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ベテランのハイマンがサプライズ優勝! パリ〜ルーベ 2016

気まぐれなクラシックの女王は時として、
ルーベのベロドロームで驚くべき勝者に微笑む。
今年、石畳のトロフィーを胸にいだいたのは
長年アシストとして走ってきた
37歳のハイマンだった…
Photo: Graham Watson

アシストにもたらされた大勝利

 
“クラシックの女王”と呼ばれるパリ~ルーベは、時として優勝候補には上がっていなかったような、驚くべき選手が勝利を手にするレースでもある。それは多くの場合、長年エースのために働き続けたアシストにもたらされる、思いがけない贈り物だ。

今年、ベルギーのトム・ボーネン(エティックス・クイックステップ)の、前人未到の5勝目という大記録達成を阻み、初優勝を果たしたのは、もうすぐ38歳になるオーストラリア人、マテュー・ハイマン(オリカ・グリーンエッジ)だった。彼はアシストであり、しかも前半に集団から逃げ出した選手の1人だった。

それにもかかわらずハイマンは、ルーベのベロドロームでボーネン、イアン・スタナード(チームスカイ)、セプ・バンマルク(ロトNL・ユンボ)というエース格の選手たちをゴールスプリントで打ち負かしてしまったのだ。

昨年10月にアブダビ・ツアー(アジアツアー2.1)の落車で側頭骨を骨折したボーネンは、半年で奇跡の復活を遂げ、大記録達成にあと一歩のところまで近づいたのだが、思わぬ伏兵にスプリントで負けてしまった。

「これでトムは眠れない夜を過ごすんじゃないかと思う。申し訳ないけど、僕は勝ってしまったのさ」と、記者会見でハイマンは言った。優勝して謝る選手は、あまりいないだろう。

しかし、ボーネンはハイマンの勝利を祝福している。「彼のように長年誰かのアシストをしてきた選手は勝利に値する。パリ~ルーベでは過去にも彼のような選手が勝っているが、それは悪いことではないと思う」
 
 
第114回大会は雨天の予報から快晴に変わり、石畳も予想に反して乾いていた。レースはスタートから高速になり、なかなかアタックが決まらなかった。70km地点でやっと16人が逃げ出し、そこにハイマンも加わっていた。ゴールまで残り159kmの、27カ所ある石畳の最初のセクションに16人の逃げが到着したとき、集団とのタイム差は1分程度だった。

集団ではゴールまで残り115kmの、マンからモンショーまでの石畳セクションで大きな落車が発生。足止めを食わなかった21人が先行する形になった。この21人にボーネンは3人のアシストともに入り、バンマルクのロトNL・ユンボは6人、スタナードのチームスカイは4人入っていた。

ノルウエーチャンピオンのエドワルド・ボアソンハーゲン(ディメンションデータ)とハインリッヒ・ハウスラー(IAM)もボーネンのグループに加わっていたが、世界チャンピオンのペーテル・サガン(ティンコフ)とファビアン・カンチェッラーラ(トレック・セガフレード)は落車で足止めを食ってしまい、第3グループになってしまった。

ボーネンのグループでは、パリ〜ルーベ初参加のトニー・マルティン(エティックス・クイックステップ)が先頭を引きまくり、逃げグループとの差を縮めていった。ゴールまで残り100kmを切ったアランベールの石畳でボーネンのグループは5人になり、バンマルクは遅れてしまった。

このレースで引退すると発表していたウクライナのヤロスラフ・ポポビッチ(トレック・セガフレード)は逃げに加わっていたのだが、遅れたカンチェッラーラのために後続集団へと戻り、最後の仕事を始めた。しかし、ボーネンのグループとの差は1分から縮まらなかった。

 
 
アランベールで遅れたバンマルクのグループは、ゴールまで残り82kmでボーネンのグループに追いつくことが出来た。そして残り63kmで、ボーネンのグループは先頭の逃げグループを吸収した。

ゴールまで52kmの11番の石畳で、先頭グループはチームスカイ勢が引いていた。しかし、カーブでジャンニ・モスコン(チームスカイ)が転倒し、スタナードは避けることができたが、ルーク・ロウは巻き込まれてしまった。さらにその直後にサルバトーレ・プッチョも落車し、先頭グループで生き残ったチームスカイはスタナードだけになってしまった。

つづく10番のモン・サン・ペペールの石畳セクションで先頭グループはバンマルクがアタックしたが成功しなかった。1分後方の追走グループでは、集団の前方を走っていたカンチェッラーラがはげしく転倒。すぐ後ろを走っていたサガンは、カンチェッラーラの自転車をまともに踏み越えたが落車はしなかった。

しかし、オランダチャンピオンのニキ・テルプストラ(エティックス・クイックステップ)はこの落車に巻き込まれて転倒し、結局レースを棄権した。

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先頭グループではアタックが続き、残り20kmのカンピン・アン・ペベールの石畳でスタナード、ボーネン、バンマルク、ボアソンハーゲ、ハイマンの5人が先行した。この5人から、つづくカルフール・ダルブルの石畳でバンマルクがアタックして10秒ほど先行したが、4km先で捕まってしまった。

最後の10kmはアタックが続いたが、誰も成功せず、勝負はゴールのベロドロームへと持ち込まれた。そして最後のスプリントを制したのは、これが15回目のパリ〜ルーベだった37歳のハイマンだった。

ハイマンは今シーズン、2月下旬に開催されたオムロープ・ヘットニュースブラッド(ヨーロッパツアー1.HC)で落車し、右腕橈骨を骨折して戦線離脱していた。

「信じられないよ。僕は5週間前に腕を折って、まったくレースができなかった。先週スペインのレースで復帰したばかりなんだよ。このレースはお気に入りで、夢のレースだ。楽しむために走り、一日中脚をためて安全であり続けた。最後に他の連中はかなり疲れているとわかっていた。僕はただ、うまくゲームをして、ラッキーだったのさ」と、ハイマンは語っている。

今月20日で38歳になるハイマンは、フランスのジルベール・デュクロラサール(38歳229日)、ルシアン・レスナ(38歳170日)につづき、史上3番目に年長のパリ〜ルーベ勝者になった。

これが最後のルーベだったカンチェッラーラは落車で失速し、アシストのヤスペル・スタイブン(トレック・セガフレード)に引かれて7分35秒遅れでルーベのベロドロームにゴールした。

ベロドロームの一角はカンチェッラーラの応援団が占拠していた。彼はゴール後、そこに行ってスイス国旗を受けとって走り出した。ところがすぐに傾斜のあるバンクで転倒し、結局彼はファイナルランをあきらめてしまった。このレースで3度優勝したカンチェッラーラの最後の成績は、40位だった。
 

第114回パリ~ルーベ結果

1 マテュー・ハイマン(オリカ・グリーンエッジ/オーストラリア)5時間51分53秒
2 トム・ボーネン(エティックス・クイックステップ/ベルギー)
3 イアン・スタナード(チームスカイ/英国)
4 セプ・バンマルク(ロトNL・ユンボ/ベルギー)
5 エドワルド・ボアソンハーゲン(ディメンションデータ/ノルウェー)+3秒
6 ハインリッヒ・ハウスラー(IAM/オーストラリア)+1分00秒
7 マルセル・ジーベルク(ロット・ソウダル/ドイツ)+1分00秒
8 アレクセイス・サラモティンス(IAM/ラトビア)+1分00秒
9 イマノル・エルビティ(モビスター/スペイン)+1分07秒
10 アドリアン・プティ(ディレクトエネルジー/フランス)+2分20秒
 
 

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