トピックス

オランダのモレマが初優勝!  ジャパンカップ 2015

秋晴れに恵まれた今年のジャパンカップは
ショートコースでよりキツいレースになり
最後は4人でのスプリント勝負を制し
モレマがトレックに初優勝をもたらした。
勝者と敗者を分けたのは、
ほんの少しの幸運と不運だった
Photo:Hitoshi Omae / Yazuka Wada

スプリント勝負でモレマが圧勝!

4人でのスプリント勝負を制し、トレックにジャパンカップ初優勝をもたらしたモレマ                                        
4人でのスプリント勝負を制し、トレックにジャパンカップ初優勝をもたらしたモレマ                                        

​第24回ジャパンカップサイクルロードレース(アジアツアー1.HC)は、9月に台風18号の大雨で下野萩の道に土砂崩れが起きて通行できなくなり、例年最終周回にだけ使用していた10.3kmのショートコースで開催された。総距離は151.3kmから144.2kmと短くなったが、周回数は11周から14周に増え、古賀志林道を上るインターバルも短くなり、例年以上にキツいレースになった。

しかし、展開はいつも通り終盤に逃げが捕まった後、優勝候補の選手たちがアタックして先行した。そして最後は4選手でのゴール勝負になり、オランダのバウケ・モレマ(トレックファクトリーレーシング)が、イタリアのディエゴ・ウリッシ(ランプレ・メリダ)、日本の新城幸也(日本ナショナルチーム)にスプリントで競り勝ち、初優勝を果たした。

最後に残った4人の中では、この類の勝負が得意なウリッシが有利かと思われたのだが、彼はラストスパートで不運に見舞われてしまった。彼は他の選手に進路を阻まれ、フェンスに衝突するのを避けるためにブレーキをかけてしまい、さらにペダルが他の選手と接触するアクシデントにも見舞われ、思うようなスプリントをすることができなかった。そして新城は前輪がパンクしていたと、ゴール後に明かした。

モレマ自身も、自分が小さなグループでのスプリントに勝てたことにはとても驚いていた。「スプリントで勝てたことには、とても驚いている。厳しいレースの後でも、僕は大抵すごく速く走れるものだけど、今日は大集団でのスプリントではなかったからね。ラスト100メートルはブレーキもかけず、最後までエンジン全開で行った。誰もボクを追い越さなかったから、うれしかったよ」と、彼はレース後に行われた一般公開記者会見で話していた。

上りに強いステージレーサーであるモレマは、今までにツール・ド・スイスやブエルタ・ア・エスパーニャで区間優勝したことはあったが、ワンデーレースで優勝したのは初めてだった。土曜日に宇都宮市街地で開催された前哨戦のジャパンカップ・クリテリウムでは、別府史之が日本人として初優勝。今年のジャパンカップは、トレックファクトリーレーシングの圧勝で幕を閉じた。
 

優勝候補のハースとクネゴがリタイア


さわやかな秋晴れになった今年のジャパンカップには、国内外15チームの73選手が参加した。ゼッケン1を与えられたのは、昨年2度目の優勝を果たしたオーストラリアのネイザン・ハース(チームキャノンデール・ガーミン)だった。

しかし、チームのファブリィツィオ・グイーディ監督は、ハースは調子がよくないことを大会前に明かしていた。「今年の優勝は難しいと思う」という監督の不安は的中し、ディフェンディング・チャンピオンのハースは中盤の7周回で集団から脱落し、そのままレースを棄権してしまった。

今年のジャパンカップでは、もう1つ大きな番狂わせがあった。日本とイタリアの混成チームであるNIPPO・ヴィーニファンティーニに今季移籍し、今大会で3度目の優勝を狙っていたイタリアのダミアーノ・クネゴが、たった2周目で落車し、そのままレースを棄権してしまったのだ。

幸いケガは擦過傷だけで骨折はなかったが、ジャパンカップ出場が9回目で、常に勝利を目指す走りをしてきたベテランのクネゴがいなくなったことは、今年のレース展開に大きな影響を与えたにちがいない。
 

カンチェッラーラが魅せた!

