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ツアー・オブ・ジャパン 宇都宮ブリッツェン密着レポート 6日目

世界の強豪チームが揃うツアー・オブ・ジャパン(TOJ)が、今年も大阪で開幕した。アジア 最大級のステージレースではあるが、海外チームだけでなく、日本人選手や”純日本チーム”の活躍・闘いぶりにも是非とも着目してみて欲しい! そこで今年のTOJは、地域密着型チームのリーダー的存在である宇都宮ブリッツェンに全ステージ密着し、その内側をお届けしていく。ひとりでも多くの人にその魅力を 知ってもらえると嬉しい。
 
text&photo 滝沢佳奈子

霊峰富士が総合争いのメンバーをふるいにかけるステージ

巨大な霊峰富士山、この山を上るための道はいくつか存在するが、その中でも最も過酷な道のひとつがふじあざみラインから須走口5合目までを駆け上がるコース。距離11.4kmで平均勾配は10%、最大勾配はなんと22%と、クルマでも上る気を削がれるようなまさしく激坂である。例年同様このコースが採用され、どこのチームもこの富士山ステージが総合を決める場になるであろうと予想した。

8時45分、小山町生涯学習センターをセレモニーランでスタートし、決戦の場となるふじあざみラインへ向かう。ふじあざみラインに到着すると、リアルスタートの10時までチームピットでアップを行う。各チームこのステージを狙う選手はローラー台でアップを行う。それ以外の選手に関しては、談笑していたり自転車の具合を見たりと思い思いの時間を過ごしているようであった。

普段であればこのようなピットで選手全員がアップを行っているという光景はよく見るが、ここまで狙う選手とそうでない選手の行動が異なるステージも特殊である。ブリッツェンのメンバーでは頑張る組の増田選手、鈴木譲選手、堀選手が念入りにアップや準備を行う。一方、ここではそこまで頑張らない温存組の阿部選手、大久保選手、小野寺選手はパレードランでアップを終え、スタートまで束の間の休息を取っていた。

 
総合上位に位置する3人は入念にアップを行う
総合上位に位置する3人は入念にアップを行う

序盤はイランチームが引くも穏やかなスタート

リアルスタートが切られると、イランチームのピシュガマンジャイアントチームとタブリーズシャハルダリが先頭を引き、ペースを作る。

「例年と比べて割と穏やかにスタートして、淡々とペース刻んでるって感じでしたね。揺さぶりかけつつ引いてたんですけど、思ってたよりは上がりきんなかったです」と鈴木譲選手は言う。

その先どんな展開が繰り広げられていたか聞くと、「結構日本人選手も遅れずについて行ったんですけど、旧馬返って中間地点あたり(残り約6km地点)でばらけ始めて、増田選手とか西薗選手とか3、4人がついて行けた感じじゃないですかね。その中間地点で自分と堀は離れて、ペース刻んでったんですけど。増田選手も残り5kmくらいで自分のペースで切り替えてっいった」と答えた。

その後、残り4km地点でチーム右京のオスカル・プジョル選手がアタックをすると、タイム差が広がっていく。そしてそのままの勢いでプジョル選手は平均時速17.6kmとなかなかに信じられないスピードで周りを圧倒し、ゴールラインを切った。

 
単独トップでゴールしたオスカル・プジョル選手の圧巻の走り
単独トップでゴールしたオスカル・プジョル選手の圧巻の走り

ブリッツェンのメンバーも続々とゴールに入っていく

プジョル選手が通過後、イラン勢などの外国人選手がバラバラとゴールに入っていく。先頭からおよそ3分後、白いジャージと赤いジャージが遠くから近づいてくる。ブリヂストン・アンカーの西薗良太選手とブリッツェン増田選手だ。だんだん大きくなる増田選手の表情にはこのステージに懸ける思いが現れているようであった。しかし、増田選手の前を走る西薗選手の方が少しだけ余裕がある表情に見えた。増田選手は自己ベストである42分台前半を塗り替える41分48秒でゴールした。その3秒前に日本人のコースレコードを更新して西園選手が入った。

