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アジア大会、世界選日本代表 中根英登はどう成長したのか?

アジア大会、世界選手権と立て続けに日本代表を務めた愛知県出身のクライマー、中根英登(なかね・ひでと)。近年、海外へと出て行った日本人選手のなかでも成長株である彼に、いま何を思うのかインタビューした。
 
text:Sonoko Tanaka

悔しさの残る飛躍のシーズン

UCIプロコンチネンタルチームであるNIPPO・ヴィーニファンティーニ・ヨーロッパオヴィーニに所属して2シーズン目の今季は、5月に開催された国内最高峰のツアー・オブ・ジャパンでアジア人選手最高位となる総合9位、そして急遽招集がかかった8月末のアジア競技大会では、別府史之(トレック・セガフレード)の銀メダル獲得に大きく貢献し、自らも5位入賞。

さらに9月30日にオーストリアで開催された近年屈指の山岳コースでの世界選手権に日本代表として初出場を果たすなど、大きな飛躍のシーズンとなった。世界選手権では単騎での出場という数的不利もあり途中リタイア。大きな悔しさが残ったが、これをバネにさらなる活躍を誓う中根に話を聞いた。

 
ロード世界選手権で、集団から遅れ、単独でフィニッシュラインをめざす photo:(C) 2018 JCF
ロード世界選手権で、集団から遅れ、単独でフィニッシュラインをめざす photo:(C) 2018 JCF
ロード世界選手権、初出場だったが、思うような結果は残せず悔しさを味わった photo:(C) 2018 JCF
ロード世界選手権、初出場だったが、思うような結果は残せず悔しさを味わった photo:(C) 2018 JCF

-まずは初めての世界選手権を走り終えて思うことは?

中根:「世界選手権への出場は9月に入ってから決まった。2週間前のコンディションだったら、もう少し先頭集団にいられて、周回を重ねることができたとは思うが、だからといって上位を狙えたわけではない。圧倒的なレベルの差があるのはわかっているが、すごく悔しい気持ちで、もっと強くなりたいと思っている。

シーズン序盤は、世界選手権に出場できるとはまったく考えていなかった。しかし、出場させてもらえる機会を得て、初めて走り、もっと準備しないといけない、力やテクニックをつけたいと強く感じた。日本代表として、日本人選手が一丸となって獲得したUCIポイントでスタートラインに立たせてもらった。そういう責任を感じていたが、結果を出せず申し訳ない。しかし落ち込んでいても仕方がないので、来年も自分が出るという気持ちで準備していきたい。そして、日本人選手全体でUCIポイントをさらに獲得して、もう一つ上の”出場枠4”をめざしたい。今度は日本人選手4人で厳しいレースにチャレンジしていきたいと思う」

28歳にして、初めて世界選手権に日本代表として出場した中根は、アンダー23カテゴリーから日本の第一線で戦う別府史之や新城幸也(バーレーン・メリダ)と比較すると、遅咲きの選手と言えるだろう。経験を一つ一つ積み上げて強くなり、現時点でのUCIワールドランキングで、別府、新城に次ぐ三番手に上り詰めた。

中根は高校時代にサッカーに打ち込んでいたが、その傍で自転車競技に出会うとすぐに頭角を現し、大学進学後に本格的に競技を始め、大学在学中からチームユーラシア、チームNIPPOの一員としてヨーロッパのレースを経験してきた。しかし、歴然とした力の差に挫折を経験し、2014年からアジアを主戦場とする愛三工業レーシングチームに移籍している。


-愛三工業レーシングチームへの移籍、そこでの経験はどうだったのか?

中根:「そのままNIPPOにいたら、もっと強くなれたかもしれないけど、タレント溢れる選手たちの中で、きっと潰れていたと思う。愛三工業レーシングチームにいた3年間は大事な時間だった。本当に感謝している。ヨーロッパではレースで活躍できるレベルではなかったけど、アジアでは上りの厳しいレースで戦えるようになった。イラン人たちと競ってUCIポイントを獲得することもできた。愛三工業レーシングチームでの経験を通じて自信を取り戻し、再びヨーロッパや世界に挑戦したいという気持ちが強くなった」


 

再び世界へ

ジロ・デッラ・トスカーナで世界のトップクライマーに食らいつき18位でフィニッシュ photo:Sonoko Tanaka
ジロ・デッラ・トスカーナで世界のトップクライマーに食らいつき18位でフィニッシュ photo:Sonoko Tanaka

-2017年、プロコンチネンタルチーム移籍当時の心境は?

中根:「上のカテゴリーでのレース活動になり、そこで結果を残さないといけないという大きなプレッシャーがあったが、専門のトレーナーがいて、しっかりとコンディションに合わせた練習メニューやレーススケジュールを考えてくれた。また初めて行ったパワーメーターを使用してのトレーニングも効果的だった。早く追いつきたいと思わせてくれる、刺激を与えてくれる強いチームメートがいたこともプラスになった」

そして、得意の登坂力を武器にツール・ド・ランカウイでベストアジアンライダー賞、ツール・ド・アゼルバイジャンでは総合8位に入り、自身初となるヨーロッパツアーでのUCIポイント獲得、さらにアシストとして走ったツアー・オブ・ジャパンやジャパンカップサイクルロードレースでは、チームのエース、マルコ・カノラの勝利に大きく貢献する走りをみせ、チーム内からも大きな信頼を得た。


-プロコンチネンタルチーム所属2年目となる今季はどんなシーズンだったか?

中根:「去年以上の結果を出してやると思った挑んだ2年目のシーズン。去年の成績のおかげで自分の成績を狙えるチャンスが増えた。評価してもらっていると感じる一方、より一層、結果を出してやると思って挑んだ。

シーズン序盤は体調を崩してアジア選手権を欠場。しかし、ツール・ド・台湾やツアー・オブ・ジャパンでいい感触を掴むことができた。春先は焦りもあったけど、ツアー・オブ・ジャパンではカノラたちと戦い、これまでで一番いい成績が出て、自信がついた。去年より安定してきているし、今年も少しづつ強くなっている実感がある。そして(10月19日の)ジロ・デッラ・トスカーナで18位。目標だったヨーロッパの山岳レースでUCIポイントを取れたことが今年一番嬉しかった。一つ上のステップに上がれたと思う」

 
アジア大会で別府史之選手の銀メダル獲得を喜ぶ  photo:(C) 2018 JCF
アジア大会で別府史之選手の銀メダル獲得を喜ぶ  photo:(C) 2018 JCF
ツアー・オブ・チンハイレイク、過酷な4000m級の山岳にも耐え、総合34位でUCIポイントを獲得 photo:Sonoko Tanaka
ツアー・オブ・チンハイレイク、過酷な4000m級の山岳にも耐え、総合34位でUCIポイントを獲得 photo:Sonoko Tanaka


-来季以降に向けての目標は?

中根:「来年もヨーロッパでチャレンジしていきたいと思っている。去年より今年、今年より来年と、より多くの結果を残していきたい。少しでも自分が強くなるために頑張っていきたい。ヨーロッパでUCIポイントを取ることも大事だが、比較的ポイントを取りやすいアジアツアーも大切だと考えている。自分一人でできることではないが、世界選手権で日本の順位を一つでも上に押し上げるために……。別府選手や新城選手が、長年世界で戦えることを示してきてくれているが、まだまだ後進国。俺たちだってやれるんだ、ということを日本人選手一丸となって示したいと考えている」