ニュース

「アルプスあづみのセンチュリーライド」申し込み開始5分で受付終了!その人気の秘密とは?

イベント
今回で10回目を迎える「アルプスあづみのセンチュリーライド(AACR)」は、長野県の中信地方を舞台に開催されるライドイベントだ。なんと募集開始から5分で定員が埋まってしまうという人気ぶりから、今年は「桜と緑」をテーマに、4月と5月に2回に大会を分けてそれぞれ開催した。
5月21日(日)に開催された「緑のAACR」の模様を本誌校正マンの澤田裕さんがレポートしてくれた。実行委員長の鈴木雷太さんのインタビューと併せてお伝えする。

 

キーワードは「サイクリストファースト」

日本列島が猛暑に見舞われた5月21日、長野県松本市や安曇野市、大町市といった中信地方を舞台に、「アルプスあづみのセンチュリーライド(AACR)」が催された。9年目を迎えたこの大会は、申し込み開始5分で受付が終了してしまうという人気ぶり。そこで今年は5月に加えて4月にも開催されることになり、それぞれ「桜」(4月)と「緑」(5月)の名が冠された。

ところが2度になったとはいえ、ハードルの高さは相変わらず。僕自身は特別協賛となっているスペシャライズドのオーナーということで先行予約の恩恵にあずかったものの、一緒に申し込もうとした妻は、追加募集でようやく参加資格を手に入れたという有様だ。
 
受付会場では、ワコーズブランドのケミカル製品を展開する和光ケミカルが無料メンテナンスを提供
受付会場では、ワコーズブランドのケミカル製品を展開する和光ケミカルが無料メンテナンスを提供
競争が省かれていることで、スタート地点に並ぶ参加者にも和やかな雰囲気が漂っている
競争が省かれていることで、スタート地点に並ぶ参加者にも和やかな雰囲気が漂っている
まだ夜が明け切らぬ静寂に包まれたなか、緩やかな坂を淡々と上っていく
まだ夜が明け切らぬ静寂に包まれたなか、緩やかな坂を淡々と上っていく
緑のAACRということで、背後の低山は鮮やかな緑に覆われている
緑のAACRということで、背後の低山は鮮やかな緑に覆われている
姿を現した雪山を目指そうと、ペダルをこぐ足に力がこもる
姿を現した雪山を目指そうと、ペダルをこぐ足に力がこもる
雪山と低山、手前の花畑とのコントラストが美しい
雪山と低山、手前の花畑とのコントラストが美しい
エイドステーションでは、この土地ならではの味覚が提供された
エイドステーションでは、この土地ならではの味覚が提供された
その味覚を、てんこ盛りにしたおにぎりを頬張る
その味覚を、てんこ盛りにしたおにぎりを頬張る
田植えを終えた田んぼには、背後の景色が映り込む
田植えを終えた田んぼには、背後の景色が映り込む
取材に応じてくれた、大会の実行委員長兼プロデューサーを務める鈴木雷太さん
取材に応じてくれた、大会の実行委員長兼プロデューサーを務める鈴木雷太さん
そこまで人気が過熱しているのはなぜなのか? その秘密を探るため、全日本MTB選手権の元王者で大会の実行委員長兼プロデューサーを務める鈴木雷太さんに話をうかがった。

Q:大会を始めたきっかけを教えてください。
A:僕がブリヂストン・アンカーに所属していたときにホノルルセンチュリーライドを走ったことがあり、それがすごく楽しかったんですが、一方で「これなら僕が毎日練習で走っているところ(中信地方)でもできるんじゃないかな」との思いもあったんです。その後、松本でショップ(バイクランチ)を始めた僕に、国営アルプスあづみの公園の所長さんが発した「何かやれないかな」との声が届き、「だったらセンチュリーライドがいい」と進言。両者の思いが合致して始めることになりました。

Q:ここまでの人気を集めると予想していましたか?
A:人気の大会になりたいとの思いはありましたけど、なるという確信はありませんでした。

Q:それが確信に変わったのはいつ頃ですか。
A:4回目からですね。

Q:その時点で今のような状態になっていたということでしょうか。
A:いえ。それこそ5、6回目まではブース出展を依頼しても「他があるから」と言われることがありましたし、枠が埋まるか埋まらないか心配する状況も続いてました。

