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メーカーのロード開発担当?プロレーサー? その両方です!? 『夢のような仕事を兼業』するキャメロン・パイパーにインタビュー
2018.06.25
TOJ2018に参戦していたチーム・イルミネートとは?
2018年のツアー・オブ・ジャパンに参戦していた《チーム・イルミネート》。昨年からTOJに参戦、真っ黒のチームウェアを着てスポンサーロゴを出さないことで話題ともなっているこのチームだが、その実力も確かなものであったのが、今年のTOJで証明された。チーム員はいくども表彰台に上がり、最終の東京ステージではチーム員のマルティン・ラースが優勝、チーム総合は3位となった。
そのチームに、キャメロン・パイパーという選手がいる。個人総合成績10位、各ステージでいうと、堺6位、南信州8位、富士山9位、伊豆8位と、表彰台に登らないまでも確実な成績を残し、またレース中には何度も集団の牽引役となってアナウンスに名前を呼ばれていた。
ただ、その名前を発するMCも、それを聞く観客もレース関係者もおそらく知らなかったことがある。実は彼こそが、そのチームイルミネートのライダーが、そしてパイパー自身が乗る製品群の、のみならずスペシャライズド社のロードバイク製品の開発・発売を行っていることだ。キャメロン・パイパーは、プロのロードレース選手であるとともに、スペシャライズド社のロード製品マネージャーなのである。
本人も言う。「夢のような仕事を、しかも兼業できるなんて、最高だよ」キャメロンに、どうやってそんな状況に身を置けたのか。憧れの、夢のような兼業の実際を聞いた。
CS:ロードレースを始めたのと、スペシャライズドで働くようになったのはどちらが先?
パイパー:「もともとトライアスロンから始めました。スペシャライズドで働くためカリフォルニアに行く前、大学時代からトライアスロンをしていました。ですから自転車の業界で働きたくなったのは自然な流れでした。
実際働くと、カリフォルニアの道路は素晴らしいし、スペシャライズドではお昼のランチライドで気持ちをリセットできます。そんな中で、速い仲間と一緒に走って経験を積み、2015年にロードレースに本格的に出ることにしたんです」
CS:では、どのようにしてスペシャライズドで働くように?
パイパー:「大学では機械工学を専攻していました。トライアスロンをしていたことから自転車の業界で働きたいと思い、4年生の時にスペシャライズドで4週間のインターンシップに申し込みました。
そこで、インテグレーテッドテクノロジーの責任者クリス・ユーや、現マーケティング主任のマーク・コーテと一緒に、風洞施設『ウィントンネル』で働くことになりました。ウィントンネルでは施設管理、あらゆるテストの手配とスケジュール調整、インフラ整備を担当しました。
製品のメリットを熟知しなければならないので、ウィントンネルでフェンダーや通勤用アパレルの空気抵抗までテストしたんですね。ちなみに、ウィントンネルは2013年に設立され、先日、設立5周年を迎えました。
また、開発チームにも加わって、バイク業界のイロハを学びました。製品開発チームやプロアスリートたちと毎日試行錯誤し、製品性能を洗練させたんです。このインターンシップですっかりスペシャライズドが気に入って、大学卒業後もそこで働きたいと思ってアタック。2014年の夏にエアロ研究開発の技術者としての仕事を得ました」
CS:今、スペシャライズドではどんな仕事を?
パイパー:「今はロード部門の製品マネージャーをしています。新製品を発表するたびに、また、レースで世界各地に行くたびに、各国のマーケットにどんな製品が適しているのかを調査しています。
僕らが好むものをお客さんにも気に入ってもらうため、次にサイクリング界でヒットするものを感じ取れなくてはいけません。この仕事を始めてから、開発段階の製品を研究していた頃より、ビジネスを深く学べるようになりました。
また、トンネルで、トライアスロンバイクのシブやタイムトライアルバイクのシブ TTのパフォーマンス向上にも励んでいます」
CS:例えばこんな遠征中に、会社員としてどのように仕事を?
パイパー:「普段は朝起きてからオフィスに行って仕事をし、昼間はバイクでトレーニング、そしてまた仕事に戻っています。
でもそれはここ日本にいても同じで、起きたらまず、カリフォルニアの本社に連絡し、近況を報告、それからレースに出て、終わればまた仕事をします。レースも仕事の一部だと思うので、ずっと働きっぱなしです。
来日してから1週間が経ちましたが、仕事をちゃんとこなし、連絡さえしていれば、会社からは何も言われません。普通、『夢のような仕事』をしながら、あちこち回ることは難しいですが、僕は幸運にもその両方をこなせる環境にあります」
CS:では、チームイルミネートに入った経緯は?