レース序盤から集団をコントロールしつづけたトレック勢。前方にはカンチェッラーラの姿もあった
レース序盤から集団をコントロールしつづけたトレック勢。前方にはカンチェッラーラの姿もあった
レースは1周目の古賀志林道で最初のアタックが決まり、7人が集団から逃げ続けるいつもの展開になった。そこには4人の日本人選手が加わっていた。

メンバーは地元宇都宮ブリッツェンの青柳憲輝、今年ジャパンカップ初出場を果たした那須ブラーゼンの鈴木龍、チーム右京の土井雪広、マトリックスパワータグの安原大貴、オランダのマルテイン・フェルシュホール(チームノボノルディスク)、そして台湾のシャオシュアン・ルーとオーストラリアのエリック・シェパード(アタッキ・チームグスト)だった。

しかし、集団はUCIワールドチームがきっちりコントロールを続け、トレックファクトリーレーシングが主導権を持って先頭を引き続けたため、そのタイム差は4分以上に開くことはなかった。古賀志林道の頂上では、あのファビアン・カンチェッラーラ(トレックファクトリーレーシング)が集団を引き続け、沿道を埋め尽くしたレースファンを大いに喜ばせてくれた。

8月のブエルタをリタイアした後、カンチェッラーラは一度今シーズンの終了を発表していたのだが、昨年ケガで走ることができなかったジャパンカップのためにそれを撤回して来日していた。彼は2ヶ月レースを離れていて、コンディションは万全ではなかったが、「フミやバウケをサポートして良いレースができると思う」と、2日前に行われた記者会見で語っていた。

その言葉の通り、カンチェッラーラはヤロスラフ・ポポビッチ、ローラン・ディディエと一緒にレースをコントロールし続けたのだ。そこにはチームスカイのベルンハルト・アイゼルや、ランプレ・メリダのチュンカイ・フェンの姿もあった。
 
 
最後の古賀志林道でアタックを試みたウリッシ                       
最後の古賀志林道でアタックを試みたウリッシ                       
古賀志林道でウリッシのアタックを見逃さなかったモレマとエナオ                            
古賀志林道でウリッシのアタックを見逃さなかったモレマとエナオ                            
今年は周回数が増えたため、古賀志林道の頂上通過にかけられた山岳賞も1回増え、チャンスは4回になった。3周目にかけられた最初の山岳賞は、地元宇都宮ブリッツェンの青柳憲輝が獲得し、沿道のサポーターから大歓声で祝福された。

6周回にかけられた2回目の山岳賞では、オーストラリアのシェパードが大きく先行して古賀志林道の頂上を通過。彼はそのまま逃げ集団から単独で先行し、9周回にかけられていた3回目の山岳賞も獲得した。

しかし、終盤に向けてレースは次第に動き始めていた。9周回が終了して残り5周にレースが突入したとき、シェパードを吸収した逃げグループと集団のタイム差は1分17秒しかなかった。

残り4周回に突入し、地元の宇都宮ブリッツェンが4人で集団からアタックする奇襲に出たが、UCIワールドチーム勢は落ち着いていた。レースはまだ40kmも残っていて、集団はすぐにランプレ・メリダがコントロールし、大きなタイム差が付くことはなかった。

最後の山岳賞がかかっていた残り3周回は、宇都宮ブリッツェンのエース増田成幸が、ブリヂストンアンカーの初山翔とともに先行。しかし、そのすぐ後方には、ベテランのマヌエーレ・モーリ(ランプレ・メリダ)が引く集団が迫っていた。

最後の山岳賞は、直前のツール・ド・シンカラで区間優勝した初山が獲得したが、2人は下りで30人ほどに絞りこまれたメイン集団に吸収されてしまった。

そこから激しいアタックが繰り返され、エースを序盤で失っていたNIPPO・ヴィーニファンティーニの山本元喜が、キャノンデール・ガーミンのマテイ・モホリッチとともに先行し、ランプレが引き続ける集団に17秒差を付けて残り2周回へと入った。しかし、2人は古賀志林道の上りで集団に吸収されてしまった。

