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ハーパーが総合優勝へ王手! 表彰台がかかった増田は落車。順位を下げる
レース
2019.05.26
5月の猛暑、波乱の幕開け
5月25日(土)、第7ステージの会場である伊豆サイクルスポーツセンターは雲ひとつない快晴。気温は30度ほどにまで上昇した。日陰には涼しい風が通るものの、強い日差しに体力は大きく削られることが予想された。
今回のTOJでの総合争い最後の戦いの場となったサイクスポーツセンターの12.2kmのコースは、上りと下りしかないと言っても過言ではない。そこを10周するというのだから、選手たちはスタート前から戦々恐々である。小林海(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)が「めちゃくちゃビビってて、スタート前に心拍120(bpm)まで上がって、喋りながら緊張をごまかしてました」と話していたほどだ。
富士ステージでの結果を受けて、総合のジャンプアップを狙う選手、ステージで一矢報いようと試みる選手など、さまざまな思惑が渦巻く。
総合4位につけた増田成幸(宇都宮ブリッツェン)は、「(総合上位勢の)秒差がすごい詰まっているので、序盤から動くようなことはできないと思いますけど、終盤にかけてチャンスがあればやっぱり狙っていきたいと思っていますし、今日もチーム一丸となって走りたいと思います。でもリスクを負い過ぎて今のこの順位を落とすっていうのもあってはならないと思うので、全体見渡しながら全力を尽くすだけですね」とレース前に話していた。
増田が今シーズンよく口にする「あと、一番は落車しないで走りきることですね」というのも忘れずに付け加えた。
一方、増田の一つ下、5位にホセ・ビセンテ・トリビオ、6位にフランシスコ・マンセボがつけるマトリックスパワータグの安原昌弘監督は、「緊張してるよ俺は。久しぶりに。今まで取れなかったものが取れそうやし」と静かに話し始めると、こう続けた。
「個人総合はしんどいけどな。チーム総合も見えてきたし、区間もチャンスあるし、ひょっとしたらポイント賞もまだわからんし。だからどれか一つ取って帰ろうっていう話をミーティングでしていて。『でも俺は全部欲しい』って言ったんよ。そしたらパコが『possible』って言ったんや。」
そこからいつも15分で終わるマトリックスのミーティングは、1時間もの時間を要したという。
ここまでいいところまで食い込むものの勝利はまだないマトリックスのスプリンター、オールイス・アウラールは、逃げに乗るべく、先ほどまでアップをしてたかと思えばスタートラインへの招集がかかると、あっという間に先頭へと整列していた。
逃げが決まらず、続くアタック合戦
午前10時にスタートすると、逃げに乗ろうと1周目から何人かが動くがなかなか決まらない。その中には、唯一のプロコンチネンタルチームであるNIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネのメンバーも見られる。富士山ステージでの結果により総合への道が途絶えたために、ステージ優勝に向けて方向転換をせざるを得なかった。
「逃げがそのまま行くことも多いステージなので、とにかく逃げに入って勝負しようと、自分か(中根)英登が逃げに入っていこうっていうことで」と、伊藤雅和はチームの作戦を話した。
2周目には9人の逃げができるものの、集団がすぐに近づく。ちょうど3周目に入るところで集団が逃げを捉え、9人の逃げのうちに入っていたアウラールが単独で抜け出す。それに合流する形で、小石祐馬(チーム右京)やベンジャミン・ヒル(リュブリャナ・グスト・サンティック)などの実力者も逃げに入り、3周目中盤に入る頃にはマルコス・ガルシア(キナンサイクリングチーム)や小林らも含む7人の逃げができあがった。
さらにフェデリコ・ズルロ(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)が集団からジャンプしてくると、そのまま単独で逃げグループをパスして行った。だが、チームメイトの小林にとってそれは特に有益な動きではなかった。「僕的には一緒にいて欲しかったんですよ。絶対長いじゃないですか。例えば前に行ってもらって僕がローテに入らなかったからって、あんまり変わるようなコースじゃないし、僕が脚を溜められるわけじゃないし。あんなに脚あったなら、最後までいられたと思うんですけどね……。行くときに言ったんですよ。『落ち着け!ペースで行こう!』って。『大丈夫大丈夫!』って(返ってきて)。何が大丈夫なんだ?みたいな(笑)」小林は振り返る。
ズルロの動きは結果的に小林に対するアシストにはならなかったが、単独でスプリントポイントを積み重ね、ブルージャージ獲得という結果はもたらした。レイモンド・クレダー(チーム右京)と同点での争いで、最終東京ステージでのスプリントポイントや最後のゴール勝負で入れ替わる可能性も十分にあり得る。
