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静岡県西部を横断する天竜浜名湖線「輪行モニタリングツアー」参加レポート

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■鉄道ファンの聖地からサイクリストの聖地に

天竜浜名湖線(天浜線)は静岡県内の掛川駅と新所原駅とを結ぶ全長67.7kmの鉄道で、単線の軌道をディーゼル車両が走るいわゆるローカル線のひとつである。海側を往来するJR東海道線とはほぼ並行。事実、前身となる国鉄二俣線は第2次世界大戦当時、艦砲射撃によって東海道線が不通になった場合の迂回路という役割を担っていた。

多くのローカル線と同様、クルマへの代替によって乗客数が減少。それは第3セクターとなった今も変わらないものの、観光客の呼び込みによって減少に歯止めをかけ、増加に転じさせようとさまざまな策を講じている。もちろんこの観光客にはサイクリストも該当。利便性を高めて魅力ある天浜線とするため、実際のツアーを模した形でプランが立てられた。それがチクリッシモの宮内忍編集長や僕を含む6人がモニターとして参加した「天竜浜名湖鉄道輪行モニタリングツアー」(2月14日~15日)である。

 

車両の前後端に、輪行バッグや完成車をまとめて置ける十分なスペースがある

 

起点となる掛川駅に集まったモニターとガイド、そしてサポートの一行は、それぞれ輪行バッグを抱えて天浜線の車内に乗り込んだ。出発時刻そのものは平常と変わらず、本来の1両にツアー専用の1両を増結した2両編成となっているのが異なるところ。TH2100型の車両は前後端に十分なスペースがあり、そこに輪行バッグをまとめて置ける。われわれはボックスシートに座り、しばしの列車旅を楽しんだ。

途中の天竜二俣駅で、トイレ休憩のためいったん車外へ。この駅は天浜線の中心となる存在で、開業当時からの瓦葺き木造駅舎のほか、併設した車両基地(機関区)では蒸気機関車(SL)時代からの扇形庫と転車台がそのまま使われている。私事で恐縮だが小学生時代に遠足で訪れたときにはSLがまだ現役で、燃料とされた豆炭を土産に持ち帰った覚えがある。天浜線ではこれらを見学するツアー(200円/大人※予約不要)も毎日開催。13時50分~のほか、金・土・日・月・祝には10時50分~が追加される。このほか天浜線は、全線で36施設が国登録有形文化財に登録。鉄道ファンの聖地となっている。

 

気賀駅には、すでにサイクルラックが設置されている

 

掛川駅から1時間半の気賀駅で自転車を組み立てた一行は、浜名湖の湖岸を巡る自転車道で西を目指す。遠州の空っ風と称される季節風が行く手を阻むものの、宿までの道のりは30km弱と短く、ポタリングペースでゆっくりと進む。

昼食は豪華にうな重。次に食べられるのがいつかも知れず、その味を記憶に刻もうと時間をかけて味わったのは僕だけか? 最寄りの浜名湖佐久米駅はユリカモメが集まることで知られ、当日もホームや車両のまわりを多くのカモメが飛び交っていた。

 

モニタリングツアーに参加したみなさん。天浜線の社長(左から2人め)や専務(右から2人め)の姿も

 

翌朝、知波田駅からふたたび天浜線に。前日と異なって完成車のまま乗車する。このところの輪行ブームもあって、アプローチに鉄道を利用するメリットがだいぶ知られるようになってきた。とはいえ分解や組み立ての手間やノウハウのことを考えると、誰にでも勧められるものではない。やはりサイクルトレインの利便性は何物にも代え難いのだ。

この天浜線は多くの駅が改札からホームまで階段を上り下りすることなく移動できるうえ、前述したとおり車内には自転車を置く十分なスペースもある。完成車の持ち込みにはもってこいなのだ。もちろん他の乗客との混乗となればそれ相応の配慮は必要だし、乗降に時間が掛かってダイヤが乱れるような事態は避けねばならない。そのためには乗降できる駅を有人、かつ上りと下りの列車が行き違う駅(遠州森駅、天竜二俣駅、金指駅、三ヶ日駅など)に限定すれば、待ち合わせしている間に乗降することが可能だ。

 

湖岸のすぐ脇に延びる浜名湖周遊自転車道を快走する

 

さらに天浜線の駅のうち、遠江一宮駅や天竜二俣駅、二俣本町駅など10駅に、そば屋やレストランなど食べどころが併設されている。そのため駅に到着して走り始める前、もしはく走り終えて乗車する前に腹ごなしをすることもできる。この春には都田駅に開業するバイシクルカフェとともに、遠州森駅、天竜二俣駅など6駅にはサイクルラックと空気入れ、工具を設置。サイクリストにとってますます魅力が増すこと請け合いだ。

天竜二俣駅で下車した一行は、追い風に乗って東へ。道の守り神で、自転車御守もある天宮神社で交通安全の祈祷を受けた後、掛川駅で解散となった。(澤田 裕)

 

天宮神社の自転車御守(左)とヘルメットに貼るシール(右上)