さいたまクリテリウム2014
今年もさいたまにツール・ド・フランスがやって来た!
さいたま市が主催し、ツール・ド・フランスの主催者であるフランスのアモリー・スポール・オルガニザシオン(ASO)が共催したビッグイベント『2014ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム presented by ベルーナ』が、10月25日にさいたま新都心駅周辺で開催された。
世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランスの名を冠したこのビッグイベントは、『さいたまクリテリウムbyツールドフランス』という名称で昨年初上陸した。この時は台風の接近で中止も危ぶまれたが、20万人(主催者発表)という観客が詰めかけて、スター選手たちの生の走りに歓喜した。
今年は昨年の赤字問題を解消するために、地元の通信販売会社ベルーナを冠スポンサーに迎え、名称を新たにして第2回大会を開催した。
ASOが仕掛けるさいたまクリテリウムは、もともとツール・ド・フランス終了後にヨーロッパの各国で開催される『ポスト・ツール・クリテリウム』という人気イベントが基本コンセプトになっている。
公式レースではないため、本来であればツール・ド・フランスでしか着ることのないレース特有のリーダージャージを着て走ることができるのが大きな特徴で、ツール・ド・フランスの1ステージのような雰囲気が味わえる。
昨年同様、さいたまクリテリウムには今年のツール・ド・フランスで活躍した8チームのトップスターたちが海外から招待された。もちろん最大の目玉は今年初優勝し、マイヨ・ジョーヌを獲得したイタリアのビンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)だ。
さいたまクリテリウムには家族やガールフレンドが同行しても、チームの監督やスタッフが来ることはないが、ニーバリは長年彼を支えているパオロ・スロンゴ監督とともに来日していた。
マイヨ・ベールを3年連続で獲得したスロバキアのペーテル・サガン(キャノンデール)は、2度目の参加となった。昨年は1人だったが、今年はガールフレンドを連れて来ていた。
山岳賞のマイヨ・アポワを獲得したポーランドのラファウ・マイカ(ティンコフ・サクソ)、スーパー敢闘賞の赤ゼッケンを獲得したイタリアのアレッサンドロ・デマルキ(キャノンデール)、そしてフランスチャンピオンの(アルノー・デマール(FDJ.fr)も来日した。
3賞ジャージとフランスチャンピオンジャージを有する4チームの他に、今年のツールで区間4勝を上げたドイツのマルセル・キッテル(ジャイアント・シマノ)は2年連続で来日。
そして昨年マイヨ・ジョーヌを着て第1回さいたまクリテリウムで優勝した英国のクリストファー・フルーム(チームスカイ)も、ディフェンディングチャンピオンとして参加した。
選手たちは大会のわずか2日前の午後に来日し、前日には主催者であるさいたま市の交流会に参加。トップ選手たちはそのあとも夜遅くまで記者発表会やJスポーツの公開放送出演などの過密スケジュールをこなした。
その疲れを感じさせることなく、当日は前座に行なわれた2つのポイントレースとメインレースのクリテリウムで熱い走りを魅せ、今年も沿道を幾重にも囲んだ大勢の観客に、さいたまにいながらツール・ド・フランスの興奮を体感させてくれた。
ゴールスプリントでキッテルが優勝!
さいたまクリテリウムは、さいたま新都心駅周辺設定されたサーキットを20周する60kmのコースで競われ、国内参加選手31人を含めた64選手が秋晴れの日が傾き始めた午後3時にスタートした。このクリテリウムは日本国内だけではなく、世界の120ヶ国で中継された。7時間の時差があるフランスでは、ちょうど朝8時のスタートになるわけだ。
昨年はマイヨ・ジョーヌのフルームが独走で優勝したが、今年はマイヨ・ベールのサガンに期待が集まっていた。スタート前に話を聞くと「昨日は時差ボケですごく眠くて疲れていたけれど、今日は問題ない。調子はいい。勝てるといいね」と、意気込みを語っていた。
レースは早い段階でマイヨ・ジョーヌのニーバリ、マイヨ・アポワのマイカ、そして今シーズンでの引退が発表されている2人の日本人選手、西谷泰治(愛三工業レーシングチーム)と宮澤崇史(ビーニファンティーニ・NIPPO)の4人がアタック。豪華メンバーがそろったこの逃げには、沿道から大きな声援が飛び続けた。
しかし、ジャイアント・シマノが引く集団はこの逃げを許さず吸収し、後半戦へと突入した。
残り4周でツール・ド・フランス・ジャパンチームの一員として招待された別府史之(トレック)が単独でアタックしたが、マイヨ・ジョーヌのニーバリ、マイヨ・ベールのサガン、そしてキッテルを含めた9選手が追走。別府は残り2周に入ったところで捕まってしまった。
この10選手から別府がもう一度アタックし、ツール・ド・フランス・ジャパンチームのもう1人の招待選手だった新城幸也(ヨーロッパカー)とともに精鋭グループから抜け出すと、沿道の興奮はピークに達した。
