アンカーRT9ファーストインプレッション。日本人の、日本人による、日本人のためのTTバイク
ブリヂストンアンカーが2015年モデルで初のTTバイク・RT9を発表した。同ブランドではTTバイクは市販されておらず、ブリヂストンアンカーサイクリングチームの選手たちは、昨シーズンまでロードバイクをベースにしたプロトタイプのTTバイクに乗っていた。このプロトタイプバイクで、2012年に同チームに所属していた西薗良太は、全日本選手権TTのタイトルを獲得した。
「今回アンカーからTTバイクがリリースされることになったのは、国内のロード選手の競技力を高めるためにタイムトライアルが重要であり、そのために優れたTTバイクが必要であるというレース現場の声が大きかったためです。もちろん、昨今のトライアスロン人気の高まりという背景もあります」とTTバイク制作プロジェクトに携わった出井光一さん。
選手たちに供給されていたプロトタイプが存在していたとはいえ、アンカーの技術の粋を集めたバイクを作るため、TTバイクの開発はほぼゼロベースからのスタートだったという。
ブリヂストンサイクルは、12月中旬に静岡県の日本サイクルスポーツセンター内の屋内トラック・ベロドロームでのRT9プレス向け発表会で公開実験を行なった。ロードバイクにTTバーをつけたもの、ブリヂストンアンカーが昨シーズンまで実践投入していたTTバイクのプロトタイプモデル、そしてRT9と3種類のバイクを使い、同一ライダー、同一ホイールで時速45kmを保ったまま3km走を行ない、走行中の平均出力を比較しようというものだ。
同じ速度で走ったときには、平均出力が低いほど空力性能が高く、効率よく走れることの証明となる。風洞ではなく、屋内トラックでの実験という形をとったのは、実際の走行状態に近く、かつ風などの外的要因の影響を受けにくい環境を整えるためだ。なお、テストライダーはブリヂストンアンカー所属の椿大志が担当した。
結果は、ロードバイクが344W、プロトタイプが334W、RT9が316Wだった。RT9はロードバイクに比べて約30W、プロトタイプと比べても約20Wをセーブしながら同じ速度を維持できていることが分かった。また、別の日に同社が独自に屋外で行った実走での他社製品との比較でも、RT9は優れたデータをたたき出したという。
1Wの違いが勝ち負けにつながるタイムトライアルの世界では、このデータは大きな意味を持つ。
RT9の開発において、開発者が特にこだわったのはロードレースのタイムタイムトライアル向けにハンドルを低くセッティングできることと低重心化による操縦安定性の向上だ。「身長150cm台の小さな体の選手、特に女性でも、しっかりハンドルを下げたポジションと自然なハンドリングを両立することを目指した」と出井さんは語る。
ステムは付き出し量75mmのアルミ製の専用品。UCI規定に準拠しながら、かなり低い位置にハンドルをセットすることができる。将来的にはトライアスロンのロングディスタンスも視野に入れ、もう少しライズを高くできるようにしたり、ハンドル位置をもっと下げたいという選手の声に応えるため、ステムのバリエーションを増やす予定という。
操縦安定性向上のカギとなる低重心化は、シマノの電動変速・Di2専用フレームとし、バッテリーをBB付近に内装することや、リアブレーキをBB下に配置することで実現。これによって腰高感を緩和し、下りやコーナーでも安定した走りを体感できる。
もちろん、空力性能を高めるため、ケーブル類はすべてフレーム内装となっている。ハンドルを低くセッティングすることで、ケーブルの取り回しが制約され、操舵性に不自然さが感じられるバイクも少なくない中で、RT9はルーティングも完璧に計算し、自然なステアリングフィールを実現している点は実に印象的だった。
日本人の、日本人による、日本人のためのタイムトライアルバイク、それがRT9だ。