その後も続々と選手たちが入ってくる。集団で走っていても速度が遅いためにあまりメリットがなく、各々のペースでひたすら耐えているような選手が多く見られた。増田選手が通過してからおよそ2分後、自分のペースを刻む堀選手も通過していった。

「堀はマイペースで行ったので、悪くない。この長いステージレースのなかで結構疲労が溜まってたので、心配してたんですけど」と清水監督は見る。さらにその2分後、厳しい表情を見せる鈴木譲選手も通過。「調子は悪くないんですけど、もともと(このコースが)あんまり得意ではないんです。まぁベストには遠かったかな、タイム的にも。あんまり今日、感触良くなかったですね」とゴール後、鈴木譲選手は話した。



 
自己ベストで上りきった増田選手の気迫が感じ取れる
自己ベストで上りきった増田選手の気迫が感じ取れる
堀選手も自分のペースを刻みながら、狙っていた42分台には届かなかったものいい走りを見せる
堀選手も自分のペースを刻みながら、狙っていた42分台には届かなかったものいい走りを見せる
キツい表情をしながら耐える鈴木譲選手
キツい表情をしながら耐える鈴木譲選手


平地に強い選手達も苦しい表情を見せながらゴールしていく。その中でも、ひときわ笑顔で上ってくる選手がいた。小野寺選手である。観客の人にも「あの人すごい笑顔だったー!!」と言われており、レース後に本人にも確認すると、「あんな笑顔でよく上れるよな、ってよく言われるんですけど、めっちゃキツい時の顔なんですよ」と笑いながら答えた。その後も大久保選手や阿部選手も力を温存しながらゴールラインを切っていった。

レース後、鈴木譲選手は「例年と比べて割と穏やかにスタートして、淡々とペース刻んでるって感じでしたね。結構日本人選手も遅れずについて行ったんですけど、旧馬返って中間地点あたりでばらけ始めて、増田選手とか西薗選手とか3、4人がついて行けた感じじゃないですかね。その中間地点で自分と堀は離れて、ペース刻んでったんですけど、増田選手も残り5kmくらいで自分のペースで切り替えてった」と振り返る。

何か引っ掛かった表情をしていた清水監督は、「思ってたより前半スローペースだったので、結果的にタイム差はあまり開かなかったですね。増田個人の走りを見れば、自己ベスト更新で日本人のコースレコードかかったんですけど、同時に西薗選手が前にいたので、そこは残念で悔しいですね。一緒に走ってて最後踏み切れなかった、西薗選手の方が多少余裕あったかなと感じますね。本来であれば(ステージ順位)一桁台でゴールしたかったですけど。タイムもそうですけど目標もっと高く持ってたので、悔しいですね。個人的に見れば自己ベスト更新してるんで、すごくポジティブな話ではあると思うんですけど」と語った。

 
ものすごく笑顔に見えるが、本人にとってはものすごくキツい時の表情だという小野寺選手
ものすごく笑顔に見えるが、本人にとってはものすごくキツい時の表情だという小野寺選手
疲労の色を見せながら小集団で上りきる大久保選手
疲労の色を見せながら小集団で上りきる大久保選手
温存のためにも最後尾でゴールする阿部選手。ポーズを取るほど余裕
温存のためにも最後尾でゴールする阿部選手。ポーズを取るほど余裕
最後にゴールした阿部選手を労う清水監督
最後にゴールした阿部選手を労う清水監督
レースが終わるとダウンを行いつつ糖分補給。満足のいかない結果に険しい表情をする増田選手
レースが終わるとダウンを行いつつ糖分補給。満足のいかない結果に険しい表情をする増田選手

イラン勢とスペイン勢の戦いが予想される伊豆ステージ。攻撃してチャンスを掴む

明日の伊豆ステージは総合を動かす面では最後の攻撃ができるステージとなる。ミーティングではこのコースを走ったことがない小野寺選手に対し、増田選手が「今までのコースで一番キツいよ、あ、でも飯田(南信州ステージ)と同じくらいかな。とりあえず長い」と話す。

