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究極のMTBレース「第1回松野四万十バイクレース」を、ロードバイク乗りの新米編集部員が実走レポート!

自転車の楽しみ方はひとつではない。ロードバイクもMTBも、やるならとことんやってみなくちゃ! 愛媛県松野町を舞台に開催された「究極の」クロスカントリーマラソンレースを、編集部員・江里口の目線から実走レポート!
 
text●江里口恭平、photo●Matsuno-Shimanto Bike Race OFFICIAL/江里口恭平

ロード歴5年、MTB歴3日

左、編集部・江里口。右はバディとなる中谷亮太選手。彼はジャイアントでレースメカニックを務める
左、編集部・江里口。右はバディとなる中谷亮太選手。彼はジャイアントでレースメカニックを務める
レースに優勝したのはナショナルチームの門田基志選手、池田裕樹選手、西山靖晃選手。ゴールタイムは7時間42分
レースに優勝したのはナショナルチームの門田基志選手、池田裕樹選手、西山靖晃選手。ゴールタイムは7時間42分
白いテープが分岐などに表れ、コースの目印となる
白いテープが分岐などに表れ、コースの目印となる
ちょうど半年前、僕が読者として本誌サイクルスポーツを読んでいた時に「松野四万十バイクレース(以下、MSBR)プレ大会」の記事が目に止まった。ふだんからロードバイクにしか乗ることがなかったので、MTBのレースの記事にはあまり大きな関心を持っていたわけではない。しかしその記事を読んでいる内に「MTBレースにはこんな過酷なものもあるのか」という驚きとともに、まだ自分の知らない自転車の楽しみ方があるのだという憧れのような気持ちが芽生えたことを覚えている。

そして新人編集部員として動き出した矢先、「MSBR本戦に出てみないか?」というお誘いが舞い込んできた。勢いで「しゃす!」と二つ返事で答えてしまった訳だが、落ち着いて考えてみると僕のMTB経験といったら全部合わせても3日程度。ロードバイクは5年以上乗り込んできたが、ダートの山道を100㎞以上も走るなんて、正直無茶だろうと感じつつも、松山行きの飛行機に飛び乗った。

「MSBR」は愛媛県松野町を中心に高知県四万十をまたがって開催される「林道アドベンチャー」MTBレース。公式に「日本最長距離」として126.9㎞を走る「アルティメットコース」や、90㎞の「アドバンスドコース」、四万十川上流の渓谷でキャニオニングとバイクを楽しむコースもあり、中級者や初心者も参加することができる。

そして僕が出場するのが「アルティメット」部門
http://latlonglab.yahoo.co.jp/route/watch?id=f09b7869a1693b402db0be4aac0002ef

コースプロフィールは上を参照。総距離126.9km、獲得標高3200m、未舗装路は全体の60%を超える、愛媛と高知の林道をメインとしたクロスカントリーマラソンコースだ。ほとんどが国有林や私有林内となり、今回のレースのために特別に解放された。要所にはチェックポイント(CP)を兼ねた補給所・フィード(FD)があり、チーム員が揃って通過する必要がある。制限時間が2カ所のCPで設けられており、時間以内に通過しないと脚切りを受ける。

レースは2〜4人のチームによって走ることが義務づけられているので運営側から紹介してもらい、ジャイアントでメカニックを担当している中谷選手とコンビを組ませてもらうことになった。大会前日の試走でバディとなる彼と走りつつ「必ず完走する」と意思を共有。旅館の夕食を3杯おかわりし、さあこれは行くっきゃない!と腹をくくった。
 
四国の山々と、遠くには宇和島港からの多島美が見える中をダウンヒル
四国の山々と、遠くには宇和島港からの多島美が見える中をダウンヒル
これぞ日本の渓谷。そんな景色の中をMTBで駆け抜ける
これぞ日本の渓谷。そんな景色の中をMTBで駆け抜ける

山頂では茶の湯で一息。鹿肉バーベキューで野生に帰る!?

