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もうすぐ42歳のホーナーがサプライズ優勝! ブエルタ2013ハイライト

第68回ブエルタ・ア・エスパーニャは、ベテランとホーナーとジロ王者ニーバリが激しい闘いを繰り広げた

 

 

Photo: Graham Watson

大混戦を制した41歳11ヶ月のベテラン


今年最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャが8月24日にスペイン北西部のガリシア地方で開幕したとき、40歳を越えた米国のクリストファー・ホーナー(レディオシャック・レオパード)は、優勝候補ではなかった。

 

地元出身のディフェンディングチャンピオンのアルベルト・コンタドール(チームサクソ・ティンコフ)が欠場したため、注目を集めていたのは今年のジロ・デ・イタリアで総合優勝し、ブエルタでも2010年に総合優勝したイタリアのビンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)が、1973年のエディ・メルクス(ベルギー)、1981年のジョバンニ・バッタリン(イタリア)、2008年のコンタドールにつづいて1シーズンにジロとブエルタの両方で優勝できるかどうか、だった。

 

そのライバルと目されていたのは、1ヶ月前のツール・ド・フランスで総合3位になって表彰台に上がったホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)や、2009年の優勝者であるアレハンドロ・バルベルデ(モビスターチーム)という地元選手たちだった。

ニーバリの所属するアスタナは、初日のチームタイムトライアルで優勝し、幸先のいいスタートを切った。しかしこのときすでに、ホーナーが所属しているレディオシャック・レオパードも、アスタナにたった10秒差の区間2位という好成績を出していたのだ。

 

クライマーのホーナーにとって、ウイークポイントはタイムトライアルだった。

 

「ブエルタでは総合成績で可能な限り上位を目指すのが目標だ。ボクにとってもっとも難しいのは個人TTだ。バスク一周で総合優勝したときのように、時には上手く走れることもある。しかし、上りもTTも両方走れる選手たちと競って勝てるかというと、それは難しい。ボクは上りはとてもよく走れるけれど、TTはいつでもとてもいいわけではないからだ」

 

ホーナーは第3ステージで優勝し、史上最高齢のグランツール区間優勝者になったときに語っていた。


そのステージは主催者のカテゴリー分けでは平坦区間だったが、ゴールはカテゴリー3のミラドール・デ・ロベイラの頂上だった。ホーナーはメイン集団からフラムルージュで飛び出すと、先行していたイタリアチャンピオンのイバン・サンタロミータ(BMC)を追い抜いて独走でゴールへと飛び込んた。

 

前日にリーダージャージのマイヨ・ロホを獲得したニーバリとのタイム差は、チームタイムトライアルで遅れていた10秒だけだったため、ホーナーは区間1位で獲得した10秒のボーナスタイムで総合首位になった。しかし、彼は翌日のゴールで集団が中切れをおこしてしまったせいで、不運にもマイヨ・ロホをたった1日で失ってしまった。

しかしホーナーは、時が満ちるのを待ち続けていた。今年最初の山岳ステージは南東部のシエラ・ネバダ山脈で競われた第10ステージだった。ホーナーがゴールだったカテゴリー超級のアサリャナス峠でアタックしたとき、ニーバリは彼を追わず、自分のペースで走ることを選んだ。休養日をはさんだ2日後は個人タイムトライアルで、ニーバリにはそこでホーナーに勝つ絶対の自信があったのだ。

 

あるいは、40歳を越えた老兵が、3週間のレースでライバルになるとは思っていなかったのだろう。もしアサリャナス峠で、シャークと呼ばれるニーバリが容赦なくホーナーと闘っていたら、後半戦の戦況も変わっていたかもしれない。その日、ホーナーはニーバリに43秒差でふたたびマイヨ・ロホにソデを通した。

ニーバリを襲った不運


個人タイムトライアルが行われた第11ステージの前日に、思わぬアクシデントがニーバリを襲った。彼はスズメバチに右目の上を刺されてしまったのだ。治療薬を使う許可は国際自転車競技連合(UCI)から得ていたが、チームが加盟しているアンチ・ドーピング運動団体のMPCCのルールに抵触するおそれがあったため、ニーバリは治療薬を使うことができなかった。