しかし2人は最終周回で捕まり、最後はゴールスプリントになってキッテルが優勝した。2位には昨年同様マイヨ・ベールのサガンが入り、3位はクリストフだった。
今年はマイヨ・ジョーヌの勝利では終わらなかったが、ニーバリはポイント賞を獲得してフィナーレの表彰台に上がった。
日本勢では果敢なアタックを見せた別府が敢闘賞を獲得。そしてこれが引退レースとなった西谷と盛一大の愛三工業レーシングチームが、今年新設されたベスト日本チーム賞を獲得して、表彰台で祝福された。
「ここで勝てて本当にうれしい。すばらしいレースができた。沿道で応援してくれた大勢の日本のファンは自転車レースの楽しみ方をよくわかっていたね」と、優勝したキッテルは喜びを語っていた。
ブロンドでイケメンのキッテルには、大勢の女性ファンが熱い声援を送っていた。海外のメディアに「何故こんなに日本で人気者なんだと思う?」と、質問され、笑いながら「わからないけれど、ボクのこれまでの活躍が評価されているからじゃないかな」と、答えていた。
さいたまクリテリウム全結果
■クリテリウムメインレース結果[60km]
1 マルセル・キッテル(ジャイアント・シマノ/ドイツ)1時間24分39秒
2 ペーテル・サガン(キャノンデール/スロバキア)
3 アレクサンダー・クリストフ(カチューシャ/ノルウエー)
4 アルノー・デマール(FDJ.fr/フランス)
5 新城幸也(ヨーロッパカー)
6 ロマン・バルデ(AG2R・ラモンディアル/フランス)
7 バレリオ・アニョーリ(アスタナ/イタリア)
8 クーン・デコルト(ジャイアント・シマノ/オランダ)+2秒
9 ビンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ/イタリア)+5秒
10 別府史之(トレック)+5秒
[各賞]
■敢闘賞:別府史之(トレック)
■最優秀新人賞:ペーテル・サガン(キャノンデール/スロバキア)
■ベスト日本チーム賞:愛三工業レーシングチーム(日本)
■ベストチーム賞:チームジャイアント・シマノ(オランダ)
■ポイント賞:ビンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ/イタリア)
■山岳賞:ラファウ・マイカ(ティンコフ・サクソ/ポーランド)
■ポイントレース1結果
1 ニコラス・ローチ(ティンコフ・サクソ/アイルランド) 19pts
2 アレクサンダー・クリストフ(カチューシャ/ノルウエー) 15pts
3 バレリオ・アニョーリ(アスタナ/イタリア) 12pts
■ポイントレース2結果
1 アルノー・デマール(FDJ.fr/フランス)19pts
2 ビンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ/イタリア)17pts
3 ガティス・スムクリス(カチューシャ/ラトビア)11pts
世界初?! さいたまスーパーアリーナ内を通過するコース
2年目のさいたまクリテリウムは、前年度の開催経験をもとにさまざまな改善と工夫がなされていた。
今年はなんと、さいたまスーパーアリーナのコミュニティアリーナの中をコースが横断。アリーナの裏手にあったスタート/ゴール地点からすぐに屋内に入り、幅5.5メートルで全長160メートルのトラックを通過した。特設コーストラックの片側には表彰台と選手が待機するチームピットが設営され、それを臨む形で特別な観覧席がもうけられていた。
屋内を通過するコースには優勝したキッテルも「こんなコースは初めて走った。これは格好いいと思うよ」と、大絶賛していた。
大会予算捻出のために、さいたま市は今回オフィシャルサポーターズを募った。これは個人でも応募でき、10万円の個人プラチナサポーターと3万円の個人Aサポーターになると、アリーナ内の観覧席入場券がもらえた。
さらにプラチナサポーターには、大会当日に行なわれたコース体験走行や、チームピットエリアに入って選手たちからサインをもらったり、一緒に写真を撮ってもらえる見学ツアーもあった。
アリーナ内の観覧席にはこの特別な個人サポーターと、招待券を受け取った協賛各社、VIPしか入ることができず、必然的にフィナーレの表彰式も一般の観客には公開されなかった。
コースも安全上の理由から観戦禁止エリアが多く存在し、道幅が狭かったスタート/ゴール地点の周辺も観客は入ることはできず、まったくさみしい風景だった。
しかしその代わりに、今年は道路の片側車線を広く使った観戦エリアがもうけられた。大型ビジョンも4ヶ所に設置され、沿道でレースが楽しめるような工夫がなされていた。レースファンの不満の声も、昨年よりは少ないようだ。
まだまだ改善すべき点はたくさんあるが、さいたまクリテリウムは2歳の赤ん坊のようなものだ。ツール・ド・フランスのシャンゼリゼ区間からつながっている『第22ステージ』というコンセプトに恥じないような、観客を本当に満足させるイベントへと成長してほしい。