そんなコースに対して、ブリッツェンとしてはどのように動いていくか清水監督に聞いた。「総合おそらくイラン勢とスペイン勢の戦いになってくると思うんで、そこをついていきたいなと思ってます。今日の結果でタイム差がすごく広がって、逃がしていいメンバーが多くなったので。逃がしていいメンバーのなかでも、結構実力者が多い。そのメンバーと一緒に逃げを決めたいと思ってます。後半になればなるほど厳しい展開になると思っているので、そういう状況であれば増田の持久力や登坂力も効いてきて、そこで増田がうまく後半抜け出せれば、ステージ優勝と総合ジャンプアップがともに狙えると思いますし。逆に総合争いで牽制したりとかコントロールがうまくいかないってところがあれば、前半に総合関係ないメンバーで行く逃げのパターンも考えられるので、そういった場合は先逃げ先待ちってことができればいいなってところで、譲、堀に行ってもらいたいなと。それが今僕らができる最大のところかなと思いますけど。正直、イラン勢とスペイン勢が最初っからドンパチやりあったらもうそれはついていくしかないレベルなので。そういうスタイルもロードレースなので。」

現状の上位勢のタイム差については、「本来であれば1分差っていうのは逆転を狙うチームと諦めて他の賞を狙うチームとあると思うんですよ。イラン勢はおそらくこの1分差を倒しにくると思うんですよね。こういったところがいつ動くかによりますね。今年イラン勢が南信州は前半から動いてきましたけど、動かなくて様子見で後半動いたりとかっていうパターンもあるんで、総合上位勢の勝負が少し後半にずれればずれるほど、前半の攻撃のチャンスは2分以上遅れた選手にはあるはあるので。どちらにせよ後半キツくなっていくことが予想されて、そういったところで耐えられるのは増田しかいないので、そこで攻撃してチャンスを掴みたいですね。

ここまで来たらあんまりここの成績(増田選手の総合13位)を保持する意味もそんなにないので。もちろんUCIポイントとかは付きますけど、トライすることの価値の方があると思うので。目標一桁でしたからね。あとステージ優勝の可能性ですね。ここで総合一桁のために順位4つ上げるってのも、どっちにしろこの30秒を逆転するために攻撃をしないとダメなので。明日は総合のタイムっていうより明日のステージ優勝を狙っていくことによって、そこ(総合順位)は自然と上がっていくでしょうし。やっぱりワンデーレースじゃないですけど、こう決まってるパターンがあって、なかなかこういう風に攻撃できるのってちょっと楽しみでもありますけどね」と話した。


 
ミーティングにて明日のコースを確認する
ミーティングにて明日のコースを確認する


ツアー・オブ・ジャパン 第6ステージ(6月3日/富士山ステージ/11.4km)結果
1位 オスカル・プジョル(チーム右京) 38分48秒
2位 マルコス・ガルシア (キナンサイクリングチーム ) +56秒
3位 ミルサマ・ポルセ イェディゴラコール  (タブリーズ シャハルダリ  ) +1分10秒

18位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +3分
27位 堀孝明(宇都宮ブリッツェン) +5分4秒
38位 鈴木譲(宇都宮ブリッツェン) +6分57秒
61位 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン) +11分55秒
69位 大久保陣(宇都宮ブリッツェン) +15分12秒
84位 阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン) +16分55秒


ツアー・オブ・ジャパン 第6ステージ終了時個人総合順位
1位 オスカル・プジョル(チーム右京) 13時間37分41秒
2位 マルコス・ガルシア (キナンサイクリングチーム ) +1分5秒
3位 ミルサマ・ポルセ イェディゴラコール  (タブリーズ シャハルダリ  ) +1分14秒

13位(8↓) 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +2分58秒
28位(9↑) 堀孝明(宇都宮ブリッツェン) +6分25秒
32位(20↓) 鈴木譲(宇都宮ブリッツェン) +6分59秒
56位(1↓) 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン) +27分21秒
77位(2↓) 大久保陣(宇都宮ブリッツェン) +50分38秒
83位(→) 阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン) +1時間15分51秒


チーム総合順位
1位 タブリーズ シャハルダリ
2位 ピシュガマン サイクリング チーム 
3位 キナンサイクリングチーム

7位 宇都宮ブリッツェン


宇都宮ブリッツェン http://www.blitzen.co.jp
ツアー・オブ・ジャパン 2016 http://www.toj.co.jp/2016/

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