 

幸い、個人タイムトライアルの朝には腫れはだいぶ引いていたが、痛みはまだ残っていた。それでもニーバリは、個人タイムトライアルでホーナーに1分29秒差を付け、マイヨ・ロホを奪い返したのだ。しかし、折り返し地点でのニーバリとホーナーのタイム差はわずかに46秒。後半戦につづく山岳ステージでは、ないに等しかった。

初日からレースをリードし、レースをコントロールし続けたアスタナチームも疲弊していた。3日間つづいたピレネー山岳初日の第14ステージが、雨天で信じられないような寒さに見舞われたのも影響していた。そのステージでは、イバン・バッソ(キャノンデール)のようなベテラン選手が低体温症になってレースを去っていた。そしてピレネー山岳最終日のゴールだったアラモン・フォルミガル峠で、ついにニーバリが脱落した。

 

しかし、彼を蹴落としたのはホーナーではなく、スペインのライバルたちだった。残り3kmで最初にアタックしたバルベルデの攻撃は、アシストのタネル・カンゲルトの働きで潰したが、つづいてアタックしたロドリゲスは、捕らえることができなかった。

 

アシストがいなくなったニーバリは、バルベルデのグループの最後尾にしがみついてゴールを目指したが、バルベルデのアタックに付いて行くことができなかった。この日、ニーバリは辛くも総合首位の座を守ったが、ホーナーとのタイム差は28秒に縮まってしまった。

ニーバリの王座陥落は、もう時間の問題だった。第18ステージのペーニャ・カバルガでは、ホーナーとの差はたった3秒になってしまった。ニーバリとは対照的に、41歳のホーナーには最終週に入っても疲労の影など見えなかった。

 

それどころか、終盤戦のアストゥリアス山岳ステージでは、水を得た魚のように生き生きとしていた。そしてホーナーは、最終日前日に設定されていた魔の山アングリル決戦を待つことなく、その前日に行われた中級山岳区間の第19ステージで、3たびマイヨ・ロホを手中に収めたのだ。

ゴールだったカテゴリー1のアルト・デル・ナランコ峠で、残り1kmからのアタックを決めて区間優勝したのはロドリゲスだった。メイン集団はこのアタックで崩壊し、ホーナーに付き従ってゴールできたのはバルベルデだけだった。ニーバリは6秒遅れてゴールラインを通過し、マイヨ・ロホを失ってしまった。

最終日前日のアングリル区間で、奇跡の逆転劇は起こらなかった。ニーバリは手強いシチリア魂を見せつけて激しいアタックを試みたが、ホーナーを叩きのめすことはできなかった。ホーナーは落ち着いてニーバリの攻撃をつぶすと、最後は残り2kmでニーバリを置き去りにしてしまった。

 

アングリル区間は22歳のフランス人、ケニー・エリソンド(FDJ.fr)がサプライズな逃げ切りで区間優勝を獲得したため、ホーナーは総合優勝に区間3勝目という花を添えることはできなかったが、初めてブエルタを制した米国人になったと同時に、グランツール最年長優勝者になるという偉業を達成した。


●総合優勝したホーナーのコメント


素晴らしいブエルタだった。ここにはすごくモチベーションを持ってやって来て、主催者は短いタイムトライアルが1回だけというボクのレーススタイルにピッタリのコースを作ってくれた。

 

自分がブエルタで勝てると思っていたかどうかはわからない。でも、表彰台には上がれると思っていた。19年の長いキャリアで、ボクは毎年いい選手になろうと努力した。すべての勝利が素晴らしく、すべてのグランツールで選手としての思い出で特別な場所がある。

 

