給するだけで速くなれる

思わぬ盲点、「脱水」 
練習ではそこそこ走れるのに、本番では思ったようなタイムが出せない。多くの人が経験する〝ヒルクライムあるある〞だ。

それを「本番に弱い」などと言うが、実は脱水状態が原因であることが多いのでは、と香立さんは言う。「ヒルクライムレースでは、ほとんどの人が本来の実力を発揮できていないと思います。理由として一番多いのが脱水状態です。個人的な印象ですが、某有名ヒルクライムイベントの参加者を見ていると、半数以上は脱水状態になっているんじゃないかと感じるくらい

実はこれ、走行中に水分補給をしなかったから、という単純な話ではない。ヒルクライムイベントに参加することそれ自体が脱水状態を呼び込みやすいのだ。原因その1は移動時に乗るクルマ。車内はエアコンで乾燥しているうえ、乗車中は喉が渇いてもドリンク類を購入できないし、トイレの心配もあって水分を控える人も多い。クルマでの長距離移動は脱水状態になりやすいのだ。

開催場所に到着しても脱水は止まらない。原因その2は標高だ。ヒルクライムイベントは標高の高い場所で開催されることが多いが、高地にいると人は脱水状態になりやすいのだ。到着後、受付を済ませてから各メーカーのブースを回ることもヒルクライムイベントの楽しみの一つだが、高地の屋外で歩き回っているとさらに脱水が加速する。 

 

本番で実力を発揮するには
前日のアップで運動を始めると発汗により脱水状態はさらに悪化。夕食後に自転車仲間とビールを飲んだり(アルコールには利尿作用があり、尿と一緒に大量の水分が排出される)、イベント開催地には良くある温泉にゆっくり浸かったり.....そうしているうちに、あなたの体内からはどんどんと水分が抜けていく。ヒルクライムイベ ントには、脱水状態になる条件がそろいにそろっているのだ。日常生活と同じ感覚でいると、いとも簡単に脱水状態になってしまう。

おそらく多くの人は、日常生活と同じくらいの水分量しか摂取していないはず。それだと全然足りません。だから多くの参加者は知らず知らずのうちに脱水状態になってしまい、肝心の本番で実力を出し切れないんです

さらにやっかいなのは、脱水症状には曖昧なものが多く(力が出なくなる、喉が渇く、頭が痛い、集中力がなくなる、ボーッとする、脚がつるなど)、自分でも気づきにくいということである。

普段から運動していない人ほど脱水に対する危機意識は希薄です。救急車を呼ぶかどうかというレベルの脱水状態になっている人でも自覚症状がないことも。自分では気づかないから、毎年同じ過ちを繰り返してしまうんです

ということは、水分補給に気をつけてヒルクライムに挑めば、過去最高のタイムを出せる可能性が大いにある、ということだ。 
 

意外な盲点! 脱水状態になる原因

1. 会場までのクルマ移動
クルマの車内の空気はエアコンで極度に乾燥しており、体内から水分が出ていきやすい。さらに、窓からの輻射熱や運転の緊張などによって汗をかきやすい状態になっている。高速道路では、トイレを気にして水分を控える、喉が渇いてもドリンクを購入できないなど、水分を摂取しにくい状況が続きがち。クルマでの長距離移動は脱水状態になりやすいのだ。 
 
2. 標高の高さ
標高の高い場所は平地に比べて空気が乾燥しており、肌から水分が失われていく。さらに、酸素が薄いので呼吸回数が増え、平地に比ベ呼気に水分が多く含まれて体外に出てしまう。高地にいるだけで、人間は水分を失っていくのである。 
 
3. 温泉での発汗
ヒルクライムイベントの開催地は温泉で有名な場所も多いが、入浴も脱水の原因になる。15分程度の入浴で人は800mℓもの汗をかくといわれている(湯温41°Cの場合)。しかも、入浴しているので大量に発汗しているという自覚がない。 
 
4. ブース見学
ヒルクライムイベント会場にはメーカーブースが設置されていることも多い。ゆっくりと見て回るのは楽しいものだが、気をつけないと、どんどんと水分が出ていってしまう。標高も気温も高い場所ならなおさら注意が必要だ。 
 

