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伏兵プジョルがサプライズ優勝! ツアー・オブ・ジャパン 2016
2016.06.09
スペインから来た伏兵
伊勢志摩サミットの影響で、例年よりも1週間遅い開催となった今年のツアー・オブ・ジャパン(アジアツアー2.1)は、新たに京都ステージが加わり、移動日なしの8ステージで競われた。
今年もUCIルールで2つのイランチームが招待され、開幕前にはディフェンディングチャンピオンのミルサマド・ポルセイェデゴラコール(タブリーズシャハルダリ)の3連覇か、昨年富士山ステージで38分27秒のコースレコードを出して総合2位になったラヒーム・エマミ(ピシュガマン)の初優勝になるのではと思われていた。
ところが、総合争いを大きく左右する富士山ステージで、イランチームを抑えて区間優勝したのは、国内コンチネンタルチームのチーム右京に所属する、スペインのオスカル・プジョル。それはおそらく、誰も予想していなかったレースリーダーだった。
11.4kmで最大勾配22%という、ふじあざみラインのヒルクライムで、20人ほどに絞られた先頭グループから後半抜け出したのはポルセイェデゴラコールとチームメートのガーデル・ミズバニ(タブリーズシャハルダリ)、エマミ、プジョルの4人。
そこからゴールまで残り4kmでアタックしたプジョルは、ペースを落とすことなく富士山五合目のゴールに独走で到着して区間初優勝しただけでなく、区間2位のマルコス・ガルシア(キナンサイクリングチーム)に56秒差、総合3連覇を狙っていたポルセイェデゴラコールには1分10秒ものタイム差を付けることができたのだ。
プジョルの優勝タイムは、昨年富士山ステージを走ったコロンビアの選手が、彼がよく知るナイロ・キンタナ(モビスター)でも出せないだろうと評した38分台だった。しかも、エマミのコースレコードよりたった21秒遅い、歴代2位のタイムである。
特別なスペイン合宿の成果
プジョルは昨年もツアー・オブ・ジャパンにも参加していたが、そのときは34分12秒遅れの総合53位でレースを終えていて、富士山ステージでも49分という平凡なタイムしか出していなかった。
そんなプジョルが、今年のツアー・オブ・ジャパンは自分がエースになって絶対に勝ちたいと言い出したとき、1年以上彼を見ていた片山右京監督ですら「最初は信じていなくて、ウソだろうと思っていた」という。彼は現在32歳で、かつてヨーロッパのトップチームで走っていた選手ではあったが、その宣言を信じさせるような戦歴は残していなかった。
しかしプジョル自身は、日本最大のステージレースで勝つことが、チーム右京にとってどれだけ重要なのかをよく心得ていた。彼は片山右京監督に「強いイランの選手をやっつけて、ツアー・オブ・ジャパンを勝つことに意味がある」と、言ったそうだ。
ツアー・オブ・ジャパン直前に、プジョルは一度故郷スペインに戻り、アルベルト・コンタドールのチームのトレーナーと特別な合宿を行い、とても良い数字を出して絶好調で日本へ戻ってきた。
初日の短い個人タイムトライアルでも、プジョルは区間優勝したアンソニー・ジャコッポ(アヴァンティ・アイソウェイスポート)にたった4秒遅れの区間9位でレースをスタートしていた。彼は運命の富士山に到着するまで、総合成績で一度もトップ10から脱落することはなかった。
スペイン同盟に守られたグリーンジャージ
所属する日本のチームのために、ツアー・オブ・ジャパンのタイトルを勝ち取ろうと心に誓っていたプジョルに唯一誤算があったとしたら、チームにその準備ができていなかったことだろう。
富士山で総合首位に立ってグリーンジャージを着たプジョルは、翌日の伊豆ステージでそれを守る走りをしなければならなかったのだが、レースはスタートから激しく動き出し、気がつけばメイン集団に彼のチームメートの姿はなくなっていた。
