トピックス

2013ジロ・デ・イタリア4賞ジャージをデザイン ポール・スミス氏インタビュー

毎年5月に3週間かけてイタリアを一周するロードレース「ジロ・デ・イタリア」。今年の4賞ジャージをイギリスを代表するファッションデザイナーのポール・スミスがデザイン。4月に来日したポールに多忙なスケジュールの中、インタビューすることができた。

text●ナカジ photo●小見哲彦、Graham Watson

ひとりの自転車ファンとして

96回目の開催となる今年のジロ・デ・イタリアは、5月4日(土)にナポリをスタートする。開催前から大きな話題となっているのは、今年の4賞ジャージだ。なぜなら、デザインを担当したのはイギリスを代表するファッションデザイナーであるポール・スミス。自身も熱心な自転車ファンであることは有名だ。

 

4月に来日したポール・スミス氏にインタビューするチャンスに恵まれた。多忙なスケジュールの中ではあったが「大好きな自転車のためなら!」と時間を作ってくれたのだ。

ジャージの中にどうポール・スミスの「DNA」を宿すのか

Q1.ジャージデザインについてこだわったところはなんですか? またレースウエアゆえに難しかったところはありますか?

 

まず最初に今回のジャージをデザインするに当たって、いつも僕が作っている洋服と違うところは、とにかくルールが多いところ。特に色はもう決まっている。ピンク(総合リーダージャージのマリア・ローザ)、レッド(ポイント賞のマリア・ロッサ)、ブルー(山岳賞のマリア・アッズーラ)、ホワイト(新人賞のマリア・ビアンカ)とね。

それとスポーツウエアというよりも、「自転車用のジャージ」という限定された用途だ。なのでその条件に合うものをリサーチした。

 

まず素材だ。サイドのパネル。シームになっているパイピングのところ。その中にどうポール・スミスのDNAを宿すことができるのかだ。今回はポール・スミスのマルチストライプを片方のソデにあしらった。それと色使い。シームのフチの色と生地の色とのコンビネーションを”ポップ”な印象になるような組み合わせにした。ポップというのは、ポップアートのイメージ。たとえばアンディー・ウォーホールに代表されるようなね。彼も色同士がぶつかるような強い色の組み合わせが多かった。(マリア・ローザの)ピンクと(パイピングが)赤の組み合わせはそうだね。 

 

 Q2.特に気に入っているデザインのポイントはどこでしょうか?

 

この色の組み合わせだね。あとはファッションデザイナーとして機能面にも気をつけている。サイドパネルにメッシュ素材を使い通気性をよくしている。

 

Q3.素材選びから関わっているんですか?

うん、すべてにおいてだ。

昔のジャージはラグランといって肩のラインに必ず線が入っていた。それゆえ視覚的にはすごくなで肩というか、肩がか弱い感じに見えていた。それがちょっと気になっていたので、僕が今回のジャージをデザインしたときは、そこを強調せずに、その人が持っている力強い体格を見せられるようにした。

 

それと「Paul Smith」のロゴを、目立つエリのところと背中。それに後ろのスソにも大きくロゴを入れさせてもらえた。これはすごく珍しいことなんだ。サイドには僕が書いたイラストが入っているよ。山岳賞ジャージのサイドには「山を上っている選手イラスト」だし、スプリンタージャージはすごくスピードが出ているイメージを描いたんだ。ほら、マリア・ローザはあんまりスピードが出ていないだろ(笑)。そんな細部までこだわっている。

 

エリの裏には、とても有名なイタリア人自転車選手であるフランチェスコ・マジーニの名前が入っているんだ。去年亡くなったね。

 

 

Q4.マリア・ローザの色はピンクと決まっていますが、毎年色の具合が淡かったり深い色だったりと、微妙に違うように思います。今年の“ピンク”はポール自身が決めたんですか? 

 

いや、そんなことはないよ。大会側がこのピンクにしてくれという要望を出してきたんだ。ピンクはピンクなんだけれど、素材によって表情が違ってくるんだ。違う色に見えるのはそのためだろう。

 

もしかして間違った色のピンクを指定しちゃってたらどうしよう?(笑)

英国の”友人”がこのジャージを着てくれたらうれしいね!

Q5.今年のジロ・デ・イタリアには行くんですか?

 

ジロには行くよ。ツール・ド・フランスは行かないかもしれない。その頃はちょうどバカンスだから、家族と一緒にいる。ツールに行くとなるとみんな連れて行くとなるから、人数が多すぎてちょっと大変だな。奥さんや孫までだから、一家大移動(笑)。

 

ジロでは2回くらい、どこかでタイミングをみて行こうと思っている。レースのオーガナイザーからは、毎日いて欲しいと言われたけど、それはちょっと無理だからね。

 

Q6.プレゼンターをする予定はありますか?

 

去年ミラノではやったよ。マーク・カヴェンディッシュにジャージを着せたんだ。今年も、その日にたまたまいたらやるかもしれない。

 

問題は、やっぱり見にいってしまうと、そこにメディアの人たちがいっぱいいるから、たくさんのインタビューを受けなきゃならない。そうするとレースをなにも見られないで帰ってきちゃうことになっちゃうからね。本当はレースが見たいんだ。

 

Q7.今年のジロで、1人のレースファンとして注目しているところは?

 

今年はすごく山岳ステージが多いのでそれは楽しみだ。できれば友達のブラッドリー・ウィギンスに勝ってもらいたい。そして、このマリア・ローザを着て欲しいと思っている! だけどすごいライバルがいっぱいいるから、どうなるかは分からないね。

 

いま、彼はマヨルカ島で練習してると思うよ。彼からメールをもらったんだ。長いつき合いだからね。トラック選手の頃からだから、約12年の付き合いだよ。チームの中では、ブラッドリーにはジロで活躍してもらって、(クリストファー・)フルームにはツール・ド・フランスで活躍してもらうっていう計画だそうだ。

 

Q8.最後にこのジャージを日本で発売するにあたって、日本のユーザーに対してなにかメッセージをお願いします。

 

サイクリングっていうのは、本当にその人たちに自由を与えるものだと思っているから是非楽しみながら乗って欲しい。あとこのジャージのレプリカが発売されるから、それも是非着て欲しい。

 

ジロにインスピレーションを得た腕時計もデザインしたんだ(一番上の写真でポール・スミス氏の手元に写っているもの)。文字盤のピンクっていうのもジャージと同じ色で、針にはフラムルージュ(ラスト1km地点を示す赤い旗)があしらわれていて、自転車を意識した物になっている。8月に発売する予定だ。

 

(マリア・ローザを持ちながら)ブラッドリーがこれを着て、(マリア・ロッサを持ちながら)マークがこれを着て欲しいね!

インタビューを終えて

話を聞けたのは30分少々と、とても短い時間ではあったが話は尽きなかった。撮影中も、おどけて見せたりとまわりを楽しませてくれるユーモアの持ち主。

 

同行してくれたポール・スミスのスタッフから「ポールは自転車のこととなると話が止まらない。ファッションのことよりもテンション高くしゃべっていましたね。」と言われるほど饒舌だった。

 

また、自分がデザインしたジャージを説明するとき、とても愛おしそうに扱っていたのが印象的だった。同じ自転車好きとして、もっと時間をかけて話ができなかったことがとても残念だ。

 

 

 

インタビューの模様を動画でも!

 

 

webインタビュー編

 

 

サイクルスポーツ7月号掲載編