トピックス

ツアー・オブ・ジャパン 宇都宮ブリッツェン密着レポート 5日目

世界の強豪チームが揃うツアー・オブ・ジャパン(TOJ)が、今年も大阪で開幕した。アジア 最大級のステージレースではあるが、海外チームだけでなく、日本人選手や”純日本チーム”の活躍・闘いぶりにも是非とも着目してみて欲しい! そこで今年のTOJは、地域密着型チームのリーダー的存在である宇都宮ブリッツェンに全ステージ密着し、その内側をお届けしていく。ひとりでも多くの人にその魅力を 知ってもらえると嬉しい。
 
text&photo 滝沢佳奈子

ステージレースの折り返し地点からの厳しい山岳が選手たちを待ち受ける

TOJはいよいよ折り返しを迎え、厳しい山岳が控える長野県の南信州ステージに突入した。セレモニーランのスタート地点である飯田駅前には、自転車ファンはもちろんのこと、学校全体の行事として応援に来ているような学生も数多く見られた。市街地を抜けるセレモニーランを終えると、天竜川にかかるなんとも風光明媚な水神橋の手前から周回コースに入る。最終周回では再び水神橋を越えて、およそ1.5kmの超ロングホームストレートでのゴールとなる。

晴れ晴れとした青空が広がるが、山岳地帯ということで今までのステージよりも気温は少し低い。選手たちはセレモニーランがスタートするギリギリまでウインドブレーカーを着込んでいた。8日間ものステージレースは初めての小野寺選手に疲労の回復具合を聞くと、「いやー、キツいですね。昨日が大変でした。今日は耐えないとですね」と若干不安げな表情を浮かべた。

 
多くの観客が集まった飯田駅前をスタートしていく
多くの観客が集まった飯田駅前をスタートしていく

早速事件発生?

スタートのピットに選手たちが到着すると、大久保選手だけジャージ姿でない。どうしてか聞くと、「今日走らないんですよ(笑)」と答える。元気そうなのにどこか怪我でもしているのかとよくよく話を聞くと、ゴール地点に先に向かうクルマに入れた荷物の中にレーサーパンツを忘れたらしい。今、監督がゴール地点に取りに行っているという。

監督からメカニックに、スタートの時間にはなんとか間に合うとの連絡が来ると、「自分も間に合うと思ってましたわ!」と大久保選手がいたずらっぽく笑う。「いや、めっちゃ焦ってたじゃん!」とチームメイトに突っ込まれていた大久保選手は、監督からレーサーパンツを受け取ると「やばい、リタイアするところだった(笑)」と急いで着替えに行った。

 
1人だけジャージ姿でない大久保選手
1人だけジャージ姿でない大久保選手

序盤は厳しいペースで展開、後半を過ぎてブリヂストン・アンカーの内間選手がアタック

セレモニーランが終わり、周回コースに入ると、5人の逃げが形成される。一方集団では、増田選手が「やばい、これずっと続くんかよ、いきなりこんなブチブチになる(後ろが千切れていく)なんてないよな」と言う程かなり速いペースで牽引される。

「最初2周で自分の中で死亡フラグたちました。これがずっと続くようなら僕のTOJは今日で終わるなって思ってました」と小野寺選手は振り返った。急速なペースの2周が終わるといったん落ち着きができ、だいぶ集団でも休めるようになっていった。

逃げグループのうち、ピシュガマンのラヒーム・エミマ選手がさらにアタックをかけ、1人での逃げとなる。タイム差はおよそ3分まで広げるが、残り4周の山岳ポイントで集団に吸収される。それと同時に、ブリヂストン・アンカーの内間康平選手が飛び出す。ぐんぐんと集団との差を広げ、残り2周で3分以上のタイム差をつける。南信州ステージでの日本人優勝は過去、2010年の鈴木真理選手(宇都宮ブリッツェン・今回は怪我のため欠場)以来となり、逃げ切り勝利に期待がかかった。

