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亡きチームメイトに捧げた勝利! アムステル・ゴールドレース 2016

3週間前の事故でチームメイトを失い
彼のために走るのだという強い想いを抱いて
レースを続けていたワンティ・グループゴベールに
UCIワールドツアーという大舞台で
ガスパロットが勝利をもたらした
 
Photo: Graham Watson / cyclesports.jp

#ライド・フォー・アントワン

 
今年、UCIワールドツアーの1戦であるオランダのアムステル・ゴールドレースのスタートラインに、特別な想いを抱いて並んだチームがあった。ベルギーのUCIプロコンチネンタルチーム、ワンティ・グループゴベールだ。

3週間前に開催されたヘント~ウェヴェルヘム(UCIワールドツアー)で、チームはアントワン・デモワティエという25歳の選手を事故で失った。それ以来、彼らは『#ライド・フォー・アントワン(#RIDEFORANTOINE)』というメッセージを自転車やヘルメットに付けてレースに参加している。その想いは、チームにとって特別な力になった。

優勝経験者としてアムステル・ゴールドレースでエースになったイタリアのエンリーコ・ガスパロットも、アントワンのために勝ちたいという強い意志を持ってマーストリヒトをスタートした。4日前のブラパンツペイル(ヨーロッパツアー1.HC)で、彼は勝利にあと一歩のところまで近づいたが、若いペトル・バコッチ(エティックス・クイックステップ)に鼻先で勝利をかすめ取られてしまっていた。

「アントワンのために勝ちたかった」と、ゴール後に肩を落としていたガスパロットは「アムステルはもう僕のレースじゃないから」と、もらしていた。彼がアムステルで優勝した2012年は、まだフィニッシュラインが最後のカウベルフの頂上で、上りに強い選手が勝てるレースだった。しかし、翌年からフィニッシュラインは1km先の平坦なエリアに変わってしまったのだ。

今年も最後は大きなグループでのゴールスプリントになるだろうと予想され、オーストラリアのマイケル・マシューズ(オリカ・グリーンエッド)が優勝候補として名前を上げられていた。

しかし、ガスパロットはその不利な条件をくつがえした。最後のカウベルフで集団からアタックし、前を逃げていたティム・ワロンス(ロット・ソウダル)を抜き去り、ベルギー人たちの熱い期待を打ち砕いた。

ガスパロットはそのまま集団から抜け出すことに成功し、付いて行ったのはデンマークのミケール・バルグレン(ティンコフ)だけ。「それがロマン・クロイツィーゲルではなく、バルグレンだったのはラッキーだった」と、彼は記者会見で笑ってみせた。

フィニッシュラインの目前で勝利を確信したガスパロットは身を起こし、右手にはめたデモワティエを追悼する黒いブレスレットに口づけ、両手を上げて天国にいるチームメイトにその勝利を捧げた。

ゴール直後、TVのインタビュアーは「先週、あなたは自分の肩の上にはアントワンという天使がいると話していたが、今日もその天使はいたのか」とガスパロットに尋ねた。

「僕たちの天使はチーム全員の肩の上にいたと思う。天使がいた、というと聞こえがいいだろう。でも、それはとても辛いことだ」と、ガスパロットは強調した。

「昨日、アントワンの奥さんがホテルを訪ねてくれた。それはみんなにとって特別な時間だった。僕たちは今日、110%の力を出して、何かをしなければならなかった。だから僕は今、スーパーハッピーだ」

「僕の最後の勝利は2012年のアムステル・ゴールドレースだった。その後4年間は厳しい時期を過ごしたが、家族がいつもそばに居て僕を支えてくれた」

「この勝利はアントワンの家族へのプレゼントだ。しかし、このレースの騒ぎが終わると、アントワンの奥さんはまた一人ぼっちになってしまう。だから僕はこう言いたい。チームワンティ・グループゴベールは1つの家族で、彼女もその一員なんだと」
 

春のクラシック後半戦初戦はオランダ南部の風光明媚なリンブルフ州で開催されたが、4月中旬とは思えない寒さと、断続的に降る冷たい雨と雹に見舞われ、まるでフランダースのような悪天候との闘いになった。

35km地点のベルフセウェグの坂で、NIPPO・ヴィーニファンティーニのジャコモ・ベルラートが集団からアタックしたのをきっかけに、8人の選手が逃げグループを作った。ワンティ・グループゴベールはここにトム・ドブリーントを送り込んでいた。

51km地点の最初のカウベルフ通過時点で、8人と集団のタイム差は5分あったが、残り90kmを切って2度目に追加した時には、3分半にまで縮まっていた。

集団では残り65kmでトシュ・バンデルサンド(ロット・ソウダル)がアタックし、ビヨルン・トゥーラウ(ワンティ・グループゴベール)、ニッコロ・ボニファツィオ(トレック・セガフレード)、ジャンニ・ミールスマン(エティックス・クイックステップ)とともに先行したが、逃げを捕らえることは出来ず集団に吸収された。