パイパー:「スペシャライズドに入社した後、2015年にロードレースへ本格的に出始めました。参戦1年目は、レースの感じを掴みながら、一番下のクラスから始めてカテゴリーの昇格を目指しました。2年目の2016年には、全米タイムトライアル選手権のアマチュア部門で優勝できました。まだ新人でしたが、サイクリングの世界が開けたように感じました。ステージレースにもいくつか出る中で、今のチームイルミネートとつながることができ、2017年にチームに加入しました」
CS:あなたは、チームでは、どんなライダー?
パイパー:「ステージ優勝や総合優勝を狙えるチームメイトのサポート役に回ることが多いです。タイムトライアルが得意ですが、ステージレースで上位を狙えるよう、オールラウンドな走りができるようになりたいです。まだまだロードレースの経験は浅いです」
CS:そもそも、チームイルミネートは、なぜロゴを出さない?
パイパー:「今は、この選手と言えばこのブランド、と言うように、誰もが選手をあるスポンサーと結びつけがちな時代です。ただそれだと、選手が他チームへ移籍してしまうと、またゼロからイメージの積み直しです。でも、僕らチームの目標は、グローバルチームのようなサイクリストのコミュニティを作ること。ですから、そのようなイメージの結びつけを生んでしまうスポンサーロゴが前面に来ることはないのです」
CS:本当にそれでOK?
パイパー:「スポンサーは、僕らのチームの理念に共感してくれています。ロゴは表に出さないけども、別の形でしっかり貢献しているからです。例えばBrytonのGPSについて聞かれたら、最高だよ、イケてる製品のおかげでライダー同士がつながれるんだ、と伝えています。
チームイルミネートは、スポンサーとの距離感が独特です。スポンサー企業を、物品を提供してくれる会社ではなく、協力し合うパートナーと捉えているんです。僕らは製品の改良に協力し、彼らに成功してもらいたいと願っています」
CS:どのようにして?
パイパー:「世界中のライダーがチームに加われるよう、チームのウェブサイト<illuminatethebike.com>にメンバーシップ・プログラムが用意されています。年会費を払ってチームメンバーになると、最新情報や、僕らがレースで使うウェアや製品を買えるようになります」
CS:では、あなたの自身の戦歴は?
パイパー:「今年はプロ活動2年目で、シーズン最初のレースでコロンビアに行きました。このレースは、僕が今まで出た中で最も難しかったです。と言うのも、ワールドツアーに参戦しているチーム・スカイ、僕も一緒に仕事をしているクイックステップフロアーズなども出ていたから。
今シーズン2戦目は、ツールド台湾でした。去年もこのレースに出て、日月潭(サンムーンレイク)でのクイーンステージ(第4ステージ)で、2位になりました。これは、UCI レースの中で自身の最高記録ですね。あとちょっとで優勝でしたが、この結果には満足しています。
先月は、3戦目のレースでタイに行きました。チームは3ステージ連続で優勝でき、走りや団結力が高まってるなと感じました」
CS:ツアー・オブ・ジャパンはどうですか?
パイパー:「今年4戦目がこのツアー・オブ・ジャパンです。このレースには初めて参加しました。日本特有の道路や登りに、チームの力が追いつけていないように思います。ですから毎日が学びです。たまにミスをして、順位を落としてしまいます。コースに不慣れなので、一歩下がって様子を伺いながら走っています」
CS:バイクはやはりスペシャライズドですね?
パイパー:「今年のフレームはスペシャライズド・ターマックSL6。メインコンポはシマノDi2で、4iiiiのパワーメーターをクランク両側に付けています。ホイールはロヴァールを使っています。このホイールやターマックのフレームは、個人的に開発に関わった製品なので、使えるのはやっぱり嬉しいです。
他にはIRCのタイヤと、ブライトンのGPS デバイスを使います。今年の機材は素晴らしいです」
CS:現在、2つの仕事をしていることについて。
パイパー:「スペシャライズドでフルタイムの仕事をしているので、レース参戦はお金を稼ぐ仕事、という位置づけにしなくてもいいのが幸運だと感じています。レースは仕事というよりむしろ、経験を積みながら楽しめるものという位置付けです。
自転車に乗るのが仕事ではありますが、そもそもは情熱や趣味からスタートしているので、バイクに乗るイコール仕事だとは考えていません。とにかくバイクに乗るのが好きすぎて、雨でも寒くても、乗れれば幸せです」
CS:ツアー・オブ・ジャパン後のスケジュールは?
パイパー:「レース後は、スペシャライズド・ジャパンで、製品発表や今年取り組んでいるものをプレゼンする予定です。カリフォルニアの本社がスペシャライズド・ジャパンをどのようにサポートしていけるかを伝えます。本社に居ると、日本のマーケットを知るのが難しいので、良い関係を築きたいと思います。世界各国で成功するためには、現地の実情を知らなくてはなりません。
僕は製品マネージャーですが、今回はチームイルミネートのプロレーサーとして日本に居られるため、両方の意味で、とても貴重な経験になっていますね」