 
序盤の速いペースに集団後方で小野寺選手が食いさがる
序盤の速いペースに集団後方で小野寺選手が食いさがる
序盤の速いペースで1周目から阿部選手を含むグルペットが形成される
序盤の速いペースで1周目から阿部選手を含むグルペットが形成される
集団中盤で上りをクリアしていく堀選手
集団中盤で上りをクリアしていく堀選手

惜しくも逃げ切り勝利ならず。チームとしては明日につなげられる結果に

残り1周回、内間選手と集団のタイム差が数十秒に縮んで行った。それでも懸命に踏み続けた内間選手はホームストレートのラスト600mのところで集団に捉えられてしまった。

この内間選手の逃げに対して清水監督はどう思ったか聞いてみると、「いいですよね、ああいう選手。ここ最近、彼の本来の走りが見られなかったので、個人的なところとしては惜しかったなぁと思いますね」と話した。

チームとしては、耐える1日になると予想していたがどうだったのか。「今日は今まで動いてきた分、まぁ休むわけじゃないですけど、明日に向けて形としては良かったと思います。逆にイラン勢が潰しあって脚を使ってくれたと思いますし、確かに最初のスピードは相当速かったみたいなんで、キツかったとは思いますけど。そのあと落ち着いて走っていたので、もうちょっと厳しい1日になるかと予想していたんですけど、そうではなかったので、僕らとしては良かったかと思います。みんなキツかったとは言いますけど、本来であればもっとキツくなり得るコースだったので。」と語った。

 
ブリヂストン・アンカー内間選手の逃げ
ブリヂストン・アンカー内間選手の逃げ

あと600mでステージ優勝ならず! TOJ南信州ステージですばらしい走りを見せてくれた内間選手にインタビュー  
http://www.cyclesports.jp/depot/detail/63729
 

つかの間のミーティングでの一コマ

今日も夕食後のミーティングで明日のスケジュールについて清水監督から話される。「明日は8時半にクルマが出発するので、その時までにレーパン履いといてください。」全員が笑う。「もうさすがに明日は取りに行けないですね、もう山から投げてもらいます」と清水監督がさらに笑わせる。

明日は総合上位にいる増田選手、鈴木譲選手、堀選手が頑張るステージとなる。
「明日はもう走るだけなんで、増田なんかやってほしいことある?」と清水監督が聞くと、「いや、特に……」と増田選手。清水監督がボソッと「場所取り……?」と言うと、「前で並びます!スタート前」と少し笑いながら大久保選手。「場所取りお願いしようかなぁ(笑)」と増田選手が言う。

明日はパレードランでふじあざみラインに着いてからリアルスタートまで30分の間が空く。その間にローラー台でアップをする予定である。「アップ大丈夫?」と監督。「大丈夫です。自分らパレードでアップします。」と大久保選手が答える。「30分並んどきます」と阿部選手が言うと思わずみんな吹き出してしまう。増田選手が「30分!!誰もいないよ!(笑)」と言うと、阿部選手が「俺、絶対死守する」「自分も、代わりばんこで」小野寺選手まで乗ってきた。続けて大久保選手が言う。「明日は自分らそこが一番活躍できるとこなんで。唯一の見せ場。」一同爆笑。

「気になったことが一つあって」と大久保選手が言う。「自分らパンクしたらもう終わりっすか?」「ニュートラルがいるでしょ」と清水監督が答える。「ニュートラルいつもいないんですよ」と阿部選手。「チームカーあるじゃない?」と増田選手が言うと、「でも逆走しちゃダメじゃん」と清水監督。すかさず阿部選手が「バックで。」全員吹き出す。「向きの問題じゃねぇ」と譲選手が突っ込みを入れる。総合が決まるであろうステージのミーティングだというのに笑って終わった。まったくもって面白いチームである。
 