表千家の先生による茶の湯で一息
表千家の先生による茶の湯で一息
鹿肉ソーセージは一度ボイルされた後焼き上げられるため、非常にジューシー。塩味が効いていて臭みがない
鹿肉ソーセージは一度ボイルされた後焼き上げられるため、非常にジューシー。塩味が効いていて臭みがない
チームでまとまって走るので、山道はにぎやか。鹿肉ソーセージをみんなでパクリ
チームでまとまって走るので、山道はにぎやか。鹿肉ソーセージをみんなでパクリ
朝の6時ちょうど、号砲が鳴り、レースは始まった。最後まで粘ってやる、そんな気持ちだけをだけを頼りにバディの中谷さんとともに走り出す。最初に待つのは、1000mを超える山岳。慣れ親しんだ舗装路区間はあっさりとお別れとなり、ダート区間へ突入した。側にいた3人組と合流して5人パックを形成する。
ダートの上りは僕にとっては道なき道。一体どんなラインをたどればいいかがまずわからない。

先導してくれるバディの真後ろをトレースして、必死にラインをたどっていく。ラインを少しでも外れてしまうと不要な振動で疲労が溜まってしまうのでそれだけは避けたい。また、この上りの中盤で同じパックで走っていた人に「リアを開放したらいい」とアドバイスされた。はて、なんのこっちゃと聞き返すと、リアサスペンションを開放すると良いと教えられた。なるほど!これならちゃんと後輪が荒れた路面に吸い付いて上ってくれる。走りながらひとつひとつ、MTBのイロハを体感した。


上り切ると、なんと表千家の茶の湯がエイドに登場。四国山脈と遠くに見える宇和島港を眺めつつ、汲み上げた四万十の清流と名器でいただくお茶。こんな格好で、ましてや山の頂上でなんて、贅沢というよりも非現実的過ぎる! そこから舗装路ながらウェットでスリッピーな道を、ディスクブレーキとサスに任せて高速ダウンヒル。

次の林道も呼吸が上がらないくらいのペースを保つ。慣れてきたので楽に踏んで上っていると、なにやら肉の焼ける匂いが。今度はなんだ? すると本当に肉が出てきた。しかも鹿肉を使ったソーセージ! アツアツの焼きたてを二本いただき、さあまた下山だ。しかし次は勝手が違う。オフロードのダウンヒルだ。こけたらただじゃすまない……そんな思いが頭をよぎると全く下れない。

一目で「いや、ムリムリ!」と思ってしまう道だが、うまい人の後ろに付いて、慎重にラインをトレースし体の使い方を真似しているとなんとか下れてしまった。MTBがこんなにカッコ良い乗り物で、ハードな道を乗って楽しめるなんて。自転車の楽しみ方がひとつではないことを実感していた。
 
四万十の清流で入れた茶の湯。和菓子が添えられこれもまた美味
四万十の清流で入れた茶の湯。和菓子が添えられこれもまた美味
フィード以外の補給は自前となる。しかし水は道中の湧き水がどこでも汲める!
フィード以外の補給は自前となる。しかし水は道中の湧き水がどこでも汲める!
同じパック内でパンクが発生。もちろん自前で修理する。装備は同じチーム内で共有し持ち運ぶ
同じパック内でパンクが発生。もちろん自前で修理する。装備は同じチーム内で共有し持ち運ぶ

バイクを押し始め、もう30分は上っただろうか

激坂のセクションで乗車して上るには、脚だけでなくテクニックも必要とされる。ほとんどのライダーは押して上ることになる
激坂のセクションで乗車して上るには、脚だけでなくテクニックも必要とされる。ほとんどのライダーは押して上ることになる
中谷・江里口コンビが完走に向かってひた走る!
中谷・江里口コンビが完走に向かってひた走る!
下山して舗装路区間に出てからは、再び5人でローテーションを回しつつ進む。精神的にも余裕が出てきたところで、今度は川が行く手を遮る。一息に突っ込むと泥まみれの体には気持ちがいい。さあリフレッシュしてサクサク進むぞ! ……いや、進めない。坂の傾斜がきつすぎて、バイクに乗っていられない。

