パリ~ルーベ 2015
史上2人目のドイツ人優勝者
クラシックの女王と呼ばれる北フランスの石畳のクラシックレース『パリ~ルーベ』は、1週間前に開催されたベルギーのロンド・バン・ブラーンデレンと同じように、今年は絶対的な優勝候補がいなかった。
第113回大会は快晴に恵まれ、天候がレースを厳しくすることはなかったが、トム・ボーネン(エティックス・クイックステップ)やファビアン・カンチェッラーラ(トレック)が不在の好機に、初優勝を狙う挑戦者たちが熱い闘いを繰り広げ、高速レースになった。
最後は7人が先頭グループでベロドロームに到着したのだが、ここにドイツ出身のスプリンター、ジョン・デゲンコルプ(ジャイアント・アルペシン)が加わっていた。彼は昨年、独走で初優勝したニキ・テルプストラ(エティックス・クイックステップ)の後方で追走グループのスプリントを制して2位になっていた。
優勝候補の1人だったズデネク・シュティバル(エティックス・クイックステップ)はチームメートのイブ・ランパールト(エティックス・クイックステップ)が一緒で有利なはずだったが、トラックは彼の得意分野ではなかった。
ゴールスプリントになれば、デゲンコルプが圧倒的に有利だった。ランパールトに牽引されてスパートしたシュティバルを、デゲンコルプはあっさり交わし、両手を上げてベロドロームのフィニッシュラインを通過した。
ドイツ出身の選手がパリ~ルーベで優勝するのは、じつに1896年に開催された第1回大会を、ユーゼフ・フィッシャーが制して以来のことだった。しかもデゲンコルプは3月22日にミラノ~サンレモでも優勝していて、1ヶ月の間に2つのモニュメントを制覇してしまったのだ。
同じ年にミラノ~サンレモとパリ~ルーベの両方で勝つことは、あのエディ・メルクスですら成し遂げたことがない快挙。それはベルギーのシリル・バンハウワールト(1908年)と、アイルランドのショーン・ケリー(1986年)だけが成し遂げていて、デゲンコルプは史上3人目になった。
ウィギンス 最後のパリ~ルーベ
第113回大会は快晴の下、200人の選手がコンピエーニュをスタートした。ボーネンとカンチェッラーラが不在だった今年のパリ~ルーベでもっとも注目されていたのは、これがチームスカイで走る最後のレースだった英国のブラッドリー・ウィギンスだった。
34km地点から9人の選手が逃げ出し、最大で10分差を付けて先行した。しかし、98kmを消化して最初の石畳ゾーンに到着したときには、タイム差は8分になっていた。
集団では2つ目の石畳ゾーンで早くも大落車が発生し、ベルギーのステイン・デボルデル(トレック)が負傷してレースを棄権してしまった。
さらにゴールまで残り89.5kmの石畳ゾーンに入る手前では、集団が線路を横断中に遮断機が降りるアクシデントが発生。無理に渡る選手が続出したが、主催者のバイクが制して選手たちが止まった数秒後にTGVが通過し、危機一髪で大事故には至らなかった。
パリ~ルーベでは2006年に遮断機が降りたのを無視した選手たちが失格になるスキャンダルがあったが、今回は誰も失格にはならなかった。ここでレースは一旦ニュートラルとなり、遮断機で遅れた選手たちも集団に復帰することができた。
残り81kmではコーナーで沿道に上がった英国のゲラント・トーマス(チームスカイ)が落車し、集団から遅れてしまった。彼はこの落車の前に2度パンクに遭っていて、この日は勝利の女神が傍らにはいなかったようだった。
ディフェンディングチャンピオンのテルプストラを擁するエティックス・クイックステップは、ナンバー16の石畳ゾーンで仕事を開始。ギヨーム・バンケイスブルックが先頭を引き、メイン集団はバラバラになった。
エティックス・クイックステップは攻撃を続け、残り45kmのモン・サン・ペベールの石畳ゾーンでは、ステイン・バンデンベルフがアタックした。彼にウィギンスが残り32kmで追いつき、チェコチャンピオンのシュティバル、ベルギーチャンピオンのイェンス・デブースル(ロット・ソウダル)も合流したが、結局抜け出すことはできなかった。
主要選手が顔を揃えた精鋭集団は、ゴールまで残り22kmで逃げていた選手をすべて吸収し、レースは振り出しに戻った。そして決定的な突破口を開けたのは、エティックス・クイックステップのランパールトだった。
ランパールトはゴールまで残り12.4kmでアタックし、これに同郷のグレッグ・バンアーベルマート(BMC)が付いていった。2人は後続に10数秒のタイム差を付けることに成功したのだが、チームメートのベルト・ドバックル(ジャイアント・アルペシン)を助けを借りたデゲンコルプが残り7kmで合流した。
スプリンターのデゲンコルプをゴールまで連れて行くのはあまりにも危険なため、ランパールトとバンアーベルマートは協力を拒否した。その間に後方からはシュティバル、ラルス・ボーム(アスタナ)、マルティン・エルミーゲル(IAM)、イェンス・ククレール(オリカ・グリーンエッジ)が追いつき、先頭は7人になった。
それでもデゲンコルプが有利なのには変わりはなかった。ベロドロームにはランパールトが先頭でシュティバルを引いて入場したが、最後の直線ではもうデゲンコルプがシュティバルをかわして先頭に立っていた。
ボーネンがいないベルギーのエティックス・クイックステップは、結局春の石畳クラシックでは勝ち星がなく、オムロープ・ヘットニュースブラッド、E3・ハールビーク、ゲント~ベベルゲム、ロンド・バン・ブラーンデレン、パリ~ルーベの5レースすべてで2位という結果になった。
最後のルーベで何度も見せ場を作ったウィギンスは31秒遅れの18位でレースを終え、有終の美を飾ることはできなかった。
■パリ~ルーベで初優勝したデゲンコルプのコメント「サンレモも感動的だったが、すべてに優る勝利だ。これはいつも勝ちたいと夢見ていたレース。そのためにとても努力しなければならなかった。僕のチームは状況をコントロールするために一日中働いてくれた」
「とてもハードなレースになり、大きな集団でゴールするだろうとわかっていた。去年のような展開は避けたかった。自分に有利な状況で、失敗は恐れていなかった。それが勝機となった」
第113回パリ~ルーベ結果
1 ジョン・デゲンコルプ(ジャイアント・アルペシン/ドイツ)5時間49分51秒
2 ズデネク・シュティバル(エティックス・クイックステップ/チェコ)
3 グレッグ・バンアーベルマート(BMC/ベルギー)
4 ラルス・ボーム(アスタナ/オランダ)
5 マルティン・エルミーゲル(IAM/スイス)
6 イェンス・ククレール(オリカ・グリーンエッジ/ベルギー)
7 イブ・ランパールト(エティックス・クイックステップ/ベルギー)+7秒
8 ルーク・ロウ(チームスカイ/英国)+28秒
9 イェンス・デブースル(ロット・ソウダル/ベルギー)+29秒
10 アレクサンダー・クリストフ(カチューシャ/ノルウェー)+31秒