左手中指を骨折した状態でレースに参加していたベルギーのフィリップ・ジルベール(BMC)は、ゴールまで残り30kmを切ったところで集団から脱落。ディフェンディング・チャンピオンのミハウ・クフィアトコフスキー(チームスカイ)も、3度目のカウベルフ越えで優勝争いのグループから消えた。

3度目のカウベルフを越えたあと、逃げはオリカ・グリーンエッジがコントロールする優勝争いのグループに捕まった。そこから残り7kmでクロイツィーゲルがアタックしたが、成功はしなかった。

クロイツィーゲルが吸収される直前に、カウンターアタックで先頭集団から飛び出したのはベルギー期待の若手選手、ワロンスだった。彼は独走を続けて最後のカウベルフのふもとに到着したが、タイム差はたった12秒しかなかった。

最後のカウベルフの上り坂で、集団からはガスパロットがアタック。頂上でワロンスを追い越し、先頭に立った。ベルギーのヤン・バークランツ(AG2R・ラモンディアル)がガスパロットを追おうとしたが、彼は集団に留まることを選び、表彰台を逃してしまった。

バークランツに変わってガスパロットに付いて行ったのは、まだ24歳のバルグレンだった。それはガスパロットにとって好都合な道連れだった。ガスパロットは強い向かい風にもかかわらず、平坦な1kmを集団から逃げ切り、最後はバルグレンをスプリントであっさり下して、2度目の勝利を手中に収めてしまった。

その後方では、メイン集団のゴールスプリントを制して3位に入った25歳のソニー・コルブレッリ(バルディアーニ・CSF)が、くやしそうにハンドルを叩いていた。しかしこれで、今年のアムステル・ゴールドレースの表彰台には、UCIプロ・コンチネンタルチームの選手が2人上がる結果となった。
 
 

UCIプロコンチネンタルチームのワンティ・グループゴベールが、UCIワールドツアーのレースで勝ったのは初めてだ。「まず第一に、チームはとてもいい仕事をしてくれた。我々がUCIプロコンチネンタルチームであることを僕は忘れない」

「チームメイトたちは110%の力を出してくれた。それは、全員がアントワンという天使を肩に宿しているからだ。ボクはチームメイトたちのことを本当に誇りに思っている」と、ガスパロットは記者会見の冒頭で感謝した。

「チームメイトの何人かは、これが初めての大きなクラシックレースだった。マーク・マクナリーは前日にフランスのレースを走っていたが、アムステルに出るはずの選手が病気になってしまったので、急きょ長い移動をして参加した。彼は一日中そばに居てくれた」

現在34歳のガスパロットは、2014年までアスタナに所属していたが、昨年はUCIワールドチームの契約を得ることができなかった。そんな彼に声をかけたのがワンティ・グループゴベールだった。「水曜日のレースの後、みんなが “ガスパ、お前はとても強い。勝てる” と勇気づけてくれた。だから今日は、そう行ってくれたチームの同僚たちのためにもトライしたんだ」と、彼は語っていた。


■優勝したガスパロットのコメント「最後は寒さと氷雨のせいでとてもハードだった。僕は寒さにひどくヤラれていたが、集団の他の選手の顔を見たら僕よりずっとひどいなと思った。集団ゴールスプリントにしたいオリカがとてもよく働いてくれた」

「最後の坂でトライしたかった。僕にはジルベールのようなパワーがないことはわかっていた。普通は53で行くが、2012年は39で行ったから同じのを選択することにした。ふもとのカーブでは落車しそうになったが、先頭に戻ることができて、エンジン全開で行った。カウベルフの上ではとても強い向かい風が吹いていたから、バルグレンが一緒でツイていた」

「アスタナではポイントの問題があった。ワールドチームとの契約ではポイントが重要だ。たぶん僕は、勝つためのモチベーションを失っていた。トップ10に入るために、待つようになってしまっていた。昨年チームを変えた時は、僕には時間が必要だった。ワールドチームとプロコンチは何もかも違うからだ。2年目になり、今はただ勝つためだけにレースを走っている」
 
 

第51回アムステル・ゴールドレース結果

1 エンリーコ・ガスパロット(ワンティ・グループゴベール/イタリア)6時間18分02秒
2 ミケール・バルグレン(ティンコフ/デンマーク)
3 ソニー・コルブレッリ(バルティアーニ・CSF/イタリア)+4秒
4 ブライアン・コカール(ディレクトエネルジー/フランス)+4秒
5 マイケル・マシューズ(オリカ・グリーンエッジ/オーストラリア)+4秒
6 ジュリアン・アラフィリップ(エティックス・クイックステップ/フランス)+4秒
7 ディエゴ・ウリッシ(ランプレ・メリダ/イタリア)+4秒
8 ジョバンニ・ビスコンティ(モビスター/イタリア)+4秒
9 ロイック・ブリーゲン(BMC/ベルギー)+4秒
10 ティム・ワロンス(ロット・ソウダル/ベルギー)+4秒
 
http://www.amstel.nl/amstelgoldrace