チーム右京の他の選手たちは、直前に走ったインドネシアでの2連戦で疲れてしまっていた。昨年南信州ステージで優勝したスペインのベンジャミン・プラデスも、その日リタイアに追い込まれていた。
チームメートがいないプジョルは、この重要な局面を一人で闘わなければならなくなってしまった。しかも、逃げに加わっていたのは、彼の総合首位の座を脅かすイランのポルセイェデゴラコールだった。
「生涯で最も厳しいレースだった。イランの選手が先行し、僕は1人ぼっちになってしまったから、最初の50kmはちょっとパニックに陥った。計画ではレースをコントロールし、5周目でアタックするつもりだったのに、それが難しくなってしまった」と、プジョルはその時の状況を振り返っている。
その同盟には、総合4位で新人賞のホワイトジャージを着ていた英国のダニエル・ホワイトハウス(トレンガヌサイクリングチーム)も加わっていた。彼は昨年、チーム右京に所属していた選手だ。
スペイン同盟が団結した追走集団は、最終周回で逃げていたポルセイェデゴラコールらのグループを捕らえることができた。結局伊豆で総合成績はほとんど動かず、プジョルはグリーンジャージを着て東京に凱旋することができたのだ。
東京で開催された最終ステージで、グリーンジャージのプジョルをエスコートするチーム右京の選手はサルバドール・グアルディオラ(スペイン)だけになっていたが、彼らが手中に収めた栄光を失うような出来事は起こらなかった。
「チーム右京は日本のチームだから、ツアー・オブ・ジャパンはとても大事なレースなのだということをみんなが心に留めていた。正直言ってグリーンジャージで終わることができたのは予想外だったが、富士山でこれを着た後、最後まで守ることができたのはとてもうれしかった」と、創立5年目のチーム右京にビッグタイトルをもたらしたプジョルは喜びを語っていた。
独特の髭をたくわえ、派手なキャップとソックスがトレードマークのプジョルはとてもロードレースの選手には見えない伊達男だ。「ブルーの方が、僕の眼の色には合っていると思うけど、グリーンのジャージはとても着心地がいいよ」と、彼は優勝インタビューで笑っていた。
第19回ツアー・オブ・ジャパン 個人総合最終成績
1 オスカル・プジョル(チーム右京/スペイン)19時間22分37秒
2 マルコス・ガルシア(キナン/スペイン)+1分05秒
3 ミルサマド・ポルセイェデゴラコール(タブリーズシャハルダリ/イラン)+1分08秒
4 ダニエル・ホワイトハウス(トレンガヌ/英国)+1分23秒
5 ラヒーム・エマミ(ピシュガマン/イラン)+1分24秒
6 ガーデル・ミズバニ(タブリーズシャハルダリ/イラン)+1分43秒
7 キャメロン・バイリー(アタック・チームグスト/オーストラリア)+2分00秒
8 アミール・コラドゥーズハグ(ピシュガマン/イラン)+2分27秒
9 トマ・ルバ(ブリヂストン・アンカー/フランス)+2分52秒
10 増田成幸(宇都宮ブリッツェン/日本)+2分58秒
2 マルコス・ガルシア(キナン/スペイン)+1分05秒
3 ミルサマド・ポルセイェデゴラコール(タブリーズシャハルダリ/イラン)+1分08秒
4 ダニエル・ホワイトハウス(トレンガヌ/英国)+1分23秒
5 ラヒーム・エマミ(ピシュガマン/イラン)+1分24秒
6 ガーデル・ミズバニ(タブリーズシャハルダリ/イラン)+1分43秒
7 キャメロン・バイリー(アタック・チームグスト/オーストラリア)+2分00秒
8 アミール・コラドゥーズハグ(ピシュガマン/イラン)+2分27秒
9 トマ・ルバ(ブリヂストン・アンカー/フランス)+2分52秒
10 増田成幸(宇都宮ブリッツェン/日本)+2分58秒