でも、これは永遠にそこなわれないだろう。このレベルに到達するのはそれだけ難しいことだ。ボクの娘は16歳と14歳で、息子は11歳だ。ほとんどのグランツール勝者の子供たちとちがって、彼らは何を見ているのか理解している。うちへ帰るのも素晴らしいだろうね。

 

スペインはボクにとっていつも特別だ。自分の性格がスペインのライフスタイルにとてもよく合っているんだ。特にバスクでは家にいるように感じる。スペインの人々がこのショウを楽しんでくれていたらいいね。

 

同じチームメートと一緒に走れない可能性がある。来年はどうなるかわからない。来年どこのチームで走るかわからない限り、ツール・ド・フランスについて話すことはできない。でも、ボクは少なくともあと2シーズンはレースをしたいんだ。脚の調子はいいし、精神的にもとても強いからね。

グランツール初区間優勝ラッシュ!


10月で42歳になるホーナーが優勝し、グランツール最年長優勝という記録を出した今年のブエルタは、11人のグランツール初区間優勝者を誕生させるめずらしい大会にもなった。

 

第3ステージで区間優勝したホーナーもその1人で、ニコラス・ローチ(チームサクソ・ティンコフ)やバウケ・モレマ(ベルキン)のように、実力はありながらまだグランツールでの区間優勝がなかった選手たちが栄光を手中に収めた。

 

その一方で、主催者招待枠で参加したUCIプロコンチネンタルチームのレオポルド・ケーニヒ(ネットアップ・エンデューラ)や、ワレン・バルギル(アルゴス・シマノ)のように無名の選手が活躍する大会にもなった。

そして何よりもうれしい結果は、これが最後のブエルタ出場だったエウスカルテル・エウスカディ(スペイン)が、チーム成績を獲得してマドリードの表彰台に上がったことだ。

 

チームそのものはスペイン人F1ドライバーのフェルナンド・アロンソがオーナーとなり、来季も存続することが決まっているが、バスク唯一のプロチームとして20年間にわたって活動してきたエウスカルテル・エウスカディが、ブエルタを走ることはもうない。

 

最後のブエルタで区間優勝はできなかったが、参加チームのなかで唯一9人全員が完走してチーム成績を獲得しエウスカルテル・エウスカディは、選手だけでなくスタッフ全員がマドリードの表彰台に上がり、バスク旗を掲げて有終の美を全員で祝福した。

今年のブエルタ最終区間は、昨年のディフェンディングチャンピオンで、今年は欠場したアルベルト・コンタドール(チームサクソ・ティンコフ)の故郷ピントを通過した。この日、彼はTwitter上で「今日ブエルタはボクのホームタウンのピントを通過する。今年、ボクはそこにいないが、来年はいるよ!」と、つぶやき、来年のブエルタには参加するつもりであることを示した。

 

来年のブエルタはアンダルシア地方のカディックスで開幕する予定だ。

 

第68回ブエルタ・ア・エスパーニャ 個人総合最終成績

1 クリストファー・ホーナー(レディオシャック・レオパード/米国)84時間36分04秒

2 ビンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ/イタリア)+37秒

3 アレハンドロ・バルベルデ(モビスターチーム/スペイン)+1分36秒

4 ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ/スペイン)+3分22秒

5 ニコラス・ローチ(サクソ・ティンコフ/アイルランド)+7分11秒

6 ドメニコ・ポッゾビーボ(AG2R・ラモンディアル/イタリア)+8分00秒

7 ティボー・ピノ(FDJ.fr/フランス)+8分41秒

8 サムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ/スペイン)+9分51秒

9 レオポルド・ケーニヒ(ネットアップ・エンデューラ/チェコ)+10分11秒

10 ダニエル・モレノ(カチューシャ/スペイン)+13分11秒

 

[各賞]

■ポイント賞:アレハンドロ・バルベルデ(モビスターチーム/スペイン)

■山岳賞:ニコラ・エデ(コフィディス/フランス)

■コンビネーション賞:クリストファー・ホーナー(レディオシャック・レオパード/米国)

■チーム成績:エウスカルテル・エウスカディ(スペイン)

 

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