脱水状態を防いでパフォーマンスアップ!【イベント前日編】

1. 少しずつ水分を 摂り続けよう。 前日に2〜3ℓは必要
では、脱水状態を防ぐにはどうすればいいのか。「レース直前に水をガブ飲みしてもダメです。一気にたくさん飲んでも体に吸収されません。イベント前日からちょっとずつ水分を多めに摂っておいて体内に水を蓄えておかないと」(相川さん)。

香立さんも「前日から意識して水やスポーツドリンクを多めに摂取しておけば防ぐことができます。私がレースに出るなら、前日に2〜3ℓは飲むと思います」 
 
2. クルマに長時間乗るならペットボトル2本は必須!
「移動でクルマに乗るときは、コンビニで2ℓのペットボトルを2本買って、車内で少しずつ飲んでください。同じ味だと飽きるので、一本は水、一本は吸収されやすいスポーツドリンクがいいでしょう」(香立さん)。

「ヨーロッパでレースをやっていたとき、クルマに乗って遠征に行くんですが、選手はみんな2ℓのペットボトルを2本持ってクルマに乗るんです。車内でちょっとずつ飲みながらレースに向かっていました」(相川さん) 
 
3. 利尿作用のあるものは避け、冷たいものの飲み過ぎに注意
「緑茶やコーヒーは利尿作用があるので避けたほうがいいでしょう。また、冷たいものばかり飲んでいると胃腸が弱り水分を取り込みにくくなってしまうこともあるので、お腹が弱い人は温かいものを飲むなどの工夫を」(香立さん) 
 

脱水状態を防いでパフォーマンスアップ【イベント当日編】

1. 当日も水分補給を欠かさずに。長いレースならボトル2本を 
当日も水分補給を意識することが大切だという。「当日も朝から水分補給をしてください。朝起きて宿を出るまでに水を飲んで『トイレに行きたいな』という状態になればとりあえずはOK。そのあともスタートまでチビチビと飲んでおきましょう」(香立さん)。

もちろん、レースを走っている最中も補水は必須だ。「バイクが重くなるからといってボトルを持って行かないのはNG。失敗します。走行時間が1時間半を 超えそうなら、ボトルを2本は持って走るように。暑い日なら、一本はポカリスエットか電解質パウダーがお薦め。もう一本は水にして体を冷やせるようにしておくといいでしょう。コース途中に給水ポイントがあるなら、ボトル一本で走り出し、給水所で補充するやり方もアリだと思います」 
 
2. ボトルなしでOKなのはトップ選手だけ 
「上位に入るようなトップレベルの選手であれば、レース時間も短いのでボトルを持たずに走ってもいいかもしれませんが、それを一般の人がまねしてはいけません。走る時間が違いますから。速い人でも、レースが1時間を超えるようであれば、ボトル一本は持っていたほうがいいと思います。ボトルを持たずに走るというのは、体調管理を含めた調整がちゃんとできていて、スタート前にも正しく補給ができているごく一部の速い人が、イチかバチかでやる戦法です」(香立さん) 
 

脱水状態かどうかを判断する方法

「曖昧な指標かもしれませんが、水を飲んでトイレに行きたくなるようであれば体内に水分がたっぷりある状態だということ。水分が不足しているときは、水を飲んでもトイレに行きたくなりません。体重を目安にするのもいいでしょう。普段の体重から1kg減っていれば脱水状態になっていると思ってもらっていいでしょう。体重を測り、普段の体重と変わらないように補水しましょう。排便の前後や食事の前後などで体重 は大きく変わるので、測るタイミングを決めておくこと。ただ、宿泊先に体重計があるとは限りませんし、宿の体重計が正確だとも限らないので、できれば自分で使っている体重計を持っていったほうがいいかもしれません」(香立さん) 
 

オススメアイテム

香立さんが水分補給にお薦めするのはメイタンの電解質パウダー。
「これはかなり効きます。脱水状態で動けなくなっている人でも、これを飲んでもらうとびっくりするほど回復します。レース中に効果を実感して愛用する選手も多いですよ。欠点はそんなにおいしくないところ(笑)」

メイタン・電解質パウダー
価格:700円(10本入り・税抜)
問・梅丹本舗  072・637・5677 
 


【トレーニングなんていらない ! ? 1カ月で磨くヒルクライム力】ペダリング術&ペース配分 編