Q:雷太さん自身では、何が人気の秘訣だと思ってますか。
A:ルートや大会の運営といった物事を、サイクリストの気持ちに沿って考えていることでしょうか。実際に走ったり声を聞いたりして、「ここにこれがあったらいいな」を形にしています。それは食べ物だったり休憩するエイドステーション間の距離だったり……。例を挙げれば160km走って、法規に則って止まらなくてはならないのは30回だけなんです(信号の直進交差を除く。実際には安全対策を重視し、それ以外の箇所での一時停止も推奨している)。いわば5kmに1回。それって劇的に少ない数だと思うんですね。もちろん、それを実現するためにルートを研究し、工夫も凝らしているから、それがサイクリストにも伝わっているのではないでしょうか。

「絶対にハズレを引きたくない!」という気持ちが、人気のあるモノへのさらなる集中を招く……音楽や書物、はたまたレストランなどの一極集中に見られるメカニズムが、この大会でも発揮されていることは間違いない。
だからといって、それだけで長続きするものでもない。AACRに参加する人の多くはリピーターとその関係者とのことだが、「サイクリストファースト」を肌で感じとった参加者が、それを仲間と共有したいと願うことが、今の過剰なまでの人気に結びついているのではないだろうか。

ことごとく省かれた“競争”という要素

取材の場で僕が発した「コース」という言葉に対し、すぐさま雷太さんは、「大会では(レースを想起させる)コースではなく、道をなぞっていくという意味でルートと呼んでいます」と語った。この言葉に象徴されているように、AACRにおいては“競争”という要素がことごとく省かれている。まずスタートは4人ずつ順番で、5時スタートの僕が実際に走り始めたときには9分が過ぎていた。とはいえその程度なら、着順を問わないエンデューロなどにも見られるものだ。AACRが徹底しているのは、各エイドステーションとゴールの指定通過時刻以外に、時間に関わるものが一切ないということ。完走証にも所要時間の記載はなく、たとえ前回、あるいは一緒に参加した友人よりタイムが良かろうが、それは本人の自己満足にすぎない。

おかげでタイム計測や集計、結果発表といった結果にまつわる煩雑な事務作業を避けられただけでなく、タイムを短縮するための赤信号や一時停止の無視、無理な追い越しなどの抑制が、結果的に事故の防止にもつながった。参加者にとっても、沿道やエイドステーションで時間を気にせず思うがまま楽しむことができるのはメリットだ。実際、このコラムのため撮影を必要とした僕以外にも、多くの参加者が立ち止まって記念撮影に興じていた。さらに指定通過時刻をクリアさえすれば、短いルートから長いルートに変更することもできる(もちろん逆もOK)。これも競争を省くことで手に入れた自由だ。

主催者、参加者の双方にとって負担を減らし自由を拡大するこのような試みは、もっと広がってもらいたい。
(text&photo:澤田裕)
 
エイドステーションに並んだ品々を、僕も完食
エイドステーションに並んだ品々を、僕も完食
東京からやってきたという女性二人組は、いきなり160kmに挑戦
東京からやってきたという女性二人組は、いきなり160kmに挑戦
景色に見初められた参加者は、思わず立ち止まって愛車をパチリ
景色に見初められた参加者は、思わず立ち止まって愛車をパチリ
雄大な景色を前に、男たちは何を語る?
雄大な景色を前に、男たちは何を語る?
渓流に沿った山道が、ルートにアクセントを添える
渓流に沿った山道が、ルートにアクセントを添える
快適に利用できるトイレの明示も、サイクリストの気持ちに沿って考えたこと
快適に利用できるトイレの明示も、サイクリストの気持ちに沿って考えたこと
エイドステーションでの食事提供や道筋での誘導を、多くの地元住民が担ってくれた
エイドステーションでの食事提供や道筋での誘導を、多くの地元住民が担ってくれた
競争がなくても集団走行してしまうのは、サイクリストの性なのか?
競争がなくても集団走行してしまうのは、サイクリストの性なのか?
長旅を終え、仲間とともにゴールの感動を味わう
長旅を終え、仲間とともにゴールの感動を味わう
高価に見える160㎞クラスS組の参加費(2万円・税込)には、スペシャライズドのタイヤ「ルーベプロ」(5184円・税込)×2本とヘッドライトとテールライトのセット「スティックススポーツコンボ」(6048円・税込)が含まれており、実質的な参加費は、なんと3584円!
問・アルプスあずみのセンチュリーライド