トピックス
自転車王国ベルギー生まれのサイクリングジャージ VERMARC SPORT物語
2012.06.18
自転車王国ベルギーが生んだサイクリングジャージ
自転車競技を華やかに彩るサイクリングジャージは、どんな天候からも選手の身を守り、勝利へと導く必要不可欠な存在だ。そのために高機能の材質が用いられ、日々進化を遂げている。デザインはチームを後援するスポンサーの広告が主な目的だが、近年はファッション性も重視されるようになっている。ベルギーのフェルマルクスポーツ(Vermarc Sport)は、1977年に現役を引退したプロ自転車選手のフランス・フェルベークが創業したスポーツウエアブランドで、ハイクオリティなサイクリングジャージを世界各国へと送り出している。フェルマルク社のこだわりは、プロ選手にもホビーレーサーにも、同じ品質のジャージを提供することだ。町の小さなクラブチームであっても、フェルマルク社は35年間変わらず最高品質のジャージを提供している。 創業者のフェルベークは1970年代に活躍し、70年、72年にヘットフォルク(現在のヘットニュースブラッド)、71年にアムステル・ゴールド・レースで優勝し、73年にはベルギー選手権も制したチャンピオンだった。彼は77年に引退した後、プロキャリアで築いた人脈を生かし、ルーヴァン郊外にあるウェーゼマールでサイクリングジャージの会社を始めた。フェルマルクの社名は、彼の息子マルク(Marc)から取ったものだ。フェルベークが活躍した70年代といえば、ベルギーはエディ・メルクスの黄金期で、ロジェ・ドブラミンク、フレディ・マルテンスといった名だたるチャンピオンたちがしのぎを削った時代だった。当時のサイクリングジャージはウールやアクリル素材が主流で、胸にスポンサー名が1つか2つ入っただけのシンプルなデザインしかなかった。妻のアンジェールと一緒に事業を始めたフェルベークは、イタリアから新技術を導入し、ルーヴァン大学の協力を得て独自の製造行程を開発し、フェルマルク社をトップブランドへとのし上げた。現在は息子のマルクが経営を引き継いでいるが、フェルベークは変わらずフェルマルク社を見守り続けている。
■フェルベークが現役当時着ていたジャージ。技術的な問題もあってシンプルなデザインだった(『De 100 Meest Legendarische Wielertruitjes』より)
■ウェーゼマールにあるフェルマルク本社。ここから最高品質のサイクリングジャージが世界へと送り出される
■フェルマルク社のエントランスには小さな石畳を敷きつめて作られたトレードマークのロゴがある
本邦初公開?! サイクリングジャージのプリント行程
サイクリングジャージのデザインに劇的な変化をもたらしたのは、熱に強いポリエステルという化学繊維の登場だった。この素材が、高圧高熱による熱転写というプリント技術の導入を可能にしたのだ。簡単に言えば、サイクリングジャージは巨大なアイロンプリントで印刷されているようなものなのだ。パソコン上で縫製のためにデザインされた身頃、袖などのパーツを印刷する大判の布地のサイズに合わせて配置し、原寸大で反転させたものを熱転写用のインクでプリントする。それを206度Cという高温で布地に熱転写させることにより、繊細なデザインを表現することが可能になった。シルクスクリーンのような印刷がされているとばかり思っていたので、まさに目からウロコだった。
■ポリエステル素材への熱転写技術によって、グラデーションのようなデザインも簡単に表現できるようになった
■フェルマルク社ではインクにもこだわりを持ち、エコロジカルなウォータベースのものが使われている
最高品質を追求し、縫製行程はイタリアで行われる
驚いたことにベルギーのフェルマルク本社では、デザインと熱転写用シートの印刷までの行程しか行われていない。縫製作業はすべて、イタリアの下請け工場で行われている。ベルギーで印刷された熱転写シートは、一旦イタリアへ運ばれ、布地に転写されたあとで縫製され、サイクリングジャージの形になってベルギーへと戻ってくる。単純に考えればすべての行程をベルギーで行った方が簡単だが、それこそが最高品質を追求するフェルマルク社の選択だった。ベルギーとイタリアの縫製技術を比べると、明らかにイタリアの方が優っているためで、たとえ遠回りであろうとも品質を優先させるフェルマルクならではの哲学だった。
■縫製はすべてイタリアで行われ、ベルギーでは特別なタグ付けのような作業しか行われない
■イタリアから戻ってきた製品はフェルマルク本社でストックされ、出荷の時を待つ
ベルギーのトップアスリートに愛されるフェルマルク
現在フェルマルク社のサイクリングジャージは、ベルギーの2大トップチームであるオメガファルマ・クイックステップとロット・ベリソルを筆頭に、ランボークレジット・ユーフォニー、トップスポルトブラーンデレン・メルカトル、MTNクベカの5チームが使用している。熱転写プリントという技術は、プロチーム特有のニーズにも簡単に答えることができる。4月の時点でフェルマルク社のデザイン部門では、契約チームに所属している選手が6月下旬のナショナル選手権で優勝したことを想定し、各国ナショナルチャンピオンジャージのデザインができあがっていた。きっと今頃はすてべのデザインの熱転写用シートが、イタリアの縫製工場で『その時』を待っているにちがいない。 プロと同じ最高品質をすべての顧客に提供するフェルマルク社には、地元のクラブチームからのオーダーも多く、年間400種類ものデザインが世に送り出されている。フェルマルク社の製品は自転車競技の世界だけにとどまらず、サッカーや陸上競技の世界でも活躍している。
■ツール・ド・フランスでマイヨ・ジョーヌやマイヨ・ベールを獲得した時に合わせるビブショーツのデザインもできあがっていた
■ロット・ベリソルもフェルマルク社のサイクリングジャージを使用している
■陸上競技ではベルギー代表チームのウエアも手がけている
●フェルマルクスポーツ公式ページ:http://www.vermarcsport.be/ ●深谷産業 http://www.fukaya-sangyo.co.jp/ ●エアロアズール http://www.aeroazure.com/