バイクを降りて押し始める。少し上って休んでいると、同じパックのライダーの姿がなかなか現れない。どうやら限界の様で、隣の3人組の一人はここでリタイアを選択。ここで僕らは残り60kmをコンビで進むことに変更した。次のチェックポイントで、完走を目指すための目安の通過時間が12時だったところを、12時に通過。ちょっとゆっくりし過ぎてしまったらしい。

しかし次のセクションも、とてもじゃないが僕には乗ることができない傾斜の山道だった。バディから「ここでの時速3kmも5kmも大きくは変わらない」との言葉を受け、体力を必要以上に消耗しないよう一歩一歩バイクを押しながら上っていく。この山が長かった。30分以上、淡々としたたる汗を眺めつつバイクを押す。うっそうとした林道は終わりが全く見えない。これはつらい。

レース前日、今回のコースをデザインした門田選手から話を聞いたが、このアルティメットコースは「完走することがスペシャル」なんだと語っていた。完走がどれだけ大変なことなのか、徐々にリタイアの一言がが頭によぎり始めた。
 
武士に見送られ沈下橋を渡る
武士に見送られ沈下橋を渡る
最後の山頂では浴衣のお姉さんがお出迎え!松野音頭ではいポーズ
最後の山頂では浴衣のお姉さんがお出迎え!松野音頭ではいポーズ
上り切った後、次の急坂を下っていと今度はほら貝の音?なんだ? 武士だ! 赤糸縅(あかいとのおどし)の甲冑(かっちゅう)が現れたかと思うと、沈下橋の上で行く手を遮られたのでちょっと落ち着いて補給。エネルギーだけは切れないように食事を取り続ける。残りの距離は40km足らず。しかし再び走り始めると、舗装路区間なのに力が入らない。ツキイチで進むが、かなり苦しくなってきていた。

最後の大きな関門でありスタート&ゴール地点でもある松野南小学校CPを15時に通過しないと脚切りになる。今の状況で再び標高1000m超の山岳に入るのはきつい。もう時間もダメだろうと内心思っていた。しかしCP通過時刻は14時過ぎ。行けてしまった。「とりあえず深呼吸をしよう。まだ走れる」。ずっと前を引いてくれてなお、僕を励ましてくれるバディを信じて、呼吸を整えゼリーを補給する。少しずつ、再び身体が動き始めた。上ろう。

無情にも小雨が降り始め、もともと滑りやすかった岩場は余計に滑りやすくなる。トルクをかけながら慎重に山を上る。長い。何度も気持ちが切れそうになるが、傍らで走るバディに合わせてペダルを踏む。いつもの無駄口を叩かなくなった分僕は静かに上り、バディは力強い口調で「いける」と話してくれる。なるほど、いける気がしてきた。

頂上に着くと、浴衣のお姉さんたちが僕に補給を与えてくれたので、ちょっと元気になる。最後の山道を上り切り、長い下りに入る。これだけ走ったのはいつ以来だろう。ロードバイクばかりやってきて、レースやイベントを楽しんできたけれど、こんな気持ちになったのはもう遠い昔のような気がする。それは僕が自転車を手に入れて、少し遠くへ行って帰ってきた日の感覚だ。山を下り切り、フィニッシュラインを越える。総走行時間は10時間40分。バディと強く握手をした。



開催日●2016年10月2日(日)
開催地●愛媛県北宇和郡松野町
主催者●松野四万十バイクレース実行委員会
http://matsunoshimanto.com
 
やったぜ完走! 順位は完走者27組中16位。アルティメット部門全体の完走率は60%に届かなかった
やったぜ完走! 順位は完走者27組中16位。アルティメット部門全体の完走率は60%に届かなかった
初心者向けの「MTB&キャニオニング」コースも。体ひとつで、日本屈指のキャニオニングスポット・松野町の滑床(なめとこ)渓谷を楽しめる!
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今回のイベントグルメ、番外編として松野町の天然鰻丼
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愛媛のみかんはこの時期から甘くておいしい
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それぞれのFDでは多くの菓子パンやスポーツドリンクなど、補給には困ることはなかった
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