集団では残り2周回でウリッシとヤン・ポランツ(ランプレ・メリダ)、モレマ、新城、モホリッチ、セバスティアン・エナオとベン・スウィフト(チームスカイ)、ベンハミン・プラデス(マトリックスパワータグ)、フローリス・ヒールツ(BMC)が抜け出し、9人で最終周回へと突入した。

最後の古賀志林道では、単独で抜け出したいウリッシがアタックしたが、モレマとエナオがそれを許さず、3人で頂上を通過した。その先頭グループに下りで新城が追いつくと、ゴール地点で待つ大観衆は歓喜の声を上げた。

田野町の交差点を通過した後、クライマーのエナオは先頭グループから脱落。代わってヒールツが追いつき、最後は4人でのゴールスプリントになった。そしてオランダを象徴するオレンジ色の自転車に乗ったモレマが、両手を高々と上げてフィニッシュラインを通過した。

 

トップ3選手たちのコメント


■オランダ人初のジャパンカップ勝者になったバウケ・モレマ(トレック)
「最後の2周は本当にハードだったが、チームは本当に良い仕事をしてくれた。最終周回では、実は脚がツッてしまっていたんだけど、スプリントで勝ててビックリした。観客は本当はすごかった。こんなに応援を受けたことは、今までになかった。観客のためにも、チームのためにも、そして僕自身のためにも、ここで勝てたことは本当に素晴らしい」

■ディエゴ・ウリッシ(ランプレ・メリダ/2位)
「最後のスプリントでちょっと失敗して、閉じ込められてしまった。けれどバウケは今日すごく良い脚で、すごく良いコンディションだったから、この勝利に値したと思う。最後の短い坂で1人で行きたくてアタックしたが、それはうまく行かなかった」

■新城幸也(日本ナショナルチーム/3位)
「僕はU23の選手たちと走ったので、コントロールには加わることなく、できるだけ脚をためて後半のペースアップに備えた。最後3周回でレースのペースが上がった時には、面手利輝がしっかり前へと連れて行ってくれた。うまく展開にハマったという感じだった。調子も良かったし、最後は、さっき見たら前輪がパンクしていた。何か重いなと思ったのは、脚が重いのではなく、自転車が重かったのだった」
 
 

第24回ジャパンカップサイクルロードレース結果

1 バウケ・モレマ(トレック/オランダ)3時間53分40秒
2 ディエゴ・ウリッシ(ランプレ・メリダ/イタリア)
3 新城幸也(日本ナショナルチーム)
4 フローリス・ヒールツ(BMC/オランダ)
5 ヤン・ポランツ(ランプレ・メリダ/スロベニア)+11秒
6 マテイ・モホリッチ(キャノンデール・ガーミン/スロベニア)+16秒
7 セバスティアン・エナオ(チームスカイ/コロンビア)+22秒
8 ベンハミン・プラデス(マトリックスパワータグ/スペイン)+44秒
9 ベン・スウィフト(チームスカイ/英国)+1分22秒
10 畑中勇介(チーム右京/日本)+1分54秒
 
山岳賞を獲得した青柳、シェパード、初山                                           
山岳賞を獲得した青柳、シェパード、初山                                           
U23最優秀選手賞を獲得したスロベニアのモホリッチ                                       
U23最優秀選手賞を獲得したスロベニアのモホリッチ                                       
アジア最優秀選手賞は3位の新城が獲得した
アジア最優秀選手賞は3位の新城が獲得した
(http://www.japancup.gr.jp/)


■2014年のレポート→ http://www.cyclesports.jp/articles/detail/29191

■2013年のレポート→ http://www.cyclesports.jp/articles/detail/28972

■2012年のレポート→ http://www.cyclesports.jp/articles/detail/28648