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サイクルスポーツ編集部・滝沢のツール観戦日記 ~1日目~
レース
2018.08.03
やはりレースは現地で観戦するのがいい。楽しさが一味も二味も違う。ぜひ今後の現地観戦に向けての参考に読んでみてほしい。
text&photo:滝沢 佳奈子
逃げるようにフランスへ
パリで乗り換え待ちの間に現地の新聞、レキップ紙を手に入れ眺める。前日の65kmの超ショートステージでプリモシュ・ログリッチェ(ロット・NLユンボ)を先頭にゲラント・トーマス(チームスカイ)、トム・デュムラン(チームサンウェブ)の順で走っている様子が1面だった。中面には、ナイロアレクサンドル・キンタナ(モビスター)が区間優勝を飾る写真。トゥールーズ空港へと向かう乗り換え待ちの間にも、現地に行ける楽しみが高まるばかりであった。
トゥールーズ空港に現地時間20時に到着し、迎えの車に乗り、翌日第19ステージのスタート地点であるルルドへ向かう。迎えに来てくれたフランス人ドライバーによると、フランス人は期待を寄せるロマン・バルデ(AG2R・ラモンディアル)の優勝はないと判断し、すでに来年に向けて切り替えているんだと話していた。切り替えが早いものだ。
22時頃にルルドに到着し、部屋の鍵をもらう。神聖なルルドの町には観光客も多く、夜でも賑わっていた。何時までやっているのだろうというお土産屋さんで明日のための水を買い込み、すぐに床についた。いくらでも寝られる気がした。
いざ決戦の場へ
早めに交通規制が入ってしまうため、スタートを見ずにルルドの町を抜けると、すぐにトウモロコシ畑や牛や馬などがあちこちに見える雄大な景色が広がった。50分ほど車に揺られると、いよいよトゥルマレ峠の看板が見えた。
今回のツアーでは、麓で自由解散ではない。なんと山頂のレストランをツアーのために貸切にしてくれたのだ。一気に森林限界を迎えた山頂まで車で上がり、朝8時過ぎには山頂のレストランに到着。トイレや荷物の置き場にも困らないという観戦者にとって、もうまるで夢のような環境であった。
キャラバン隊が来るのは13時半の予定。だいぶ時間があった。でもその間も飽きることはなかった。レンタルバイクがあったからだ。選手たちが走るコースを一部でも走れる機会なんてそうない。ツアーの女性のお客さんたちはeMTBをレンタルし、無理のない範囲でトゥルマレ峠を楽しんでいた。
ツアーの皆さんのおまけで自分もロードバイクをお借りし、山頂から少し下ってヒルクライムをしてみた。下がりすぎると規制がかかってしまうのと、ヒルクライムは苦手中の苦手であるため、これくらいなら大丈夫だろうというところまで下る。
ヨーロッパはeMTBの普及率が高く、余裕そうな表情で上っていくその姿は本当に羨ましく感じた。しかし、短距離であろうと自分で上ってみると、テレビで見ているだけでは伝わりにくいキツさとともに選手たちのすごさを感じることができる。それを感じた後に観戦するのは本当にお勧めしたい。何倍も楽しくなるはずだ。
地元らしき観客の中には、何度も何度も峠を往復している人もいた。特にモビスターのジャージを着ている人がどえらい速かった……。
一旦、山頂のレストランに戻り、郷土料理とデザートまでいただいてキャラバン隊の到着を待つ。その間にツアーの参加者たちは、贔屓の選手を応援するためのバナーやアピール用の日本国旗を持参し、見やすいようにレストランの塀に設置していた。
大きな歓声とともにガンガン鳴り響く音楽が聞こえてきた。お祭りの始まりだ。キャラバン隊へのアピール合戦が始まる。分散して立ち、手を振ったり声を出したり、グッズを配るお兄さん・お姉さんの注目を集めようとする。他にも大勢人がいるので、ほとんどが失敗するがたまに成功する。それがなんとも楽しい。
危険防止のために、現地の警察官が沿道に立ち、ここから出ないようにと注意をする。時々、道のど真ん中にグッズが落ちることがある。観客は入ると怒られるので、警察官が拾う。そういう時は頑張って警察官と目を合わせようとするとくれたりする。そんなことをして楽しんでいたらあっという間にキャランバン隊は通り過ぎて行った。
キャラバン隊を見送った後、選手たちが来るまでに良さそうな観戦場所を探す。山岳ポイント地点の山頂もいいが、やはり上ってくる姿を見たいところ。ツアーのお客さんと一緒に、見晴らしが良く下から上ってくる様子が見える400mほど下った地点に陣取った。
ツールのHPで現在の状況を見ながら、今か今かと選手が来るのを待つ。ヘリコプターが近づき、周りの観客たちもざわざわとし始める。チームカーやサポートカーも通り過ぎ、いよいよ遠くの道に逃げの選手が見えた。徐々に観客のボルテージも上がっていく。
山岳賞ジャージを着るフランス人、ジュリアン・アラフィリップ(クイックステップフロアーズ)も逃げグループに入っていたため、それはもう大盛り上がり。自分もさっき上った、つらいはずの上りを信じられない速さで駆け抜けていくと、ミケル・ランダ(モビスター)ら有力メンバーが追走をかけていた。こちらの追走もフランス人期待のバルデが入っていたことによりさらに観客が沸いた。
そこから数分、チームスカイ率いるメイン集団が通り過ぎるとテレビで見るようにブーイングが聞こえてきた。(路面には「ランス・アームストロング=クリス・フルーム」と注射器のイラストいうペイントもあったり……。)
中でも歓声が一番大きく聞こえたのは、グルペットからさらに遅れてダニエル・オスらチームメイトに守られながら走る世界王者ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)が通過した時だった。地鳴りのような大きい歓声とともに見送られたサガンは、見たことがないようなつらそうな表情をしていた。
ふとした旅先の出会い
山頂に戻ると、交通規制の兼ね合いもあり、自転車・車ともにヒルクライムイベントさながらの下山待ちの行列ができていた。ツアーの参加者たちは、列に混じって自転車で選手の進行方向と同じ方面へ数km下った。
自分は来た時と同じ車に乗って写真を撮っていたが、一度合流場所として停まった駐車場で、参加者のeMTBを借りて乗ってみたら面白くてしばらくはしゃいでしまった。それを見た参加者の一人が「これ使っていいよ」と自分のeMTBを貸してくれた。ありがたくお借りし、さらにみんなでもう少し下る。もちろんディスクブレーキで安定感は抜群。日本とは異なる海外の道を走るのは、とんでもなく楽しかった。
途中、LiDL(ヨーロッパにあるスーパー)のバナーが垂れ下がっていて、クイックステップフロアーズのボブ・ユンゲルスとジュリアン・アラフィリップの写真が見えたので気になって停まって写真を撮っていたら、奥で観戦会をしており、「ほら、これあげる! 友達の分も!」と冷えたビールを2缶差し出された。「ノンアルコールだから!」と付け加えられ、ジャージのポケットに押し込む。他のおばちゃんにも「バナナいる?」と言われたがさすがに持てないので、ありがとうと断った。
こんな出会いも現地観戦ならではである。前を走っていた参加者にノンアルコールビールを1缶渡し、駐車場に戻って車に乗り込んだ。車に揺られながらレースの情報や景色を見つつ、連泊しているルルドのホテルに帰った。
ホテルに帰還後は、有志でルルドの泉へ観光に。添乗員さんにルルドの泉や教会の説明をしてもらいながらまわって、その後に夕食。丸一日大満足なツアーで、自分はもちろんのこと、お客さんたちも楽しそうな様子だった。