富士山に向けてはそれぞれのベストを狙う

富士山ステージについて、鈴木譲選手は「明日は日本人的には粘るだけですね。ここまで増田選手タイム差つかないでゴールできたんで、明日はみんな全力を尽くすだけですね」と語った。

このステージでの鈴木譲選手の役割について聞くと、「レース中はもうできることも限られてるんで、あんまり総合を落とさないようにそれなりに頑張るしかないですね。近くにいてなんかできることあればいいですけどね。ずっとペース速くて、すぐにかなりばらけちゃうんで。各人の上りの力勝負になるので、全力尽くせるようにペース配分とか気をつける感じですね。」と話した。

また、清水監督は、「明日は総合に残っている増田、譲、堀に頑張ってもらうのみです。狙うは優勝と言いたいところなんですけど、正直なところでイラン勢の強力なのは見えてるんでちょっと現実的でないので。それぞれのベストを出してもらえれば、増田は一桁入れるだろうし、イラン勢の次あたりで勝負してもらいたいなと思ってますね。増田のベストが42分台前半とかなので、42分切るようなところを出していければいいなと。堀も43分とかで走ってて、譲も多分それくらいだと思うんですよ。42分台って日本人で出してる人って数えるくらいなんで、そのくらいまで行ってもらいたいなと思ってます。

その他の選手に関して、明日はしっかりコンディション整えてもらって。伊豆・東京が控えてるんで。今回の富士山ステージのタイムアウトが優勝者のタイムの50%で、イランが38分ととんでもなく速くなったんで57分とかですかね。まぁみんなアベタカも去年ゆっくり走って50分とかだったんで、35分とかで走られなければ大丈夫ですね。」と語った。

 
富士山用のギア比についてメカニックと直接話しをする
富士山用のギア比についてメカニックと直接話しをする


ツアー・オブ・ジャパン 第5ステージ(6月2日/南信州ステージ/123.6km)結果
1位 ダニエル アレクサン デル・ハラミリョ (ユナイテッドヘルスケア プロフェッショナルCT  ) 3時間18分08秒
2位 アンソニー・ジャコッポ  (アヴァンティ アイソウェイ スポーツ ) +0秒
3位 ピエールパオロ・デ ネグリ (NIPPO・ヴィーニファンティーニ ) +0秒

17位 鈴木譲(宇都宮ブリッツェン) +0秒
18位 堀孝明(宇都宮ブリッツェン) +0秒
27位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +0秒
60位 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン) +4分52秒
77位 大久保陣(宇都宮ブリッツェン) +12分22秒
82位 阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン) +16分54秒


ツアー・オブ・ジャパン 第5ステージ終了時個人総合順位
1位 メヘディ・ソフラビ (タブリーズ シャハルダリ ) 12時間57分59
2位 アンソニー・ジャコッポ(アヴァンティ アイソウェイ スポーツ ) +34秒
3位 ダニエル アレクサン デル・ハラミリョ (ユナイテッドヘルスケア プロフェッショナルCT  ) +41秒

5位(1↑) 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +52秒
12位(1↑) 鈴木譲(宇都宮ブリッツェン) +56秒
37位(4↑) 堀孝明(宇都宮ブリッツェン) +2分15秒
55位(1↓) 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン) +16分20秒
75位(3↑) 大久保陣(宇都宮ブリッツェン) +36分55秒
83位(7↑) 阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン) +59分50秒


チーム総合順位
1位 ピシュガマン サイクリング チーム 
2位 タブリーズ シャハルダリ
3位 アヴァンティ アイソウェイ スポーツ 

7位 宇都宮ブリッツェン


宇都宮ブリッツェン http://www.blitzen.co.jp
ツアー・オブ・ジャパン 2016 http://www.toj.co.jp/2016/

■ツアー・オブ・ジャパン 宇都宮ブリッツェン密着レポート【一覧】http://www.cyclesports.jp/articles/series/2104