その後、逃げにメンバーを入れられていないNIPPOから伊藤がジャンプし、追走グループに合流。ズルロ、追走8人、メイン集団という構図になった。
チャンスを帳消しにした増田の悲劇
リーダージャージを持つチームブリッジレーンが引くメイン集団からも、アシストたちの脚を削ろうとマトリックスやチーム右京のメンバーがアタックを仕掛ける。その度に少しずつ集団の人数を減らしていった。
メイン集団と先頭ズルロとのタイム差は最大で5分ほどにまで広がる。6周目に入ると、増田の総合順位を下げるわけにはいかない宇都宮ブリッツェンが集団牽引を始めた。しかし7周目の途中悲劇が起こってしまう。下りで総合3位につけていたメトケル・イヨブ(トレンガヌ・INC.・TSG・サイクリングチーム)が落車。あろうことか増田が巻き込まれてしまった。イヨブは大きく傷を作り、同一周回内でバイクを降りた。
背中と左半身を大きく擦りむいた増田をチームメイトの岡篤志や鈴木龍らが懸命にメイン集団へと戻す。何とか8周回目にはメイン集団に復帰したものの、いよいよ勝負がかかるアタック合戦が勃発。増田がつくことはできなかった。8周目に入り、メイン集団は10人に絞られた。
スプリントならず。ムイノの単独逃げ切り勝利
10人となったメイン集団では、チームメイトを失ったクリス・ハーパー(チームブリッジレーン)に対してマトリックスやキナンサイクリングチームが再度アタックを仕掛ける。
一方で、先頭ではズルロが2回目のスプリントポイントを獲得した頃に、8人の追走集団がズルロを吸収。逃げ集団となったグループでアタック合戦が行われ、ズルロを含む数人がこぼれた。
とてもローテーションでメイン集団からタイム差を稼ごうという動きではなく、後ろから様子を見あってひたすらにアタックが散発。これにより残り1周で、マンセボが引くメイン集団へと吸収された。
その後、逃げ集団にいたパブロ・トーレス・ムイノ(インタープロサイクリングアカデミー)が単独で抜け出すが、一つになった集団はそれを見送る形に。そのままタイム差を広げ、30秒ほどをキープ。集団は徐々に詰めていったがムイノに追いつくことはできず、遂には逃げ切り勝利を許すこととなった。
ステージ優勝を飾ったムイノは、「今日のレースに勝つことができて、非常に満足しています。このTOJに向けて、チームとしてとてもいい準備をしてきました。今シーズンの前半で日本のチームとして日本で勝てたというのはとてもうれしいことです。今日の夜はみんなでお祝いになると思います」と喜びを語った。
総合2位のベンジャミ・プラデスをマークしていたというハーパーは、ほぼほぼ危険な動きは潰し、自らがアタックを仕掛けることすらあった。
「今日は、自分の脚の状態がすごく良かったので余裕がありました。非常に良く脚が回る感触がありました」と、まったく危なげなくグリーンジャージをキープした。
最終ステージ東京は、例年は日比谷公園スタートだったが今年は米トランプ大統領来日により、大井埠頭の周回コース上でのスタート&フィニッシュとなる。最後のスプリントステージをぜひその目で見届けてほしい。
第7ステージリザルト
1位 パブロ・トーレス・ムイノ(インタープロサイクリングアカデミー) 3時間35分58秒
2位 ベンジャミン・ヒル(リュブリャナ・グスト・サンティック) +11秒
3位 ホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ) +11秒
個人総合時間賞(グリーンジャージ)
1位 クリス・ハーパー(チームブリッジレーン) 17時間26分56秒
2位 ベンジャミ・プラデス(チーム右京) +40秒
3位 ホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ) +51秒
個人総合ポイント賞(ブルージャージ)
1位 フェデリコ・ズルロ(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー) 67pt
2位 レイモンド・クレダー(チーム右京) 67pt
3位 ベンジャミン・ヒル(リュブリャナ・グスト・サンティック) 59pt
個人総合山岳賞(レッドジャージ)
1位 フィリッポ・ザッカンティ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネ) 33pt
2位 クリス・ハーパー(チームブリッジレーン) 15pt
3位 エミール・ディマ(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー) 12pt
個人総合新人賞(ホワイトジャージ)
1位 クリス・ハーパー(チームブリッジレーン)
2位 ドリュー・モレ(トレンガヌ・INC.・TSG・サイクリングチーム)
3位 小林 海(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)
チーム総合順位
1位 チーム右京
text&photo:滝沢佳奈子
http://toj.co.jp/